最高裁は大統領による政敵暗殺をOKしたのか
By Alex Swoyer and Stephen Dinan – The Washington Times – Monday, July 1, 2024
ドナルド・トランプ前大統領が在任中の行為について絶対的な免責を主張していることで、法律学者の間で議論が沸き起こっている。大統領が政敵を暗殺することは法的に許されるかという問題だ。
最高裁は1日、明確な答えを出すことを避けたが、一部の判事は、少なくとも最高裁の最新の判決に従えばそういうことになると述べた。
6対3で下された判決は、新たな法的地平を切り開き、大統領は大統領の中核的な責任範囲内での公的行為については「絶対的免責特権」を享受し、その他の多くの公的行為については推定的免責特権を有すると初めて判断した。
ジョン・ロバーツ最高裁長官は、6人の判事の多数派意見を支持し、これらの線をどこに引くべきかについては明言を避け、下級審の判断に委ねられると述べた。
しかし、反対意見を代表するソニア・ソトマイヨール判事は、政治的ライバルを殺害することは、最高裁が大統領の基本的行動として定めた境界線の範囲内に収まると述べた。
ソトマイヨール氏は、「多数派の理論に従えば、大統領が公権力を行使した場合、刑事訴追の対象から外れることになる。海軍のシールズ・チーム6に政敵の暗殺を命じるとどうなるか。免責される。権力を維持するために軍事クーデターを起こしたらどうなるか。免責される。恩赦と引き換えに賄賂を受け取ったらどうなるか。免責。免責、免責、免責」と指摘した。
ロバーツ氏は、これらの仮定の話を、「ぞっとするような悲観的な見方であり、裁判所が実際に行っていることとはまったく不釣り合い」として退けた。
「建国以来、大統領が刑事責任を問われたことはないという事実に全く触れていない。執務となれば言うまでもない。従って、大統領の訴追免責の問題に直面した裁判所もない。わが国の慣行がこの問題について確立しているのは、沈黙だけだ」
ロバーツ氏は三権分立を免責の根拠とし、連邦議会が行政府の責務を犯罪とすることができれば、それは大統領の権限を損なうことになるとその根拠を強調。起訴できない行為があることを立証し、その後、その線引きをすると述べた。
ロバーツ氏は多数派の意見書の中で「われわれは、三権分立の憲法構造の下では、大統領の権限の性質上、前・元大統領が在任中の公的行為について刑事訴追を免れることが必要であると結論づける。少なくとも大統領の憲法上の主要な権限の行使に関しては、この免責は絶対的なものでなければならない。それ以外の公的行為についても、免責を受ける権利がある」と主張している。これには、共和党の大統領が指名した5人の判事も加わっている。
多数派は、大統領権限の中核には、恩赦の付与や行政府職員の解雇が含まれると述べた。
ロバーツ氏は、2020年の選挙結果を巡ってトランプ氏が起訴されている行動は主に四つあると述べた。司法省に働きかけて一部の州の開票結果に疑義を持たせようとしたこと、マイク・ペンス副大統領(当時)に開票結果を認定させないように仕向けようとしたこと、別の選挙人を組織しようとしたこと、そして2021年1月6日、ソーシャルメディアを使って議会議事堂の暴徒らをたきつけたことだ。
多数派意見では、司法省とのコミュニケーションは大統領の職務の一部であり、トランプ氏はその点で絶対的な免責を享受していると述べた。他の三つの部分についても、下級審でもっと議論する必要がある。
いずれの容疑もトランプ氏の最高司令官としての権限に関わるものではないため、多数派はそれについて意見を述べていない。
この問題は、この裁判の口頭弁論中に判事らによって提起され、その中でソトマイヨール氏は暗殺について疑問を呈した。
ソトマイヨール氏は「もし大統領が、自分のライバルが汚職に手を染めていると判断し、軍や誰かに暗殺を命じた場合、それは免責を受けられる公務の範囲内なのだろうか」とトランプ氏の弁護士に質問した。
ジョン・サウアー弁護士は、答えは「そうかもしれない」と言った。
「仮定の話にもよると思う。私たちは、それが公的行為になりうると考えることはできる」
1日の判決で反対意見を述べたケタンジ・ブラウン・ジャクソン判事は、この新たな判決に従えば、サウアー氏の言う通りだと述べた。
「つまり、仮定の話として、大統領が政治的ライバルや批判者の暗殺を命じたことを認め、あるいは、結果的に失敗したクーデターを扇動したことが明白であっても、多数派の新しい大統領説明責任モデルの下では、免責を受ける可能性は十分にある」
トランプ政権の司法長官だったウィリアム・バー氏は、ソトマイヨール氏が挙げた例は間違っており、反対意見による「多数意見の描写は不当」と指摘、かつての上司を擁護した。
バー氏はFOXニュースのニール・カブト氏に、判決によれば、免責されるかどうかは大統領の権限によると語った。
バー氏は、大統領には訴訟を取り下げさせる憲法上の権限はあるが、その際に賄賂を受け取る権限はないと述べた。さらに、大統領は司法省に捜査を指示することはできるが、その捜査の一環として証拠を捏造することはできないと述べた。
「最悪の例は、大統領が特殊部隊シールズのチーム6を使って政敵を殺せるというものだが、全く分かっていない」
「大統領には、外敵や武力衝突などから国を守る権限がある。国内の犯罪者に対して司法省を指揮する権限もある。シールズを使おうが、民間の殺し屋を使おうが、大統領には人を暗殺する権限はない。そんなことは関係ない。大統領の権限を実行するというのはそういうことではない。これらの怖い話は全て虚偽だ」
民主党は、この判決の問題点は暗殺の問題にとどまらないと述べた。
上院司法委員会のリチャード・ダービン委員長(民主、イリノイ州)は、この判決が司法省に関して大統領に与える権限は大きすぎると述べた。
「ドナルド・トランプ氏は『司法省職員との話し合いにかかわる行為に対する訴追を絶対的に免れる』という判決を下したことで最高裁は、司法省から重要な独立性を奪い、同省の法の支配の遂行を困難にした」