武力行使せずに台湾併合を目指す中国―米シンクタンク

(2024年5月19日)

2023年5月7日、台湾の台北にある国立孫文記念館で、台北101ビルの近くにはためく台湾国旗。台湾で総統選挙と立法院選挙が実施される数週間前、中国は自国の領土と主張する民主主義国家を併合するため、軍事力を行使するという脅しを新たにした。(AP Photo/Chiang Ying-ying、File)。

By Bill Gertz – The Washington Times – Monday, May 13, 2024

 中国は多岐にわたる分野で台湾に情報戦を仕掛けており、政治的威嚇とサイバースパイによる影響工作を通じ、軍事力を主要な手段として台湾を占領することを計画している――二つのシンクタンクの新たな報告が指摘した。

 情報分析会社ブーズ・アレン・ハミルトンのアナリストが作成した報告によると、台湾への攻勢では中国軍が中心的役割を果たしており、それによって、中国の習近平国家主席が中国共産党の歴史的使命と主張する台湾の「完全統一」を目指している。報告書は、サイバー攻撃と影響工作、あるいは本格的な軍事行動によって中国が台湾を占領することは、世界の安全保障にとって「容認できないリスク」をもたらすと警告している。

 「台湾の完全な孤立、併合は、インド太平洋やその他の地域での米国の影響力やパワーバランス維持能力に対する信頼を著しく損なうことになる」

 また、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の報告書は、中国は戦略的な威嚇を用いて、戦争することなく台湾を占領することが可能だと警告している。

 「米国とその同盟国は、中国による侵略の可能性に備えなければならないが、それに代わる中国のハイブリッド戦争や威嚇戦略にも備えなければならない」

 AEIの報告書の著者の一人ダン・ブルメンタール氏は次のように述べている。「船舶検査体制、重要インフラへの物理的攻撃、サイバー攻撃、経済ボイコットを組み合わせることで、より『平和的』な指導者を求める住民の間に混乱と不満を拡散させることができる」

 ブーズ社の報告書は60ページに及び、公開情報を基に作成された。台湾の政府や言論を転覆させるために人工知能(AI)の利用を強化するなど、台湾支配を目指す中国の間接的な手段に関する計画と能力について、詳細な分析を行った。報告書によると、チャールズ・ブラウン統合参謀本部議長は、国防総省の情報評価を基に、「習近平氏は実際には武力で台湾を奪おうとは考えていない。他の方法で実行しようとするはずだ」と述べている。

 報告書は2023年の中央情報局(CIA)の評価を基に、中国の軍事力は強化されているものの、台湾侵攻や封鎖を成功させる自信を持つには至っていないと指摘している。補給の問題と台湾の防衛力が依然、武力による占領を阻む大きな要因になっているという。

 また、支配政党の中国共産党は、他国との戦争で敗北すれば、党の正当性がさらに損なわれるのではないかと恐れているという。

 報告書は、「最終的に台湾との戦争に勝てなければ、中国共産党にとって破滅的であり、内部からその正当性が崩れていく可能性が高い」と指摘した。

備えよ

 報告書は、米政府と民間部門の指導者らに、戦略的に備えることで中国の計画を見極め、対抗して、武力行使へとエスカレートするのを阻止するよう求めている。それによると両部門は、「異常な活動を検知するための備えをし、内部にハニーポット(攻撃を誘引するおとり)を設置して、(攻撃を発見するための)シグネチャーマッチングに耐性のある中国からの環境寄生型(LotL)攻撃を発見する」必要があるという。

 LotLはサイバーセキュリティー用語で、「ボルト・タイフーン」と呼ばれる中国政府と連携したサイバー集団がこの手法で、標的としたネットワーク内に常駐するソフトウエアを使って米国の重要インフラに侵入した。中国のサイバー戦能力は、台湾のデジタルインフラへの依存度を高めるための秘密工作から、サイバー攻撃による重要インフラの破壊まで多岐にわたる。

 報告書は「(中国は)台湾をめぐる紛争のようなシナリオで、エスカレーションを抑制、管理し、米国に勝つためにサイバー能力を開発している」と述べている。

 また中国は、技術者の不足と先端半導体の不足のため、軍事用AIシステムの開発に依然として手を焼いている。

 その一方で報告書は、中国がAIを使ってミサイルの有効性と精度を向上させ、民間の被害を最小限に抑えようとしているとしている。AIを搭載したスマートミサイルによって、侵攻後の復興費用を最小限に抑え、ウクライナでロシアの無差別砲撃によって起きたような世界的な反発を抑えることができる、と報告書は述べている。

