ドローン民間活用に課題山積 韓国は「技術的に優位」

(2023年5月26日)

プレー開始前に技を磨くタイチームの選手たち。(写真:Andrew Salmon/The Washington Times)

By Andrew Salmon – The Washington Times – Wednesday, May 24, 2023

 【ソウル】ライトが点滅し、若者たちがボール形のドローンをいじり、リモコン装置を持った選手がネットの囲いの端で操縦の練習をしている。韓国・松島で開催された「ドローンサッカー」国際選手権の会場には、緊張感が漂っていた。

 5人で構成されるチームは、保護のための円形の外殻を持つ(4個の回転翼の)クアッドコプタードローンを、円形のゴールポストに押し込もうとしている。試合はネットが張られたピッチの中で行われる。

 この未来型スポーツは、2016年に韓国で誕生した。2022年にリーグがスタートし、現在では全国に約1500のユースチームと300の社会人チームが存在する。国際化も進んでおり、今選手権には、米国のチームを含む15カ国が参加した。

 12歳の息子ジェボム君が競技に参加しているイ・ヘギョンさんは「ドローンは1機13万ウォン(約104ドル)と高価だが、判断力や協調性、集中力を養うことができる」と話した。

 選手権では、ドローンサッカーのほか、ドローンレースも開催された。これは、光る円盤状のドローンを、仮想現実(VR)のヘッドセットを装着したオペレーターが操縦し、障害物コースを高速で飛行させるというもの。

 楽しい機械だが、民間と安全保障の両分野で、将来的に大きな可能性を持っている。

 韓国国土交通省(MOLIT)先進航空局のパク・ジョングォン副局長は、「第3次世界大戦が勃発しても、訓練されたオペレーターは大勢いる」と指摘する。

 パク氏の発言は冗談だが、「米ドローンサッカー」は、このスポーツを「ゲーム感覚でできる操縦訓練」と呼んでいる。この団体はウェブサイトで、「パイロットが競技に参加するには、まずドローンの組み立て、プログラミング、飛行、修理を学ぶ」必要があり、「航空業界でのエキサイティングなキャリア」につながるとしている。

 確かに、ドローンは空中戦とネットワーク戦の両方で新しい重要な武器となるが、民生用としてもさまざまな用途が考えられている。

 ドローンのスポーツイベントが行われたのは、松島のコンベンションセンターで先週開催された韓国都市型航空交通(K-UAM)エキスポ2023。ドローンのさまざまな利用法の一部が展示された。松島は、ソウル近郊の港湾・空港都市である仁川の沖合に開発された新しい街だ。

デュアルユース

 ドローン(無人機=UAV)の民間利用は、軍事利用に比べてはるかに遅れている。

 ロシア軍とウクライナ軍は、ウクライナ上空にドローン群を配備し、情報収集、偵察、監視、攻撃を近距離、遠距離、高空・低空で行っている。

 殺傷能力を持つトルコのドローン「バイラクタル」が、侵入するロシアの装甲車両を無力化した。長距離自爆ドローンはロシアの防空網を突破し、ウクライナ国境から600キロ以上離れた飛行場を攻撃した。

 双方の自爆ドローンは、指揮所、通信中継施設、レーダー、砲兵隊、車両を破壊している。小型の民間規格のクワッドコプターは、立木程度の高さからバンカーの隙間や装甲車両の砲塔ハッチに小銃擲弾「ボグ」を投下し、敵を殺害するために使われている。

 UAVは戦禍のウクライナの空で暴れまわる一方で、輸送や物流、治安、レクリエーションなどさまざまな用途に利用できる有望なデュアルユーステクノロジーだ。

 松島では、ドローンタクシー、配達用ドローン、交通管制用ドローン、点検・整備用ドローン、海難救助用ドローン、消防用ドローン、ライトショー用ドローン、レース用ドローンが各ブースで展示されていた。

 また、モーターやカメラなどの部品、航空機を認識するビーコンのような機能を持つセンサー、ドローンを検知、破壊する装置などを販売する企業も出展していた。

 救急隊員は海上保安庁のドローンを展示していた。球形のスキッドを備えたクアッドコプターで、着水して浮き輪や救急キットを届けることができる。「すでに2人の命を救った」と、この隊員は言った。

