子供のスポーツに夢託す親 プレッシャーで「燃え尽き」リスクも

2016年8月13日、ロサンゼルスで行われたNFLプレシーズンゲーム、ロサンゼルス・ラムズ対ダラス・カウボーイズ戦のハーフタイムに、子供たちがピーウィー・フットボールの試合で遊ぶ様子。(AP通信/ライアン・カン)
By Liam Griffin – The Washington Times – Friday, December 26, 2025
次世代のパトリック・マホームズ、アーロン・ジャッジ、あるいはマイケル・フェルプスが、地元の少年フットボール場やリトルリーグの球場、YMCAのプールで出番を待っている。だが、その夢が実現する可能性は低い。
それでも多くの親が、子供の将来をスポーツに託している。けがや燃え尽き症候群(バーンアウト)のリスクがあるにもかかわらず、一つの競技に絞り込み、大学進学用の資金を、子供をスポーツ選手として育成するために投じている。
今年初めに(シンクタンク「アスペン研究所」が運営する)「プロジェクト・プレイ」が発表した調査によると、11%の親が、自分の子供がプロ選手やオリンピック選手になれると考えていた。また、合計で約20%の親が、自分の子供が(「プロへの登竜門」とされる)大学のディビジョン1(D1)レベルで競技できると考えていた。
実際の確率はそれよりかなり低い。例えば、高校の野球選手がMLB(大リーグ)の球団から指名されるのは、わずか610人に1人だ。NBA(プロバスケットボール協会)に入る確率はさらに低く、高校のバスケットボール選手がリーグでプレーできるのは、わずか0.0096%だ。
「君のプレーを見るのが好きだ」キャンペーンの創設者アジア・メイプ氏は、プロジェクト・プレイの会合で「夢を見せることは、子供たちのための私たちの活動の大きな部分を占めている。…それが私たちの役割だ。サポートし、指導し、育てることだ。しかし、どこかで方向転換しなければならない時が来る。これが最大の問題の一つだ。私たちが子供に合わせて方向転換することはない」と語った。
この行き過ぎた信念、それに伴う少年スポーツのプロ化がもたらす悪影響は、親と子供の両方に深刻な結果を招く可能性がある。
金、金、金
スポーツは金がかかる。地元のリトルリーグでプレーし、野球が好きになり、優秀な選手になり、大金を投じることなく大リーグでプレーするという夢を持ち続けることができた時代はもう終わった。今や、わずか7歳の子供が、高額な旅費のかかる遠征チームに参加し、集中的なコーチングを受けている。そうしなければ、成長する他の選手から取り残されてしまう。
9月にアスペン研究所が発表した調査によると、現在、子供1人が1年間にスポーツをするのにかかる費用は、平均1500ドルだ。
遠征費や個人コーチの費用は理解できる。しかし、一部の親たちは、子供のスポーツを外部に任せるだけでなく、これまでにない方法で子供のスポーツ教育に投資している。
アントニー・ズズート氏は、少年サッカーの試合映像の記録と分析を提供する自身の会社「サッカーEDU」について、当初はコーチやスカウトのためのものになると考えていた。FCバルセロナやバイエルン・ミュンヘン、リバプールといったトップクラスのサッカークラブのアカデミーは、わずか6歳の子供をスカウトし、年間を通じた指導で将来のスターを育てていく。
しかし、ズズート氏は別の市場を見つけた。それは「サッカーママ(パパ)」たちだ。サイドラインにカメラを設置し、試合や練習を録画し、その映像の分析方法を学ぶくらいのことは、このママ(パパ)たちなら簡単にやってしまう。
ズズート氏は「親たちは子供に多額の投資をする。クラブの練習場や遠征トーナメントに、年間数千ドルを費やす家庭も珍しくない。しかし、非常に興味深いのは、親たちの気持ちの入れ込みようだ。子供をサポートするためにできる限りのことをしたいと思っている。私たちがしていることは、それを助けるための一つの手段に過ぎない」と語った。
これは、ズズート氏がここ数年間に米国のスポーツ界で目にしてきたさまざまな変化の一部だ。近所の子供のスポーツチームには、純粋に競技が好きで参加している子供たちが数人はいるだろう。しかし、そうした子供たちは数でも実力でも圧倒されている。子供のスポーツに驚くほどの資源を投じる家庭が増えているからだ。
