石炭の町から、太陽光発電の町へ-東部アパラチア

(2025年8月14日)

ケンタッキー州やバージニア州南西部など、アパラチア地方のかつての産炭地からなるコールカントリーは、前進する必要があると住民は言う。「ケンタッキー州ハーラン出身の元鉱夫は、現在はハザードの自動車工場で働いている。(エマ・エアーズ/ワシントン・タイムズ紙)

By Emma Ayers – The Washington Times – Thursday, August 7, 2025

 【ハザード(ケンタッキー州)】東部アパラチア地方の町ハザードからほど近い、人工的に平坦にされた山の上には、かつて年間300万トンの石炭を生産していた露天掘りの鉱山跡地がある。ここに間もなく、米国最大級の太陽光発電施設が建設される。

 石炭産業の心臓部であったこの地域が、炭素ベースのエネルギーから再生可能エネルギーへと移行しようとしている。これは同時に、苦しい生活と有望な新興産業という現実を反映している。一方で、トランプ政権は太陽光や風力エネルギーへの支援を廃止し、石油や石炭の生産を促進している。

 ハザードの太陽光発電プロジェクトの開発はエデレン・リニューアブルズ社が始めたもので、同社は、世代を問わず国内で最も深刻な貧困を抱えるこの地域で、7200エーカー(約29平方キロ)の施設に10億ドルを投資することを明らかにしている。

 エデレン・リニューアブルズの創設者アダム・エデレン氏は、起伏のある牧草地が広がる丘の尾根に立ち、ワシントン・タイムズに、「このコミュニティーは、1世紀にわたって米国の産業の発展を支えてきた。再びそれを成し遂げられるかもしれない」と語った。

 ペリー郡の郡庁所在地で鉱山に近いハザードの貧困率は32.6%、世帯所得の中央値は6万9000ドル未満で、全国平均を8000ドル以上下回っている。ケンタッキー州の6月の失業率は4.9%で、米国の4.2%を上回っている。

 このプロジェクトは発電量80メガワット、3つの郡にわたる大規模なもので、電力開発会社ブライト・ナイトとの提携で、来年着工予定。同社がエネルギー企業アバングリッドと共同で建設する小規模なブライトマウンテン・プロジェクトは、ペリー郡で数カ月後に着工される。

 エデレン氏は、地元住民を雇用し、このプロジェクトを実現させることを計画している。スターファイア・プロジェクトの建設には300人、ブライトマウンテン・プロジェクトには200人のアパラチア住民を雇用する予定という。

 マーティン郡では、もう1つの太陽光発電プロジェクトがすでに完了している。

 この2つの新プロジェクトは、米国最大の電力網運営会社PJMの管轄区域内にある。完成すれば、13州とワシントンに電力を供給することになる。

 ケンタッキー州知事候補でもあったエデレン氏は、ケンタッキー州で手がける3つの太陽光発電事業が全体で、州に11億ドル以上の民間資本を呼び込むことになると述べた。重層的な取り組みによって、この地域を活性化することを目指す。

 エデレン氏は「つまり、これらのプロジェクトを、地域の雇用を最大限に拡大するような形で推進するということだ。つまり、地域の労働力、教育者、市民やビジネスリーダーたちと協力して、地域の雇用を最大限に拡大するということだ。私たちは、この地域の人々が、私たちの費用で、いろいろなところで生かせる資格を取得できるよう、スキルトレーニングと資格認定を提供している。これは大きな意味がある」と述べた。

 このプロジェクトは、連邦控除の対象となるための期限に間に合うように急ピッチで進められている。トランプ大統領の減税法「大きな美しい法」は、今夏に成立し、再生可能エネルギーの税額控除を段階的に廃止し、2022年インフレ抑制法の主要な部分を廃止する。

 商業用太陽光発電と風力発電プロジェクトが控除を受けるには、2026年半ばまでに建設を開始し、2027年末までに完了する必要がある。それ以降は、ほとんどの奨励策は消滅または大幅に削減される。

