トランプ関税と農産物価格の下落で農家苦境

(2025年9月11日)

2025年5月8日木曜日、ミネソタ州ウェイバリー近郊に植えられた大豆(AP Photo/Mark Vancleave)。

By Tom Howell Jr. – The Washington Times – Friday, September 5, 2025

 農家の経営が厳しい。

 豊作による農産物価格の下落と、トランプ大統領の関税戦争による肥料価格の高騰が、農業への重圧になっている。

 米国を代表するトラクターメーカー、ジョンディアは、不透明な環境下で農家が大型機械の購入を控えているため、売り上げが減少していると指摘した。

 それだけではない。世界最大の経済大国同士の貿易摩擦により、中国は米国産大豆の購入を拒否している。第1次トランプ政権時にもこのような緊張状態が生じ、農家への救済措置につながった。

 農業団体は経済見通しが厳しいと訴え、連邦政府に支援を求めている。

 米大豆協会はトランプ氏への書簡で「大豆農家は深刻な経済的苦境にある。価格が下落を続ける一方で、資材や機械のコストは高騰している。このままでは最大の顧客との長期的な貿易紛争を米大豆農家は乗り切れない」と訴えた。

 全米トウモロコシ生産者協会もトランプ政権高官への同様の書簡で、肥料費だけで今年のトウモロコシ農家の運営コストの36%を占めると訴えた。また、トウモロコシ価格は年初から14%下落したと強調している。

 中西部農家がトランプ氏に強く働きかけているのは、彼らが熱心な支持者であり、トランプ氏が彼らを味方につけ続けたいと望んでいることを知っているからだ。

 調査機関「インベスティゲート・ミッドウェスト」によると、農業依存度が最も高い郡の有権者の約78%が11月の選挙でトランプ氏を支持した。

 トランプ氏は最近のCNBCのインタビューで、「私は農家を守っている。農家が大好きだ。彼らはこの国にとって非常に重要な存在であり、農家を傷つけるようなことは決してしない」と語った。

 トランプ氏は農家を守ると言う一方で、関税にも熱心に取り組んでいる。

 今年初め、トランプ氏は輸入品全般に10%の包括的関税(米国市場に持ち込まれる外国製品への課税)を課した。さらに最近では、数十カ国に対し15%から41%の関税を最終決定し、課税水準を1世紀以上で最高レベルに引き上げた。

 トランプ氏は関税を財源確保と主要製品の国内生産促進に活用している。とはいえ移行には時間を要し、農業部門は輸入コスト増に直面している。

 民間格付け会社「S&Pグローバル」によると、モロッコ、サウジアラビア、エジプトなどのリン酸肥料主要輸出国には10%の関税が課され、ヨルダンとイスラエルには15%の関税が適用される。

 米国では今年のトウモロコシ収穫量が大幅に増加した。肥料協会の上級エコノミスト、ベロニカ・ナイ氏は「これは普通なら好材料だが、春先の肥料需要増を招いた」と指摘する。

 ナイ氏は「関税発動と時期が重なり、輸入市場に大きな不透明感が生じた。タイミングが悪かった」と語る

 関税水準が月ごとに変動する不確実性も、買い手と売り手の取引意欲を削ぎ、供給を逼迫させて価格を押し上げたとナイ氏は説明する。

 トウモロコシ生産者協会は8月、「米トウモロコシ生産者は肥料などの資材の高騰に直面しており、残念ながら壊滅的な水準に近づいている」とトランプ氏に訴えた。

 チャールズ・グラスリー上院議員(共和党、アイオワ州)は、農家から肥料コストの問題を頻繁に提起されていると述べた。ロシア・ウクライナ戦争や中東紛争などの事態が状況を悪化させているため、グラスリー氏は政府に対し救済策の模索を強く求めている。

 同氏は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠したカナダ産カリウム肥料(カリ)の関税免除を確保した。またカリウムとリン酸塩を重要鉱物リストに正式追加するよう政府に働きかけ、これにより許可手続きの迅速化と国内生産促進が図られる見込みだ。

グラスリー氏は夏の農業記者団との電話会議で「現在のリン酸塩とトウモロコシの価格のコスト比率は史上最悪だ。農家が来季の肥料購入を検討する秋には問題はさらに深刻化する。政府が貿易協定や国内政策を進める際、農家の生産コストを考慮するよう引き続き働きかけていく」と述べた。

 貿易摩擦の影響は農業機械にも及んでいる。

 ジョンディアは最近、2025会計年度の関税による税引前コストが約6億ドルに達すると予測した。欧州・インド向け製品や鉄鋼・アルミニウムへの関税引き上げをその理由に挙げている。農家は機械の新規導入への現金支出を躊躇しており、販売減につながっている。

