安倍殺害事件で非難されるべきは反カルト集団だ、統一教会ではない

(2022年8月2日)

2022年7月12日(火)、東京で行われた安倍晋三元首相の葬儀を終え、増上寺から遺体を乗せた車両(左)が出発した。安倍首相は金曜日、西日本の奈良県で選挙活動中に暗殺された。(APフォト/Hiro Komae)

By Massimo Introvigne – – Sunday, July 31, 2022

 1901年、一人の無政府主義者がアメリカ合衆国大統領ウィリアム・マッキンリーを暗殺した。この犯行の副産物として、その後の数十年間、無政府主義の団体が犯罪視され、その中には暴力反対のグループもあった。1927年になっても、無政府主義者のサッコとヴァンゼッティは犯してもいない罪を着せられ処刑された。この事件については、1971年にジョーン・バエズの唄”Here’s to You”(邦題「勝利の讃歌」)のおかげで、私の同世代は記憶しているだろう。

 一人の無政府主義者が政治家を殺害したので、すべての無政府主義者が取り締まられるというのは、不当なことだが、あり得ないことではない。だが、こんなシナリオはどうだろうか。「無政府主義の敵」を自任する右翼過激派の一人が大統領殺害の容疑者になり、大統領は「無政府状態に甘すぎる」ようなので断罪されるべきだ、と主張した。それを聴いた分別ある米国市民は、無政府主義者を非難するのは理に合わない、と考えるはずだ。責めを負うべきは、最も過激な犯罪者だからだ。

 しかし、これは正に、安倍晋三氏暗殺事件後に日本で起こっていることではないか。文鮮明師によって設立された統一教会が、その犯罪に絡んで非難され、信徒たちは職場や学校で中傷され、人権に関わる緊急事態を引き起こしている。仮に暗殺者が統一教会のメンバーであったとしても、このような事態は不当なことだ。宗教団体だろうがなかろうが、大きな集団が、構成員一人の不祥事のゆえに罰せられなければならない道理はない。しかも安倍氏の暗殺者・山上徹也は統一運動のメンバーではない。それどころか当人は、文師が設立した団体を憎み、その関連団体が主催した二つの行事にビデオメッセージを送った安倍氏を罰しようしたというのだ。

 平たく言えば、この事件で被害にあったのは安倍氏と統一運動なのではないか。目下進行中の心理鑑定によって、犯人・山上は精神病を認定されるのではないかと思うが、本物の被害妄想者の中に真の敵がいる。山上のもろい精神は、「反カルト」組織や弁護士たちに煽られた日本の一部メディアが展開してきた統一運動に対するヘイト・キャンペーンに掻き立てられたのではないか。

 メディア報道によれば、暗殺者の母親が統一運動に多額の寄付をして、それが家族を破綻させ、犯人・山上が団体に恨みを抱くようになったのだという。しかし、これらの寄付行為は数年前までに停止しており、山上が安倍氏を殺したのは今年の話しだ。彼に直接行動を促したのは、統一教会に対する最近の攻撃的なメディアキャンペーンだった可能性がはるかに高い。

 統一教会への寄付・献金について、特に工芸品を購入する形で、その代金の中に献金が含まれ、物としての価値より霊的な価値を強調したり、死後の世界にいる親族の苦しみを軽減しようと霊的な業に捧げることを、一部メディアは何か邪悪なもののように報じている。メディアの記者たちに統一教会の教理を学ぶ義務はないが、多くの宗教には似たような献金プログラムがあることを理解しようとしていないようだ。

 実際の歴史でも、マルティン・ルターがいわゆる宗教改革を始めて、結果的に西方教会を二分させたきっかけは、カトリック教会が免罪符を販売したことに論争を仕掛けたことだった。すなわち死者の友人や親戚が免罪符を購入する形で献金してくれれば、その死者の魂は来世で天国に昇れる、と約束されたのだ。この類の慣行は、主要宗教の中にも依然として存在しており、膨大な数の神学論文が、献金の霊的意義について書かれている。そして信心のない人々が漫画的に、寄付行為は牧師や僧侶、司祭たちの貪欲を支えるだけだ、と解釈することに反駁し続けている。

 ちなみに、大概のメディアは「全国霊感商法対策弁護士連絡会」と称する組織が発出する記者発表や声明文などを額面どおりに受け入れている。この弁護士たちは常套の反カルト理論を駆使しており、統一教会に寄付をしたことがあるが、後日離れて、寄付金額を取り戻す訴訟を起こしたい人々を探し、その係争では勝ったり負けたりしているようだ。何故か記者たちは、これらの弁護士が係争を通じてどれだけの割合の報酬を得ているか、確認してみようとしていない。

 日本のメディアや(程度は違うが)国際メディアは、まともな宗教と違って「カルト」は悪いもの怖いもの、という刷り込みが広まっているせいか、反統一教会の弁護士を信じる傾向があるようだ。日本では1995年、東京の地下鉄でのサリンガス攻撃など凶暴な行為が、「カルト」のレッテルを貼られたオウム真理教によって犯されたため、国民がショックを受けたのは当然だ。

 だからと言って、「異端」と見なされるものも含めた数百の非暴力グループを標的にしたヘイトスピーチを許すべきではない。新宗教運動についての学者の大多数は、数十年も前に「カルト」という呼称を放棄した。「カルト」という言葉は、まとまった意味や内容を保持しておらず、一部の圧力団体が何らかの理由で気に入らない宗教的少数者を、中傷したり差別するために攻撃手段として使われているものだ、と結論付けた。これが正に、日本の統一教会について起きていることだ。

マッシモ・イントロヴィニュ

イタリアの宗教社会学者。新宗教運動に関する約70冊の著書がある。その中には、オックスフォード大学出版局から出された「プリマス・ブレザレン」(2018年)、「全能の神の教会の内側」(2020年)、ケンブリッジ大学出版局から発行されたばかりの「洗脳:現実か神話か?」がある。新宗教研究センター(CESNUR)の常務。

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