 政権は、控除の廃止によって、「市場の公平性を回復し」、国内の化石燃料生産を優遇すると主張している。

 しかし、業界のリーダーとクリーンエネルギー支持者は、この政策によってアパラチアのような苦境に立たされている地域の発展が停滞したり、後退したりする可能性があると警告している。これらの地域では、再生可能エネルギー投資によって、石炭後の経済に明るい兆候が見えているが、これはまれなケースだ。

 バージニア州の太陽光発電開発企業「セキュア・ソーラー・フューチャーズ(SSF)」のCEO、アンソニー・スミス氏は「この大きな美しい法案は、米国の優位性とエネルギー自立を達成する観点から、全く意味を成さない。むしろ…逆の効果をもたらす」と述べた。同社は学校や公共機関の電力供給を推進しつつ、アパラチア地域の熟練労働力育成に取り組んでいる。

太陽光発電は生存の鍵

 ウェストバージニア州を拠点とする太陽光発電システム設置会社「ソーラー・ホラー」の創設者ダン・コナント氏は再生可能エネルギーの利用が、アパラチアの貧困層が生活を維持できるかどうかの分かれ目になるかもしれないと述べる。

 2012年に設立されたソーラー・ホラーは、労働者階級の家庭、教会、フードバンク、中小企業向けのクリーンエネルギーを手の届く価格にすることをミッションに掲げ、2500件を超えるシステムを設置してきた。同社は垂直統合型企業で、住宅や企業向けのエンジニアリング、建設、融資を全て手掛けている。

 コナント氏は、これによって住民を地元の電力会社の束縛から解放することが可能になると説明する。

 同氏はワシントン・タイムズに、「人々が言うように、『石炭対太陽光』ではない。アパラチアの人々にとって、それは『電力会社対太陽光』だ」と述べた。

 コナント氏によると、電力会社は、競争が希薄なこれらのサービス不足地域で事実上の独占状態にある。一部の郡では貧困率が全国平均の2倍を超え、世帯収入の中央値は4万ドルを下回る場合が多いという。

 一方、中央アパラチアの一部地域の住民は、収入の15%以上をエネルギーに費やしており、これは全国平均の6%の2倍を超える。これは2023年に米エネルギー効率化経済協議会が発表した報告書によるものだ。

 支援団体「アパラチアボイスイズ」は、慢性的な貧困に悩む多くの郡の家庭が、月収の40~50%を公共料金に費やしていると指摘する。

 コナント氏は、「太陽光発電は生活を変える可能性がある」と述べた。しかし、大きな美しい法の下では、住宅用太陽光発電と省エネへの控除が2025年末に期限切れとなり、段階的な廃止期間も設定されていない。

 ケンタッキー州南東部のビクコ市のすぐ外では、石炭産出地域の住民の一部がトランプ氏への忠誠心を示した。しかし彼らは太陽光発電も望んでいる。

 高速道路沿いのアウトドア用品店のオーナー(名前は明かさなかった)は、「太陽光で全ての電気を賄えるなら左足を差し出してもいい。ただ高すぎる。屋根にパネルを設置するのに3万ドルは払えない」」と話した。

 コナント氏は、税控除の廃止で、貧困層のアパラチア住民が支援を受けるのがさらに困難になると述べた。

 「過去数年間、特にウェストバージニア州南部で、電気料金の急激な上昇を目撃してきた。以前は全国で最も安い水準だったのが、今では中間水準になっている。依然、驚くべき速さで上昇している。見ているのも辛い。私たちは既に十分な代償を払ってきたと思う」

 これらの不満について環境保護局(EPA)の広報担当者はワシントン・タイムズに次のように述べた。「『大きく美しい法』が法律として成立し、EPAは議会の意図が完全に実施されるよう努める。トランプ政権下のEPAは、州、部族、地域社会と協力し、人間の健康と環境保護という核心的な使命を推進するプロジェクトを支援し続ける」

