ブリンケン国務長官 中国の体制転換は求めない

(2022年5月31日)

2022年5月26日(木)、ワシントンの国務省でアンゴラのテテ・アントニオ外相と会談するアントニー・ブリンケン国務長官。(AP Photo/Jacquelyn Martin, Pool)

By Bill Gertz – The Washington Times – Thursday, May 26, 2022

 アントニー・ブリンケン国務長官は26日、バイデン政権は対中政策の中で外交的、経済的競争を求めるが、攻撃性を増す中国共産党の体制転換は求めないと述べた。

 ブリンケン氏はワシントンで演説し、世界で影響力を強め、ますます攻撃的になっている中国に対処するための政権の戦略について説明し、「紛争や新しい冷戦を望んでいない」と述べた。

 トランプ前政権は、中国が米国主導の民主主義・自由市場システムの弱体化に取り組んでいることを数十年ぶりに明確にしたが、バイデン大統領は、その対中政策のいくつかの要素をそのまま踏襲している。

 しかし、ブリンケン氏が26日に示した方針は、トランプ大統領の対中政策ほど対立的ではなく、世界の覇権を目指す中国の取り組みに対抗するための処方箋としては、全体的に非現実的だとする批判も出ている。

 ブリンケン氏はジョージ・ワシントン大学での演説で、米国は中国の経済拡大を阻害するような活動はせず、むしろ国際法を推進し、米国式の民主主義と人権を追求する同盟国と緊密に協力していくと述べた。

 「中国が大国としての役割を果たすのを妨げようとは思わないし、中国、あるいは他のどの国であれ、経済成長や国民の利益の追求を止めようとも思わない」

 「しかし、平和と安全を維持し、個人と主権国家の権利を保護し、米国と中国を含むすべての国が共存し協力することを可能にする国際法、協定、原則、制度を守り、強化する」

 ロシアのウクライナ侵攻にもかかわらず、中国は依然として米国にとって最も深刻な長期的競合相手であり、軍事的なペーシングスレット(米国の安全保障政策を左右する主要な脅威)であるとブリンケン氏は指摘した。

 その上でブリンケン氏は、50年前、中国は弱く孤立した国だったが、急速に近代化した軍を持つグローバルパワーとして台頭し、影響圏を作り、最終的には米国に代わって世界をリードする大国になろうとしていると強調した。

 「オープンで包括的な国際システムというわれわれのビジョンを推進するために、中国を取り巻く戦略的環境の形成に取り組む」

 ブリンケン氏は、米国のインフラと民主主義への投資、同盟国やパートナーとの連携、民主主義の推進と紛争を抑止するための米軍強化によって中国と直接対抗するという3本柱の政策について説明した。

強まる中国の脅威

 ブリンケン氏は、ハイテクを使った国民監視機構を生かした共産主義体制を輸出し、貿易ルールに違反して米国の技術を盗み、西部で大量虐殺を行い、香港の民主化を損ねているなど、中国の脅威を列挙した。

 「習近平主席の下で、中国共産党は国内ではより抑圧的に、国外ではより攻撃的になっている」

 また、ロシアのウクライナ侵攻を支持する習氏の姿勢にも、「警戒を強めるべきだ」と述べた。

 ブリンケン氏は、中国は共産主義体制を民主主義や自由市場体制に代わるものとして推進しようとしているが、米国は中国の共産主義支配に取って代わろうとはしないと強調した。

 「中国の政治体制を変革する気はない」

 この発言は、8月に中国で行われたウェンディ・シャーマン国務副長官との会談で中国が出したいくつかの重要な要求の一つを反映したものだ。中国側は、関係改善には共産主義体制を弱体化させないという米国の約束が含まれていなければならないと主張した。

