中国が情報戦を支配している 台湾のAI技術者が警告
By Ryan Lovelace – The Washington Times – Friday, February 16, 2024
太平洋でのサイバー空間の覇権争いを最前線で見てきた台湾のIT技術者が、中国がますます効果的で、洗練された情報戦を繰り広げ、米国のサイバー空間に影響を及ぼしている一方で、多くの米国民はこの戦いをそれほど深刻に捉えていないようだと警告している。
杜奕瑾(Ethan Tu)は2017年、マイクロソフトの主任開発マネジャーというポストを捨て、台北に研究所「台湾AIラボ」を私費で設立した。創業間もないこの研究所は、人工知能(AI)モデルを用いてサイバー空間での外国による影響工作を阻止し、対抗する新たなテクノロジー・プラットフォームの最前線にいる。
杜氏のプラットフォームは米政府の注目を集めている。中国は、台湾を自国の領土の一部と見なし、併合すると宣言しており、杜氏によると、台湾AIラボのサイバー警報システムで、中国による台湾侵攻を予測できる可能性があると述べた。だが今、サイバー空間で主導権を握っているのは共産党政権の中国だという。
杜氏は、ワシントン・タイムズとのインタビューで227枚の資料を示しながら、「中国は情報空間をかなり支配している」と指摘、研究所の業務について詳しく説明した。
「国民も政府も、米国は実情をよく分かっていない。米国は強いと思っている。インターネット上で生じる混乱は民主主義だからこそだと思っているようだが、そうではない」
台湾AIラボは、ソーシャルメディアやインターネット上の認知戦を検出し理解するための、技術的知識のないユーザー向けの診断ツールとして、「インフォデミック(Infodemic)」を構築した。このツールは、大規模言語モデル(LLM)、つまり強力なアルゴリズムを使って、フェイスブック、X、YouTube、TikTok、台湾のソーシャルメディアプラットフォームなどのウェブサイトでの、組織的で悪質な行動をリアルタイムで特定する。
台湾は、認知戦での攻撃と防御のテストケースとして注目されている。1月に行われた台湾総統選挙は、中国、米国など世界中の関係者の強い関心を集めた。
総統選後、台湾AIラボは、デジタル集団がいつ、どこに集結し、どのような言説を広め、検知されるのをどのような手法で回避したかを記録した報告書を発表した。それによると、AIが生成した画像、動画、音声で偽装したデジタル「荒らし」集団をフェイスブック上で発見した。それらはすべて、中国に敵対的と見られる候補者や政党に反対する世論を誘導するように作られたものだった。
中国のデジタル破壊工作に関するこの発見によって、中国が取る世論誘導の手法のパターンの把握に役立つ可能性がある。米国では11月に大統領選挙が実施される。
台湾AIラボは、フェイスブック上で台湾を北京語で攻撃し、米国を英語で非難する大規模な荒らしグループを発見した。このような組織的攻撃は、昨年、バイデン大統領が再選出馬の意向を正式に表明した後、激化したという。
台湾AIラボの活動は欧米の専門家の注目を集め、非営利団体「特別競争力研究プロジェクト(SCSP)」をはじめとするワシントンの有力中国ウオッチャーの称賛を受けた。
30年以上米中央情報局(CIA)に務め、昨年退職したSCSPのチップ・アッシャー氏は、今月開催された「情報・国家安全保障同盟」のイベントで杜氏の実績を称賛した。
アッシャー氏はこのイベントで、杜氏と台湾AIラボは「AIを使って、ソーシャルメディアに現れる悪質な偽情報キャンペーンを検知し、特徴づけ、台湾政府が対策を講じられるようにする素晴らしい仕事をしている」と述べた。
杜氏は、グーグルの元最高経営責任者(CEO)のエリック・シュミット氏が所長を務めるアッシャー氏のSCSPを高く評価している。一方で、米国の他の大手ハイテク企業には嫌悪感を抱いていることを認めた。杜氏はワシントン・タイムズ紙に、マイクロソフトを辞めたのは中国と取引があるためであり、米国の大手ハイテク企業の多くは、国のより広範な利益を考慮することなく、自社が利益を上げることにとらわれていると語った。
「もちろんマイクロソフトは中国から(利益を)得ている。営利企業は…利益に反したり、どこかの国家に逆らったりするようなことはしない。中立であることを示したいからだ」
マイクロソフトはコメントの要請に応じなかった。杜氏が抱いている米国のハイテク企業への不満は、マイクロソフトだけにとどまらない。
杜氏は、シリコンバレーの多くの企業や幹部らは、中国の機嫌を損ねないようにすることに熱心だが、その一方で中国は、台湾国内に混乱を生じさせ、米国に不和をもたらそうとしていると述べた。
中国の習近平国家主席は、2027年までに台湾を掌握する準備をするよう軍隊に指示したと伝えられている。杜氏は、中国が2022年にウクライナに侵攻する前のロシアや、10月7日のイスラエル急襲前にイスラム過激組織ハマスがとった戦術に似たデジタル戦略を実行すると予想していると述べた。
サイバーセキュリティーの専門家によると、ウクライナはロシアのデジタル攻撃に対して、一部の技術専門家が予想していたよりもよく持ちこたえたという。杜氏は、台湾は警戒態勢を整えており、ウクライナよりも、巨大な隣国を監視する準備は整っていると述べた。
「台湾の方が意識が高いと言えるだろう」
また杜氏は、オフラインにしたり、特定のソーシャルメディアサイトを避けることで、中国の悪質なデジタル影響工作から身を守ることができると思っている人がいるなら考え直した方がいいと警告した。
同氏は、昨年、台湾の消費者が卵を買い占め、食の安全が脅かされたことは、偽情報と戦略的に配置されたオンラインメッセージの威力を示す一例として指摘した。台湾AIラボの研究者は、悪意のあるサイバーアクターが卵の輸入に関わる出来事について偽のコンテンツを作り出し、それらがパニック買いにつながったことを発見した。
卵の価格高騰と供給不足は、オンラインでもオフラインでも人々に影響を与えた。