難民への制限強化迫られる欧州左派 右派政党が台頭

2024年10月5日(土)、イギリス海峡で発生した小型船の事故を受け、移民とみられる人々がRNLIドーバー救命艇からイングランド・ドーバーに搬送された。(ガレス・フラー/PA通信 via AP)
By Joseph Hammond – Special to The Washington Times – Thursday,September 25, 2025
欧州は、トランプ大統領が今週の国連総会で行った演説で、難民が野放しの「あなた方の国は地獄に落ちる」という警告に反発した。しかし、欧州各国の指導者らは、開かれた国境に対して有権者から怒りの声が高まっていることを知っている。
欧州の伝統的左派を代弁する英ロンドンのサディク・カーン市長は、トランプ氏の発言を「人種差別主義者、性差別主義者、イスラム嫌悪者」と非難した。
カーン氏が強く反発し、トランプ氏を頻繁に批判している当局者らもいる一方で、英国、デンマーク、ハンガリーの指導者たちは、欧州で亡命と機会を求める難民の波への取り締まりを強化している。
移民に関してタカ派的な主張をするポピュリスト右派政党が、近年急速に成長している。これまで目立つことのなかったこれらの政党が近年、台頭しており、これらの組織やその指導者を批判したり、活動を禁止したりしてきた当局の取り組みは奏功しなくなっている。
「ドイツのための選択肢(AfD)」は、今年初めの選挙で予想以上の勝利を遂げ、連邦議会で152議席を獲得した。フランスでは、マリーヌ・ルペン氏の国民連合(RN)が国民議会で議席を増やし、世論調査でリードしている。欧州の他の地域では、移民に対する制限の厳格化を求める政党がすでに政権を握っている。
イタリアのジョルジャ・メローニ首相の「イタリアの同胞」は、移民船を取り締まると公約し、有権者の信頼を得た。ハンガリーでは、ビクトル・オルバン首相の「フィデス・ハンガリー市民連盟」の下で、南部国境沿いにフェンスを建設している。
草の根運動の影響力により、左派政治家も移民に関して、不本意ながらも、右寄りに動かざるを得なくなっている。
デンマークでは、メッテ・フレデリクセン首相率いる社会民主党政府が、市民権を与える前に移民希望者が反民主主義的思想を持っているかどうかを検査するという提案をしている。
デンマークの政治アナリスト、ステフェン・ショースレフ氏は、「デンマークは長い間、西欧の大半よりも移民に対して厳しい態度を取ってきた。2000年代初頭以来、移民は選挙で重要な争点となっており、中道左派の政府でさえ、特にイスラム教徒が多数を占める国からの移民申請者に対して、より強硬な姿勢に転じている」と話す。
「デンマークの市民権は歴史的に形式的なものであったが、この提案は、申請者が本当に民主的価値を共有しているかどうかを精査する方向への転換を示している」とショースレフ氏は述べた。
デンマーク政府は、こうした変化を、包括性と責任の共有という伝統的な社会民主主義的価値観と結び付けようとしている。最近では、ロシアの破壊工作の一環と思われるドローンがデンマーク領空を侵犯した。これを受けてデンマークは、一時的な国境管理を再開した。イタリアとギリシャは今年、ロシアと友好関係にある北アフリカ諸国からの移民の流入について懸念を表明している。
マグナス・ブルナー欧州委員は今年夏、ロシアは欧州を不安定化させるために移民を「武器化」していると警告した。
同氏は政治専門紙ポリティコに対し、「ロシアが…移民や移民問題全体を、欧州に対する武器として使う危険性が確かにある。武器化が進んでいる」と述べた。
ユーガブの今年の世論調査では、多くの西欧諸国で過半数が欧州への移民が多すぎると答えている。デンマークでは、回答者の55%が移民の数が多すぎると答えた。
スウェーデン、イタリア、イギリスでも70%以上が同じ意見だった。ドイツ (81%)とスペイン (80%)では、回答者の割合が最も高かった。
デンマークは、西欧諸国の中で、不法移民が政権の最優先事項となっている国の一例にすぎない。
メローニ首相は、不法移民の取り締まりを公約に掲げて政権に就いた。不法移民は国の安全保障や公共の秩序、社会の結束を脅かすと述べている。
メローニ氏は、イタリアへの不法移民を最大60%削減する政策を指揮してきた。メローニ政権は、海上で救助された難民に、年間最大3万6000人まで対処する協定をアルバニアと結んだ。同氏は、合法的な移民や熟練した移民を支援する政策とのバランスを取ってきた。
亡命希望者への不満の高まりに対する最善の対応を巡る議論は、混乱を引き起こしている。
ナポリ市長の政治顧問フランシスコ・セネセ氏は「左派政党は包括性に取り組まなければならないと思う。都市にゲットーを作ることはできない。…建設的な統合と社会支援を組み合わせれば、より安全で繁栄した国にする道はある」と述べた。
統制の取れない移民に対するメローニ氏の厳しい立場は、英国のキア・スターマー首相の労働党政権に思いもよらない影響を与えた。
2024年7月の就任後、スターマー氏は地中海を横断する不法移民への取り組みでメローニ氏の「目覚ましい進展」を称賛した。
スターマー氏はさらに、不法移民と闘うメローニ氏の主要な計画の一つであるローマ・プロセスを支援するため、欧州に560万ドルを提供すると約束した。
大陸が押し寄せる難民で動揺しても、島国の英国は歴史的に周辺の海に守られてきたが、密輸業者が日常的に英仏海峡を越えて送り込んでくる難民への対応には苦慮している。
今年上半期の小船による不法入国は過去最高に達した。これを受けて、スターマー氏はフランスとの「ワン・イン・ワン・アウト」移民協定を発表した。これによって、不法に国境を越えてきた人々の一部を戻すことが可能になった。
英国の移民政策に対する抗議行動は大規模で暴力的になっている。
エチオピア人の亡命希望者が女性と14歳の少女を性的に暴行したとして有罪判決を受けた事件は、国全体の注目を集め、右派団体が主導する抗議行動に火をつけた。亡命希望者が宿泊するホテルを標的にした、小規模の抗議行動も発生した。ロンドンでの最近の抗議行動には約15万人が集まり、ハイテク業界の億万長者イーロン・マスク氏が演説した。
現在世論調査でリードしている「リフォームUK」のナイジェル・ファラージ党首は今週、東欧からの移民が公園の「白鳥を食べている」というトランプ氏を思わせるような主張で注目を集め、批判を浴びた。
ワン・イン・ワン・アウト・プログラムは、限定的な成果しか挙げていない。今週の時点で、4人の移民がこのプログラムの下で強制送還されたが、法的な問題に直面している。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、世論調査でリードしている右派RNから圧力を感じている。7月には、英仏海峡を渡る不法移民の増加をブレグジット(英国の欧州連合<EU>離脱)のせいにした。デンマークと同様、フランスも居住への条件を厳格化し、より厳しいフランス語の要件を導入している。
今週、国連で演説したハンガリーのシーヤールトー・ペーテル外相は、自国の国境警備対策を誇るとともに、トランプ氏に敬意を表して、「壁ではなくフェンスだ」と主張した。シーヤールトー氏は、防護フェンスが100万人以上の難民のEUへの入境を阻止したと述べた。難民に対するハンガリーの強硬なアプローチは、EU
から非難され、亡命希望者の処理に関するEU規則を順守していないとして制裁金を科された。
公式統計によると、EU内の不法移民対策に焦点を当てたことによる成果は出ている。欧州委員会の推定によると、EU域内に不法に滞在している人は91万8925人で、2023年から27.4%減少した。