中国、新世代の移動式ICBMを開発中-米戦略軍司令官
By Bill Gertz – The Washington Times – Wednesday, March 6, 2024
中国が、核兵器の大規模な増強の一環として、新世代の移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発中であることを、米戦略軍司令官が最近、議会で明らかにした。
昨年12月に核戦力を管轄する戦略軍司令官に就任したアンソニー・コットン空軍大将は、先週の上院軍事委員会の非公開公聴会で証言し、新型移動式ICBM開発の詳細を明らかにした。
コットン氏は、中国が戦略核を搭載可能なミサイル、爆撃機、潜水艦の配備を急速に進めていることについて「息をのむよう」と表現した。中国による核戦力増強のペースについて議会証言で警鐘を鳴らした戦略軍司令官はコットン氏で2人目だ。
新型ミサイルは、コットン氏が準備していた証言の中で、それほど注目されなかった。
コットン氏は、中国が現在、米国よりも多くのICBM発射装置を保有していることなど、中国のミサイル増強について概説する中で、人民解放軍ロケット部隊は「新世代の移動式ICBMを開発している」と述べた。
戦略軍の報道官は、機密情報については話さないという方針を理由に、新型ミサイルについてのコメントは拒否した。
米政府は現在、自国の老朽化した核戦力の近代化に苦慮しており、400基のICBM、サイロ式ミニットマン3の寿命も終わりに近づいている。空軍は1月、老朽化したミニットマンに代わるICBM、センチネルの開発がコスト超過に直面しており、配備が2年遅れる可能性があると議会に通告した。国防総省は650基のセンチネルを導入する予定だ。
米国は道路移動式、鉄道移動式のミサイルを保有していない。移動式ICBMは情勢を不安定化させる可能性があるとして保有を拒否してきた。対照的に中国は、2基の道路移動式ICBM、移動式準中・中距離ミサイル、車両搭載型の移動式短距離ミサイルなど、数種類の移動式ミサイルを保有している。
移動式ICBMは核兵器を隠しやすく追跡が難しいため、米国の核攻撃抑止の能力は複雑になる。
中国の包括的な核兵器増強は、習近平国家主席が2025年までの5カ年計画の一環として2020年に言及した。核兵器について中国はこの計画で「戦略的戦力の強化」と「高水準の戦略的抑止力の構築の加速」を目的としている。
コットン氏は2月29日の公聴会で、中国の陸海空核兵器の増強について説明するよう求められた。
同氏は「私の前任者が言ったように、…私たちはブレイクアウト(戦力の急激な増強)-私はこの用語を使うのが好きなのだが-を目の当たりにしている。高度化が進み、急速にトライアド(ICBM、潜水艦発射弾道ミサイル〈SLBM〉、戦略爆撃機の核の3本柱)の構築に向かって進んでいることも見てきた。その発展の速さには息をのむ」と答えている。
現在、中国の最新ICBMは「東風41(DF41)」で、道路移動式で、少なくとも3発の弾頭で別々の目標を攻撃できる能力を持つ。
上院軍事委員会戦略戦力小委員会デブ・フィッシャー委員(共和、ネブラスカ州)は、中国の核兵器の増強は大きな懸念材料だと述べた。
「(中国共産党は)猛烈なスピードで核戦力の近代化を進めており、新型兵器や新型運搬システムの生産という点では、すでに米国を凌駕している。遅れているとはいえ、議会は、労働力への投資、国防生産法の適用、製造能力の回復を含む核戦力の更新に取り組まなければならない」
ブログが言及
中国軍事問題の専門家で、国際評価戦略センターの上級研究員、リック・フィッシャー氏によれば、2021年に政府が閉鎖するまで、中国の軍事インターネットサイトに新型移動式ミサイルを巡る情報が出回っていたという。東風41に代わる新しい移動式ICBMの情報は、2020年の時点ですでに軍事ブログで言及されていた。
フィッシャー氏は「これは東風45や東風51と呼ばれることもあるが、明らかに東風41を超えることを意図している」と述べた。
同氏によれば、中国の軍事サイトからの情報を確認することは難しいが、2020年8月8日のあるブログの投稿によれば、東風45は「わが国の新世代の固体燃料式大型サイロ式大陸間ミサイル」になるという。
