米軍、発射前の敵ミサイル破壊能力を開発へ 中国標的か

2013年6月6日、メリーランド州フォートミードにある国家安全保障局(NSA)構外に設置された看板。(AP通信/パトリック・セマンスキー撮影、ファイル写真
By Bill Gertz – The Washington Times – Wednesday, December 17, 2025
中国国家安全省の情報機関は10月、米国家安全保障局(NSA)が中国科学院国家授時センターに侵入するため、3年にわたってサイバー活動を展開していることを明らかにした。
センターは中西部の都市、西安にある。標準時間の管理を行い、軍事システム、通信、金融、電力、輸送、地図作成に不可欠な精密時間サービスを提供している。
NSAはこの報告についてコメントを出していないが、防衛アナリストによれば、この中国の報告書は、「レフト・オブ・ローンチ(LoL)」と呼ばれる高度な戦略ミサイル防衛をサポートする極秘計画を知る重要な手がかりになるという。
LoLとは、ミサイルが発射準備中であることが検知された後、発射ボタンが押された時にミサイルをサイロ内で爆発させるサイバー攻撃や、特殊部隊の派遣、地上での破壊工作など、攻撃を未然に防止するためのさまざまな軍事的手段を指す。
ミサイルシステムの発射前攻撃や破壊工作を行うプロジェクトは、少なくとも10年前から進行中であり、その情報は米軍でも特に厳重に管理されている。
宇宙軍作戦副部長のマイケル・ゲトライン大将は最近、トランプ大統領が推進するミサイル防衛システム構想「ゴールデンドーム」で、ミサイルが発射されるのを阻止するLoLがどのように使われるのかという質問に、「それについては話せない」と答えた。
PNT衛星システム
中国の標準時間管理システムに侵入できれば、ハッカーが発射前や、ブースト段階と呼ばれる発射直後にミサイル攻撃を妨害できるようになり、紛争時に米軍や軍情報機関は大きく有利になる。
授時センターは、中国の「北斗」衛星測位システムにとって欠かせないものだ。北斗は、米国の全地球測位システム(GPS)をコピーしたものだ。35基以上の衛星を使い、人民解放軍(PLA)はそこからミサイルの運用に不可欠な測位・航行・時間測定(PNT)の情報を得る。
この衛星システムは「センチメートルレベル」の精度を持ち、授時センターとリンクしていると言われている。
理論上は、NSAのサイバー分析官が授時センターに侵入することで、PNTデータの内部に悪意のあるソフトウエアを仕込み、それを用いてミサイル目標に関する情報収集を行ったり、ミサイル攻撃のために虚偽の航法パラメーターを提供したりすることが可能となる。
また、米国の高度な人工知能(AI)技術を使って発射前の妨害工作を行えば、中国のミサイルを中国に向けて撃たせることも可能となる。
中国国営メディアはNSAのサイバー攻撃に関して、時間測定を支配することは「現代社会の鼓動を支配する」ことに等しいと指摘した。
中国のインターネットプロバイダー「C114通信網」は、「時間測定システムが妨害されたり、乗っ取られたりすれば、その結果は想像を絶するものだ」と報告。金融市場、送電網、鉄道、軍事システムが混乱する可能性を指摘した。
ミサイルシステムにとってPNTは、正確な照準、軌道制御、指揮統制に使用されるリアルタイムの位置、方向、正確な時間データのために不可欠な要素だ。
アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の防衛専門家トッド・ハリソン氏は、「ミサイルを打ち負かす最良のタイミングは、ミサイルが発射される前であることは間違いない。最も確かな方法は、発射装置、指揮統制施設、センサーを追跡し、破壊することだ」と述べた。
距離が遠く、緊張を高める危険もあるため、このような攻撃の実行は難しい。