ズズート氏のプログラムでは、親に試合映像の分析方法を教えている。2000ドル弱で、コーチや家族は120時間の講習を受け、プロと同じツールを使う方法を学ぶ。
ズズート氏は、「今日の少年スポーツは、組織、スケジュール、トレーニングなど、プロの環境に似てきている。それはもちろんエキサイティングなことだが、懸念もある。子供たちは短時間で成長するリソースを手に入れられる。一方では、若いうちから、パフォーマンスを発揮しなければならないという強いプレッシャーを受ける」と語った。
同氏は、親は良かれと思ってやっているのだが、プレッシャーは強まるばかりだと言う。こうした過保護な親たちが長期的にどのような影響を及ぼすかは、まだ明らかになっていない。
少年スポーツの変化は急速だ。ズズート氏は必死にそれに対応しようとしており、すでに次の展開を見据えている。サッカーEDUは、バスケットボール、アメリカンフットボール、ホッケーへの拡大を模索中だ。
「子供たちの歩みに寄り添う親は、ますます増えていくだろう。きのうまでは練習場だけだったが、きょうはビデオ分析。あすはデータ分析、AI(人工知能)になるだろう」
プレッシャーの下で
ドミニク・ドーズ氏は、プレッシャーの強いスポーツ環境で育った。オリンピック体操選手だったドーズ氏は、勝つために、子供の頃にコーチの家に住み込んだ。ただ、自分の子供たちにそのようなことを認める気はないと言う。
ドーズ氏の場合、それは功を奏した。メリーランド州出身で、3つのオリンピック銅メダルを獲得し、1996年のアトランタ大会では金メダルを手にした。
ドーズ氏には4人の子供がいる。全員がアスリートだ。10歳の娘と7歳の息子は、それぞれサッカーと野球の遠征チームに所属している。
ドーズ氏は今、自身の両親が犯した過ちを繰り返さないようにしている。アスリートとしての実績はあるが、子供時代は「悲惨」だったと言う。常に勝つことだけに集中していたため、常にストレスにさらされ、友人も少なく、同年代の子供たちが持つ社会性も欠けていた。子供たちがスポーツを楽しめるようにする一方で、エリートアスリートに育て上げようとはしていない。
ドーズ氏はワシントン・タイムズに「4人の子供たち全員に才能を感じている。皆、とてもユニークで、どのような道が待っているかは想像できる。しかし同時に、親として、こんなに若いうちから不当なプレッシャーやストレスを与えたくはないと考えている」と語った。
彼女は現在、ワシントン首都圏で4つの体操ジムと(障害物コースの攻略を目指す)「ニンジャジム」を経営しており、トップレベルのアスリートの育成よりも楽しむことに重点を置いている。10月にワシントン近郊のアシュバーンに新しいジムをオープンしたばかりだ。
この元オリンピック選手はジムの運営に深く関わっているが、主に「道徳的な指針」としての役割を果たしている。日々のコーチングは従業員に任せ、次世代の金メダリストを育てることは目指していない。
自身の子供たちのスポーツについても、前面に出ることはしない。
「信じられないかもしれないが、私はそばで見ているだけ。ただ試合を楽しみ、今後『あの子は何を改善すべきか』なんて考えないようにしている」
これは、ドーズ氏が若いころにアスリートとして経験した環境とは全く違う。少年スポーツのプロ化が拡大することで、多くのチームの活動が、かつての体操競技のようになってきている。子供たちに大きなプレッシャーを与えるもので、悲劇的な結果をもたらすこともよくある。
ドーズ氏は「体操がうまくいっていなければ、私の人生もうまくいっていなかった」と言う。
それはドーズ氏が育った1980年代から90年代の体操文化では当然と考えられていた。今は、「どんな犠牲を払っても勝つ」というメンタリティーが他の少年スポーツにまで広がっていることを快く思っていないようだ。
「時々あることだが、親たちが、現時点では存在しない潜在力が子供にあると思ってしまう。そうすることで、子供から満足を得ようとする」
ドーズ氏は自身のジムや子供の試合で、若いアスリートに不必要なストレスを与えないよう注意していると言う。自分のボディーランゲージを意識し、常に誇りに思っているという表情を見せるよう気をつけ、失望は見せない。
