「多様・平等・包摂」へ反発強まる 「有害な思想」と大学で排除の動き
By Valerie Richardson – The Washington Times – Monday, May 20, 2024
「ダイバーシティー、エクイティー、インクルージョン(多様性・平等・包摂性、DEI)」プログラムは、大学で怒りを買い、ドミノのように倒れ、崩壊しつつある。州からの圧力を受け、裁判で破れ、人種で人々を分けることは学生にとって悪いことしかないという意識が高まっているためだ。
クロニクル・オブ・ハイヤー・エデュケーション誌の追跡調査「DEIへの攻撃」によると、2023年1月以降、22州の少なくとも158の大学が、DEIへの取り組みを縮小。DEI担当部署の廃止、多様性に関する表明の禁止、職員の解雇などを実施した。
ヘリテージ財団の上級研究員で、新著「次世代マルキシズム」(Encounter社)の共著者マイク・ゴンザレス氏は「その理由は簡単。分断を招き、悪質であるばかりか、対立を引き起こすからだ。何の問題も解決せず、意味がない」と言う。
特に共和党支持者からは不評だ。担当部署の閉鎖の大部分は、共和党が多い州で起きている。行政命令、立法、州教育委員会の指針、予算削減という形で実施され、フロリダ州のロン・デサンティス知事(共和)はDEIについて「差別、排斥、刷り込み」と非難している。
DEIが最も打撃を受けている州は以下の通りだ。
・フロリダ州:フロリダ大学をはじめとする教育機関は、1月の州教育委員会による28の州立大学でのDEI関連予算禁止決議の後、DEI室の閉鎖とDEI関連職種の廃止を実施した。決議は、デサンティス氏が2023年5月、DEIへの州予算を禁止する法案に署名し、採用や入試での多様性に関する声明の提出を禁止したことを受けて実施された。
デサンティス氏は「批判的人種理論のようなニッチな科目や、DEIを取り入れた講座や専攻、これらについては、フロリダ州は手を引く。ジェンダー・イデオロギーのようなことをやりたければ、バークレーに行けばいい」と述べている。
・テキサス州:テキサス州を代表するテキサス大学オースティン校は、約60人のDEI関連職を今年廃止し、「キャンパス・コミュニティー・エンゲージメント局」と「ジェンダー・セクシュアリティー・センター」を閉鎖した。昨年グレッグ・アボット州知事が署名した、高等教育での公的なDEI関連部署と多様性研修の義務付けを禁止する法律を受けた措置だ。
テキサス大学システム(13キャンパス)やヒューストン大学システム(4キャンパス)を含む50以上の州立大学が、多様性関連の計画や部署を縮小または閉鎖している。
・ユタ州:ユタ大学とウェーバー州立大学は、1月にスペンサー・コックス州知事が反DEI法に署名したことを受けて、平等・多様性・包摂性部門を閉鎖し、採用における多様性に関いる声明の提出を中止した。
次はノースカロライナ大学(UNC)。同大の理事会は15日の会合で、16キャンパスからなる大学システムのDEIプログラムを廃止する用意があることを示した。その2週間足らず前に、同大チャペルヒル校の理事会が230万㌦のDEI予算を公共安全に振り向けることを決議していた。
ワイオミング州でも同様の予算削減が実施された。ワイオミング大学は先週、共和党主導の議会による173万㌦の予算削減を受けて、「多様性・公平性・包摂性(DEI)室」を閉鎖すると発表した。
この法律に盛り込まれた補足説明は、7月1日以降、DEI局に資金を使用してはならないとしている。
ワイオミング大学のエド・サイデル学長は5月10日の声明で「私たちは、州議員から、DEI問題への取り組み方を変えるようにという強いメッセージを受け取った」と述べた。
大学がDEI計画を縮小する他の州には、アリゾナ、アーカンソー、ジョージア、アイダホ、アイオワ、カンザス、ルイジアナ、ミズーリ、ノースダコタ、オクラホマ、サウスカロライナ、テネシー、バージニアがある。
DEIの廃止の大部分は共和党が強い州で行われているが、一部例外もある。
先月、マサチューセッツ工科大学(MIT)は、教員採用候補者への多様性に関する声明書の提出義務を廃止した。これは、思想的リトマス試験だと批判されていた。
MITのサリー・コーンブルース学長は5月5日の声明で、「さまざまな方法で包摂的な環境を構築することができるが、声明を強制することは表現の自由を侵害し、効果はない」と述べた。
ウィスコンシン大学理事会は昨年12月、DEIへの取り組みを逆転させ、周囲を驚かせた。共和党議員との合意の一環として、DEI関連の雇用を3年間制限し、DEIに関する計画を見直すことを決議した。
