企業で進む「多様性」の見直し DEI廃止求め大統領令

2025年4月23日、ワシントンのホワイトハウスの大統領執務室で、リンダ・マクマホン教育長官が耳を傾ける中、署名された学校規律政策に関する大統領令を手にするドナルド・トランプ大統領。(AP Photo/Alex Brandon)
By Tom Howell Jr. – The Washington Times – Sunday, July 6, 2025
政府内の「多様性、公平性、包括性(DEI)」プログラムを解体しようとするトランプ大統領の取り組みは、民間部門にも波及しており、企業はウェブサイトの精査や雇用慣行の見直しを迫られている。
法律事務所や通信事業者は、合併の承認を得たり、大統領との対立を避けるためにDEIプログラムを廃止したりするとトランプ政権に公言している。
他の企業は、ウェブサイト上のDEIへの言及を削除したり、文言を微調整したり、電子メールの署名における代名詞への言及を削除したりと、微妙な対応をしている。
例えばメジャーリーグは、トランプ氏の指示に沿うため、採用情報から「多様性」への言及を削除した。リーグは「多様性に関する価値観は変わらない」と主張している。
多様性イニシアチブを支持する顧客や消費者の反発を招くことなく政権を満足させようと、目立たないようにDEIに対するスタンスを微調整している企業や機関は他にも多くある。
ウィスコンシン法律自由研究所のダン・レニントン副所長兼副顧問は「背後でいろいろなことが起きている。企業、教育機関、病院、医療機関は、完全に屈服するか、戦うか、あるいはDEIのウェブページの文言を変えることで従順に従っているふりをしようとしている。ふりをしていてもいずれ失敗する」と述べた。
DEI運動は、多様性を育み、歴史的に人種や性別、障害のような他の要因によって差別を受けてきたグループの人々に有利になるように設計された。
バイデン政権はこのプログラムを奨励し、有色人種を重視した採用枠を設けたり、従業員に対して意識のトレーニングを行ったりした。しかし、トランプ氏が政権に復帰すると状況は一変し、個人のアイデンティティーがスキルや能力よりも優先され、差別につながるとするDEI反対派が結集した。
その影響はすぐに表れた。
シティグループは2月、採用の「理想的な構成目標」を取り下げ、「多様性、公平性、包括性、能力管理」チームの名称を「能力管理、関与」に変更した。
同月、パラマウント・グローバルは今年は採用での人種、民族、性別などに関する「意欲的な数値目標」を設定しないと社員に伝えた。
飲料大手のペプシコは、DEI最高責任者を「より広範な役割」にシフトすると発表した。
トランプ氏の初日の連邦政府内のDEIを排除するための命令は、民間企業や非政府組織内の政策に直接言及するものではなかった。
大統領令は、司法省や他の政府機関に対し、研修および採用の慣行について、民間団体を調査する権限を与えた。これらの慣行について、DEIを批判する人々は、白人男性などの「非マイノリティー」集団に対する差別だと主張している。
また、連邦政府の請負業者や、大学などの連邦政府の資金提供を受けている団体が、制度的人種差別などの概念に関する反偏見トレーニングを実施することも禁止した。
トランプ氏のチームはそれだけにとどまらなかった。
4月、ショーン・ダフィー運輸長官は、道路請負業者など運輸省からの資金受給者に対し、人種など特定の特徴に基づく雇用差別を禁止する法律や最高裁判例を順守しなければならないと警告した。
いわゆる 「多様性、公平性、包括性」、つまりDEIの目標を達成するために策定された差別的な方針や慣行を含む、禁止された分類を前提とするいかなる方針、プログラム、活動も、中立的な用語で説明されているか否かにかかわらず、連邦法に違反するとみなす」と書簡は述べている。
そして5月、司法省は連邦政府から資金を受け、差別を行っている団体を追及するため、「公民権不正イニシアチブ」を創設した。
パム・ボンディ司法長官は、「反ユダヤ主義を容認し、分断につながるDEI政策を推進する企業は、連邦資金を受けられなくなる可能性がある」と述べた。
レニントン氏は「多くの企業が連邦政府との契約を交わしている。トランプ大統領の大統領令、そして公民権不正イニシアチブを立ち上げることは非常に重要だと思っている」と述べた。
契約が欲しい通信会社は、DEIの変更を政府に約束している。
Tモバイルは、3月に連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員長に宛てた書簡で、同社の新規サプライヤー開発プログラムは、もはや多様な企業の特定のカテゴリーに焦点を当てることはなく、調達方針での多様な支出の具体的な目標やゴールを撤廃したと述べた。
同社は、最高裁とトランプ政権の下で、法的・政治的状況が変化したと指摘した。
その翌日、FCCはTモバイルによる光ファイバー事業者ルーモスの買収を承認した。
同様にFCCは、ベライゾンがDEIイニシアチブを撤回することに合意したことを受けて、フロンティア・コミュニケーションズとの200億ドルの合併を承認したことを挙げた。