現在48歳のドーズ氏は「熱心すぎて、度が過ぎてしまう親たちの話を聞いてきた。私たち親は、一歩引いて深呼吸し、子供が子供として過ごす今の時間の重要性を認識することが重要だ。自分自身のかなわなかった夢や、親にこうしてほしかったという思いからそうしているのかもしれないが、子供たちの表情をよく見るべきだ」
けが、見せるためのトレーニング
若いアスリートにとって、燃え尽き症候群やメンタルヘルスの問題は現実のものだ。しかし、身体的な代償もある。
米整形外科学会の最近の報告によると、少年野球やソフトボールの選手が負う腕や肩のけがは、2000年以降で5倍に増加した。
全米ACL(前十字靭帯)負傷連合による同様の分析でも、2007年以降、高校生アスリートのACL負傷数が、極端に多くはないものの、増加していることが判明した。
けがの急増の原因を特定するのは難しいが、サンフランシスコのストーン・クリニックの創設者で医師のケビン・ストーン氏ら専門家は、いくつかの示唆を与えている。
「子供たちは、より激しいスポーツを一年中プレーしており、球速は速くなり、動きはよりダイナミックになり、体格も大きくなっている。これらすべてが、大きな力を生み、大きな負荷がかかる要因となっている。しかし、いろいろ原因はあるだろうが、おそらく最大の要因は、意識と診断の精度が高まったことだろう」
ストーン氏は、米五輪代表「チームUSA」のスキーヤーたちと共に働く中で、アスリートに課せられるプレッシャーを目の当たりにしてきた。それはすでに大舞台に立っている人々だけでなく、そのレベルに到達しようと努力している若者たちにも当てはまる。
「都市部でスポーツをしている若者にとって、経済的な自由へのチケットは、そのスポーツで秀でることだ。それは間違いない。それは経済的な自由だけでなく、学問的な自由(大学進学)についても言える」
若いアスリートにとって、大学への無料チケット(奨学金)は魅力的だ。それは今も昔も変わらない。ただ、どのような道のりでそこに到達するか、到達した高いレベルを維持するにはどうすべきかについては変化している。
米国のほぼすべての高校生がソーシャルメディアを利用している。そこから、学生アスリートは、他のアスリートがどのようなトレーニングや食事をし、習慣を持っているかを常に知ることができる。練習や調整は、もはや人知れず行う報われない作業ではない。
プロや大学アスリートは、ますます激しくなるトレーニングを定期的に投稿して、信頼を築き、ソーシャルメディアのフォロワーを増やし、自身のブランドを確立している。大学アスリートは、「名前、肖像、パブリシティー権(NIL)」を利用して契約を交わし、多額の報酬を得ることができる。
つまり、アスリートがどれだけ実力があるかという問題だけでは収まらないということだ。この点は、いつかアスリートとして成功してシューズの宣伝契約を結びたいと思っている子供たちも同様だ。ストーン氏は「見せるためのトレーニング」という問題が生じていると指摘する。若いアスリートはプロのまねをして、人目を引くトレーニングを重視する選手を模倣したがる。
「ボールをどれだけ速く投げられるか、どれだけ遠くに打てるか、フィールドでどれだけうまくやれるかを見せつける。見ているのは、サイドラインにいるコーチや、たまに来るスカウトだけではないからだ。録画され、撮影され、アップロードされ、分析されている。評価の程度は、以前とは劇的に異なっている」
プレッシャーはもはやフィールド内にとどまらない。24時間365日だ。多くのアスリートは、試合中と同じプレッシャーをオフの日にも感じている。ソーシャルメディア上で体裁を保ち続けなければならないからだ。
こうしたストレスはすべて、燃え尽き症候群につながる可能性がある。スポーツ医学・フィットネス評議会の2024年の報告によると、70%の子供が13歳になるまでにスポーツをやめており、その理由としてプレッシャーに耐えられない、楽しくないを挙げている。
この分野の専門家でさえ、少年スポーツの未来がどうなるか予測できない。しかし、トップレベルのアスリートへの報酬が増え続ける限り、小さな町の地元のリトルリーグのプロ化は進んでいくだろう。
五輪選手であり親でもあるドーズ氏は、子供を一つの競技に囲い込んでしまう人々へ警告を発している。
「子供はまず子供であるべきだ。楽しむ必要がある。友達を作ってほしいし、努力してほしいが、そこにはバランスが必要だ。子供にプレッシャーをかけすぎないようにすべきだ」