マドゥロ政権崩壊、中国の中南米戦略に壊滅的打撃

(2026年1月9日)

新華社通信が提供した写真。2023年9月13日(水)、北京の人民大会堂で行われた歓迎式典で、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領(右)と中国の習近平国家主席が儀仗兵の分列行進を閲兵している。(劉斌/新華社=AP通信)

By Bill Gertz – The Washington Times – Tuesday, January 6, 2026

 安全保障の専門家らによると、ベネズエラの強権指導者ニコラス・マドゥロ被告(前大統領、米国で起訴)が米国によって拘束されたことで、中国は地域における重要な同盟国と主要な石油供給源を失う。ベネズエラの左派政権は、中国が推進する世界的な拡大戦略において、重要な役割を担っていた。

 米軍の軍事作戦は3日未明、首都カラカスで中国当局の代表団がマドゥロ被告と会談した直後に行われた。専門家らは、被告の追放が中国の力の限界を浮き彫りにしたと指摘している。

 トランプ大統領は、「アブソリュート・リゾルブ(絶対的な決意)作戦」と呼ばれる大胆な急襲によるマドゥロ被告拘束後、ベネズエラからの石油輸入の喪失が中国に与える影響についての質問をかわした。

 マドゥロ政権と密接な関係にあった中国、ロシア、イランとの関係への影響を問われたトランプ氏は、「状況を整理した後」であれば、将来的なベネズエラ産石油の販売を米国が阻止することはないと述べた。

 トランプ氏は「石油を欲しがっている他の国々に関して言えば、われわれは石油ビジネスに従事しており、彼らに売ることになるだろう」と語った。

 中国は、この軍事作戦をベネズエラの主権と国際法の侵害であると非難し、米国に対し、ニューヨークで拘束されている被告とその妻シリア・フローレス被告を釈放するよう求めた。

 中国外務省の報道官、林剣氏は、釈放要請が無視された場合に米国に報復するかどうかについて明言を避けた。林氏によれば、ベネズエラ国内の中国人に被害はなかったという。

 一方、キューバ政府は、ベネズエラに派遣されていた軍および治安部隊の要員30人以上が殺害されたと発表した。キューバの要員はマドゥロ氏の警護に当たっていたとされている。これらの死者は、米軍によるキューバ軍用兵舎への爆撃と、特殊部隊デルタフォースの隊員による銃撃によるものとみられる。

 急襲の数時間前、中国のラテンアメリカ事務特別代表、邱小琪氏率いる代表団がマドゥロ大統領(当時)と会談していた。中国代表団の訪問中に軍事行動が行われたタイミングを巡っては、中国が情報網を通じて作戦を察知し、マドゥロ被告に警告することを恐れた米国防総省が攻撃を繰り上げたのではないかとの臆測を呼んでいる。

 マイク・ポンペオ前国務長官は、マドゥロ政権の崩壊は中国にとって望ましくないニュースであり、中国は「負け馬に賭けたことに激怒し、屈辱を感じているに違いない。マドゥロが拘束されるわずか数時間前に中国代表団を接遇していたという事実は、これ以上ないほど皮肉な光景だ」と指摘した。

 また、ポンペオ氏は、中国は中南米での主要な戦略的パートナーだけでなく、安価で違法な石油の供給源も失いつつあると付け加えた。「これは、彼らがもはやベネズエラを米国内での情報活動や、米州全域における悪質な影響工作の橋頭堡として利用できなくなったことを意味する。トランプ大統領のメッセージは極めて明確だ。わが国の半球で米国を弱体化させる時代は終わったということだ」

ベネズエラの石油

 石油業界の報告書によると、昨年の中国によるベネズエラ産石油の輸入量は日量約56万8000バレルで、2025年の最後の数カ月間には日量90万バレル以上に急増していた。これは中国の石油輸入量の約10%を占め、割引価格で販売されていた。中国石油天然ガス集団(CNPC)や中国石油化工(シノペック)などの中国国有企業は、2016年以降、ベネズエラの石油部門に推定21億ドルを投資し、活動を続けてきた。

 マルコ・ルビオ国務長官は4日、ベネズエラ産石油の出荷を米国が管理する措置が、現政府に民主的改革を促す戦略的てこになると述べた。ルビオ氏が「非ロシア、非中国企業」と呼ぶ欧米の石油会社が、同国の石油インフラの復旧を支援することが期待されている。

