思考で機器をコントロール 新技術巡り国際競争

(2023年10月26日)

2016年4月16日、フロリダ州ゲインズビルで開催されたマインドコントローン・レースで、脳制御インターフェース・ヘッドセットを使ってドローンを飛ばすフロリダ大学の学生(AP Photo/ Jason Dearen)。

By Ryan Lovelace – The Washington Times – Friday, October 20, 2023

 米国防総省の情報戦の専門家らは、ブレインハッキングについて警告している。人の思考を読み取ったり、情報を脳内に挿入したりする技術だ。

 人間を「Xメン」に変えるという取り組みは、もはやSFではないようだ。

 実際、人間をプロフェッサーXのような超人に変身させ、思考で機器をコントロールできるようにするブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の完成を目指す国際競争が進行中だ。

 BMIはブレイン・コンピューター・インターフェイスとも呼ばれ、これによって脳の電気信号、それを処理してタスクを実行させる装置とを直接リンクさせることができる。

 中国は、この技術を使って「読心術」を可能にしたと発表しており、米国の2人の科学者は、マウスに偽の記憶を挿入する能力を実証した。

 「新しい技術の中で、これほど軍にとって可能性がある技術はない」。暗号戦担当将校のマーク・ウェス中佐は、米海軍研究所の「プロシーディング」誌5月号にこう書いている。

 ウェス氏は、海軍士官がこの技術を使って戦艦の航行、兵器、機械システムを制御し、「思考だけで艦船に命を吹き込む」世界を思い描いている。

 中国とロシアは米国と違って、この装置が人間に及ぼす影響をほとんど気にすることなく、自国の戦闘力にこの技術を短期間で採用する可能性が高いとウェス氏は言う。

 ウェス氏は、この技術の脅威についてよく考えるよう呼び掛けている。特に、もしこの技術が進歩し、脳を完全にマッピングし、ニューロンから記憶が再現できるようになればどうなるかについて警告している。

 ウェス氏は「人のBMIをハッキングして、心の中の情報を引き出すことができるだろうか。BMIに接続するだけで、誰かを尋問できるのだろうか」と疑問を投げかけている。

 軍がこれらの疑問に対する答えを持っているかどうかは不明だが、技術の応用の可能性については調査している。

 ウェス氏はワシントン・タイムズのインタビューをいったんは受け入れたが、その後、国防総省当局からの命令を理由にキャンセルした。

 米政府は、脳技術が従来の尋問方法やポリグラフよりも効果的なうそ発見器になるかどうかを研究してきた。

 海軍大学院のアイーシャ・アフマド大佐の2021年の修士論文によれば、国防総省は神経画像による脳活動を調べるうそ発見研究に資金を提供している。

 アフマド氏は脳波図(EEG)を使って、過去に軍が実施した脳の電気的活動を測定する神経画像実験を検証。米海軍が脳波を使って、統計的信頼度中央値95%、誤差率1%未満で欺瞞を見破ったと報告している。

 アフマド氏は軍の能力を向上させるための解決策を提案し、それを「戦争統合うそ発見システム(WILDS)」と名付けた。脳内の電気信号、脳への血流、体温、心拍数などを測定し、米国の敵から情報を入手するというものだ。

 国防総省はアフマド氏の提案を進める計画があるかどうかを公表していない。

 アフマド氏の論文指導教官、シャノン・ホーク氏は、アフマド氏の提案が取り入れられる可能性はあると述べた。ホーク氏はインタビューを受け入れたが、その後拒否した。

 米国の競争相手もまた、脳技術の開発を望んでいる。中国の天津大学と中国電子は2019年、電気信号を通じて思考を解読できるブレイン・トーカー・デバイスを開発したと発表した。

 中国電子のデータ科学者チェン・ロンロン氏は2019年5月、この技術は医療、教育、セキュリティー、自制などに使われると発表した。

 この発表の3日後、米国防総省の研究開発部門は次世代非外科的神経技術(NGNN)プログラムの詳細を新たに発表した。

 この国防高等研究計画局(DARPA)のプログラムは、ドローン(無人航空機)の群れを制御できるウェアラブルインターフェースの開発のために2018年に始まった。

 研究者らは、思考から情報を抽出し、外部機器を制御するための新たな技術の開発に取り組む一方で、知識を脳に挿入するために技術をどのように使用できるかを解明しようとしている。

 米国を拠点とする科学者らは、記憶を記号化する脳細胞を特定し、マウスの頭の中に偽の記憶を作り出すことに成功した。レーザーを使ってネズミの脳細胞を活性化させ、偽の記憶を植え付けた。この研究結果が10年前に発表された時、スミソニアン誌は神経科学のブレークスルー(突破口)として称賛した。

 軍の将校らは、この技術を短期的には動物に、長期的には人間に応用することに興味を示している。

 マーク・バーレ空軍少佐は2019年にマウス実験に関する論文で、今後5年から20年の間に脳技術への投資が増加すれば、「動物をリモートコントロール」する技術が社会的に受け入れられるようになる可能性があると指摘した。

 「これらの進歩によって、軍事での動物利用の可能性が広がる。物資の運搬なども可能だ。第2次世界大戦中はハトやコウモリを使って弾薬を運んだり、偵察や捜索・救難を行ったり、爆発物を探知したりする試みがなされた」

 BMIは、戦闘やスパイ活動に限定されるものではない。

 この技術は現代医学にも恩恵をもたらすことが期待されている。8月には、二つの研究チームが、脳内移植と人工知能(AI)アルゴリズムを使って、麻痺のある人々がコミュニケーションできるようにする研究の結果を発表した。

 MITテクノロジー・レビューによれば、18年前に脳卒中で話す能力を失った女性が、この技術を使い、自分のデジタルアバターで自分の声を再現して話をしたという。

 ブレイン・コンピューター・インターフェースを解明し、その応用例を人々に見てもらうため、米科学振興協会は11月15日まで、ワシントンのオフィスでブレイン・テクノロジー展を開催している。

 この展示では、脳技術の進歩の記録を見ることができ、ブラックロック・ニューロテック社の脳内移植とマイクロソフトのペイントやフォトショップなどのソフトウエアを使用して麻痺患者が作成したデジタルアートを展示している。

 AAASとブラックロック・ニューロテックの展示には、この技術の将来的な利用法についてのセクションがあり、他の画期的な技術の中でも、目の見えない人を見えるようにしたり、耳の聞こえない人を聞こえるようにしたりする「聴覚や視覚などの機能回復の新しい分野」についての実験が進行中であるとしている。

 ブラックロック・ニューロテックは「全脳データキャプチャー」を目指しており、来年には最初の製品が家庭用として発売される予定だ。

 AAASのオルガ・フランソワ氏によれば、家庭用といっても脳内移植がすぐに市販されるわけではない。

 「技術はまだないと思う。家電量販店でVRゴーグルを買うのとはわけが違う」

 億万長者のテクノロジー王イーロン・マスク氏は、この状況を変えようとしているかもしれない。マスク氏のニューラリンク社は、5月に食品医薬品局(FDA)の認可を受けた後、9月にBMI技術をテストするために人間の患者の募集を開始した。

 同社によると、最初の人を使った実験の目標は、自分の思考だけでコンピューターのカーソルを動かしたり、キーボードを打ったりできるようにすることだという。

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