米情報機関:プーチン命令後も、ロシアの核部隊に変化なし
By Bill Gertz – The Washington Times – Tuesday, March 8, 2022
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が核兵器使用の態勢が整っている、と公言してからも、ロシアの核部隊は通常以上の作戦態勢に移行してはいない、アヴリル・ヘインズ国家情報長官は火曜日、合衆国議会で言明した。
ヘインズ長官は情報関連常設特別委員会の聴聞会で、米国の情報機関としての認識では、現在ウクライナ国内にいる10万人のロシア軍が激しい軍事的抵抗を受けているため、ロシア軍への支援行動が停滞しているようだと語った。
またプーチン大統領が2月27日、ロシアの核部隊に高度で「特別の戦闘態勢」を指示したことについて、ヘインズ長官は「極めてまれなケースだ」とコメントした。同大統領の高度な特別態勢という発表では、正式に核の警戒態勢の単語が使われなかったものの、ロシアが核戦争を準備するような公式声明を発出したのは、1960年から初めてのこと。これは米国とNATO諸国がウクライナ紛争に介入しないことを狙ったものとみられる。
バイデン政権はプーチン大統領のこの発言を非難したが、ヘインズ長官は次のように指摘した。「過去20年間に緊張が高まった直前に見られたものを超える、部隊全般におよぶ核態勢の変更は目撃されていない」。そして同長官は、米国の情報機関がロシアの移動式ミサイル、戦略爆撃機およびミサイル搭載潜水艦の動きを監視し続けている、と述べた。「我々は戦略的な軍部隊に関連するあらゆる動向を非常に注意深く見守っている」、ヘインズ長官は議員たちに言明した。
先月、ウクライナ侵略の数日前にロシアの核部隊は大規模演習を実施した。それは「(プーチン大統領が)NATOの介入阻止に効果を挙げようとしたものだ」、同長官は述べた。
CIA(中央情報局)のウィリアム・J・バーンズ長官は、ヘインズ長官その他の情報機関の指導者とともに証言し、地域紛争に関するモスクワの新たな戦闘ドクトリン「段階的拡大から段階的縮小」が適用されて、ロシアが示威的行動に出ることが懸念されると述べた。ロシアがウクライナ鎮圧に苦戦を強いられたり、米・NATO軍が紛争関与する場合に、ロシア側が「極限の状態」で戦術核による攻撃をしかねない。
国防情報局長官のD・スコット・ベリエ中将は次のように警告した。東ヨーロッパで核の段階的拡大は現実の危険性を帯びており、プーチン大統領は非対称的な軍事的優位を確保するため、新たな戦術核兵器の開発に投資してきた。「(プーチン大統領が)何か発言するとき、我々は極めて注意深く耳を傾け、彼の言葉を真正面から受けとめるべきだと考えている」、ベリエ将軍は語った。
ヘインズ長官はロシアの軍事計画について、米国とNATOがウクライナに武器の緊急搬入ができないようにするため、首都キエフを迅速に制圧しようとしている、と指摘した。「モスクワは、ウクライナ側の土壇場の粘り強さと、ロシア側の計画性や士気、兵站の課題などを過小評価していたと思われる」、ヘインズ長官は指摘した。
米国のアナリストたちは、プーチン大統領が侵略への跳ね返りとして、西側の制裁を多少は予想していたはずだが、これほど厳しい反応になるとは予想していなかっただろうと見ている。
にもかかわらず「プーチン大統領がその程度の挫折で止める可能性は低く、むしろ段階的拡大をして、ウクライナの中立、すなわち同国が米国・NATOとの統合を進めるのを妨げようとするだろう」、ヘインズ長官は言及した。プーチン大統領はNATOとの戦争を引き起こすことなく、ウクライナを屈服させられると確信しているはずだ、同長官は付け加えた。
国家安全保障局長官のポール・ナカソネ将軍は、モスクワがウクライナに向けたサイバー攻撃を始めれば、それがウクライナ国外に拡散することを懸念している、と証言した。
ロシアによるサイバー攻撃は米国の同盟国を攻撃し、最終的には米国内の送電網、輸送、通信ネットワークなど、基幹インフラを攻撃しかねない、ナカソネ長官は警告した。ウクライナ国内へのサイバー攻撃が「波及するリスクに非常に憂慮している」、FBIのクリストファー・A・レイ長官は数年前に発生した「NotPetya」と呼ばれ、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)によって実行されたサイバー攻撃に言及した。NotPetyaとはMicrosoftWindowsのオペレーティングシステムを介して、世界中の数万ものコンピュータ・ネットワークに感染した暗号化マルウェアのグループのことだ。
ヘインズ長官はこの2週間の侵攻の初期でのロシア軍に注目し、ロシア側がウクライナの首都キエフを迅速に占領できず、作戦計画にも欠陥があったことが判明し、そのため死傷者が多く、兵站の支障もあり、兵員の士気も低下していた、と指摘した。
ロシアの砲撃や空爆が民間人も標的にして行われている。今後、ロシアに責任をとらせるため、米情報機関はそうした虐待の記録を始めている。国防情報局長官のベリエ将軍は、ウクライナでのロシア側の損失について、二千人から四千人の兵員が死亡したと推定した。
ヘインズ長官は、ロシアが今の段階の作戦行動を継続するのか、より高いレベルの軍事行動に移るのか、定かではないと述べた。ウクライナを占領するには、現在同国内にいるよりも多くのロシア兵員が必要であり、ロシア側の交戦規定が緩和された兆候があるという。
「ウクライナからの持久反抗に直面しながら、ロシア側がウクライナ領を保持・支配する持続的な体制にしていくことは特に難しい、そう判断している」、ヘインズ長官は言明した。「同紛争の人的被害はすでに甚大であり、なおも増加し続けている。」
ロシア専門家でもあるバーンズCIA長官は、プーチン大統領がウクライナの支配・管理を通じて、地政学上の方向を導くことを決意している、との見方を表明した。
「これは彼にとって、人間としての深い信念の問題なのだ。彼は何年間も不満と野心を燃えたぎらせてきた。そうした個人の信念が、ロシアの今の体制では従来以上に意味を持っている」、同長官は指摘した。
プーチン大統領が戦争を始めたとき、ウクライナは弱いし手玉にとれる、欧州人は他の政治問題に気を取られているだろう、と読んでいたふしがある、バーンズ長官は述べた。ロシアのリーダーはまた、ロシア経済が「制裁に耐え切れる」と確信し、近代化されたロシア軍に自信を持っていた。しかし「(プーチン大統領は)あらゆる点で間違っていることが証明されてきている」(バーンズ長官)。