 ルビオ氏はABCニュースの番組で、「米国のメキシコ湾岸にある製油所は、この重質原油の精製において世界最高だ。現在、世界的に重質原油が不足しており、民間企業に機会が与えられれば、多大な需要と関心が集まるだろう」と語った。

 ベネズエラで唯一操業している米石油会社シェブロンは、石油再開発事業で最優先されるとみられている。

 中国政府は先月、中南米戦略をまとめた白書を発表し、「共通の未来」というビジョンの一環として、同地域との関係拡大を掲げた。この戦略では、「連帯」「発展」「文明」「平和」「人と人とのつながり」といった曖昧な指針の下で、複数のプログラムを推進するとしている。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)は、この白書について、中国の権威主義的な統治体制により友好的な代替的世界秩序の構築を引き続き進める意思を確認したものだと分析した。

 元米国務省中国政策顧問のマイルズ・ユー氏は「マドゥロ政権の崩壊は、米国の裏庭である西半球でベネズエラを『中南米のイラン』として支え、混乱と不安定を助長することで米国を足止めし、西太平洋での中国の侵略への対処から注意をそらそうとしてきた中国の戦略に大きな打撃を与える」と、述べた。

戦略的パートナーシップ

 マドゥロ大統領拘束の影響は中国にとどまらず、ロシア、イラン、キューバといった中国中心のならず者国家連合にも波及する。習近平国家主席は2025年5月、ロシアでマドゥロ大統領と「中ベネズエラ全天候型戦略パートナーシップ」として知られる協定に調印したばかりだった。

 マイルズ・ユー氏は、今回の軍事作戦によって、米国の軍事力がカラカスに配備されていたロシア製のS300防空システムや、中国製の「絶対確実」とされたJY27防空レーダー、イラン製のドローン「シャヘド」を、夜間の急襲で「屈辱的なほど無力化」したことが習氏に露呈したと指摘する。

 マイアミ大学の中国専門家、ジュン・トイフェル・ドレイヤー教授は、中国は他国の主権を侵害する主張を行いながらも、常に「主権」の断固たる支持者を自称してきたと述べる。宣戦布告なしのベネズエラ攻撃は、厳密には主権侵害に当たる。

 ドレイヤー氏は「習氏は、トランプ氏との会談を中止、あるいは延期するだろうか。あるいは、会談を実行し、『グローバルサウス』のパートナーであり巨大経済圏構想『一帯一路』のメンバーである国への攻撃を黙認したと見なされることになるだろうか」と問いかけている。また、ニューヨークの司法制度は被告に有利に働くことがあり、マドゥロ被告がこの麻薬テロ裁判で勝訴し、より強力になって復活する可能性も指摘した。

 マドゥロ、フローレス両被告は4日、マンハッタンの連邦裁判所で、麻薬テロ共謀の罪について無罪を主張した。

 ドレイヤー氏は「トランプ氏は、(ベネズエラ暫定大統領の)デルシー・ロドリゲス氏が協力すること自分に伝えてきたと述べたが、その後の彼女の発言は特に融和的とは言えない。彼女は中国に対する友好的な政策を引き継ぐのだろうか」と述べた。

 また、米国によるベネズエラ経済再建の取り組みが失速すれば、中国は勝利を主張できる可能性があるという。「中国はマドゥロという人物そのものは失ったかもしれないが、彼の遺産と中国にとっての価値は生き続ける可能性がある」

 国務省で中国政策を担当していたジョン・トカチク氏は、マドゥロ被告と最後に会談した外国代表団を中国の対中南米外交トップが率いていたのは、偶然ではないと考えていると述べた。

 トカチク氏は「マドゥロはテレグラムへ、米国の中南米での戦略態勢を覆すことを楽しみにしているとうれしそうに投稿していた」と述べ、マドゥロ被告が中国との戦略的関係へのコミットメントを再確認していた点に言及した。

 「2日に中央情報局(CIA)がマドゥロの一挙手一投足を細かく監視していた様子から判断すれば、トランプ大統領自身も、マドゥロが中国の来賓に送った祝意を確実に把握していたはずだ」

 「大統領は少なからず立腹していたのではないかと思う。それを考えると、マドゥロへのいら立ちには、単なる麻薬船によるコカイン密輸以上の理由があったのではないかと思えてくる。コカイン密輸船を沈めるのに、完全装備の空母打撃群は必要ない。しかし、キューバ、ロシア、中国が米国の裏庭にコンクリート製の恒久的な基地を築くのを抑止するには、艦隊が必要だ」