先制攻撃でミサイル発射地点を破壊する「キルチェーン」には、センサーや通信の妨害、指揮統制システムへのサイバー攻撃など、さまざまな(物理的破壊を伴わない)非キネティックな手段を用いることができるとハリソン氏は言う。
発射前の電子的妨害は、当初は衝撃を与えたとしても、戦闘中にどのような効果をもたらすかは分からない。敵勢力はいずれ、妨害に適応し、克服すると考えられるからだ。
ハリソン氏は「ゴールデンドームにとって問題なのは、LoLとそれ以外の段階にどれくらいの割合で労力を割くかということだ。LoLが取り入れられていることは確かだが、それがどの程度重視されるかはまだ分からない」と語った。
センサーと能力
1月のトランプ氏のミサイル防衛に関する大統領令は、特にゴールデンドーム用のLoL能力の開発と配備を求めている。
この大統領令では、ゴールデンドームにミッドコース(中間)段階とターミナル(終末)段階のミサイルを標的とする防御能力を持たせることに加えて、「発射前とブースト段階のミサイル攻撃を撃退」しなければならないとしている。
宇宙軍のスティーブン・ホワイティング司令官は9月、LoLによって次世代のミサイル防衛能力を獲得すると述べた。
ホワイティング氏は毎年開催される「航空宇宙サイバー会議」で、発射前攻撃が必要なのは、敵のミサイルがいっそう精密で、大きな破壊力を持つようになってきているからだと語った。
「私たちは今、ミサイルの脅威に直面している。そのミサイルは、質、量ともに急速に向上している。この1年半のイスラエルとイランの紛争を見ればよく分かる。…一度に発射されるミサイルの数は、一桁ではなく、二桁でもない。3桁ものミサイルと無人攻撃機を組み合わせて攻撃は行われる」
ホワイティング氏は、現在のミサイル防衛は従来の弾道ミサイルについて警戒したり、追跡したりすることは可能だが、新型で高速の極超音速機動ミサイルや宇宙配備の極超音速ミサイルは「信じられないほどの混乱を招く」と述べた。
「私たちのミサイル防衛は、最近の紛争でおおむね良好な成果を挙げてきたが、そのほとんどは終末段階での迎撃に焦点を当てている」
「われわれはこれをさらに前の段階、最終的には発射前にまで広げたい」
ホワイティング氏は、そのような発射前攻撃を行うためには、より大きなセンサー統合が必要であり、より高度なサイバー攻撃によって「発射を開始する前に目標に影響を与えることが可能になる」と将軍は言った。
ヘリテージ財団のロバート・ピーターズ上級研究員(戦略的抑止担当)は、ゴールデンドームの有望な要素の一つとして、優れたオーバーヘッド(衛星)センサーを配備し、戦域防衛センサーと結合させることが挙げられると指摘した。これらの高度なセンサーによって、敵ミサイルが発射準備に入るタイミングを正確に把握し、ミサイル発射後の正確なデータを入手できるようになり、国土ミサイル防衛は強化されるという。
ピーターズ氏は「このようにデータとセンサーがよりよく統合されることで、ミサイルが標的に命中する前に迎撃する国家の能力が大幅に向上する」と述べた。
中国西部に新たに配備された350基以上の大陸間弾道ミサイル(ICBM)のように、サイロに格納された固体燃料ミサイルの発射準備は、発射前の探知がより困難になる。
移動式ICBMは、発射準備のために基地から移動させれば、その痕跡が残り、LoL防衛の中で追跡しやすくなるとピーターズ氏は言う。
「ゴールデンドームの開発が適切に進められれば、単に最新の迎撃ミサイルに投資するのではなく、このようなセンサーアーキテクチャーに大きな投資をすることになる。センサーも迎撃ミサイルと同様、重要な部分を占める」
イスラエル軍は米国と共同で実施したイラン核施設への空爆前に、イランのミサイルに対してLoL攻撃を実施していた。
イスラエル国防軍は、報復攻撃のために発射される前に爆破された複数のイラン製移動ミサイルに対する空爆の動画を公開した。
