中国「戦狼外交」復活か 大使発言が各国で物議

(2023年6月14日)

2023年6月8日木曜日、韓国ソウルの中国大使公邸で夕食会を前に、韓国の主要野党民主党のイ・ジェミョン党首と握手する中国の興海明大使(右)。韓国外務省は、世界的な影響力をめぐるワシントンと北京の競争が激化する中、ソウルが米国に傾き、中国から遠ざかっていると非難した発言に抗議するため、金曜日に中国大使を召喚した(Yonhap via AP)。

By Andrew Salmon – The Washington Times – Saturday, June 10, 2023

 【ソウル】中国に「戦狼外交」が戻ってきたようだ。

 韓国政府は駐韓・中国大使が野党党首との会談で行った発言を強く非難した。

 近年、オーストラリア、フィリピン、日本で眉をひそめるような中国大使の発言が相次いでいる。国益を強く擁護する攻撃的な発言から、中国の外交官は「狼戦」と呼ばれている。

 韓国のチャン・ホジン外務次官は9日、中国の●(刑のつくりをおおざとに)海明大使を召喚した。●大使は8日、韓国の左派政党「共に民主党」を率いる李在明氏と会食した。

 聯合通信によると、チャン氏は●大使に対し、国内政治への干渉とも取れる「不合理で挑発的」な発言について「厳重に警告」したという。尹錫悦大統領の保守政権は李在明前政権に比べ、全般的に中国に対して強硬な姿勢をとり、米国に接近している。

 李氏との会談で大使は、約10年前の津波で壊滅的な被害を受けた福島原発への対応について、韓国と中国が手を携えて日本に立ち向かうべきだと進言した。閉鎖された原発から冷却水を太平洋に放出するという日本の計画は地域で不安を招いており、情報公開への要求が高まっている。

 日本と国際原子力機関(IAEA)は、冷却水は放出前に処理され、安全であるとしているが、特に隣国の韓国で懸念が強まっている。

 李氏と共に民主党は、福島原発問題を激しく批判しており、長い間緊張状態にあった日本との関係改善を積極的に進める尹氏の外交に強く反発している。尹政権の政策は米国から強い支持を受けており、米国は中国と北朝鮮に対する地域の重要な同盟国である日本と韓国との3国間防衛協力の強化を求めている。

 ●大使は韓国の国内問題にまで踏み込み、米国傾斜を強めないよう韓国に警告。

 李氏に対して「中韓関係は外からの挑戦に直面している。米国が中国への圧力を強める中、米国が勝ち、中国が負けると考えている人もいる。しかし、これは間違っている」と主張した。

 尹氏は4月にバイデン大統領とワシントンで行った首脳会談で、韓国が核兵器保有を目指さないことを約束する一方で、長く分断されている朝鮮半島での米国の核兵器配備や使用の可能性について言及した。世論調査では、多くの韓国国民がこの政策を支持している。

 韓国と米国が中国軍と戦った1953年の朝鮮戦争終結後に結ばれた韓米同盟は70周年を迎えた。

 中国は、韓国での抗議デモの後も強硬な姿勢を崩していない。中国外務省の汪文斌副報道局長は9日の外務省定例ブリーフィングで、韓国と中国の間の緊張の高まりは中国政府の責任ではなく、●大使は野党指導者や政府関係者と会うことで大使としての職務を遂行したに過ぎないと述べた。

 AP通信によると、中国外務省は週末に韓国の鄭在浩駐中大使を呼び、ソウルの●大使との会談への批判に対して公式に苦情を申し立てたことを明らかにした。

「戦狼」の登場

 米国との関係が緊迫する中、習近平国家主席率いる中国は、中国のナショナリズムと権利の擁護に関して強硬な外交姿勢を貫き、攻撃的な発言が逆効果を招くこともいとわない。

 国立アジア研究所は2021年の論文で、中国の外交への取り組みの「変化」を分析、「中国の高官は、他国との二国間関係に悪影響を及ぼし、論争を呼ぶような発言を公然とすることがよくある。新型コロナパンデミックの間、この行動は『狼戦外交』として知られるようになった」と指摘している。

 戦狼という言葉は、ランボー風の中国のアクション映画から拝借したもの。習近平政権では今年初め、外務省内で人事異動が相次ぎ、攻撃的なアプローチからの転換を図ったのではないかとの見方が出ていた。最も顕著なのは、戦狼の中でも特に激しく、歯に衣着せない発言で知られる外務省報道官の趙立堅氏が1月、国境を管理する部署の目立たないポストに異動させられたことだ。

 韓国で今回起きた騒動は、ここ数カ月の間に中国の外交官が引き起こした一連の騒動の一つに過ぎない。

 4月、黄渓連・駐フィリピン中国大使は、比政府が米軍基地の増設を計画していることについて、台湾で働く約15万人のフィリピン人労働者の安全が脅かされる可能性があると警告した。

 フィリピンのリサ・ホンティベロス上院議員は、黄氏の発言を「恥ずべき」と指摘、「よくも私たちを脅したものだ。敬意と尊厳を持って私たちと関わることができないのであれば、外交官としての資格はない」と非難した。

 駐オーストラリア大使は、日本との関係強化を批判して物議を醸した。中国の肖千大使は1月、日本がオーストラリアを「侵略」したと発言、「歴史は繰り返されるかもしれない」と警告した。

 肖大使は5月の記者会見で、オーストラリア、英国、米国の3カ国による新しい安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」は、「それ自体良いアイデアではないし、原子力潜水艦はもっと悪い」と述べた。

 この地域で最も重要な米国の同盟国である日本は、中国の外交トップから激しい非難を受けた。

 中国の秦剛外相(元駐米大使)は5月7日の北京での記者会見で、「日本側の一部の人々が、友好的な協力関係ではなく、近隣窮乏化政策を選択し、中国を封じ込めるための新たな冷戦に参加するならば、二国間関係は、(第2次世界大戦時の)古い傷がまだ癒されていないのに、新たな傷を負うことになる」と述べた。

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