半導体戦争が激化、取り残される中国
By Andrew Salmon – The Washington Times – Thursday, October 5, 2023
【ソウル】世界中で半導体が持つ影響力が拡大し、地政学的な環境が変化していく中、日本とインドが半導体の主要製造拠点として台頭しようとしており、21世紀の産業にとって欠くことのできない半導体市場で強まる中国の影響力を削ぎたいという米国の期待に沿った動きとなっている。
2026年までに世界で新たに稼動する半導体製造工場の4分の1以上は中国にあり、中国はすでに、世界市場でそれほど高度でないローエンドチップ(半導体)の50%から60%を供給している。米政府関係者や民間のアナリストは、中国が最近、外国からのサプライチェーン(供給網)が遮断されているにもかかわらず、予想外の技術的発展を遂げ、国産の5Gスマートフォンチップを製造したことに衝撃を受けている。
台頭する中国に対抗する米国にとって、この二つの新たな供給拠点を民主主義国から得られることは有益であり、米国は2017年以来、最先端半導体の優位性を維持するために同盟国を自国の影響下に置こうとしてきた。日本とインドはともに中国と安全保障をめぐって対立しており、それは経済安全保障政策にも影響を与えている。
米国の同盟国、日本は、台湾や東シナ海をめぐる中国の動きを警戒している。インドは、世界最大の民主主義国であり、政治的には非同盟だが、中国とは南アジア全域で影響力の獲得を競い合い、ヒマラヤ山脈やベンガル湾でも中国と直接衝突してきた。
すべてに半導体
半導体の有力業界団体SEMIの社長兼CEOであり、インド系米国人のアジート・マノチャ氏は、これらすべてに強い関心を持っている。半導体業界43年のベテランであるマノチャ氏は、ワシントン・タイムズ紙とのインタビューで、この業界に入るきっかけとなったのは米国のSFテレビシリーズだったと述べた。
「『ナイトライダー』をよく見ていたが、非現実的だと思っていた。だが今、それが現実になっている。車に行き先を指示することができる時代になった」
何十年も前から、デジタル技術の重要な部分を占めてきた半導体に強い関心を示してきたのは、製造業者や技術に詳しいファンだけだった。それがドナルド・トランプ大統領の誕生によって一変した。トランプ氏は、半導体を中国との経済的・政治的衝突における戦略兵器と位置づけた。
半導体市場の規模は非常に大きい。SEMIのデータによれば、昨年の世界売上高は5800億㌦だった。マノチャ氏は、2030年までにほぼ2倍の1兆㌦になると予測している。つまり、過去60年間の成長を10年以内で達成するということだ。
「半導体はあらゆる産業の中心的存在だ。ここにあらゆるものが集まっている」
2022年から2026年の間に、世界中で71の主要なチップ製造拠点が新たに完成することが分かっている。
中国が最多の21カ所、台湾は16カ所、米国とメキシコに11カ所、欧州と中東に10カ所、日本は8カ所、東南アジアと韓国に各3カ所となっている。
新しい技術が生まれ、高性能半導体が世界の経済的覇権争いの中心的役割を担うようになっている。「かつては3~4年ごとに(機器やサービスなどの普及に重要な役割を果たす)キラーアプリが登場していた。今は複数のキラーアプリが存在している」
すでに、次世代の6G、7Gモバイル通信、IoT(モノのインターネット)、自律走行車、自律型機械、AI、量子コンピューティング、人間の脳とデジタル世界のインターフェースとなる「ニューロモルフィックス」が登場した。
これらすべてがデータを生成し、使用するため、データセンターへの需要が爆発的に高まった。マノチャ氏は、これに対応するために、業界で「ファブ」と呼ばれる半導体製造工場が、すでに発表されている71カ所に加え、10年以内にさらに70~80カ所に建設されると予測している、
これは良いニュースだ。しかしリスク要因もある。気候変動の影響、データセンターが必要とする膨大な電力、欧米の科学・技術人材の激減などだ。さらに米中の地政学的対立が強まり、この世界で最も強力な二つの経済圏を「デカップル(分離)」させる恐れもある。
各分野の専門性、戦略的競争
マノチャ氏によると、政治指導者らは、緊張が高まったり、貿易障壁が生じた場合に備えて、半導体を確保し、信頼できる供給源を維持するため、自国で製造できるようにしようとしている。各国は厳しい競争の中で優位性を求めて必死になっている。
「どの国も投資はできる。…どの国にとっても戦略的に重要なことだが、競争も激しい」
最先端半導体の設計は主に米国で行われ、最高級半導体製造装置はオランダと日本が販売している。日本は先端化学製品の主要供給元でもある。