 トカチク氏は、邱氏とその代表団が、爆撃、停電、携帯電話やノートパソコンで通信できない状況によって、寝床からたたき起こされたのではないかと推測している。

「最高の先制行動」

 ルビオ氏は、この作戦は主として法執行作戦として計画されたもので、マドゥロ被告が率いるとされる「麻薬テロリスト」からの麻薬流入を阻止することが目的だったと述べた。

 大統領補佐官(国家安全保障担当)でもあるルビオ氏は、ベネズエラでのイランとイスラム教シーア派組織ヒズボラの存在を抑え込むことが、マドゥロ氏排除の重要な要因だったと語った。

 ルビオ氏は昨年12月、イラン革命防衛隊がベネズエラに「中核的な拠点」を持ち、その工作員が現地でヒズボラのテロリストと活動を共にしていると述べた。

 イスラエルのアルマ研究教育センターによると、2020年以降、イランがベネズエラに売却した兵器には、フロリダ州やカリブ海の米海軍艦船を射程に収め得る「モハジェル6」無人航空機が含まれていると報じられている。

 またイランは、無人機の製造施設をベネズエラに移転し、CM90対艦ミサイルを搭載したゾルファガル級高速攻撃艇も売却している。

 米海軍退役大佐のジム・ファネル氏は、今回の緻密な作戦は、最近公表されたホワイトハウスの「国家安全保障戦略」で示されたトランプ政権の新たな西半球防衛構想を浮き彫りにしたと述べた。

 「西半球を直接防衛するという新たな米国の政策は、この地域での共産主義勢力の関与と拡大という長年の脅威に正面から立ち向かうものだ。最も重要なのは、中国共産党総書記の習近平が打ち出した4つの世界的イニシアチブのうち、最新の『グローバル・ガバナンス・イニシアチブ』を真正面から否定するものだ」

 ファネル氏によると、習氏と中国共産党は、マドゥロ氏の逮捕が、中国が西半球で影響力を拡大し、地域資源を無制限に獲得・搾取することで経済エンジンを回そうとする試みに対する対抗措置であることを認識しているという。

 ファネル氏は「この歴史的な急襲は中国の計画を覆し、1962年にこの地域でソ連軍の侵入に直面した際に経験した『10月のミサイル』の再来を、米国と世界が耐え忍ばずに済むようにした。これは先制行動の極致だった」と語った。

 中国の国営新華社通信は、米国の攻撃を「むき出しの覇権的行動」と呼んだ。

 同通信は、「米国の侵攻は、米国が口にする『ルールに基づく国際秩序』なるものが、実際には『米国の利益に基づく略奪的秩序』にすぎないという事実を、ますます多くの人々に見せつけた」と伝えた。

 中国政府が管理するSNS「微博(ウェイボー)」には、トランプ氏の作戦成功から、中国の指導者は学ぶべきだとする投稿が多数掲載された。

 中国共産党系の環球時報は、中国の軍事専門家、張軍社氏の発言として、この急襲は軍事作戦のケーススタディーであり、米国の情報能力の高さを示したと報じた。

 張氏は「米国は体制転覆を目的とした同様の軍事作戦を繰り返し実施してきた。こうした作戦は単なる戦術行動ではなく、深い政治的・戦略的意味合いを持つ」と述べた。

 米海軍退役少将のマーク・モンゴメリー氏は、中国は複数の面で影響を受けたが、単独では決定的でない要因が重なり合って大きな結果を生んだと述べた。

 現在、民主主義防衛財団(FDD)の上級研究員を務めるモンゴメリー氏は「トランプは予測が極めて難しい存在で、われわれは戦略的曖昧さから、トランプの下での戦略的不確実性へと移行した。これは中国共産党のような慎重で熟慮型の国家に対して抑止効果を持ち得る」と語った。

 中国はベネズエラの化石燃料販売の80%を占めており、米国がベネズエラの内政に関与することで、中国は国際石油市場の影響に対してやや脆弱になると同氏は述べた。

 「最後に、中国は南米での米国の力の前で無力に見えた。ハードパワーに関して言えば、西半球には1匹の大きな犬しかいないということを、南米のあらゆるパートナーに思い起こさせるものだった」

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