安倍氏暗殺1年、受け継がれるレガシー
By Ben Wolfgang – The Washington Times – Thursday, July 6, 2023
その政策は、時代を先取りしたものであり、激化する米中冷戦の中で地政学的な利益をもたらした。
安倍晋三元首相が暗殺者の凶弾に倒れてから8日で1年。安倍氏が残したレガシー(遺産)は今後も、この国で長く受け継がれていくだろうということを改めて思い起こさせる。2007年、安倍氏は世界の指導者として初めて、米国、日本、インド、オーストラリアというこの地域の主要民主主義国で構成される緩やかな同盟「クアッド」を正式に提案した。それから16年後、クアッドは、台頭する中国の経済力と軍事的拡張に立ち向かい、東アジアの自由市場と開かれた貿易ルートを守るための多国間の取り組みの先鋒となった。
アナリストによれば、クアッドと日本の新たな安全保障上の影響力は、日本国内でも大きな重みを持ち、日本を国際政治の最前線へと導いた安倍氏のレガシーを確固たるものにしている。それはまた、首相を2度務めた安倍氏が、21世紀に中国の共産主義政権がどれほど大きな脅威になるかを、早くから認識していたことの証明でもあるとアナリストらは指摘する。
米平和研究所の東南アジア・太平洋諸島専門家ブライアン・ハーディング氏はインタビューで、「安倍氏は中国に関して先を見ていた。日米同盟を強化し、重要な改革を行うだけでなく、…東南アジアやインド、オーストラリアを重視した」と述べた。
「確かに、安倍氏は他の人々よりも先に、中国が向かっている方向を見ていたと言えるかもしれない。安倍氏は賢かったのかもしれない。運が良かったのかもしれない」
昨年7月の安倍氏の衝撃的な死により、強い影響力を持つ政治家としてのキャリアは終わりを告げた。安倍氏はそのキャリアの中で、日本の国内政治と安全保障態勢に大きな変化をもたらすとともに、日本を世界の舞台で重要なパワープレーヤーとして復活させた。
安倍氏の死は日本国内で政治的論争を巻き起こした。戦後日本の歴史上最も長く首相を務めた安倍氏を殺害した被告は、個人的な恨みからだったと語っている。2000年代初頭に母親が保守派の安倍氏や自民党と協力関係にあった統一教会(現世界平和統一家庭連合)に多額の献金をしていたため、財産が失われてしまったという。
統一教会の指導者らは調査に協力し、10年以上前に献金と勧誘の慣行を改革するための措置を取ったと述べた。岸田政権は、教団にさらに圧力をかけるよう求められている。岸田文雄首相は昨年8月、党と統一教会との関係を謝罪し、統一教会と国会議員との関係を調査するよう指示したと報じられた。
統一教会は、病院、大学、ワシントン・タイムズ紙を含む新聞社など、6カ国以上に数多くのベンチャー企業を擁する。
地域の専門家らは、安倍氏による長期政権を、短命でほとんどが忘れ去られる政権のパターンを打ち破ったゲームチェンジャーだと指摘している。安倍氏は2006年~2007年まで政権を担当した後、2012年12月に再び首相に就任し、2020年まで務めた。その後、5人の首相がそれぞれ1年だけ在任した。
ゲームチェンジャー
短期政権が日本政治の常だったが、アナリストによれば、安倍氏の8年間の統治は、日本が太平洋地域とそれ以外での役割を再構築するために必要な安定をもたらしたという。
ハーディング氏は、「日本は、政治的混乱のせいで、この地域での戦略的重要性という点で、十分に能力を発揮できてこなかった。日本の外交政策が変化し、日本の戦略的ウエートと影響力が変化したのは、安倍首相が政治的安定をもたらしたからだ」と述べた。
「日本は、外に目を向けることができるようになった。それまでは、毎年(首相が)変わるためにできなかった」
安倍氏率いる自民党は、2009年~2012年を除く過去30年のほとんどの期間、政権を担ってきた。アナリストによれば、米国では日米同盟の長期的な将来、特に安全保障問題について疑問の声が上がり始めていたという。
安倍氏はこの構図を変え、日米同盟を活性化させた。また、中国に立ち向かうための多国間戦略の青写真を描くことに貢献した。
「安倍氏は、他の人々より早く、中国がもたらす『競合』を『認識』していたのではない。実際は、前面に立って、競合を作り出した」。ペンシルベニア大学のフレデリック・ディキンソン教授(東アジア研究センター所長、日本史)は言う。
日米同盟はその後も深まり、安倍氏と自民党はオバマ政権、トランプ政権を通じて緊密な関係を維持した。安倍氏の政策は、昨年末に日本が自国の安全保障と太平洋地域の安全保障のために大規模な投資を行うと発表する下地にもなった。
米国防総省の高官は、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の防衛3文書を歓迎した。
文書では、強力な反撃能力を求め、2027年までに国内総生産(GDP)の少なくとも2%を防衛費に費やすという目標を掲げている。
専門家らは、日本のこの新しい防衛政策が太平洋の安全保障に大きく貢献することは間違いないと指摘する。安倍氏の先駆的な考え方によって、若い日本国民は、自国を本格的な軍事力を持つ、世界の舞台での正当なアクターと考えるようになった。
岸田氏は安倍氏の政策をほぼ踏襲している。だが、自民党内の派閥が後継者を見つけられずにいることからも、安倍氏の存在の大きさの一端を推し量ることができる。
かつて国会で安倍氏を支持した自民党の100人の派閥のメンバーは最近、新しいリーダーを指名できなかったため、「集団指導体制」を採用すると発表した。
ジャパン・タイムズは今週、「専門家によれば、安倍氏が亡くなる前にすでに見えていた派閥の亀裂は、新体制のもとでさらに深まり、その規模が示すよりもはるかに力を失い、不満を抱いたメンバーが離党する可能性もある」と報じた。
安倍氏の最も永続的な功績は恐らく、外交政策と地域や世界における安全保障上のプレーヤーとしての日本の新たな存在感だろう。
ディキンソン氏は、「この新しいアジア太平洋地域で対立が強まったことが、安倍氏の最も基本的な国内政治目標の達成に大きく貢献したことは驚くに当たらない。地政学的緊張が高まる中、過去10~15年の間に成人した日本の若者は、日本の保守的な体制と強力な防衛態勢を支持する傾向が親の世代よりもはるかに強い」と指摘した。