ティックトックが子供の自殺誘発か 有害コンテンツを問題視
By Susan Ferrechio – The Washington Times – Tuesday, March 19, 2024
チェイス・ナスカ君(16)は2年前、走行中の電車に飛び込み、自ら命を絶った。両親や多くの人々は、中国系の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が、1000本以上もの不安にさせるような動画を一方的に表示することでチェイス君を自殺に追い込んだのではないかとみている。
議会が全米でのティックトック禁止につながる可能性のある法案を検討する中、ティックトック反対派は、このアプリへの中国によるアクセスや管理は問題の一つに過ぎないと主張している。専門家らは、ティックトックは子供にとって非常に有害であり、命を奪うこともあると指摘する。
保守系の非営利団体「家族研究所(IFS)」のエグゼクティブディレクター、マイケル・トスカーノ氏は、「多くの子供が利己的な目的で利用される可能性があり、私たちはこの問題に対処しようとしている。そのことを理解せず、地政学的な敵のことを念頭に置くのは賢明なことではない」と話す。
ティックトックを開いた瞬間、多くの子供が不安になるような画像を目にする。
「おすすめ」ページでは、動画が自動再生され、その多くはアルゴリズムによって選ばれる。チェイス君の場合、暴力と自殺に関する動画に集中していた。
IFSは、ティックトック社対クヌーセン裁判で法廷助言書を提出した。モンタナ州では、ティックトック社の親会社、字節跳動(バイトダンス、本社・北京)から切り離さなければ、ティックトックの使用を禁止するという州法が成立、この法律を巡って同州のクヌーセン司法長官が提訴されている。IFSの法廷助言書は、州側を支援するためのものだ。
ティックトックの禁止措置を取ったのはモンタナ州だけだが、この法律は連邦法案にも反映され、すでに下院が可決、バイデン大統領は署名を約束している。ティックトックを中国以外の企業に売却することを義務づけるものであり、全米で使用禁止につながる可能性がある。
下院の法案は、中国によるティックトックとそのユーザーデータへのアクセスを遮断することを柱としている。
トスカーノ氏をはじめとするティックトック反対派は、そのコンテンツは危険であり、特に子供にとって有害だと主張している。
ティックトックを批判する人々は、チェイス君はティックトックの有害コンテンツの犠牲になった多くの子供のうちの一人だとしている。
ララニ・エリカ・ウォルトンさん(8)とアリアニ・ジェイリーン・アロヨさん(9)は、2021年に自分で首を絞め、事故で死亡した。
2人は別々に、ティックトックで流行した「失神チャレンジ」に挑戦して、事故死した。ユーザーは意識を失うまで自分の首を絞める動画を投稿していた。この動画は2人の「おすすめ」ページに掲載されていた。
ティックトックの利用条件は13歳以上であるにもかかわらず、2人ともティックトックを利用していた。
アリアニさんは自室で飼い犬のリードで首を吊った状態で発見された。ララニさんは、ベッドにロープを結びつけ、窒息死していた。ベッドには、その日泳ぎに行くための水着が置かれていたという。
ティックトックに対する訴訟でチェイス君、ララニさん、アリアニさんの家族の代理人を務めるマシュー・バーグマン氏は、「子供を守る者としては、自殺につながるコンテンツや有害コンテンツ、中毒性のあるコンテンツを子供に送りさえしなければ、ティックトックの所有者が誰であろうと気にしない。国家安全保障上の懸念は当然だが、それとは別に、安全に関する懸念があちこちで生じている」と述べた。
1200以上の家族がティックトックや他のソーシャルメディア企業に対する訴訟に関わっており、児童心理学者は16歳未満、さらには18歳未満の子供にソーシャルメディアアプリにアクセスさせないよう親に警告している。
反対派によると、ティックトックは、ユーチューブやインスタグラムなど、他のソーシャルメディアアプリとは異なり、有害コンテンツを積極的にプッシュするように作られたアルゴリズムを使用しているため、子供にとって非常に有害であるという。表示される動画は、好み、共有、「いいね!」だけに基づいて選ばれるのではなく、動画の視聴時間に基づいてより過激なコンテンツを送り込むことで、ユーザーを「超現実的な体験へと追いやる」という。
画面が、摂食障害や自殺、子供の依存症を助長しかねない有害なコンテンツの動画であっという間にあふれかえることもある。