情報戦争

 中国の戦略家は、情報戦は中国が非対称的な優位性によって米国の通常戦力を打ち負かすことができる重要な新しい戦場だと考えている。

 中国は長期的戦略で、軍事的威嚇、経済的威嚇、政治的戦争を通じて、台湾の併合計画に対する国際的な反対を弱めることを狙っていると報告書は述べている。

 米国では、中国政府は米国の指導者の信用を失墜させ、米国を国際情勢を不安定化させる勢力や信頼できないパートナーとして描写するために、影響工作や情報操作キャンペーンを展開している。

 「同時に、中国のサイバースパイ活動は、米国の議会、政府の要人から米台政策に関する機密情報を収集することに重点を置き、当然ながら、そこを起点に、台米関係などに関する政策に微妙に影響を及ぼそうとしている」

 中国にとって重要な標的は、半導体製造での台湾の優位性を低下させることだ。

 台湾は「シリコンの盾」、つまり世界の半導体製造大国としての地位を戦略的抑止力として利用してきた。しかし、米国や他の国々が台湾製マイクロチップへの依存度を下げようとしているため、その優位性が脅かされていると報告書は述べている。

 台湾の半導体産業の弱体化は、台湾に対する中国の威圧を強める可能性があると報告書は述べている。

「国家の若返り」

 「(中国が)台湾統合を追求するのは、経済的に繁栄し、軍事的に強く、文化的に豊かで、政治的に影響力のある、世界的に支配的な大国としての地位を回復するという復古主義的ビジョン『中華民族の復興』を達成するためだ」と報告書は述べている。

 ブーズ報告によれば、2022年以降、人民解放軍(PLA)が大規模な実弾射撃を行い、外交対話を制限し、台湾の組織に対するサイバー攻撃を「大規模に」増加させた結果、緊張が高まっているという。

 報告によると、軍事的にPLAは、台湾攻撃への米国の介入を排除するための部隊の近代化目標を2027年に設定している。しかし、報告書はまた、中国が一定のタイムテーブルを基に一連の攻撃的な動きを行う可能性は低いとの見方を示している。その代わりに、中国の軍事・政治戦略家は、長期的な目標である覇権奪取を目指し、複合的な戦略を採用している。

 中国のサイバー活動と将来の戦争との関連も、報告書の「もしも」のシナリオに盛り込まれている。

 中国の執拗なAIサイバー・影響工作は、台湾内部に分裂を作り出し、台湾の指導者らに米国が台湾支援のために介入することはないと思い込ませることを目指している。今後、危機的状況が発生すれば、中国が台湾に侵攻する紛争へと発展する可能性はある。中国はその前に、軍事ネットワークや民間インフラに壊滅的なサイバー攻撃を仕掛け、偽情報を拡散して通信を遮断する。

 同時に、中国の軍事ハッカーが米国の重要インフラや兵器システムを攻撃し、介入を遅らせる。

 「台湾軍が戦意を喪失し、混乱に陥り、米国の強力な支援がなければ、中国は容易に勝利できる」と報告書は述べている。

同盟関係の変化

 報告書は、戦争が差し迫っているとはみられていないが、中国による台湾の完全な孤立や併合は、アジアでの同盟関係や経済的依存関係に大きな変化をもたらし、地域の国家が中国の影響や支配下に置かれることになるとしている。

 「このような厳しい予測に対して、米政府と民間部門は、特にサイバー領域において、断固とした戦略的計画を策定しなければならない」

 台湾の国家安全保障システムは、中国による情報活動、サイバー作戦、心理戦を生かした攻撃を受けており、中国は国内的にも世界的にも台湾の不安定化を狙っている。報告書は、2010年代初頭から、「トロピック・トゥルーパー」と呼ばれる中国のハッカー集団が、台湾の軍事機密ネットワークへのアクセスを試みていると指摘している。

 AEIの報告書は7人の専門家によるもので、米国と地域の同盟国やパートナー国は台湾防衛のための明確な戦略を欠いており、議論はほとんど中国の侵略を抑止することだけに集中していると述べている。

 「(戦略に関する議論は)より可能性の高いシナリオをほとんど無視しており、そのシナリオの要素はすでに進行中である。つまり、中国の威嚇は侵攻には遠く及ばないものの、台湾をコントロール下に置いている。米国とそのパートナー国は、単一の侵攻というシナリオに焦点を絞ることから一歩退いて、中国がもたらす脅威の全容を再評価し、その脅威のあらゆる側面を打ち負かすための首尾一貫した戦略を策定しなければならない」

 報告書はワシントンの戦争研究所と共同で作成されたもので、米国と同盟国の政府は、「短期決戦型」の強圧的な戦略を取り、中国が台湾を支配しようとするであろうことを理解し、それに対抗する必要があると述べている。

