米イランのチキンレース 湾岸の石油、武器、同盟関係にも影響

2026年4月29日(水)、イランのテヘランで、シーア派イスラム教の第8代イマームであるイマーム・レザの誕生日を祝い、最高指導者を支持する政府主催の集会で、警察官が、左側に故イラン革命の指導者アヤトラ・ホメイニ、右側に故最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイの肖像が描かれた横断幕の前で警備に立っている。(AP通信/ヴァヒド・サレミ)
By Tom Howell Jr. – The Washington Times – Friday, May 1, 2026
イラン紛争によって、ペルシャ湾地域が根本から変わろうとしている。米海軍による厳しい海上封鎖でイランの石油依存経済が短期的な打撃を受けると共に、アラブ首長国連邦(UAE)の石油輸出国機構(OPEC)脱退は長期的な影響を及ぼす。
イスラエルとレバノンは、イランが支援するイスラム教シーア派組織ヒズボラへの対応を巡り、数十年ぶりに対話を開始した。さらに、イランからのドローン奇襲攻撃によって湾岸諸国は外交の優先順位や同盟関係の見直しを迫られている。
こうした一連の動きは、トランプ米大統領によるイラン攻撃命令が、この地域の経済と外交関係を刻々と組み替え、今後数カ月、場合によっては数年にわたり波及していくことを示している。
■重大な試練に直面するイランの石油経済
和平交渉が長引く中、米国内ではトランプ氏とイラン指導部のSNS上での応酬や、仲介役のパキスタンでの協議に注目が集まっている。
しかし、イランの港湾を封鎖するトランプ氏の命令は、石油輸送と収入確保に大きな影響を及ぼしている。
世界貿易データ分析会社クプラーは最近の報告書で「米国の封鎖はイランの石油輸送に実質的な混乱をもたらし始めており、積み出しは急減、貯蔵は急速に増加している。直ちに財政に大きな影響が及ぶことはないが、運用の制約によって生産削減を強いられており、いずれ、深刻な財政圧迫を招く」と指摘した。
イランの原油輸出は3月には日量185万バレルで堅調だったが、4月13日の封鎖開始後、積み出しは70%減の日量56万7000バレルに落ち込んだ。
未出荷の石油で貯蔵能力は限界に近づいている。浮体式貯蔵や中国向け鉄道輸送の検討も報じられるが、実現を裏付ける確かな証拠はないと報じられている。
米シンクタンク、エネルギー研究所の政策顧問カレブ・ジャッソ氏は「貯蔵が限界に達するまでの期間については数週間から1カ月と見方が分かれるが、限界に達すれば大幅な減産か生産停止を余儀なくされる」と述べた。
影響は石油にとどまらない。石油化学製品や鉄鋼などの輸出も妨げられ、通貨リアルはドルに対して過去最低水準に下落している。
ハドソン研究所中東平和安全保障研究センターの上級研究員ジョエル・レイバーン氏は「状況はかなり深刻だ。無期限に持ちこたえることはできない。空気だけで生きられるわけではない」と語った。
ベセント米財務長官も、主要輸出拠点カーグ島の貯蔵能力が限界に近いとし、生産削減により日量1億7000万ドルの収入減とインフラへの恒久的損傷が生じると述べた。
トランプ氏は「イラン経済は壊滅的だ。どこまで持ちこたえるか見ものだ」と語り、核開発放棄を迫っている。
■どちらが先に折れるのか。
封鎖で打撃を受けながらも、イランは米国が先に譲歩すると見ているようだ。
米国では今年、中間選挙が実施され、トランプ氏は国内からの圧力を受け、イラン攻撃を巡って支持率が下がっている。ガソリン価格が上昇していることもマイナス要因となっている。
全米平均のガソリン価格は1ガロン4ドルを大きく超え、紛争開始時の約3ドルから上昇している。
トランプ氏は「戦争が終われば価格は急落する」と述べた。
「ガソリン価格は下がる。戦争が終われば急落する。原油は世界の至る所にある。海にもある」
米国が主要産油国であることによる恩恵も強調した。
ただし専門家は、イラン政権は圧力に耐える構造を持っていると警告する。
民主主義防衛財団の上級研究員デービッド・ダウド氏は「体制には統治を維持するだけの十分な草の根の支持基盤がある。これらの支持基盤は、西側で政府に求められるような経済的豊かさを必ずしも求めていない」と述べた。
トランプ氏は指導者を排除したと主張するが、専門家によれば、イランの体制は依然、ほぼ無傷だという。
ブルッキングス研究所の客員研究員で、駐レバノン米大使だったジェフリー・フェルトマン氏は、紛争後のイランはむしろ抑制が弱まっていると指摘する。
2月28日の戦争初日に死亡した最高指導者ハメネイ師は湾岸諸国への直接攻撃やホルムズ海峡封鎖を避けていたが、現在のイランは、海峡封鎖によって大きな影響力を行使できることに気付いている。
