中国軍が海洋毒を研究、生物兵器に転用か
By Bill Gertz – The Washington Times – Tuesday, April 23, 2024
中国軍は海洋に存在する神経毒の研究を行っており、米政府高官やアナリストの間で、将来の紛争で使用するための致死性の高い生物兵器を密かに開発しているのではないかという新たな懸念が高まっている。
この海洋毒研究に対する懸念は、国務省が今月初めに発表した年次軍備管理順守報告書で初めて表明された。
報告書は、1975年に発効し、1984年に中国が批准した生物兵器禁止条約(BWC)について「軍事目的の毒素開発の可能性を含め、(生物兵器に)応用される可能性のある生物学的活動を継続的に行っており、その順守に懸念がある」と主張している。
中国は過去に生物兵器開発計画の一環として、リシン、ボツリヌス毒素、炭疽菌、コレラ菌、ペスト菌、野兎病菌をベースにした細菌兵器を開発していたことが知られている。
しかし、中国がこの種の戦略兵器研究を行っていることが明らかにされ、非難されたのはこれが初めて。
報告書は、「中国共産党の研究組織は、海洋毒に関する軍事研究を実施・指揮している」と述べている。
米国務省はまた、中国がBWCの他の署名国に対して定期的に行っている報告や、中国政府の「信頼醸成措置」には、軍事的な海洋毒素研究についての情報が含まれていないとしている。
海洋毒は自然界に存在する化学物質で、世界に存在する毒物の中でも特に致死性が高い。中枢神経系を攻撃し、ごく少量で人を死に至らしめる。
中国の民間研究は、魚介類による海洋毒の中毒を防ぐことに重点を置いており、米情報機関は、中国人民解放軍(PLA)が兵器開発のためにこの研究を利用しているのではないかと疑っている。報告書では、PLAの研究機関が取り組んでいる海洋毒は特定されていない。
しかし、2014年3月に中国政府の後援で作成された報告書は、3種類の海洋毒を含む毒素の軍事的可能性を明らかにしている。
「応用生物医学ジャーナル(Journal of Applied Biomedicine)」誌に掲載されたこの報告書は、中国の政府機関である国家自然科学基金委員会(NSFC)が資金を提供している。
この報告書では、生物兵器の可能性がある海洋毒として、アナトキシン、サキシトキシン、テトロドトキシンが挙げられている。
コンプライアンスへの疑問
国務省当局者がワシントン・タイムズに語ったところによれば、PLAの海洋毒素の研究に関して米国は、中国が生物兵器に応用する可能性があると考えており、BWCの順守に懸念を抱いているという。
報告書によると、中国は1984年にBWCに調印したが、要求された過去の兵器開発計画に関する詳細を完全に開示したことはない。
中国大使館にコメントを求めたが、返答はなかった。
中国はまた、2019年末に中国の武漢で始まった新型コロナウイルスの感染拡大後、化学・生物兵器に関する米国との協議を停止した。
米当局者はその背景について、「中国が2020年以降、これまでの定期的な2国間の化学・生物兵器関連の協議を延期したことは残念なことであり、われわれは他の会議でもこれらの問題について圧力をかけ続けている」と語った。
この問題に詳しい別の政府当局者によれば、中国の海洋毒に関する軍事研究は、米政府内では何年も前から知られていたが、今回の順守報告が提出されるまで秘密にされていたという。
米陸軍化学防御医学研究所のジェームス・マドセン所長は2019年の会議で、中国は毒素に基づく脅威の世界的リーダーだと述べていた。
現在は引退しているマドセン氏は「中国は特に海洋毒について、世界のどの国よりも詳しい」と語った。中国の海洋毒素の脅威についてマドセン氏からこれ以上のコメントは得られなかった。
この国務省当局者は、米国は疑わしい中国の化学・生物学的活動に対処するため、パートナー国との協力を続けていると述べた。その目的は、脅威に対する認識を高め、答えを出すよう中国に外交的圧力をかけることだという。
一方、トランプ政権時代の元軍備管理当局者であるトーマス・ディナノ氏は、国務省は海洋毒の研究に関して中国に圧力をかけることに失敗したと述べた。
トランプ政権時代の2018~2021年まで軍備管理・検証・コンプライアンス局の国務次官補だったディナノ氏は「中国の軍事転用可能な研究に関して厳しく問いただす計画だった」と語った。
「バイデン政権は、難しすぎる、あるいは物議を醸すとして、無視することを選んだようだ。いずれにせよ、良いことではない」
開発計画の拡大
