中国経済低迷で戦争の危険性高まる 米情報長官が警告
By Bill Gertz – The Washington Times – Monday, March 11, 2024
ヘインズ米国家情報長官が11日に公表した脅威評価によると、中国は重大な経済問題に直面しており、台湾や他の地域の敵対国との紛争が発生する危険性が高まっている。
ヘインズ氏は上院情報特別委員会で、中国の共産党指導部は米国の核による「先制攻撃」を恐れており、これに対抗するため300基以上の地上配備型核大陸間弾道ミサイル(ICBM)を中国西部に配備していると指摘。核戦力の拡大により自信を持った中国が、通常型の紛争を引き起こす危険性が高まっていると述べた。
「台湾では、(中国と)米国との間の衝突が非常に起きやすい状況にあり、中国は、米国が中国の台頭を妨害するために台湾を利用していると主張している。中国は、米国が台湾への支援を強めていると考えており、それに対し強力な手段で反撃に出るはずだ」
脅威に関する年次公聴会でのヘインズ氏の証言は、公聴会中に3人のハマス(パレスチナのイスラム過激派)支持者らが大声を上げたことで一時中断された。1人はイスラエルの停戦を要求した。3人はすぐに傍聴席から連れ出された。
ヘインズ氏は、中国に加え、ロシアも米国の安全保障に脅威を与え続けており、ウクライナや中東での紛争が国境を越え、米国でも危険が増大していることを浮き彫りにしていると語った。公聴会には、連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官、中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官、国家安全保障局(NSA)のティモシー・ハウ長官(空軍大将)、国防情報局(DIA)のジェフリー・クルーゼ長官(空軍中将)が名を連ねた。
レイ氏によると、FBIは中国による軍事基地や重要インフラ付近の土地購入を調査しており、それらは情報収集やスパイ行為ばかりか、「それ以上に良くないこと」に使われる可能性があるという。つまり、将来、有事となった場合に、破壊工作が行われる可能性がある。
ヘインズ氏は証言の中で、中国の習近平国家主席は、北京で11日まで開催された全国人民代表大会(全人代)の閉会式で議長を務めており、中国を、世界を支配する大国にしようとしていると述べた。
深刻な経済危機、蔓延する汚職、人口減少が中国の指導者らに深刻な問題を突きつけている。ヘインズ氏は、中国の若者の失業率は14.9%だが、政府は景気刺激策を導入していないと指摘、人口減少と経済成長の鈍化により、今後数年間は困難が予想されると強調した。
中国の指導者らは、米国の知的財産の窃取や獲得を続ける一方で、独自の技術開発を促進しようとしている。
ヘインズ氏は証言の中で、米国の情報機関は、人民解放軍(PLA)がより先進的な兵器を投入し、新技術を取り入れ、「共同作戦への自信を強め、特に台湾と西太平洋に注力する」ようになるとみていると述べた。
また、「中国は人口と経済を巡り深刻な課題に直面しており、それによって中国はさらに攻撃的で予測不可能なグローバルアクターになる可能性がある」と指摘、中国は「無数の国内問題」を抱えていると述べた。
ヘインズ氏は、中国軍は近年、戦争を経験しておらず、そのため実戦で実力を発揮できないのではないかとしたうえで、習氏をはじめとする中国の指導者は当面は戦争を開始することはないだろうと証言した。
「さらに、中国の指導者らは、腐敗が軍の能力と信頼性に影響を与えていることを懸念しており、2023年に国防相を含む高級将校が粛清されている」
それでも、中国の軍事力は高度な武器技術によって強化され、さまざまなタイプのミサイル、極超音速ミサイル、空母、新型戦闘機などの配備で、拡大を続けている。
ヘインズ氏はまた、中国軍が開発した宇宙兵器やサイバー戦兵器も脅威となると述べた。
「もし中国が米国との重大な衝突が差し迫っていると考えたら、米国の重要インフラや軍事施設に対する積極的なサイバー作戦を仕掛けることを考えるだろう。そのような攻撃は、米国の意思決定を阻害し、社会的パニックを誘発し、米軍の展開を妨害することによって、米国の軍事行動を抑止することを狙ったものだ」
さまざまな敵
ヘインズ氏は、ロシアのウクライナ侵攻は国内外に「甚大な損害」をもたらしたと述べた。ロシアは、兵器生産と経済を強化するために、中国、イラン、北朝鮮との関係を強化している。
また、ヘインズ氏は、ロシアは米国や北大西洋条約機構(NATO)との衝突を避けようとしているが、直接的な軍事衝突に至らない非対称的な活動を世界で続けていると主張した。
また、ウクライナで30万人の死傷者が出たとみられている一方で、ロシアはここ数カ月、ウクライナで戦略的軍事的優位を得ており、「ますますロシアに有利な方向に向かっている」と述べた。
イランについては、現在、主要な核兵器開発には関与していないが、2020年以降、核爆弾の入手が必要になった場合に備え、さらに2015年の西側諸国との核合意による制約を受けなくなったことから「核開発計画を大幅に拡大」していると米当局者は評価していると述べた。
ヘインズ氏は、イランは現在、「核兵器を製造することを決めた場合に備えて」行動をとっていると述べた。
北朝鮮の脅威も高まっている。金正恩総書記率いる北朝鮮軍は、核兵器を増強し、通常兵力の弱点を補ってきた。
