情報統制越えて北朝鮮に侵入するKポップとキリスト教

2023年6月14日、韓国ソウル市のバス停に、K-POPグループBTSのメンバーを祝うデビュー10周年記念ポスターが掲示されている。所属事務所によると、このK-POPスーパーグループBTSの残り4人のメンバーが間もなく韓国の兵役義務を開始する予定だという。(AP通信/アン・ヨンジュン撮影、ファイル写真)
By Andrew Salmon – The Washington Times – Wednesday, October 15, 2025
【ソウル(韓国)】独裁国家に住む北朝鮮住民は外界との接点がほとんどない。しかし政府による情報統制が鉄壁であるにもかかわらず、Kポップとキリスト教という二つの強力な文化勢力は、金正恩総書記の情報遮断壁を越えて外部から侵入し続けている。
ソン・クァンジュ氏によると、人権擁護者らは、北朝鮮の状況はあらゆる面で「好ましくない」が、この要塞国家で、韓国のエンターテインメントへの人気、精神的満足への渇望は絶えることがないと指摘している。
ソン氏は、ソウル中心部の広場に隣接するホテルで来週、開催される「2025年ソウル世界北朝鮮人権会議」の議長を務める。
同氏は14日、ソウルに拠点を置く外国人記者団に「私たちは今、25年間で最も困難な状況に直面している」と語った。その原因として、保守的なドナルド・トランプ米大統領が現状に無関心で、リベラルな李在明・韓国大統領は積極的に反対していることが挙げられている。
米政府は人権擁護活動を後回しにし、この要塞国家に向けて放送を行っていたラジオ・フリー・アジア(RFA)やボイス・オブ・アメリカ(VOA)など、さまざまな機関への資金援助を打ち切ったとソン氏は指摘する。
韓国政府は、非武装地帯に設置していた自国のプロパガンダ用スピーカーの電源を切り、反体制プロパガンダのビラなどを載せた風船を北に飛ばす活動を中止するよう、民間の活動家たちに圧力をかけている。
韓国が国際的な北朝鮮批判に加わる可能性も低い。
ソン氏は「韓国政府は対話したいあまり」、北朝鮮の人権侵害については「見て見ぬふりをしている」と述べた。
見て見ぬふりをされている問題は山ほどある。
エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの「民主主義指数2025」によると、北朝鮮はミャンマー、アフガニスタンに次いで世界で3番目に権威主義的な国家と評価された。
2014年以降に脱北した314人へのインタビューに基づく国連報告書(9月発表)は、収監者の処遇に一部改善が見られるものの、それ以外の状況は「悲惨」だと指摘した。
孤児やホームレスの子供は、軍隊になぞらえて「突撃労働隊」として鉱山や危険な環境での労働を強制される。学童は農作業に頻繁に強制的に動員され、「過酷な」労働を強いられている。
国連は、死刑が「10年前と比べ法的に広く認められ、実際に執行されている」と指摘している。
処刑対象となる犯罪者には、売春やポルノに関与した者と、韓国の大衆文化を含む非公認メディアの流通で摘発された者が含まれる。国連報告によれば、2015年以降に制定された6つの新法では、「反国家」宣伝行為への死刑の適用を規定しているが、その定義は曖昧だ。
北朝鮮は新型コロナウイルスの大流行中、越境の試みを阻止するため特殊部隊狙撃班を配備するなど国境を厳重に封鎖した。2020年に黄海経由で北への越境を試みた韓国人脱北志願者は海上で射殺され、遺体は燃料で焼却された。
新型コロナ後、中国やロシアとの貿易は再開されたが、人の往来の再開は遅れている。ロシア人観光客はごくわずかで、平壌マラソンや先週の軍事パレードなどのイベントに招待された外国人もごく少数に留まっている。