東風45の発射時の重量は112㌧、搭載量は3.6㌧で、650㌔㌧の弾頭を7発搭載可能。推定射程は1万2000~1万5000㌔。
フィッシャー氏は「この程度の大きさなら、東風41よりそれほど大きくはなく、道路移動式の可能性もある」とみている。
北朝鮮はICBM「火星17」用の世界最大の移動式発射台(TEL)を、中国の支援を受けて製造した。
フィッシャー氏は「つまり、中国は東風41用の16輪TELよりもはるかに大きなTELを製造し、東風45/51のような大型ICBMを輸送することが可能だ」と述べた。
また、人民解放軍の主要ミサイルメーカー、中国航天科技集団(CASC)が、より大型の固体燃料ロケットエンジンの製造に取り組んでいるという報告もある。初期の中国製ICBMは液体燃料式で、発射準備に長い時間を要した。東風41と東風31は固体燃料式だ。
専門家らは、バイデン政権は中国の核戦力の急激な増強にほとんど対応せず、兵器削減交渉に中国を引き込もうとしてきたと指摘する。中国はこれまで、実質的な戦略核削減交渉の実施を拒否してきた。その理由の一つとして中国は、自国の核兵器保有量が米国やロシアよりもはるかに少ないことを挙げている。
米情報機関は数年前に中国西部の3カ所で大規模なICBM発射場が建設されているのを発見した。これらは中国の大規模な核兵器増強の主要部分とされている。国防総省によれば、ここのサイロには現在300基以上の地上配備型ICBMが配備されており、現在の道路移動式東風31のサイロ配備型だという。東風41と次世代移動式ミサイルもまた、中国西部のミサイル発射場に置かれる可能性がある。
フィッシャー氏は、「悲劇的なのは、米国が今、核のトライアドの三つすべてを同時に近代化するのに苦労しており、バイデン政権は米国の戦略核兵器や戦域核兵器を拡大するつもりがないことだ。これは、核兵器による恫喝、軍事的敗北を招来し、将来、自分の子供たちが生存のための戦争を戦うために徴兵されることを意味する」と述べた。
10月に公表された米議会の戦略態勢に関する委員会の報告書では、中国が新型の移動式ICBMの開発に取り組んでいることに触れていない。
しかし、報告書は「(中国が)1980年代後半に終結した米ソ核軍拡競争以来の規模とペースで核戦力の増強を追求している」と指摘、中国は2030年代半ばまでに配備核弾頭数で米国と同等になるとの予測を明らかにした。
国防総省の中国軍に関する最新の年次報告書には、PLAが新たなICBMとなりうる中距離ミサイル東風27の長距離型を開発中であると記されている。ある国防筋によれば、コットン氏が議員との非公開の証言で新型移動式ICBMとして言及したミサイルはそれではない。
ジェームズ・マーティン不拡散研究センターの大学院研究助手で、カリフォルニア州モントレーにあるミドルベリー国際問題研究所の学生でもあるデッカー・エベレス氏は、最近の報告書で、中国の核戦略は「数よりも生存性を重視し、攻撃を回避できる移動式ICBMに多額の投資を行い、既存の東風5サイロ式弾道ミサイルを植生でカムフラージュしている」と述べた。
移動式ICBMは、平時には弾頭をミサイルとは分離して別の場所に保管し、低い警戒状態に保たれる。
「有事には、PLA(人民解放軍)はこれらの装備を山間部の田園地帯に隠された地下施設に分散させ、そこで攻撃をやり過ごすだろう。政府から発射命令が出れば、ミサイル発射部隊は地下施設から事前に調査された発射地点に分散し、報復する」
東風31は道路を移動できるが、北朝鮮の国境付近の基地からしか米国を射程内に収められない。東風41は最新鋭の移動式ICBMで、最大3基の弾頭を約1万2000㌔以上運ぶことができる。このミサイルは、米東海岸の目標に到達可能だ。
国防総省は、東風41は将来、道路移動式に加えて、鉄道移動式またはサイロ式が配備される可能性があるとみている。
エベレス氏は「中国がミサイル戦力の劇的な増強によって、米国に到達可能なミサイルと、地域戦争で新たな能力を提供するミサイルの両方を備えれば、東アジアの戦略的バランスと中国の核態勢の将来的な方向性に重大な影響を与える」と指摘している。