ウィスコンシン州の両院を支配する共和党は、民主党のトニー・エバース州知事の反対を押し切り、合意を成立させた。エバース氏はこの結果に「失望し、苛立ちを感じている」と述べている。
エバース氏は、「多様性、公平性、包摂性を構築し、キャンパスの門戸を広く開き、すべての人の役に立つようにするという重要な仕事が、この措置によって阻害されることはないという約束が守られるよう」期待すると述べた。
DEIという考え方は、1960年代のアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)にまで遡ることができるが、この現象は、2020年の「黒人の命は大切だ」の抗議行動と、ミネアポリス警察によるジョージ・フロイドさん殺害事件によって引き起こされた暴動で一気に広まった。
保守系のゴールドウォーター研究所によると、米国の大学の約67%が、「卒業するには、人種差別を助長するイデオロギーであるDEIの授業を履修することが必要としている」という。
つまり、DEIを消滅させるには闘わなければならないということだ。
ゴンザレス氏は「長期戦になるだろう。甘く考えてはいけない。左翼はこの事態を甘んじて受け入れるつもりはないだろう。闘い、維持し、実行しようとするはずだ。迂回したり、抜け道を探したりするはずだ」と述べた。
この反DEIの動きに抵抗しているのが米大学教授協会(AAUP)だ。AAUPは「(2021~23年に)学問の自由と大学の自治を積極的に損なおうとする法案が州議会に150以上提出された」と報告している。
ボーリング・グリーン州立大学のローラ・サンチェス教授(社会学)とメレディス・ギルバートソン准教授は、AAUPのウェブサイトへの4月の投稿で、「多様性・公平性・包摂性(DEI)の取り組みが、米国の大学全体で直接的かつ持続的な攻撃を受けている」と主張した。
DEIの擁護者らが戦っている相手は州議会だけではない。昨年、連邦最高裁判所は、ハーバード大学とUNCに対する裁判で、「人種を意識した」入学基準を破棄する判決を下した。一部の大学は、この判決を回避する法的手段を模索し始めている。
サンチェス、ギルバートソン両氏によると、「大学の学長たちは、法的義務に抵触することなく、アファーマティブ・アクションの禁止を『回避』することによって、多様性のある教授陣や学生を維持しようと努力している」と指摘した。
さらに、一部の大学ではDEI関連部署の名称を変更し、「DEI」という文言を外しており、部署の目的が変わったのか、単に名称が変わっただけなのか分からないという事態になっている。
例を挙げると、オハイオ州のアシュランド大学では昨年、DEI室が「コミュニティー・帰属室」に変更された。
ブランドン・クレイトン上院議員(共和、テキサス州)はこのような名称変更の動きを受けて、大学関係者に対し、「多くの教育機関が単に部署名や職員の肩書を変更することを選択するのではないかと深く懸念している」と述べた。
クレイトン氏は3月26日のノース・テキサス大学学長に宛てた書簡で「この書簡は、このようなやり方は容認できないという通告となるはずだ」と述べている。
10月7日のハマスによるイスラエル市民への攻撃と、それを受けたイスラエルによるガザ地区での宣戦布告以来、DEIの解体を求める声が急増した。社会を「抑圧された者」と「抑圧する者」の壮絶な闘争とみなすなどのDEIの主張の多くは、キャンパスでの反イスラエル抗議行動で頻繁に見られる。
ゴールドウォーター研究所の上級研究員ティモシー・ミネラ氏は、今回の抗議デモは「この有害なイデオロギーの論理的終着点」を示していると述べた。
「親パレスチナ陣営は、実際は、親ハマス・反イスラエル陣営と呼ぶべきであり、その世界観の論理的帰結だ。つまり、どんな状況であろうと、抑圧された階級を支持すべきであり、それは、たとえ残虐な行為を犯したとしても同じということだ」
ミネラ氏は、ノースカロライナ、ワイオミング、バージニア州での反DEIの勝利を歓迎した。バージニアでは、ジョージ・メイソン大学とバージニア・コモンウェルス大学が、共和党のグレン・ヤンキン州知事の圧力を受け、DEIクラス必修化の提案を却下した。
さらに、多様性に関する声明提出の義務化を巡って左派が批判されている。その中にはハーバード大学ロースクールのランダル・ケネディ教授がいる。ケネディ氏は4月2日付の論説で、このような動きについて「うろたえている」と述べている。
ミネラ氏は「戦いはまだまだ終わらないが、これらの勝利はDEIが守勢に回っていることを示している」と語った。