 また、火災に消火剤を投下する消火ドローンや、格納庫の旅客機を点検するドローンもすでに世界各国で運用されている。

 しかし、民間防衛にドローンを使用することに関しては、多くの複雑な問題がある。

 昨年12月には北朝鮮のドローンが韓国領空に侵入し、韓国の大統領府の上空を飛行、ソウル発着の民間航空便が一時的に飛行停止になった。

 空港周辺や上空のセキュリティーに関して、航空会社とドローン会社の関係者は、通信妨害装置など電子機器で垂直方向の対抗策を講じ、空港を「箱」で囲むことが最良の選択肢だと述べている。

 しかし、この「箱」の中には、旅客機が着陸・離陸する際に通る隙間がある。通信妨害装置は航空機の電子機器を誤作動させることもありうるため、この隙間は必要となる。しかし、この隙間は、敵やテロリスト、犯罪者のドローン操縦者に悪用される可能性がある。

将来のUAVエコシステム?

 セキュリティーと安全性の両方の理由から、世界中のほとんどの都市部では、ドローンは飛行禁止となっている。

 ヘリコプターよりも安価で小さく静かな宅配ドローンや空飛ぶタクシーなど、画期的な民生用UAVは技術的には準備が整っているが、そうした技術に対する規制は十分に整っていない。

 政府は、都市上空にドローンのエコシステムを作ろうとしているものの、規則を確立する上で課題に直面している。

 空域は、ドローン、ヘリコプター、民間機と軍用機が互い干渉しないよう垂直方向に分ける必要がある。飛行区域を設置するには、まず、電子的に飛行可能な通路を設置し、テストし、確認する必要がある。さらに、ドローンの安全性を確認したうえで、飛行ライセンスを出す必要もある。

 見本市に出展していたドローンの部品やレース用ドローンを製造するAstroX社のジュン・ミンス氏は、「2~3年後には法律が整備されると考えている」と語った。

 この分野の業界での基準が定まらない中、韓国の規制当局は、国際民間航空機関(ICAO)をはじめとする国際的な規制機関と連携している。

 MOLITのパク氏は「ICAOは世界的なガイドラインを定めており、私たちも世界の動向を注視している」と言う。

 MOLITの先進航空局を率いるキム・ドンヒョン氏は、2025年に第1段階のドローンエコシステムが稼働すると予想している。ドンヒョン氏は、ドローンのための「空中回廊」を想定しており、墜落した場合の被害を抑えるために、都市の水路の上空を飛行させることを目指している。

 次の段階では、ドローンの空中回廊を既存の地上交通につないで、鉄道、地下鉄、バスの主要駅にドローン用の飛行場「バーティポート」を設置し、空と地上の相互接続を可能にすることを目指している。

 最終的な目標は、2地点間の飛行だ。それが実現すれば、工場や交通機関の主要駅から、アパートのバルコニーやビルの屋上といった地点まで、配達やタクシーのドローンが飛ぶようになる。

 韓国はこの競争で技術的な優位性を持っている。韓国は全国で初めて5G無線ネットワークを導入した国であり、これにより一定のUAVの運用が可能になる。また、韓国はハイテクを生み出し、国民は「新し物好き」だ。

 しかし、人口が密集し、山が多いこの国は、空間的な不利があり、効率的にシステムをテストするには、広い地上の空間が必要となるため、都市部の飛行経路の候補を定めるには困難が伴う。

 キム氏は「点から点へ飛ぶためには、広い場所でテストし、それを都市環境に適用する必要がある」と言う。

 そのため、中国や欧州連合(EU)、米国など、広い国土を持つ国が先行する可能性がある。

 しかし、それでも「10年以内には大きな進化を遂げたい」とキム氏は語る。

 一方、松島のコンベンションセンターでは、パク氏は週末のドローンゲームでの韓国の活躍に期待していると述べた。

 ドローンサッカーでは、韓国が優勝し、中国、日本、米国がそれに続いた。ドローンレースでは、日本が優勝、フランスがそれに続き、韓国は3位となった。

 しかし、航空、通信、交通、自律走行、ロボットの技術を取り入れた製品で、もっと大きなことが実現できる。

 パク氏は「開発段階なので、誰が勝つかは重要ではない。今は視野を広げていきたいと思っている」と述べた。

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