小児科医、心理学者で、子供のネットの利用の仕方について親たちにレクチャーしているレナード・サックス氏は、ワシントン・タイムズに、「アルゴリズムは、ユーザーが何を最後まで見るか、何を再び見るかを監視している。そして、提供するコンテンツをカスタマイズし始める」と語った。
サックス博士によれば、子供は、カスタマイズされた動画を見て、アプリが実際に自分の心を読むことができると思っており、それは必ずしもいいことではない。
このアプリはユーザーの弱いところを把握し、うまく利用しているようであり、危険な行動を促すような陰鬱で不安にさせる動画をさらに供給するようにできているという。
サックス氏は「ティックトックは、子供を非現実的な世界に誘い込み、特に女の子は拒食症や自傷行為、自殺を勧めるスレッドに吸い込まれている」と述べた。
ティックトックは米国で1億7000万人以上のユーザーを持っている。ユーザーの年齢の内訳について知るためティックトックに問い合わせたが、情報は得られなかった。だが、ピュー・リサーチ・センターの2023年の報告によると、調査対象となった13~17歳の1500人の子供のうち、63%がティックトックを利用、半数近くがほぼ常時、または1日に何回か利用していた。
利用者の多くはそれよりも低年齢の子供の可能性もある。
ニューヨーク・タイムズ紙は2020年、ティックトックの内部データを公開、それによると、米国の日常的な利用者の3分の1以上が14歳以下だった。
デジタル・ヘイト対策センターは最近、ティックトックが子供に与える影響を調査するため、年齢を13歳としたアカウントを複数開設した。
そのアカウントは、外見やメンタルヘルスに関する動画が少し流れ、「いいね」が付けられた。
3分もしないうちに、ティックトックは「自殺コンテンツ」を勧め、8分以内に摂食障害に関するコンテンツを提供した。39秒ごとに、外見とメンタルヘルスに関する動画を勧めていた。
対策センターのCEO、イムラン・アフマド氏は「この結果は、すべての親にとって悪夢だ。有害で悲惨なコンテンツであふれかえり、周囲の世界に対する理解や心身の健康に大きな累積的影響を与える可能性がある」と述べた。
昨年、ティックトックは18歳未満のユーザーに対して1日60分の時間制限を設けたが、この制限は簡単に回避できると言われている。
中国はアプリにもっと厳しい制限を課している。中国の10代の若者はティックトックを1日40分しか利用できず、コンテンツは子供向けの動画に制限されている。
研究者によれば、米国版ティックトックには有害なコンテンツばかりでなく、精神的な問題を抱える人々がサポートや情報を見つけるのに役立つコンテンツもあるという。
2023年のミネソタ大学の研究によると、ティックトックのアルゴリズムは、メンタルヘルスに関してサポートを求める人々にとって有益な動画から始まり、その後、否定的で有害なコンテンツへと徐々に発展していく可能性があるという。研究参加者は、「興味ありません」ボタンをクリックしても、フィードに不安にさせるような動画が表示されるのを止めることはできなかったと述べている。
ティックトックの米国での運命は、現在上院に委ねられている。ティックトックを中国企業ではない企業に売却することを求める法案は下院で可決された。その後、進展は見られないものの、超党派の支持を得ているようだ。
ティックトックのCEO、周受資氏は先週、この法案が成立すれば「米国でのティックトックの禁止につながる」とユーザーに訴え、上院に電話して「声を届ける」よう呼び掛けた。
法案は下院で超党派の圧倒的多数で可決されたものの、数十人の議員がアプリの禁止に反対票を投じた。法案反対派は、ティックトックは中小企業にとって非常に重要であり、ティックトックが提供している社会的つながりやサポートは、他では得られないと主張している。
ロバート・ガルシア議員(民主、カリフォルニア州)は、ティックトックは世界、政治、エンターテインメント、ポップカルチャーに関する情報収集の場だと述べた。
「私たちはティックトックが表現の場でもあることを知っており、それを禁止することは、ティックトックを大切にしてきた有色人種や同性愛者のコミュニティーのクリエイターたちが声を発する場、プラットフォームを奪うことにもなる」
一方、子供の権利を擁護する人々は、親会社を変えさせても、ティックトックの有害なコンテンツから子供を救うことはできないと訴える。
サックス氏は「上院で何が起こるかなどという議論自体、私が親たちと議論していること、つまりティックトックが安全かどうかということとは無関係。つまり、子供はティックトックを使うべきでないということだ」と述べた。