イスラエル軍はイラン国内でも破壊工作を行った。イスラエルのシンクタンクの報告書によれば、彼らは6月に3つの核施設を急襲する前の数日間に、主要なミサイル技術者を殺害した。
優れたセンサーとサイバー攻撃能力の強化に加え、発射前の標的攻撃のための特殊部隊も編成される。
発射前攻撃
米特殊作戦軍のショーン・ファレル副司令官(中将)は、特殊部隊はミサイルとドローンが発射される前に対処する能力の獲得に取り組んでいると述べた。
ファレル氏はホワイティング氏との会見で「われわれは、脅威が脅威になる前に脅威を排除する方法を編み出すために、発射前のミサイル防衛に取り組んでいる。戦略レベルで足並みをそろえ、共同で計画を立てることができれば、ミサイル発射前の段階から対処するという発想を、本土防衛の多層的な取り組みにうまく反映させることができると思う」と述べた。
重層的かつ統合的なミサイル防衛の最終的な目標は、ミサイルの脅威が出現する前に、探知し、妨害し、阻止できる可能性のあるものを阻止する戦力をすべての軍事領域にわたって配備することだ。
2014年にはすでにLoL能力が国防総省内で話題になっていた。ジョナサン・グリーナー海軍作戦部長とレイ・オディエルノ陸軍参謀総長が国防長官に宛てた覚書が公開された時だ。覚書は、急激な国防費削減のためにミサイル防衛費が「持続不可能」になっていると警告していた。
2人は、費用対効果の高いLoL能力の構築を求めた。
当時の国防当局者によると、LoLの研究には、サイバー攻撃や電子戦(ミサイルの指揮統制システムに対する電磁パルス攻撃を含む)などの非キネティック兵器も含まれていた。
これらの兵器は、ミサイル発射準備が検知された後に使用される。発射制御を混乱させたり無効にしたり、悪意のあるコマンドを送ってミサイルを発射装置で爆発させたりする。
2016年、当時米北方軍司令官だったウィリアム・ゴートニー海軍大将は、用意した議会証言の中で、ほとんどのミサイル防衛は、地上配備の迎撃ミサイル、移動式の地域防衛ミサイル、艦船配備のミサイル迎撃システムを使って、発射後のミサイルを迎撃するように設計されていると述べた。
「私たちは、弾道ミサイルの脅威を発射前、つまりレフト・オブ・ローンチだけでなく、ブースト段階でも打ち負かすように設計された防衛態勢を増強する必要がある」
他のブースト段階防衛の可能性としては、発射直後のミサイルを攻撃できる無人機や航空機に配備された高出力レーザーがある。
現在のミサイル防衛システムはすべて、高速の弾頭を打ち落とすために精密な照準データを必要とするキネティックキル迎撃ミサイルを使用している。これにはパトリオット、高高度防衛ミサイル(THAAD)、アラスカとカリフォルニアにある大型地上配備型迎撃ミサイル、イージス艦によるミサイル防衛システムなどがある。
ゴールデンドームは、宇宙に迎撃ミサイルを初めて配備し、広範囲のミサイルの脅威に対処できるようになる。
元ミサイル防衛局副長官で、現在はノースロップ・グラマン・ミサイル防衛ソリューションズの副社長であるケネス・トドロフ氏は、同社はLoL能力と極超音速ミサイルの迎撃に取り組んでいると述べた。
トドロフ氏はノースロップのウェブサイトで「キルチェーン全体にわたって極めて重要な防衛プログラムをサポートしてきた数十年の経験を生かし、同社は発射直後から探知・追跡、殺傷評価まで、進化する極超音速ミサイルの脅威に対処するための機動力のあるミッションを実現する先進的で革新的なさまざまな能力を提供している」と述べている。
米戦略国際問題研究所(CSIS)ミサイル防衛プロジェクトのパトリシャ・バジルチク副所長は、LoL防衛には、敵の発射に対抗するためのキネティック・非キネティックな取り組みが幅広く含まれると述べた。ミサイル発射台への攻撃、通信妨害、ミサイル工場への潜入などだ。
「LoL防衛は、能動的ミサイル防衛に代わるものではなく、互いに連携する。米軍が敵の行動に単に対応するのではなく、より効果的に対抗することを可能にするものだ」

