AIに核攻撃を判断させることはない―米戦略軍司令官

(2024年8月19日)

2023年8月24日、モンタナ州マームストローム空軍基地のブラボー9サイロで、ミニットマンIII大陸間弾道ミサイル上部のチタン製シュラウドを固定するジェイコブ・ディース上級空兵(23歳、左)とジョナサン・マーズ1等空兵(21歳、右)。シュラウドが固定された後、持ち上げられ、中の黒い円錐形の核弾頭が見える。(ジョン・ターナー/米空軍 via AP)

By Bill Gertz – The Washington Times – Tuesday, August 13, 2024

 米戦略軍は、人工知能(AI)を使って核兵器の使用を承認することを禁止しており、核武装した敵対国の中国やロシアが核の運用をAIに任せたとしてもこの方針は変わらない―戦略軍司令官が13日に語った。

 ネブラスカ州オマハを拠点とする戦略軍のアンソニー・コットン司令官(空軍大将)はまた、米国の二つの「競合する」敵対国からの核の脅威の高まりに対する抑止力を維持するために核戦力を増強する可能性を示唆した。

 記者団とのブリーフィングでコットン氏は、AIと機械学習は、人間の意思決定者にとって、大量の情報、監視・偵察データを分析するための重要なツールとなる可能性があると述べた。

 また、戦略軍には、1983年の近未来映画「ウォー・ゲームス」に登場する「ウォー・オペレーション・プラン・レスポンス」(WOPR)と呼ばれる架空の自動核発射システムの現実版を作る計画はないと強調した。

 戦略軍の抑止力に関する年次会合に参加したコットン氏は、「実際に今、戦略軍に来ても、WOPRを見ることはできない」と記者団に語った。

 だが、指揮統制システムや情報システムから提供される「膨大なデータ」をAIで管理し、軍や文民の指導者の意思決定に利用することは可能だと言った。

 だが、それが中国やロシアで理解されるかどうかは別の問題だと言う。

 「敵国にも理解してほしいと思う。核兵器だけでなく、通常兵器の使用に関しても、WOPRが判断を下すことを望んでいるとは思えない。WOPRが下す判断の力学が紛争でどのように働くかが分からないからだ」

 ホワイトハウスは6月、中国政府が、核兵器の使用に関する決定についてAIの使用を制限するというバイデン政権の方針に同調しないと述べたことを明らかにした。中国は核の増強を進めており、米国の軍事計画立案者らは不安を強めている。

 ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)の技術担当ディレクター、タルン・チャブラ氏は、中国は自律型システムを核兵器発射のいかなる判断にも取り入れるべきではないという米国の立場を拒否したと述べた。

 中国政府は5月にジュネーブで行われた米中協議で、急速に拡大する核戦力に対するAI使用の制限を拒否した。

 チャブラ氏はシンクタンクでの講演で、「われわれは、世界中のすべての国がそれに署名すべきだと考えている。そうすることが非常に理にかなっていると考えている」と述べた。

 議会の中国に関する委員会での証言によると、AIは、陸上の移動式ミサイルや海上の潜水艦を追跡するためのセンサーデータの大規模処理に使用され、特に量子センサーなどの他の技術と組み合わせた場合に重要となってくる。

 専門家らは、核の指揮統制の決定をAIシステムに頼ることは、かつては攻撃を受けないと思われていたシステムを標的にすることが可能になることによって、抑止力の概念を不安定にする可能性があると主張している。ホワイトハウスは、AIの使用を制限する政策メモを準備していると言われている。

 中国が核兵器に関するAI使用の制限を拒否していることから、敵の核先制攻撃によって共産党政権の幹部や意思決定者が排除された場合に、ミサイルを発射できる自動核反撃システムの構築を検討しているのではないかという懸念が高まっている。

 冷戦時代、ロシアは「死の手(ペリメトル)」と呼ばれる同様のシステムを開発した。これはまだ使用されていると考えられている。

 ロシアのシステムは、指揮官が死亡または無力化された後、センサーが核攻撃を検知した場合、あらかじめ用意されたコマンドがミサイルのサイロに送られ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を自動的に発射することができる。

 中国の核指揮統制システムは不透明なままであり、米政府高官によれば、人民解放軍(PLA)ロケット軍が危機の際にどのようにAIを利用するかは不明だという。中国当局者は、そのようなシステムについて米国と議論することさえ、核抑止力を損なうことになると言う。

 中国政府高官は、戦略兵器でのAIの使用について米政府高官と対話することを拒否し、中国国内のAI産業と研究を加速させる可能性のある半導体に関する米国の規制に抗議した。規制は、半導体技術がPLAの軍事力を高めることになるという米政府の懸念に基づくものだ。

十分だが老朽化

 米国の核戦力を拡大する必要性について、コットン氏は、陸上配備、爆撃機、潜水艦の現在のシステムは効果的で安全で信頼できるが、老朽化していると述べた。この核の三要素すべてを近代化する必要があるという。戦略は変わらないだろうが、「敵対勢力を危険にさらす」ために戦力規模を拡大する可能性がある。

 「現在目の当たりにしているのは、レガシーシステムであり、今後も、現在あるシステムの能力を維持していけるようにしなければならず、なおかつ、近代化と、レガシーシステムからの転換、これらの近代化されたシステムは、合衆国大統領の目的にかなうものでなければならない」

 戦略軍は、現有の陸上配備ICBMに弾頭を追加する方法について調査しているという。

 現在配備されている400基のミニットマン3ミサイルには、それぞれ三つの核弾頭が搭載されている。新しいセンチネルICBMは開発中である。

 先月、核兵器を搭載した中国とロシアの爆撃機4機が、アラスカ州近郊の米防空識別圏に初めて飛来したことについてコットン氏は、飛来したことよりも、どこから飛来したかの方が気になると述べた。報道によれば、ロシアのツポレフ95爆撃機2機と中国の爆撃機「轟6」2機は、極東にあるアナディリというロシアの戦略核基地から離陸したという。

 コットン氏は、中国の爆撃機がこの基地を使用したことは、「ロシア連邦との関係から、中国がどこまで使用可能になっているのかに関して注意を払う必要がある」と述べた。

 一方、バイデン大統領の認知能力が潜在的な核危機を処理する上で懸念材料になるかどうかという記者の質問には答えなかった。

 「最高司令官との関係や私が見てきたことに関して答えるつもりはない。現在の最高司令官に関して、必要であれば私に適切な命令を下せるバイデン氏の能力に関して懸念はない」

 コットン氏は、ウクライナ軍のロシア領内への侵入に対応して、戦略軍に核態勢を変更させるようなロシアからの兆候は見ていないと述べた。

 米国の核戦略家にとって、中国の軍備増強はとりわけ懸念材料だ。コットン氏は2月の議会証言で、中国の核兵器増強について「息をのむほどだ」と述べた。

 中国の核弾頭保有量は過去数年間で約250発から約500発に増加し、国防総省は2035年までに1500発に達する勢いだと予測している。

 中国はあらゆる射程のミサイルを合計3150発保有していると推定され、そのほとんどは核弾頭か通常弾頭のどちらかを装備できる。

 中国は核戦力の増強について、公にすることはなく、米政府高官との間でも説明を拒否している。

 中国の習近平国家主席は2022年、核戦力の増強の目的は「強力な戦略的抑止力システム」を構築することだと発表した。アナリストらはこのシステムは、いつの日か台湾を併合するための「切り札」の重要な要素だと指摘している。

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