 エネルギー省はコメントを拒否した。

 エデレン氏は、アパラチアの住民が直面する経済状況に対して不満を抱くのは当然だと述べた。

 ケンタッキー州会計監査官を務めたエデレン氏は、「住民は利用されたと感じている。なぜなら、実際に利用されたからだ。この地域から1世紀にわたって1兆ドルの鉱物資源が運び出され、ウォール街を豊かにした。街は金で舗装されるべきだったのに、代わりに米国で最も悪い社会経済的結果がもたらされた」と述べた。

新しい世代

 SSFの職業訓練プログラムは、アパラチア地方の小さな炭鉱の町で歓迎されている。炭鉱は廃業し、多くの若者にとって仕事を見つけることは困難だった。

 専門家は、この問題は経済的多様化の欠如に起因すると指摘している。これは、中央アパラチア地方での石炭への経済的依存と、石炭産業崩壊を受けて雇用就職が失われたことが原因だ。

 トランプ氏ら共和党の政治家は長年、石炭産業はオバマ政権時代の立法によって破壊され、復活させるべきだと主張してきた。

 トランプ氏は4月初旬のウェストバージニア州での法案署名式典で、炭鉱労働者と経営陣に囲まれ、「閉鎖されたすべての工場は、現代化されれば再開される。…それができなければ解体され、新しいものが建設される」と述べた。

 ハザード在住の元鉱山労働者で、現在は自動車修理工場で働く男性は、その発言を嘲笑した。

 この男性は匿名で「石炭は死んだ。誰もがそれを知っている。その希望にしがみついている人は、頭がおかしい」と述べた。

 公共政策シンクタンク「マーケット・インスティテュート」のジェフ・ザウアー会長は今夏、リアル・クリア・マーケッツの論説で、石炭の衰退は懲罰的な政策のせいではなく、世界的な需要の現状によるものだと主張した。

 ザウアー氏は「米国の石炭消費量は長年、着実に減少してきた。それは、陰謀のせいではなく…再生可能エネルギーがますます競争力をつけているからだ」と書いた。

 グリーンエネルギー研究企業エンバーの2025年の報告書によると、2024年までの3年間、世界の太陽光発電量は29%ずつ増加し、わずか3年で2倍になった。世界全体の電力の6.9%を占め、世界でもっとも急速に成長する電力源となった。低炭素エネルギー(再生可能エネルギーと原子力)は2024年に1940年代以来初めて世界全体の電力の40%を超えた。

 一方、石炭の需要は横ばいで、国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、2024年の世界全体の石炭需要はわずか1.2%増加し、2026年まで横ばい状態が続くと予測され、その後徐々に減少していくと見込まれている。

 アパラチアの太陽光発電推進派はこれに注目し、この地域が世界のエネルギー支配競争で取り残されないよう取り組んでいくと述べている。そのため、スミス氏によると、SSFは州労働省と地元の学校区と協力して、バージニア州初の太陽光発電訓練プログラムを立ち上げた。

 スミス氏は「バージニア州で最も太陽光発電の開発が困難な地域である州南西部に太陽光発電を導入する取り組みに参加するよう要請された。これは、これらの地域が非常に遠隔地の山間部コミュニティーであるためだ」と述べた。

 ワイズ郡では、SSFが高校生を時給17ドルで太陽光発電の研修生として雇用し、自校の校舎にパネルを設置させた。同社は地元の建設会社、コミュニティーカレッジと提携し、エネルギー技術に関するトレーニング、ツールを提供し、証明書を出した。

 プログラム開始以来、19人の生徒が太陽光発電や関連する電気工事の正社員として就職した。

 スミス氏はワシントン・タイムズに、「彼らはスーパーで袋詰め作業をしていたかもしれない。今彼らは技術を学んでいる」と語った。

 ワイズ郡出身で、炭鉱労働者の家庭に生まれたマット・マクファデン氏にとって、太陽光発電は予想外の職業となった。同氏は、多くの若者が収入のいい仕事を求めて故郷を離れるしかない状況だったが、SSFでの仕事を通じて地元に残れるようになったと述べた。