 報告書は、中国が威嚇行動によって、台湾を両岸平和委員会に参加させる可能性があり、開かれた対話という名目で、台湾政府と住民を支配することになると警告している。

 「(この報告から)台湾と米国は依然、台湾を屈服させ、最終的に併合することを目指した数年にわたる強圧的な活動を抑止または阻止する準備ができていないことが明らかになった」

 中国が台湾に対して、現在よりはるかに激しい威嚇行動を開始する危険性もある。

 報告書は「威嚇から屈服へ:中国はいかにして戦争せずに台湾を奪取するか(From Coercion to Capitulation: How China Can Take Taiwan Without a War)」、ダン・ブルメンタール、フレデリック・ケーガン、ジョナサン・ボーメル、シンディ・チェン、フランシス・ド・ベイクスドン、ローガン・ランク、アレクシス・タレクによって執筆された。

 ブーズの報告書のタイトルは「いかに戦闘せずに併合を達成するか:中国の台湾サイバー戦略について(How to Succeed at Annexation Without Really Fighting: The PRC’s Taiwan Cyber Strategy Explained)」。著者は示されていない。

中国の習近平国家主席とアメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領のイラスト(リナス・ガーシス/ワシントン・タイムズ)

トランプ・習会談、華やかな演出の裏に厳しい現実 米ハドソン研究所中国センター所長 マイルズ・ユー

(2026年10月03日)
ドナルド・トランプ大統領(左)は、2025年8月25日、ワシントンD.C.のホワイトハウスに到着した韓国の李在明大統領を出迎えた。(AP通信/アレックス・ブランドン撮影、資料写真)

米シンクタンク、アジアでの同盟縮小を提唱 「中国に戦略的利益」と反論も

(2026年10月01日)
ドナルド・トランプ大統領、メラニア・トランプ夫人、中国の習近平国家主席夫妻、そして米国国立公文書館長のブラッドフォード・ウィルソン氏が、2026年9月25日(金)、ワシントンD.C.の国立公文書館で、憲法、権利章典、その他の文書を閲覧している。(AP通信/アレックス・ブランドン撮影)

トランプ氏、習氏と国立公文書館訪問 独立宣言・権利章典を視察

(2026年09月30日)
リトアニアのケストゥティス・ブドリス外相は、2026年9月8日火曜日、リトアニアの首都ビリニュスにある外務省で、オランダのトム・ベレンセン外相との会談後に行われた記者会見で発言した。(AP通信/ミンダウガス・クルビス撮影)

ロシアが欧州に「グレーゾーン」攻撃、強まるNATOの結束 リトアニア外相

(2026年09月27日)

米空軍、シンクタンクを閉鎖 中国の脅威分析へ影響懸念

(2026年09月26日)
2025年2月18日、韓国の坡州市(北朝鮮との国境付近)で、韓国軍兵士が有刺鉄線沿いをパトロールしている。(AP通信/アン・ヨンジュン撮影)

米国から中東への軍派遣圧力、高まる北の脅威 板挟みの韓国

(2026年09月24日)
FBI長官のカシュ・パテル氏

FBI、中国によるスパイ活動の急増を明らかに

(2026年09月23日)
この写真は北朝鮮政府が提供したもので、1994年6月17日、北朝鮮の南浦市で西海防壁を視察するジミー・カーター元米大統領(左)と当時の金日成主席が写っている。(朝鮮中央通信/朝鮮通信社提供、AP通信経由、資料写真)

北朝鮮、個人崇拝のルーツはキリスト教 敬虔な家庭で育った金日成氏 カナダ人ジャーナリストが新著

(2026年09月22日)
2026年9月8日火曜日、モスクワのクレムリンで行われた会談で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がトヴェリ州のヴィタリー・コロリョフ知事代行の話を聞いている。(ミハイル・メッツェル、スプートニク、AP通信経由クレムリン・プール写真)

ロシア、硬軟交え日本に揺さぶり 中朝と関係強化、国内ナショナリズムを鼓舞

(2026年09月15日)
北朝鮮政府が提供したこの写真には、2026年9月6日(日)、北朝鮮の元山港で行われた駆逐艦「康建」の就役式に出席する金正恩総書記とその娘が写っている。北朝鮮政府が配布したこの写真に写っているイベントを取材するために、独立系ジャーナリストは立ち入りを許可されなかった。この画像の内容は提供されたものであり、独自に検証することはできない。情報源から提供された画像には、朝鮮語の透かし「KCNA」と記されている。これは朝鮮中央通信社の略称である。(朝鮮中央通信社/AP通信経由)

北の「金王朝」、危機乗り越え盤石の体制に 正恩氏後継は未定―専門家

(2026年09月14日)
→その他のニュース