 投資家向け広報担当ディレクターのジョシュ・ビール氏は8月中旬の決算説明会で、「業界の厳しい基盤状況、変化する世界貿易環境、絶えず変動する金利見通しを受けて、市場はますます流動的になり、設備投資を検討する際には当然ながら慎重になる」と述べた。

 政権と議会共和党は支援策が進行中だと主張する。例えば共和党が支配する議会で可決された「大きな美しい法(OBBB)」には農家支援の給付金が含まれている。

 農業経済学を研究するイリノイ大学のゲイリー・ドナルド・シュニットキー教授は「貿易を巡る情勢が明らかになっていけば、プラスとなるだろう。カナダと中国が主要な懸念事項であり、何らかの貿易協定が望ましい。OBBBには多くの新たな支援が含まれており、綿花、落花生、米などの南部産作物に重点的に給付される」と述べた。

 作物の収益や価格が保証水準を下回った場合に農家や牧場経営者を支援するこの給付は、2026年10月から拡充される予定だ。シュニットキー氏によれば、その日付を前倒しするか、あるいはつなぎの支援を提供するかについて議論が行われているという。

 上院多数党院内総務のジョン・スーン(共和党、サウスダコタ州)は、8月の休会中に、この困難を乗り切るための議会による取り組みについて農家と話し合ったと述べた。

 スーン氏は4日、議会演説で、「農家が、依然として高い生産コストと低迷する製品価格に苦しみ、経営が赤字に陥っている状況について話し合った。作物の収穫量は好調だが、OBBBによって基準価格が調整され、農産物プログラムがより市場実態を反映するようになったとはいえ、まだ取り組むべき課題がある。それには、貿易機会の拡大や市場アクセスの向上を通じて農業を強化することも含まれる」と述べた。

 トランプ政権は、最近の貿易協定が市場開放につながると表明している。ある協定では、日本が米国産米の輸入を75%増やし、80億ドル相当の農産物・作物を購入することが義務付けられている。

 米英協定では、英国が7億ドル相当のエタノールと、牛肉を含むその他の農産物2億5000万ドル相当を購入することが定められている。

 ホワイトハウスのアンナ・ケリー副報道官は「トランプ大統領は米国の食を支える人々を深く気遣い、数十年にわたる不公正な貿易慣行の是正を迅速に進めると同時に、インフレ抑制による生産コスト削減に取り組んでいる。大統領のおかげで、農家はEU(欧州連合)、英国、日本などより多くの地域で、より公正な貿易協定のもと消費者に製品を販売できるようになった。トランプ大統領は今後も市場開放を推進し、米国農家が可能な限り多くの米国製品を販売できるよう公平な競争環境を整える」と述べた。

 ジョンディアの精密農業部門責任者コーリー・リード氏は投資家に対し、貿易協定と「税制政策の動向」から「追い風効果」が生まれていると説明した。

 一方、リバタリアン系シンクタンク「ケイトー研究所」の貿易研究員クラーク・パッカード氏は「現状は決して楽観できる状況ではない」と指摘。

 肥料と鉄鋼を例に挙げながら、「議会と大統領への提言としては、最近導入された関税を全て撤廃し、次に農業従事者らが使用する肥料や鉄鋼など他の投入財に対する関税削減策を検討すべきだ」と述べた。

 一方、大豆生産者によれば、米国はかつて中国バイヤーへの主要供給源だった。しかし貿易摩擦と報復関税により、バイヤーはブラジル産に切り替えている。

 中国向け米国産大豆には、南米産より20%高い関税が課されている。

 トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、中国に対し大豆購入量を4倍に増やすよう要請。需要に応えるため「迅速な対応」を保証した。

 生産者団体はトランプ氏の要請を評価しつつも、「残念ながら、中国は今後数カ月の需要を満たすためブラジルと契約を結び、米国産大豆の購入を回避している」と述べた。

 「収穫期が迫る中、中国は今後数カ月分の米国産大豆を一切購入していない。秋に向けて中国との大豆合意が成立しなければ、米国大豆農家への打撃はさらに深刻化する」

 トランプ氏の最初の任期中、農家は中国と同様の状況に直面した。関税と報復措置により、政府は農家救済に数十億ドルを支払わざるを得なかった。

 ラトガース大学のロス・ベイカー政治学教授は「大統領は再び米国大豆畑にパニックを引き起こす決断を下した。その原因は、またしても中国輸入品への関税だ。今回は関税率がさらに高くなっている。悲しいことに、米国の大豆農家はこれを予見すべきだった。彼らは自らの生計を脅かす脅威の再来を、ただ耐え忍ぶしかない」と述べた。

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