しかし、北朝鮮国民は明らかに、リスクを承知の上で、2種類の禁止コンテンツを求めている。これは、外部情報の遮断を図る体制の試みが完全には成功していないことを示している。
韓国の大衆文化、特にメロドラマなどのテレビ連続ドラマや人気のポップミュージックは世界を魅了しており、北朝鮮も例外ではない。USBメモリーなどのさまざまな媒体に収められたコンテンツが中国から密輸され、裏ルートを通じて流通している。
ソン氏は、韓国コンテンツを標的とする3つの特定法に言及した。反反動思想法、平壌文化保護法、青少年文明保護法だ。
これらの法律は全て、2011年に権力を掌握した正恩氏の下で制定された。
ソン氏は「北朝鮮は情報の流入という点で前例のない脅威に直面している。外部からの情報がかつてないほど流入している」と述べた
もう一つの禁止コンテンツは聖書だ。
会議組織委員会のリム・チャンホ委員長は、来週の会議で基調講演を行うのは、これまで公の場で発言したことのない元北朝鮮外交官キム・カン氏だと述べた。かつて北朝鮮のエリート層に属していたキム氏は、2016年に叔母が聖書を所持していたことが発覚し処罰されたことに衝撃を受け、亡命した。
リム氏によれば、2011年には北朝鮮北部で地下教会ネットワークの存在が発覚した。これに驚いた当局は、警察や国家保安機関に対し新たな指令を出し、秘密裏に活動するキリスト教徒を追跡するよう指示した。
しかし、キリスト教への希求は極めて強く、紙を入手できない貧しい北朝鮮住民が、平らにしたトウモロコシの茎に聖書の文章を丹念に書き写しているという。一部は密輸され、来週ソウルで展示される予定だ。
これら全てが「…大規模な地下活動が起きている」ことを示唆しているとリム氏は述べた。
14日の記者会見とは別に発言した他の関係者も、北朝鮮の防御壁に亀裂が生じている点で一致している。
米国人牧師のティム・ピーターズ氏は、市民団体「ヘルピング・ハンズ・コリア」を率いている。この団体は貧困に苦しむ北朝鮮の地下教会へ密かに種子の小包を送ると同時に、中国や東南アジアを経由する「地下鉄道」を通じて脱北者を韓国へ脱出させている。
ピーターズ氏はこの秘密活動を通じて、中国東北部と北朝鮮内のキリスト教ネットワークとの連絡を維持している。
「(韓国のポップカルチャーとキリスト教によって)北朝鮮内部での外部世界への意識が急速に高まっていることは確かだ」とピーターズ氏は語った。
「平壌や(首都の港湾都市である)南浦では、金正恩氏が兵士をロシアへ砲弾の餌食として送り込んでいることへの嫌悪や不満の兆候が見られる。これは一部、北朝鮮の地下キリスト教コミュニティー、特に教育水準の高い層から来ている」
北朝鮮脱北者のイ・ヒョンスン氏は、情報の力を活用すべきだと主張した。
「北朝鮮の鉄壁に見える体制に亀裂を生じさせるには、外部情報を大量に流入させ、金氏の神格化を解体することが不可欠だ」
さまざまな活動家や脱北者が、小規模で、独立し、ばらばらの活動で、北朝鮮の国境を越えて情報やメディアを持ち込んできた。戦略的に計画され、戦術的に組織化され、適切な資源を投入した情報・認知作戦キャンペーンには政府の後ろ盾が必要となる。
現時点ではそれは不可能に見える。
ソン氏は、北朝鮮の人権に関する大規模な国際会議が開催されたのが2005年が最後であることを嘆いている。米国務省とフリーダムハウスによって支援されたものだった。今回は3日間のイベントが市民団体主導で行われる。9カ国から76のNGO(非政府組織)が参加する。
ソン氏は「実践的で実行可能な宣言」がなされることに期待を表明。「われわれは連帯を強化し…立法措置や市民社会ネットワークの拡大を通じてこの運動を推進する方法を模索していく」と述べた。