カー氏は声明で、ベライゾンがFCCによって指定された「DEI関連の慣行を終わらせることを約束した」と述べた。
「これにより、統合された事業が法律と公共の利益に合致した方針と慣行を実施することが保証される」
ワシントン・タイムズは、この変更についてベライゾンとTモバイルにコメントを求めたが、返答はなかった。
一方、いくつかの法律事務所は4月、DEIイニシアチブを撤回することに合意した。トランプ氏は法制度を武器に自身を攻撃していると一部の法律事務所を非難しており、トランプ氏からの罰則を避けるためだ。
トランプ氏は自身のSNSトゥルース・ソーシャルに「法律事務所は、実力主義に基づく雇用、昇進、定着へのコミットメントを確認する。従って、法律事務所は違法なDEI差別や優遇措置に関与しない」と投稿した。
特に2023年に最高裁が大学入試でのアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)を否定したことを受けて、DEIプログラムはトランプ氏が大統領に就任する前からすでに失速していた。
非営利団体「全米法律政策センター(NLPC)」のポール・カメナー顧問は、大統領選とトランプ氏の大統領令の後、DEI離れの動きが「一気に加速した」と述べた。
「政治的な風向きが変わったのだと思う。これらの企業はLGBTのパレードやプログラムなどのスポンサーになることを控えている。しかしそれらは、どちらかというと外見的な変化にすぎない」
実際、企業は厳しい局面に立たされている。トランプ氏の新ルールを順守しつつ、多様性への取り組みが重要であることに変わりはないとする左翼活動家の怒りを避けたいからだ。
マクドナルドが1月、「理想的な構成目標」を設定せず、DEIプログラムにその他の変更を加えると発表、リベラル活動家グループ「ピープルズ・ユニオンUSA」が先導する1週間のボイコットを乗り切った。
ボイコットに対しマクドナルドは「われわれの包括性へのコミットメントは揺るぎない」と述べた。
カメナー氏によると、NLPCは、企業の年次報告書の開示を強制し、DEIに関する彼らの行動と美辞麗句が一致しているかどうか、あるいはそれが一種のレッテル貼りに等しいかどうかを確認するために活動しているという。
また、役員報酬とDEI目標を切り離すよう企業に求める訴訟も起こしている。
カメナー氏は「私たちは、企業がより多くの応募者に目を向けるために各部門に働きかけを行うことに反対しているわけではない。しかし、マイノリティーであることを理由に採用しようとすれば、採用されなかった従業員や応募者、あるいは警告状を出した州検事総長から訴えられる可能性がある」と言う。
DEIイニシアチブの支持者は、トランプ氏の戦術は脅迫に等しく、人々を労働差別にさらすかもしれないと言う。
全米女性法律センターの職場平等担当シニア・ディレクター兼上級顧問のローレン・クーリ氏は「それでも多くの企業は依然、多様性、公平性、包括性、アクセシビリティー(障害者などへの配慮)がビジネスにとって良いことだと認識しており、トランプ氏がどれだけ努力しても、差別禁止法を元に戻したり書き換えたりすることはできない」と述べた。
トランプ氏の大統領令は、1960年代にリンドン・ジョンソン大統領が出した、助成金や連邦契約の一定割合をマイノリティーや女性が経営する企業に提供することを義務づける命令を撤回した。また、連邦政府との契約を獲得するためにDEIの推進を企業に義務付けたバイデン政権時代の政策も廃止された。
NBCニュースが3月に実施した世論調査で、DEIプログラムについて2つの意見から選択するよう求めたところ、意見は分かれた。
国民の約半数(49%)は、DEIプログラムは「能力、スキル、経験よりも人種やその他の社会的要因を重視しすぎることで、職場に分断や非効率を生み出しているため」廃止されるべきだと答えたが、48%は「多様な視点が国を反映し、革新的なアイデアや解決策を生み出し、団結を促し、職場を公正で包括的なものにするため」継続されるべきだと答えた。
有権者の43%が、このプログラムに対して否定的な感情を抱いていると答え、肯定的な意見(39%)や中立的な意見(14%)を上回った。
レニントン氏は、「米企業がなぜこのようなことに正面から取り組んだのか、ずっと謎だった。しかし今、彼らはほとんどの面で完全に後退している」と述べた。
トランプ政権は大学が差別を行っているかどうかを調査しており、民間企業でのDEI慣行を排除しようとする取り組みはこれを反映したものだ。
司法省は最近、カリフォルニア大学に対し、「UC2030定員計画」に基づく雇用慣行が、人種、肌の色、宗教、性別、出身国による雇用差別を禁止する公民権法第7条に違反していないか調査していると通告した。
カロリン・レビット大統領報道官は最近、この調査についての質問に「肌の色や性別によって雇用したり昇進したりすることのない、実力主義の社会と文化を合衆国に取り戻したいというのが大統領の立場だ。大統領は、人々が職場で採用されるのは能力や技能によるべきだと考えており、私もほとんどの国民がそれに賛成していると思っている」と答えた。