古くて性能の劣る「レガシー」半導体の大量生産は中国が独占し、より高性能な最新半導体の生産は台湾と韓国が独占している。完全な半導体に仕上げるパッケージング工程はインド太平洋地域で行われ、テストは主に米国企業が管轄している。
マノチャ氏は「すべてが互いに依存している。スタート地点から最終製品まで、(半導体は)2万マイルを移動する。一つの国がくしゃみをすれば、それが連鎖的に混乱を引き起こす」と述べた。
韓国と台湾は北朝鮮と中国からの戦略的脅威に直面しているため、米政府は製造インフラの多様化によってリスクを分散させようとしており、台湾のTSMCや韓国のサムスン、SKハイニックスといった企業に、米国内に施設を建設するよう働き掛けている。
マノチャ氏は、中国は依然として他国よりも大量に生産しているが、その半導体は「米国から1~2世代遅れている」と述べた。
追いつき追い越せの中国
アナリストらによれば、中国政府は多額の援助を行っているが、オランダのASMLや日本の東京エレクトロンなどが製造している高性能半導体製造に必要な機械を中国企業が(分析し、コピーして)リバースエンジニアリングできる可能性は低いという。
それが生産能力の制約となっている。
マノチャ氏は、「多くの企業秘密があり、生産性と精度を向上させる高度な技術がある。このような高精度のツールを持たない企業にとって戦いは厳しい」と述べた。
追いつこうとしている中国にとってさらに脅威があるとすれば、それは、半導体製造市場に参入してきた二つの新興勢力だろう。
日本では、NEC、ソニー、トヨタが出資するコングロマリット、ラピダスが製造業への復帰を発表した。オランダの機械メーカーASMLが支援を約束し、IBMは技術的な専門知識を提供している。
マノチャ氏は、「(日本は)この産業に必要なすべての要素を備えている。ステップアップは容易にできる」と述べた。
超高純度化学薬品と製造機械の主要供給元である日本は、熟練した労働力と政府主導の産業イニシアティブで成果を上げてきた。一つの疑問は、ラピダスが高性能半導体の大量生産に必要な巨額の資本を集められるかどうかだ。
2番目の新興勢力はインド。工学、化学、物理学の分野で優秀な人材を国内に有し、ソフトウエアと半導体の設計で強みを持ち、巨大な国内市場を有している。
マノチャ氏は、「インドに欠けているのは、(半導体製造設備をサポートする)エコシステムだ。しかし、新政策の下でこれを実現できる可能性はある」と指摘した。
ナレンドラ・モディ首相は半導体戦争に強い関心を示しており、日本は支援を約束している。米半導体大手のマイクロンは先月、インドで大規模な工場とテストセンターの建設に着手した。
戦争と平和
冷戦後、サプライチェーンを相互に依存するようになったが、政治的対立はそれ以前からあった。
1980年代、日本が米国でメモリーチップをダンピングし、米国との間に深刻な貿易摩擦を引き起こした。2017年、トランプ政権は中国に半導体への追加関税を課し始めた。そして2018年、日本は韓国との緊張が高まる中、韓国への主要化学物質の輸出制限を課した。
最近では、バイデン政権が、中国の国防部門を強化するために使用される可能性があるとして、中国への高性能半導体や機器の販売を禁止した。米国はこの取り組みの中で、日本、オランダ、韓国、台湾などの同盟国に、中国への販売を抑制するよう働きかけている。
これに反発した中国は、携帯電話から電気自動車(EV)まで幅広いハイテク製品に不可欠な「レアアース(希土類)」を含む原材料の輸出を禁止して応戦した。
マノチャ氏は、中国と米国の企業が加盟するSEMIは、半導体戦争では中立だと言う。加盟の原則は国際貿易ルールの順守である。それ以上に、SEMIは「産業界を政策立案者に引き合わせる」外交的役割を担っていると同氏は言う。
日本が2018年に韓国の半導体メーカーに対する懲罰的措置を発表したとき、世界のハイテク業界はパニックに陥った。SEMIは裏ルートからこれに介入した。
マノチャ氏は「韓国への私の助言は報復をしないこと、日本へは影響を最小限に抑える方法を助言した。その結果、輸出制限を30日に短縮することができた」と当時を振り返った。
その結果、韓国の半導体生産は影響を受けず、世界の半導体関係者らの懸念は解消された。
マノチャ氏は、米中両首脳間の外交が長い間ほぼ凍結状態にある一方で、ここ数カ月の間にアントニー・ブリンケン国務長官やジーナ・レイモンド商務長官らバイデン政権の高官が中国を訪問し、直接会談を行ったことを評価している。
「これまで、私は政府にはこの分野に介入してほしくないと思っていた。だが今では介入してほしいと思っている。各国政府は、国家安全保障上の問題を解決するために協力し、サプライチェーンを混乱させないようにする必要がある」