ヘインズ氏は「(正恩氏は)この地域のミサイル防衛に対抗し、核弾頭を運搬する選択肢を多様化し、反撃能力を強化することを意図した能力開発に意欲的に取り組んでいる」と述べた。
2023年、北朝鮮はプレデターやグローバルホークに似た新しい無人航空機を公開した。また、巡航ミサイル、ICBM、極超音速ミサイルなど、より高性能なミサイルを製造している。
ヘインズ氏によると、北朝鮮は1月、操縦可能な極超音速再突入体で武装した、新しい固体燃料の中距離弾道ミサイル(IRBM)を発射した。
公聴会では、全情報機関の幹部が、(外国情報活動監視法=FISA)702条の下での監視権限を更新することへの支持を表明した。この権限は、外国政府や非国家テロ集団からの脅威に対抗するために必要だ。
国境の脅威
上院議員らによる質問の多くは、メキシコとの南部国境からの脅威に関するものだった。
レイ氏は「FBIは、国境から非常に危険な数々の脅威が発生しているとみている」と述べた。その脅威とは、合成麻薬フェンタニルの大規模な取引や、米国に流入する移民による暴力犯罪の増加などだという。
レイ氏はまた、中国政府は今のところ、フェンタニルの「前駆体」や錠剤加工機の米国への流入を止めることに協力していないと指摘。フェンタニル危機は続いており、深刻であることから、前駆体の抑制について「中国政府には改善の余地が大いにある」と述べた。
ウクライナから帰国したばかりのCIAのバーンズ長官は、議会に、ウクライナ軍への武器供与を継続するよう求めた。米国からの支援が継続されれば、ウクライナは今年末か来年初めまでにロシアに対する攻勢を取り戻すことができるとバーンズ氏は主張している。
さらに、米国がウクライナへの支援を怠れば、台湾や南シナ海に対する中国の脅威からインド太平洋諸国を守るという米国の決意に疑念を抱かせることになると訴えた。
「真実は、ウクライナ人が不足しているのは勇気と粘り強さではなく、弾薬だということだ。われわれはウクライナを助けるための時間を無駄にしている」
バーンズ氏はまた、中東の紛争を解決するための交渉も主導している。
合意の可能性には、ハマスが拘束しているけがや病気の女性や高齢者ら約40人の人質の解放が含まれる可能性がある。この人質は、イスラエルの刑務所に収容されているパレスチナ人囚人と交換されることになる。
合意の第2の要素は6週間の停戦だ。紛争を長期にわたって停止させるための第一歩となる。合意はまた、イスラエルとハマスの間の銃撃戦に巻き込まれたガザの住民に対する人道的支援の強化を認めている。
「成功は誰にも保証できない。私が保証できると思うのは、絶望的な状況で苦しんでいるガザの罪のない市民や、同じく非常に絶望的な状況で苦しんでいる人質とその家族にとってはこれがベストということだ」
脅威評価年次報告によると、CIAは新型コロナウイルスの起源について、まだ決定的な結論に達していない。この問題については情報機関の間で、動物から発生、または中国の研究所から流出という見方で分かれている。
バーンズ氏は「(CIAのアナリストは)自然界からの感染か実験室からの流出か、どちらか一方を示す決定的な証拠があるという結論には至っていない」と述べた。
レイ氏によれば、FBIは「中程度の確信」をもって、武漢の実験室でのある種の事故でウイルスが漏れたと結論づけたが、中国当局はこれを強く否定している。FBIは「多くの専門家」に分析を依頼し、FBIのアナリストらは「その評価を支持している」とレイ氏は述べた。
またレイ氏は、中国の工作員は米国の人工知能(AI)技術を盗もうとしており、FBIはその技術を保護するための取り組みを強化していると述べた。
「何度も証言しているように、中国が他のすべての主要国を合わせたよりもさらに大規模なハッキングプログラムを持っていることを強く懸念している。中国がそのプログラムに米国から盗んだAIを組み込めば、『フォースマルチプライア―(効果を何倍にも増強させる装備や兵器)』という言葉など控えめに聞こえるはずだ」」
レイ氏によれば、FBIは中国による米国内の土地購入にも注目している。
「重要なインフラの近くで、中国とつながりのある人々が商業用の不動産や土地を購入している事例を積極的に調査している」
レイ氏は、中国企業は政府と共産党に支配されているため、「軍事施設や重要インフラの近くに土地を購入することで、スパイ活動や情報収集、あるいはそれ以上のことが可能になるような状況を特に懸念している」と述べた。
委員会のマルコ・ルビオ副委員長(共和、フロリダ州)は、中国の指導者らは米国が衰退し、中国の台頭は間違いないと考えていると述べた。その結果、中国はアジアでも、世界でも、異常な方法で軍備を拡大している。
ルビオ氏は、中国が米国に人々を死に追いやるフェンタニルを氾濫させ、地域社会を破壊していると述べた。中国はまた、中国企業バイトダンスを通じて、人気の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」をコントロールしている。バイトダンスは、AIを使用した高度なソフトウエアアルゴリズムを使用している。
「問題はTikTokや動画ではなく、それを動かすアルゴリズムが中国の企業によってコントロールされていることだ。中国企業は、中国共産党に命じられればそのごとく行動しなければならない」