北朝鮮が織り成すスパイウエアの網
By Andrew Salmon – The Washington Times – Sunday, June 9, 2024
北朝鮮による最近の韓国に対する「汚物風船」攻撃は、金正恩体制による情報侵入へのパラノイア(妄想症)の深さを浮き彫りにした。
過去数週間、北朝鮮は韓国の活動家らが飛ばした風船への報復として、非武装地帯上空にゴミや糞尿(ふんにょう)を載せた風船を飛ばし続けている。金正恩氏とその側近に対して情報戦を繰り広げているのは、ソウルの政府ではなく民間団体だ。
北朝鮮は、三重の人間監視システムを通じて国内の情報をほぼ完全に管理してきた。金正恩体制は現在、中国式のハイテク・スパイウエア・システムを使って望まないメッセージを遮断し、このシステムを強化しようとしているようだ。
北朝鮮では、インターネットに接続されていないローカルなイントラネットが運用されている。2002年以来、エジプトの通信会社オラスコムが設置した携帯電話サービスを運用しているが、外国為替管理のため契約金を回収できていないと伝えられている。
専門家らは、北朝鮮のデジタル監視ネットワーク設置の試みは不安定な電力供給、限られたネットワーク容量、ハードウエアの不足によって妨げられていると指摘する。プライバシー法に縛られない独裁国家にとって、デジタルネットワークやネットワーク化されたデバイスは、市民を監視するためのさまざまな手段と化す。
スティムソン・センターの北朝鮮専門メディア「38ノース」の上級研究員、マーティン・ウィリアムズ氏はソウルで記者団に、「ここ数年、無視できないことの一つは、中国が市民を監視・統制するためにデジタル監視を使用する社会へと発展してきたことだ」と語った。「従って、北朝鮮が、中国が使用しているデジタル技術を採用すると想定するのは当然だ」
ウィリアムズ氏のチームは、オープンソースの情報、国営メディア、展示会の製品、北朝鮮の学術研究、脱北者へのインタビュー、中国のソーシャルメディアなどを利用して、北朝鮮のデジタル抑圧の状況を評価している。北朝鮮の携帯電話ネットワークには、韓国北部の一部でも検知できる新しい4Gサービスがある。すべての兆候は、携帯電話サービスが広く利用されていることを示している。
ウィリアムズ氏は、「携帯電話の普及率が低いと考える理由はない」と指摘する。「衛星画像で確認しただけでも100以上の基地局を特定しており、5㌔の範囲をカバーしていると想定している」という一方、領内の山岳地帯は依然サービスが提供されていない。
孤立と貧困にもかかわらず、「北朝鮮はソフトウエアエンジニアリングに関しては非常に高いレベルの能力を持っているが、大規模なハードウエア産業はない」とウィリアムズ氏は述べた。「北朝鮮のスマートフォンはすべて中国企業から輸入したものだが、セキュリティーソフトはすべて北朝鮮で開発されている」
北朝鮮に輸出される端末は世界的な制裁を受ける可能性のある大手輸出業者ではなく、ブランドを持たない中国企業によって製造されている。北朝鮮企業10社が輸入携帯電話を一般向けに販売している。
金正恩体制が市民に対し、疑わしい言動をしてないかを監視する機会は拡大している。
北朝鮮はデジタルIDカードを導入しており、QR決済コードがデジタルマーケットと同期されている。スマートフォンには画面キャプチャーソフトが内蔵され、当局はユーザーの閲覧習慣を精査できる。北朝鮮国籍以外の人の携帯電話はロックされているが、技術者はUSBメモリーを使って国外に持ち出された携帯電話のハッキングには成功していないと、ウィリアムズ氏は述べた。