PLAの軍事医学科学院(AMMC)は、生物学的防衛業務を担当する中国軍の主要組織である。AMMCと10の下部機関は2021年に商務省から制裁を受けている。
しかし、これらの制裁は、米政府がPLAの「脳をコントロールする兵器」に関する軍事的な作業に関連したものであり、海洋毒素に関するものではなかった。
中国の生物兵器の専門家であるシンガポール国立大学のライアン・クラーク氏は、PLAによる海洋毒兵器化の可能性が明らかになったことは重要だと指摘、「(中国共産党の)生物兵器開発計画の継続的な拡大」を明確に示していると述べた。
「また、中国共産党(CCP)が戦場で使用する生物兵器を開発するために、その制服組である人民解放軍(PLA)への注力を強めていることも示している」
「CCPバイオ脅威イニシアチブ」の共同設立者であるクラーク氏は、中国での生物兵器の開発と配備は、最近まで秘密のネットワークを利用して行われてきたと述べた。
「この方法は今後も続くだろうが、PLAが関与を強めるようになったことは、中国政府が生物兵器をCCPの標準的な戦闘序列の中核的要素と考えていることを示している。私たちは、エスカレートするプロセスを直接、目の当たりにしている」
バイオ脅威イニシアチブによる最近の報告書は、中国で入手したオープンソース情報に基づき、CCPが秘密裏に生物兵器の開発に取り組んでいることを明らかにしている。
この報告書は、PLAの生物兵器開発計画に関する新たな詳細を明らかにしており、研究者らは中国でのすべての民間生物学研究はこの計画のコントロール下にあると指摘している。
報告書は「生物兵器は中国共産党の標準的な戦闘序列の一部であり、極端な状況下でのみ使用される非伝統的な能力ではない」としている。
PLAの権威ある教科書「軍事戦略の科学」には、生物学が軍事的闘争の領域であることを示す項目がある。同書は、標的とする民族集団に影響を与えるように設計された「特定の民族の遺伝子攻撃」を含む、新しいタイプの生物学的戦争の可能性に言及している。
軍事的「可能性」
中国政府の支援で作成された科学報告書によれば、アナトキシンはアオコが産生する神経毒であり、「兵器としてのアナトキシンの使用の可能性は非常に高い」。
サキシトキシンは、非常に強力な麻痺性貝毒として知られる強力な神経毒であり、この報告は「人間はわずか1㍉㌘摂取しただけで死亡する」としている。
TTXとして知られるテトロドトキシンは、フグから取り出される強力な神経毒であり、タコ、ウミウシ、カニのいくつかの種を含む他の海洋生物も持っている。
「TTXを生物兵器として使用したという報告はないが、その高い毒性から、テロ兵器として使用の可能性は否定できない」と報告書は述べている。
ある情報筋によれば、中国はまた、最も強力な海洋毒として知られているマイトトキシン(MTX)から生物兵器を開発している疑いがあるという。これは藻類によって生成される。
米国防総省の2023年版「生物防衛態勢の見直し」は、海洋毒を含む生物兵器の脅威と、中国の生物兵器研究に対する懸念に言及している。
この報告によると、中国の出版物には「生物学は新たな戦争の領域」とする記述も見られるという。
この問題は、8月にジュネーブで開かれるBWC強化作業部会で米中当局者の間で話し合われる予定だ。
米国は冷戦時代に海洋毒を使用したとみられている。海洋学者のパトリシア・テスター氏が入手した文書によれば、中央情報局(CIA)はアサリから抽出した海洋毒を開発した。
テスター氏は共著の報告書の中で、アラスカの軍事基地で発見された冷戦時代の文書から、CIAが青酸ピルの代替品としてサキシトニンを入手するためにアラスカのアサリを使用していたことが明らかになったと述べている。青酸ピルは、情報機関の工作員が拘束されるのを回避するために支給されていた。
米偵察機U2のパイロット、フランシス・ゲーリー・パワーズ氏は、くりぬいた銀貨の中にサキシトニンを含ませた針を忍ばせており、捕虜になった場合に自殺するために使用する予定だったと報告書は述べている。パワーズ氏はロシア上空で対空ミサイルに撃墜されたがこれを使用することはなく、ロシアはクラーレ(ツヅラフジ科植物から採取される猛毒)ではないかとみていたという。
報告書によれば、1975年の上院公聴会で、CIAがサキシトニンの使用を計画していたことが確認されたという。
米国はBWCの下で生物兵器を廃棄しており、年次順守報告書によれば、米政府は、昨年の生物学的防衛活動でBWCに抵触するものはなかったと発表した。
ロシア政府はBWCに関して、米国がウクライナの研究所を通じて生物兵器の開発に不法に取り組んでいると非難しているが、国務省は否定している。