 トランプ政権時代、国務省は中国共産党を制裁の対象とし、支配者である中国共産党と中国国民の違いを明らかにしようとする政策をとっていた。

 軍事的にはバイデン政権は、戦略を転換し、中国との紛争抑止に不向きな兵器の製造から手を引くことで、アジアの平和を維持しようとしている。

 ブリンケン氏は、その代わりに国防総省は「より長距離で、より見つかりにくく、より機動力のある」非対称兵器を開発すると述べた。

 ブリンケン氏によれば、米軍は戦争を遂行するための戦力コンセプトを策定し、宇宙兵器などの新しいシステムで戦力と世界展開を多様化させている。

 米軍は今後も、南シナ海と東シナ海を支配しようとする中国軍の取り組みに抵抗していくという。

台湾に焦点

 ブリンケン氏は、米国の政策は変わっておらず、中国の軍事攻撃を防ぐために台湾に防衛兵器を提供することを基本としていると述べた。

 また、台湾海峡の「現状に対するいかなる一方的な変更にも反対し、すべての問題が平和的手段によって解決されることを期待する」と述べた。

 バイデン氏は最近のアジア訪問で、米国の長年の対台湾政策を変更したように見えた。アジア訪問中に記者から、米国は台湾を軍事的に防衛するのかと問われ、「そうだ、そう約束した」と答えた。ホワイトハウスは、この発言は政策の転換を示すものではないとして、発言を撤回しようとした。

 ブリンケン氏は26日、米国は台湾の安全保障や体制を損なうような武力行使やその他の強制に対抗するための軍事力を維持すると述べた。

 さらに、活力ある民主主義国家で地域経済をリードする台湾との協力は引き続き拡大すると述べた。

 中国は、台湾の防空識別圏に頻繁に戦闘機を侵入させたり、世界各国と台湾の外交関係を断とうとしたりするなど、台湾に対する挑発的な威圧を強めているとも主張した。

 「中国の発言、行動は大きな不安定要因であり、誤算を招く危険性がある。誤算を招き、台湾海峡の平和と安定を脅かす危険性がある」

 また、中国には互恵主義がなく、米国では中国の企業や報道機関が自由に活動できるにもかかわらず、中国では米企業などの活動は制限されていると批判した。

 ブリンケン氏は、中国は世界経済にとって不可欠であり、気候変動や新型コロナウイルスの大流行などの問題解決に貢献できると述べた。

 しかし、中国は温室効果ガスの排出を制限しようとする米国の努力を何度も退け、数十年かけて排出を削減すると約束した。中国はまた、中国の武漢で始まった新型コロナの起源を特定するための国際的な取り組みへの協力も妨害し続けている。

 中国大使館の報道官にブリンケン氏の演説についてコメントを求めたが、回答はなかった。

「チェンバレン風」と演説を非難

 専門家らは、この演説にはいい面もあるが、中国の脅威への対処が不十分だと指摘した。

 太平洋艦隊の情報部長を務めたジム・ファネル元海軍大佐は、ブリンケン氏は中国共産党が世界を支配し、米国に取って代わるという目標の危険性を過小評価していると述べた。

 ファネル氏は「ブリンケン長官は、米国の外交、中国との関与、さらには投資、同盟、競争という新しい政策の重要性について雄弁に語ったが、ハードパワーについての議論はほとんどなかった」と述べた。

 ファネル氏はまた、ブリンケン氏は、新しいインド太平洋海洋監視パートナーシップによって違法漁業を追跡すると述べたが、拡大する中国海軍の作戦の追跡には言及しなかったと指摘した。

 「最も憂慮すべきは、中国が昨年、中国中部と西部に350基以上の大陸間弾道ミサイルのサイロを建設し、『核の大増強』を図ったことについてまったく言及しなかったことだ」

 ファネル氏は、ナチス・ドイツの脅威を過小評価した悪名高いネビル・チェンバレン元英首相にちなんで、ブリンケン氏の演説を「その口調と調子はチェンバレン風であり、米国の破壊を狙う敵に備え、打ち勝つというチャーチル風の決意が欠けている」と批判した。

 トランプ政権下の国務省高官は、演説は米国の対中政策を再調整しようとする前政権の努力の一部を強化するように見えたが、解決策を提示するには至らなかったと述べた。

 この元高官によれば、一つの好ましい特徴は、ブリンケン氏が中国政府と中国国人の明確な区別を確認しようとしたことだ。トランプ氏も同様の取り組みをした。

 この元高官は、「ブリンケン氏は、中国を意図と能力の両面について長期的な脅威と認識しており、これは正しい」と指摘、前政権から取り組みは続いているとその背景について説明した。

 「このビジョンは、中国を長期的な問題として認識した点では強かったが、解決策を示す点では非常に弱く、誤りさえあった」

 「結局のところ、ブリンケン氏は中国とやり合おうとしているが、中国は彼の望み通り、米国と公平に競争するだろうか。その可能性はかなり低い」

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