大災害も懸念されるウクライナの原発に、国際査察官らが到着

(2022年9月4日)

2022年9月1日木曜日、ウクライナのザポリジャー原子力発電所に向かう国連機関ミッションが、正体不明の当局者と話す、国際原子力機関(IAEA)が発表した写真(左から2番目、Rafael Mariano Grossi事務局長)。IAEAミッションは、ウクライナ支配下の前線側で約3時間の遅れをとっている。グロッシ事務局長は自らウクライナ軍当局と交渉し、続行できるようにしており、この重要なミッションが今日中にZNPPに到着するよう、引き続き決意しているとIAEAスポークスマンは述べた(International Atomic Energy Agency via AP)。

By Ben Wolfgang – The Washington Times – Thursday, September 1, 2022

ロシアとウクライナ間の戦闘が続き、ウクライナ南部にある欧州最大の原子力発電所、ザポリージャ発電所での惨事が懸念される中、国際査察官のチームが木曜日に現地入りし、危険な現場で監視を続けることを宣言した。

 戦闘の最前線を越える険しく長々とした交渉があったものの、国際原子力機関(IAEA)のチーム14人は発電所施設に入った。地元当局は原子力の惨事が起きた場合、抗放射線のヨウ素錠剤を地元住民に配布するとしており、IAEAのラファエル・グロッシ事務局長は、査察チームが現場の初日に貴重なデータを収集でき、今後数日間でその評価をすると語った。

 IAEAのミッションは「この発電施設に留まることで、移動することではない。専門家数人とともに発電施設に留まり続ける」、グロッシ事務局長は言明した、「より安定した状況になるまで、私は発電所を見守り続けるつもりだ。」

 そうしてこそ、「事態を安定させ、ここの状況がどうなのか、定期的で信頼性の高い、公平かつ中立的な最新情報を提供することができる。」  

 ここで何が起きるのか、その恐れは、第二次世界大戦以降の欧州大陸で最大規模の紛争の先行きが不明なことの一つだ。  

 ドニエプル川のほとりに位置し、この戦争の初期からロシア軍に制圧されてきた大規模発電所の将来への不安が高まる中で、待望のIAEAチームが到着したわけだ。

 「発電所と施設全体の完全な状態が、偶発的に何度か損害を受けてきたことは明らかだ。慎重に見て、それらを査定するだけの材料はまだない」、グロッシ事務局長はザポリージャで取材している記者団に語った。

 大規模な放射能漏れの危険があり、チェルノブイリに類似した惨事が心配される一方で、戦争地域に置かれた原子炉の危険性と、最悪の場合、民間発電所が世界最悪の致命的な武器に転じる可能性が指摘されている。

 キエフとモスクワの双方は、発電所のある街エネルホダルの周辺が継続的に砲撃されていると相手を非難しているが、事態の深刻さは認識しているようだ。

 ウクライナ当局者によれば、IAEA派遣団が原子力施設に向かっている間も、その移動ルートをロシア軍は砲撃したという。ウクライナ側がこの間主張してきたのは、ロシアが原子力発電の大規模施設を、基本的に攻撃のための盾として利用し、ウクライナ軍が核施設の潜在的リスクを配慮して応戦してこないと読んでいるという。

 ロシア当局の方は、ウクライナ軍が同施設が所在する一帯を砲撃し、IAEA査察官らが到着する直前に発電所の支配権を奪い返そうとしていた、と反論した。ロシア国防省は、IAEAチームが発電所に入る直前に、ウクライナ軍が高速舟艇で接近したものの、ロシア側の空爆のおかげで失敗した、と主張した。  

 これら双方の主張は、現地で取材している報道機関によって独立的に検証されてはおらず、双方が告発し合うばかりで、現場の高まる混乱を際立たせている。

ウクライナの反転攻勢

 ウクライナ軍は木曜日、ウクライナ南部で熾烈な反撃を展開した。双方ともこの戦闘での勝利を主張しているが、米国防省は水曜日、米国が「ロシア部隊の後退」を認知していると報告した。ウクライナ側は反撃が緩慢なものであることを認めている。

 「我々は人命を大切にしており、非常に緩慢な作戦になっている」、ロイター通信はウクライナのヴォロディーミル・ゼレンスキー大統領の顧問オレクシー・アレストヴィッチ氏の言葉として報じた。ロシア側は、ウクライナ軍が目立った進展を遂げたことを否定している。

 ザポリージャ発電所についてロシア当局者は、人命事故を防ぐためIAEAに協力すると発言している。「我々は発電所が安全に稼働され、全ての発電施設が機能を果たせるよう、必要なあらゆる措置を講じている」、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は言明している。

 発電所での戦争リスクのみならず、致命的な人災の懸念も高まっている。発電施設で勤務しているウクライナ人たちは睡眠不足と過労に苛まれているからだ。

 「困難な事情と状況にあるが、原発作業員らの仕事ぶりは正にプロのそれだ」、グロッシ事務局長は評価した。

 今週、戦闘の被害で発電所は一時的に停電し、緊急防御システムが原子炉一基を閉鎖したと伝えられた。こうした被害が重なれば、深刻な放射能漏れにつながりかねない。  

 ペンタゴン当局者はロシア軍とウクライナ軍に対して、IAEAチームによる業務進行を許容するよう促した。

 「我々は当然、何よりもまず、この地域にIAEAが存在できたことを歓迎する」、ペンタゴン報道官のパット・ライダー空軍准将は水曜日、記者団に語った。「査察チームが現場に入って業務を遂行できるよう保障したい。」

 専門家は米国防省が、戦闘下での原子炉と、その潜在的な位置づけという、ハイリスクな課題に取り組まなければならないと指摘する。原子炉を故意に標的にすれば、それによる放射能漏れで、欧州やその他の地域に大量死傷者を出す可能性がある。軍事・政治の指導者たちが、そうした事態をどう判断するか明らかでないが、専門筋は、確固たる規準を確立する時だ、と語っている。

 「ワシントンは目を向けるべきだ。講ずるべきいくつかの措置の中で最も重要な二点は、”平和的な”原子炉を抑止戦略に位置付けられた核兵器と規定することであり、戦争地域への原子炉輸出を再考することだ」-不拡散政策啓発センターのヘンリー・ソコルスキー常務理事はこう注文している。「最初の課題は米軍が、海外にある原子炉を攻撃するタイミングと、それが理に適っているか否かを明らかにする必要がある。また友好国の原子炉が攻撃または威嚇された場合、我々の力でそれらを最も効果的に抑止・防御する手段を策定しておく必要がある。

 「2番目の課題は、米軍が駐屯していたり、駐屯する可能性のある国々にある原子炉を保護するため、具体的に何ができるかを調べることだ」、ソコルスキー常務理事は今週、「ナショナル・インタレスト」誌に書いた。また「新しい原子力発電所を建設する場所が、戦争地帯の中か、周辺なのか、さらに戦争地帯がどこなのか、などを特定する必要がある。」

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