 2025年の農務省の調査によると、アパラチアの中央部と北部の大部分を含む非都市部の郡は、1990年代、2000年代、2010年代のそれぞれ10年間で、15~29歳の若者の10~20%が移住した。

 現在、SSFのマネジャーを務めるマクファデン氏は、「出て行った人たちはほとんどが戻ってきたいと思っているが、仕事が見つからない。ソーラーは助けになるかもしれない。すべてを解決するわけではないが、ここにアマゾンの工場が来るわけもない。何をするにせよ、小さく始めて成長させる必要がある。ソーラーはそれを可能にする」と述べた。

 さらに南のジョージア州ダルトンでは、太陽光パネルは単に設置されるだけでなく、製造されている。韓国の太陽光パネルメーカー「Qセルズ」は米国生産に多額の資金を投下し、アパラチア・ジョージア工場で現在約1900人が雇用されている。

 工場のマネジャー、リサ・ナッシュ氏は、この工場が小さな町のエネルギーを変えたと述べた。

 「卒業生たちは製造業に興味を示さなかった。でも今、彼らはここにとどまっている。太陽光発電の技術のおかげで、給与も良く、キャリアも身に付けられる。ここの人々は、これに未来があることを知っている」

 Qセルズのダルトン工場の従業員のほぼ半数は女性で、これは仕事に必要な労働強度が低いことが要因だ。

 ナッシュ氏は「人々はキャリアを変え、新しい技術を学び、高度なスキルを身につけている。製造業への関心が高まっている。キャリアとしての選択肢の一つになりつつある」と述べた。

炭鉱から太陽光発電所へ

 アパラチアの過酷な地形は長年、インフラ整備の障害となってきた。急峻な山々や深く刻まれた谷は、道路やインターネット、信頼性の高い電力網の建設コストを大幅に高めてきた。しかし、分散型太陽光発電、特にバッテリー貯蔵とマイクログリッド機能を備えたシステムによって、これらの障害を乗り越えることが可能になっている。

 エデレン氏は「地形が私たちの味方になったのは初めて。以前は建設できなかった場所でも、今なら建設可能だ」と述べた。

 同氏によると、山頂を削り取って採掘されたかつての炭鉱は、すでに利用されなくなり平坦で、障害物は取り除かれ、高台にあり、他の用途にはほとんど適さないため、太陽光発電に最適だという。

 「この土地には住宅や工場を建設できない。しかし、発電はできる」

 スターファイア太陽光発電所が建設され、稼働してしまえば、必要なのは維持管理に必要な従業員だけになり、それほど多くない。エデレン氏は、ペリー郡に対し、固定資産税の代わりに代替納付契約に基づく支払いを行い、それによって安定した収入を郡に提供する。

 マーティン郡のような地域では、かつては石炭採掘税が地方予算の財源となっていたが、現在はその税収がなくなっている。そのため、この太陽光発電プロジェクトは、郡にとって最大級の納税者になると期待されている。エデレン氏は、この契約により、学校や地方自治体に40年間にわたる安定した収入が保証されると話した。

 「これは将来にわたって地域に利益をもたらす投資だ」

閉ざされる窓

 控除の申請を急ぐ開発者もいる一方で、経費削減に備える開発者もいる。スターファイアなどのプロジェクトは今後も進められるが、アパラチア地方での今後の事業展開は、より不透明になっている。

 しかしエデレン氏は諦めていない。別の石炭産地でも着工することを計画している。ウェストバージニア州では、高い山々が強い風の道を生み出すため、風力発電も視野に入っている。

 エデレン氏は「ここに住む人々にとってこれは政治的な問題ではない。住民は『仕事はあるのか? ここに残れるのか?』と問うている」と述べた。

 そして、多くのアパラチアの人々にとって、太陽光発電は単なるエネルギーの問題ではない。それはこの地への尊厳の問題だ。

 コナント氏は「私たちは過去50年間、この国の他の地域に電力を供給してきた。エネルギーの源が変わったからといって、今私たちを置き去りにすべきではない」と訴えた。

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