「AIバブル」崩壊へ懸念 成長サイクルの一環反論も

2023年12月8日、ボストンで撮影。携帯電話に表示されたOpenAIのロゴと、コンピューターモニターに映るChatGPTのDall-Eテキストから画像生成モデルが生成した画像。(AP通信/マイケル・ドワイヤー撮影)
By Tom Howell Jr. – The Washington Times – Thursday, October 16, 2025
投資家が人工知能(AI)ベンチャーに数千億ドルもの資金を注ぎ込む中、業績に見合わない株価がバブル崩壊を招き、経済に大きな影響が及ぶのではないかという懸念が高まっている。
株価が上がり、企業による循環ファイナンスによって人為的に需要や収益を生み出されているのではないかという主張もあり、1990年代後半のITバブル崩壊の再来かとの見方が出ている。
半導体メーカーのエヌビディアなどの企業は、生成AI「チャットGPT」の開発元のオープンAIに投資を行っている。これは、エヌビディアの技術を取り入れることを求める「戦略的提携」の一環だ。
オラクルやマイクロソフトなどの企業も、主要ハイテク企業が絡み合い、資金が行き交う広範なAI取引に加わっている。
この「AIバブル」論争では、相互に絡み合った支出と投資の暴走が破滅的な富の喪失を招くと懸念する経済学者と、AIが社会を変える現象であり、巨額投資に値すると信じる経済学者が対立している。
ジョージタウン大学マクドノー経営大学院のジェームズ・エンジェル准教授(金融学)は「確かにバブルっぽい」と述べた。
この熱狂が問題なのか、それとも社会を変える産業を築く過程の副産物なのかは「時が証明する」と彼は述べた。
「その多くは、頭のいい人たちが行う優れた取引のように見える。これが今後、巨大化していくことは誰もが知っている。しかし、オープンAIや『マグニフィセントセブン』(ハイテク大手株)がAIでどれほどの利益を上げるか、それはまだ見極められていない。こうして人々の期待は過熱していく」
バブルは、投資家が特定の分野に熱狂し、株価が合理的な期待値を上回った時に形成される。往々にして「取り残される恐怖」が生じ、株価はさらに上昇する。
投資家の企業への熱意が冷め、一斉に株を売却すればバブルは崩壊する。
8月、オープンAIのサム・アルトマンCEOは、双方の主張は、どちらも正しいとの見方を示した。
アルトマン氏は記者団に「バブルが発生すると、頭のいい人ほど『ほんの少しの真実』に過剰に興奮してしまう」と語った。
アルトマン氏は技術系ネットメディア「バージ」で「投資家全体がAIに過剰に興奮している段階にあるか?私の見解はイエスだ。AIは長期的に見てかなり重要な出来事か? これについてもイエスだ」と述べた。
大手企業は相互投資による株価の水増しを否定している。
オープンAIは、エヌビディアからの投資条件としてエヌビディア製チップの導入を義務付けられているわけではない。オープンAIは他社チップメーカーとも契約を結んでいる。
エヌビディアは声明で「投資先企業にエヌビディアの技術の使用を要求することはない」と表明した。
エヌビディアの創設者兼CEOのジェンセン・フアン氏は、オープンAIへの投資は当然のことだと述べた。
フアン氏は技術と市場に関するポッドキャスト「BG2」で「オープンAIは今後、数兆ドル規模のハイパースケール企業になる可能性が高いと思う。投資のチャンスかって?リターンは相当なものになるだろうね」と述べた。
スコット・ベセント財務長官は15日にCNBCでさまざまな問題について議論したが、この状況について心配しているようには見えなかった。べセント氏は、AIブームはまだ「3回表」にすぎないと述べた。
ベセント氏は、「投資の面でも、利用の面でも、まだ始まったばかりだと思う」と述べた。
その上で、この業界の「需要がまだ表に出ていない」のは、バイデン政権がAIに規制を課していたことが一因だと述べた。
一部の大手機関投資家は、AIによる急速な変化と市場の不確実性を警戒している。
イングランド銀行は、「株式市場は過大評価されているように見える。特にAIに特化したハイテク企業でこれが言える」と指摘している。
同銀の金融政策委員会の10月2日の会合の議事録では、「市場でAI株への集中度が強まっているが、AIに対する期待がしぼんでしまえば、株式市場はとりわけ大きな影響を受ける」と指摘されている。
国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエワ専務理事は、投資家のAIへの熱意が冷めたり、関税や世界人口変動などの要因で市場調整が起こる可能性を警告した。
ワシントンでの最近の会合でゲオルギエワ氏は「覚悟を決める必要がある。不確実が新たな常態となり、今後も続く」と述べた。
「現在の株価水準は、25年前のインターネットブーム時の高値に近づいている。急激な調整が発生した場合、金融引き締めが世界経済の減速を招き、脆弱性を露呈させ、特に発展途上国にとって厳しい状況をもたらす可能性がある」
バイデン政権の経済担当高官ジャレッド・バーンスタイン氏とライアン・カミングス氏は、最近のニューヨーク・タイムズ紙の論説で、このAIブームは、ITバブルや住宅ローン担保証券(MBS)の混乱に似ていると警告した。MBSの混乱によって2007年12月から2009年6月にかけて大不況が発生した。
両氏は「21世紀の第3のバブルと呼ぶべき時が来ていると思う。AIバブルだ。確証はないが、そうなる可能性の方が高いとみている」と述べた。
バブルが弾けると、それに伴ってパニックが起き、経済に悪影響を及ぼす。
人々は経済が不安定に見えるため新居や新車の購入を控えるようになり、困窮した企業に多額の融資を行っていた銀行は貸出資本を失い、それらが周辺に波及していく。
両氏は、悪いことばかりではないと言う。AI融資は今世紀初頭に混乱を引き起こした住宅ローン関連証券ほど広範に経済と密接に絡み合っていないからだ。
他方、AIが引き金となる暴落が差し迫っているとは見ていない専門家もいる。
コーネル工科大学のオペレーション・技術・イノベーション教授カラン・ギロトラ氏は「AIの波には当面、乗り続けられる」と語る。
「今回は過去の投資ブームと異なる点が複数ある。AI分野は過去のブームより基盤が堅固だ。実際に収益と利益があり、コンシューマーアドプション(消費者の適応能力)が非常に強く、技術は継続的に進化し投資を渇望しているからだ」
ギロトラ氏は、メタをはじめとする資金力のある企業がAI競争で後れを取ることを恐れていると指摘。「(彼らの関心は)AI投資への資金的見返りにはない。そのため、後退することはない」と述べた。
「これら全てが、ITバブルのような大規模な暴落は起きないことを示唆している」