中国の核増強への備え不十分 対艦核ミサイルの配備を-米報告
By Bill Gertz – The Washington Times – Tuesday, August 20, 2024
米国防総省の依頼を受けて行われた最新の研究によれば、米軍は長期戦になった場合の中国による戦術核攻撃に対応する準備ができていない。
シンクタンク「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」の報告書によれば、中国の核戦力の急速な拡大は、ミサイルに通常弾頭と核弾頭のどちらも搭載できるため、将来、米国との紛争が発生した場合に、低出力の核攻撃を行う可能性が高いことを意味する。
報告は「大まかに言えば、米中間の核戦力の新たな力関係は、米ソ間のそれとは異なり、限定的な核使用のリスクが高まっているように見える」と指摘している。この研究は国防総省の国防脅威削減局から予算を受けて実施された。
報告書はまた、増大する中国の脅威に対抗するため、国防総省が核を搭載した対艦ミサイルの製造を検討するよう求めている。
この研究は、2回の図上演習(会議室で行われる模擬戦争ゲーム)で実施された、仮想的な非戦略的核攻撃に基づいている。
この演習で、米中間の戦争が長期化した場合、「中国にとっては魅力的であり、米国にとっては管理が難しい」戦術核攻撃の条件が整うことが判明したという。
報告の3人の執筆者のうちの1人、アンドルー・メトリック氏は「長引く紛争では、核兵器の使用は、通常兵器の代用として、あるいは終戦のための賭けとして、残念ながら最も可能性が高い」と指摘した。
「このような将来に、米国は効果的な抑止力を獲得するために必要な能力とコンセプトを欠いている」
演習では、戦争中も双方による戦術核兵器の使用は続くが、必ずしも大規模な核攻撃には至らないことが分かった。
中国にとっては、低出力のミサイルや爆撃機による攻撃がインド太平洋地域では適している。冷戦時代の欧州での戦術兵器使用計画に比べ、海洋であるため、地形的に広く、標的も広範囲に広がっているからだ。
報告は「米国は、通常兵器と核兵器のクロスフェードを管理するドクトリン、能力、コンセプトを欠いている」と指摘した。クロスフェードとは、画像編集で使用される用語で、ある画像をフェードアウトさせながら、別の画像をフェードインさせることを意味する。
「米国の核の考え方とシステムは冷戦に縛られたままであり、現状では、信号伝達手段が不足し、運用も難しいという困難を抱えている」
防衛を強化するために、この研究は核能力を拡大することを推奨している。
「米国は、効果的に紛争管理を行い、核による威圧を未然に防ぐために必要な戦域核能力を欠いている可能性が高い」
「そのため米国は、米国の戦域核戦力の柔軟性を高め、冷戦時代の核戦力をインド太平洋時代にうまく適合させるために、少数の核弾頭を搭載した艦艇攻撃能力の開発を検討すべきだ」
21世紀の兵器
米国が必要とする兵器には、核武装した長距離対艦ミサイル(LRASM)や海上攻撃用トマホーク、艦船攻撃用のW80-4弾頭などがある。
米国は現在、通常兵器で優位であり、そのため中国は、無数の戦術核兵器を空中で爆発させて、広範囲にわたって敵軍に損害を与えようとする可能性がある。
地域核戦争の問題を解決するためには、米軍は核活動を計画や演習に完全に統合する必要があり、報告書が「ラストデイ(最後の日)」と呼ぶようなオプションや単独の演習にこだわる必要はないと報告書は主張している。
戦術核戦争に備える冷戦時代の技術を復活させることは、米軍が核エスカレーションの脅威を警戒しており、中国がそのような攻撃から利益を得ることはないという強力なシグナルを送ることにもなる。
「弾道ミサイル潜水艦に付きものの通信の限界を考えると、米空軍は非戦略核兵器を迅速かつ安全に戦域に移動させ、前方展開航空機と連携させる戦術、技術、手順を開発しなければならない」と報告書は述べている。
地域の核紛争の可能性を減らすもう一つの方法は、高度な通常兵器を増やし、その能力を向上させることだ。
ジョージ・H・W・ブッシュ政権下の1991年、米国の戦術核巡航ミサイルなどの兵器は、米国の軍艦から撤去された。
現在の米国の戦術核兵器は、戦闘機に搭載される約230発のB61重力爆弾で構成されている。
トランプ政権は2018年、核兵器を搭載したトマホーク巡航ミサイルを退役させるという以前の決定を覆し、非戦略的地域戦力として使用するために、低出力核弾頭を搭載した海上発射巡航ミサイル(SCLM-N)を配備するよう求めた。
トランプ政権はまた、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に使用する低出力のW76核ミサイル弾頭の製造も求めた。
この二つの戦術核兵器は、中国とロシア双方に対する抑止力を高めるために軍司令官らが要求しているものだ。
バイデン政権はSLCM-Nの予算削減を求めたが、議会はこの計画を継続させた。
同盟国にとって、現在の米国の核政策は、拡大抑止と、中国の短距離ミサイル増強に対抗するための日本、韓国、オーストラリアなどの主要な地域パートナーに大きく依存している。
しかし、中国は拡大する核戦力を、米国の拡大抑止を打ち破り、最終的にはこの地域での米国の同盟関係を弱体化させるための強圧的な取り組みに利用する可能性があると報告書は指摘。中国の核兵器使用への対応について、日本やオーストラリアとのより強力な協調が必要だと述べている。
核兵器に関する中国とのさらなる関与も報告書では推奨されているが、中国は過去数十年にわたり、核兵器に関する協議の開催を求める米国の要請を拒否してきた。
中国外務省は6月、最近の米国による台湾への武器売却に抗議するため、米国との核兵器と核拡散に関する協議を中止すると発表した。
中国の核「ブレイクアウト」
中国の核兵器増強を、米軍司令官らは、小型弾頭の配備を中心とした以前の中国の軍事コンセプトからの「ブレイクアウト(脱却)」と説明してきた。
現在、中国が保有する戦略核弾頭は約500発と推定され、2030年までに1500発にまで増加するとみられている。戦術核弾頭の数は不明だ。
米戦略軍司令官のアンソニー・コットン空軍大将は議会で2月、中国の核兵器増強の規模と急速なペースは「息をのむほど」だと証言した。
過去5年間で、中国の核兵器増強には、新型の移動式多弾頭ミサイル「東風31AG」と「東風41」、強化された「巨浪3」潜水艦発射ミサイル、近代化された「殲6N」爆撃機が含まれる。
最も劇的な増強は、中国西部に300基以上の大陸間弾道ミサイル地下サイロを建設したことだ。
報告は「中国指導部は明らかに核戦力の大幅な増強を決定したが、この増強の包括的な戦略的根拠を説明していない」と指摘している。
中国の核戦力増強は、その目的が示されていないため、誤解や誤認が核攻撃の応酬につながる脅威を増大させる。
中国の「東風26」中距離ミサイルは、核兵器として特に懸念すべきだ。東風26は、太平洋の米軍の主要軍事拠点であるグアムをターゲットに設計されているため、中国では「グアム・キラー」と呼ばれている。
報告は「PLAがどのように考えているのかはほとんど明らかになっていないが、低出力の精密誘導非戦略核兵器は、PLAの従来の戦法にうまく適合し、中国軍の著作で議論されている」と指摘している。