同氏は「湾岸諸国への攻撃やホルムズ封鎖、体制の持久力といったシナリオが十分考慮されていないのは不可解だ。確かに体制に変化は起きたが、大統領の言っている通りではない」と述べた。
だが、専門家によると、イラン経済が弱体化していることは間違いない。また、湾岸諸国はホルムズ海峡以外の輸出ルートを模索しており、そうなればイランの影響力は弱まる。
ジャッソ氏は「封鎖と戦争によりイラン経済は壊滅的打撃を受け、回復には長い年月を要する。その結果、(パレスチナ自治区ガザのイスラム組織)ハマスやヒズボラといった代理勢力への資金供給や地域内での軍事力維持能力は大きく制約される」と述べた。
■周辺国への影響
この戦争の影響を受けるのは米国、イスラエル、イランだけではない。
湾岸全域が巻き込まれ、各国は世界での自国の立場の見直しを迫られている。
サウジアラビアの政府系ファンドは、2026年シーズンを最後にLIVゴルフへの資金提供を終了すると発表した。「投資方針とマクロ環境」を理由に挙げた。
イラン攻撃が直接の原因ではないものの、域内での石油輸送が困難になっていることが背景にあるとみられる。
さらに大きな動きとしてUAEは、原油主要輸出国からなり、原油価格に大きな影響力を持つOPEC離脱という衝撃的決定を下した。
UAEは従来、OPECの生産制限に不満を持っており、イランでの紛争が脱退の引き金となった。
OPEC加盟国であるイランは、UAEをドローンやミサイルで攻撃し、ホルムズ海峡を封鎖した。これによってUAE経済の基盤である石油輸出能力に影響が出ている。
トランプ氏は脱退を歓迎し、OPECが意図的に原油価格を上げるのを阻止できるようになると指摘した。
しかしこの紛争は湾岸諸国間の緊張を一層高める可能性もある。
フェルトマン氏によると、UAEはイスラエルと緊密な関係を維持しており、サウジはイスラエルのイラン攻撃は行き過ぎとみている。
「今回の戦争の影響で、サウジはイスラエルとのいかなる関係にもこれまで以上に懐疑的になり、さらにOPEC離脱を巡って隣国のUAEに対する不満も強めることになるだろう」と同氏は述べた。
さらに「中東における外交的成果は、表向き米国の友好国とされる国同士の緊張が高まるにつれて、はるかに複雑なものになる」と語った。
■ヒズボラの弱体化
イスラエルは2月末、米国と連携してイランへの爆撃を行った。
さらにレバノンでは、イランの支援を受けるヒズボラに対して全面的な攻撃を開始し、戦闘員と民間人合わせて2500人以上が死亡した。
当初は隣国同士の摩擦のように見えていたが、これが異例の外交機会へと転じた。
ホワイトハウスの仲介により、イスラエルとレバノンの指導者は30年以上ぶりに対面協議を行い、その結果、停戦が実現した。
ヒズボラはシーア派の武装組織であると同時に政党としても活動し、レバノンにおけるイランの代理勢力となっている。
イスラエルもレバノンも、ヒズボラが両国を戦争に引きずり込むことや、レバノン情勢に対するイランの過度な影響力拡大を望んではいない。
それでもヒズボラは持ちこたえ、レバノン国内の動向に影響を及ぼしている。
フェルトマン氏は「イスラエルの理想は、イランの覇権をイスラエルの覇権に置き換えることだが、それはレバノンでは受け入れられないだろう。シーア派はヒズボラが紛争に引きずり込んだことに怒っていたが、その怒りは今やイスラエルへと向けられている」と述べた。
また、専門家によれば、ヒズボラは依然として非対称戦を遂行する能力を保ち、ドローンの運用でも大きな効果を発揮できる。
ダウド氏は「再生不能なほど弱体化したわけではない」と語った。
同氏によれば、イスラエルとの停戦が続けば、ヒズボラにとって立て直しの余地を与えることになる。米政府は、レバノン政府が介入してヒズボラへの圧力を維持することに期待を寄せているようだ。
しかし「それが実現する可能性は極めて低い」とダウド氏は指摘する。「レバノンが根本的に変わった兆候も、ヒズボラに対抗する意思が大きく変化した兆候も現時点では見られない。近い将来にそれを期待するのは難しい。ヒズボラにとっては、再生するために必要な余地がそれで十分に確保されている」
イランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」は、ヒズボラの存続を優先するため、イスラエルがこの代理勢力を排除するのは一層困難になる。
レイバーン氏はイランについて、「ヒズボラがなければ、どうやってイスラム革命を輸出するのか。他に手段はない。イラクの民兵ではできず、フーシ派でも不可能だ。ヒズボラこそが必要なのだ」と語った。

