中絶意見書案流出で最高裁の信頼喪失
By Alex Swoyer – The Washington Times – Thursday, May 26, 2022
最高裁は不信感に陥っている。クラレンス・トーマス判事は最近、公の場でそう認め、今月起きた意見書草案の流出を不倫に例えた。
その草案は、最高裁がロー対ウェイド裁判を覆すことを示唆していた。
法廷ウオッチャーの間では、法廷の信頼関係を修復し、回復するための一つの方法は、リークした人物を迅速に特定し処罰することだと言われているが、数週間たっても、閉鎖的な最高裁から捜査の進展に関する情報は得られていない。
司法危機ネットワーク代表でトーマス判事の元事務官であるキャリー・セベリーノ氏は「流出させた人物の特定にこれほど時間がかかるとは驚きだ。普通の人なら、捜査の遅れは、裏切っても罰を受けることはないという印象を与えるため、最高裁にとって良くないことだからだ。そうなれば、さらなるリークを助長しかねない」と述べた。
ジョン・ロバーツ最高裁長官が、高裁の執行官であるゲイル・カーリー氏に、意見書の草案をポリティコにリークした人物を特定するよう指示してから、ほぼ3週間が経過した。裁判所の敷地と警備を監督する元陸軍弁護士で大佐のカーリー氏は、就任してまだ1年も経っていない。
彼女はこの仕事に適した資質を備えていると言われている。AP通信は、彼女を「賢く、口が堅く、政治とは無関係で、脅されることはまずない」と評している。
国防総省で彼女の直接の上司だったパトリック・ヒューストン元陸軍准将は、「ここで真実が明らかになれば、彼女はそれを突き止め、公平なやり方で発表すると確信している」と述べた。
トーマス判事は、前例のないリークによって、取り返しのつかない損害が生じたことを示唆している。
意見書の草案が報道されてから約10日後、ダラスで行われた講演で、「このような攻撃を受けて、いつまでもつだろうか。誰もが不安を感じ始めている」と述べた。
法廷ウオッチャーは、判事らは何十年にもわたって結束してきており、最高裁は必ず立ち直ると言う。
「アーティクル3プロジェクト(A3P)」の会長で、ニール・ゴーサッチ判事の元事務官マイク・デービス氏は、「最高裁は家族だ。不良書記官が、政治目的のために破壊しようとしたのだろう。しかし、彼らはこれを乗り切る。そうしなければならない。判事らは生涯一緒なのだから」と言う。
デービス氏によると、執行官は裁判所の法律事務官(約36人)の聴取を行い、電話の通話記録や電子メールを押収する可能性があるという。
「事務官から始めて、彼らが何を認めるか見てみることだ。この真相を知る必要がある」
執行官の捜査がどこまで進んでいるのかは分かっていない。最高裁にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
ジョージ・ワシントン大学のジョナサン・ターリー法学教授は、最高裁が連邦捜査局(FBI)を捜査に関与させなかったことに「驚いている」と述べた。
「最高裁は、世界有数のコンピューターと科学捜査機関から数ブロックしか離れていないのに、彼は裁判所の執行官にこの問題を扱うよう要請した。比較的聡明な人物の犯行だとすれば、このような情報漏洩について痕跡を隠すことは難しいことではない。この痕跡を見つけるには、相当な専門知識と調査が必要だ」
ターリー氏は、口頭弁論で判事らは「それほどやわではない」と述べた。
「このような不正行為から身を守るために、強い制度的・倫理的伝統に頼ってきた裁判所にとって、今回のリークはある種の潔白の喪失を意味する。このような不名誉な行為が裁判所に対する信頼を損なうことは避けられない。しかし、裁判官というより政治家が、裁判所の周囲の怒りを煽り続けている」
司法省の元職員で、現在はカリフォルニア大学バークレー校の法学教授であるジョン・ユー氏は、リークした人物が特定されていないことに驚いていないと述べた。
「米政府のリーク事件で、国家安全保障に関わる高度な機密情報を少人数で保有し、調査しても、リークした人物が特定されないというケースを私は何度も見てきた。この種の調査は数カ月かかることもあり、現在の書記官が裁判所を去るまで結論が出ないことさえありうる」
5月2日に中絶に関する数十年来の判例を最高裁が覆そうとしているとのニュースが流れると、法廷ウオッチャーらの間に衝撃が走った。最高裁の233年の歴史の中で、意見書の草案全文がリークされたのはこれが初めてだった。
ポリティコが公表した意見書案では、サミュエル・アリート判事が、中絶は州議会に差し戻すべきだと主張している。
「憲法は中絶に言及していない。ロー判決は最初からひどく間違っていたのだ」
「憲法に耳を傾け、中絶の問題を国民が選んだ代表者に戻す時が来た」 と2月の日付が付けられた意見書には記されている。
この裁判の正式な判決は6月末までに出される予定だ。
ロバーツ最高裁長官は、この意見書案が本物であることを認めながらも、最終的な判決を意味するものではないと指摘した。
問題となっている法的論争は、「ドブズ対ジャクソン女性保健機関」裁判で、ミシシッピ州の妊娠15週での中絶禁止をめぐるもの。ミシシッピ州当局者は、ロー対ウェイド裁判は時代遅れであり覆すべきだと主張している。