教育にとってAIは厄介者か必需品か

(2025年5月9日)

教室、机、黒板。(写真クレジット: miya227 via Shutterstock)

By Sean Salai – The Washington Times – Tuesday, May 6, 2025

 サマンサ・グライステン氏は、シカゴの中学生に生成AI(人工知能)について教えようとして失敗を繰り返してきた。

 2年前、初めて中学2年生のグループにプログラムを使ってチャットボットを作らせたとき、ある生徒は自分のAIをナルシストに訓練し、「私の方があなたより優れている」と反感を買うような返答をさせた。もう一人は、即興のラップの歌詞で不適切な薬物への言及をするAIスヌープ・ドッグ(ラッパー)を作った。

 彼女はすぐに、どうすれば生徒の暴走を止められるかを考えた。授業に合わせて子供たちのための保護機能を備えたAIソフトウエアを慎重に選んだ。

 ロジャーズ・パーク・モンテッソーリ・スクールで教育テクノロジーを指揮し、昨年AIエデュケーション社を共同設立したグライステン氏は、こう語る。「幸いなことに、怖くなるようなことはなかったし、今ではプライバシーポリシーを確認し、使用しているツールを吟味する方法も分かっいる」

 2022年後半に「チャットGPT」が教育に取り入れられるようになって以来、幼稚園から高校まで多くの教師がAIチャットボットを厄介なものから必需品に変えようと努力してきた。グライステン氏もそのうちの一人だ。

 ワシントン・タイムズのインタビューに応じた教育関係者らによると、学校では、カンニング防止のための生成AI禁止、AI利用ポリシーの策定、AIリテラシー教育の「戦略的統合」の3段階でAI教育を進めてきた。

 教師向けAIプラットフォーム「レイディアス」のガディ・コブラーCEOは、「当初はパニックに陥り、カンニングや誤った情報、雇用の喪失を恐れていたが、落ち着いてきた。生徒たちはAIを概念として学ぶ必要はなく、急速に進化するツールやワークフローに適応できる柔軟で批判的な思考力を身につける必要がある」

 チャットGPTのような生成AIは、ユーザーが文章や口頭で質問を投げかけると、データベースから新しいテキストや画像、音楽を作り出すことができ、そのデータ量は増加し続けている。

 多くの教師は当初、AIを従来の学習に対する脅威と見て、教育現場への導入に抵抗していたが、その後徐々に受け入れていった。

 教師が生徒に出した課題に盗用がないかを検出するためのウェブサイト、ターニティンは、2023年4月にAI検出ツールをリリースした。このツールによって、コンピューターで生成した論文を見破る確率は97%だという。

 学習へのアドバイスや個人指導、グループプロジェクトにAIを採用する学校が増える中、ターニティンは今年、方向転換を図った。

 同社は3月、「作文ワークスペース」ターニティン・クラリティ―の立ち上げを発表した。このワークスペースは、学生が「透明性をもって課題の作文の下書きをつくり」、AIが生成したアドバイスを受けて作品を改善するのを支援する。

 この新しいプログラムのAI作文アシスタントは、教師からの課題の指示をもとに、複数回にわたって提出課題の作成、編集を指導する。コピー・ペーストされたテキストやタイピングパターンなど、生徒の下書きプロセス全体を教師が確認できるビデオ再生機能も搭載されている。

 ターニティンのチーフ・プロダクト・オフィサー、アニー・チェキテッリ氏は、「AIが作成する文章は、何が許容され、何が許容されないかを巡る厳格な境界線を持つ二元的な概念ではない。このテクノロジーは創造的破壊そのものであり、これによって私たちは身の回りの世界のさまざまな側面を見直すことを求められている」と述べた。

 対話型チャットボットは、選択式試験に合格したり、人の声のディープフェイク音声を作成したりすることができるが、教育現場を管理する人々は、ユーザーに深く考えることを促し、より深い洞察を生み出すものであるべきだと強調する。

 ニュージャージー州マタワン・アバディーン学区のマイケル・リーブマン教育長補佐は、「AIアプリは、学習者があらゆる場所から授業を受けたり、問題を解いたり、話したり、実行したり、組み立てたりすることを可能にする。AIが、教室で教師と子供の間に生まれる人間関係に代わることはできない」と訴える。

 作文以外にも、生成AIは生徒が難しい数学の問題を理解するのに役立っている。

 家庭学習アプリのブレインリー社は、2023年3月に「ギニー」を発表した。ギニーはチャットGPTを搭載したチャットボットで、学習支援として生徒が複雑な数学や科学の問題の答えを詳しく説明したり、分かりやすく説明したりすることができる。

 例えば、ギニーは微積分の宿題の答えや学習上の問題を分析し、生徒を段階を追って正しい解答へと導くことができる。

 2025年3月に高校生3682人を対象に行われた調査で、プレインリーは、67%が期末試験の準備にAIを利用する予定であり、1年前の59%から増加していることを明らかにした。また、回答者の80.6%がAIによって成績が向上すると答え、2024年の77%から上昇した。

 同社の最高技術責任者(CTO)ビル・サラク氏は、「私たちは、画一的なAIチャットボットでは生徒一人ひとりの学習スタイルに適応できないことを実感しており、それぞれの理解に合わせた学習支援の必要性を強調している。学校は、生徒が単なる消費者としてではなく、賢く優れた意思決定者としてテクノロジーを戦略的に利用できるように指導することが重要だ」と述べた。

 AIプラットフォームは急速に増加しており、学校の一部では手に負えなくなる可能性も指摘されている。

 「全米教師の質評議会」のヘザー・ペスク会長は、学校はいまだに適切な教材を使ってAIの使い方を教師に習得させるのに苦労していると述べた。

 「教師が学区から支給された教材を補うために使う『教材』はたくさんあるが、その多くは質が低い。AIモデルの性質を考えると、AIがこれらの質の低い教材を取り入れ、質の低い指導が定着してしまう可能性は高い」

 専門家らは学生に、単純なAIから使い始め、それらが誤った情報を含む「ハルシネーション(幻覚)」を生成する可能性に注意深く目を光らせるよう強く勧めている。

 心理学者ダン・ウリン氏は、「チャットGPTのようなプラットフォームを1つか2つを選び、そのプラットフォームを徹底的に習得してから、日々新たに生まれる他のツールやアプリを試してみてほしい」と述べた。ウリン氏は、ロサンゼルスを拠点とするエリート・スチューデント・コーチを設立し、生徒らの一流大学への入学を支援している。

AIリテラシー

 民主、共和両党の政治家らは昨年から、K12(幼稚園から高校までの学校)にAIリテラシーを高める教育を行うよう求めている。

 カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(民主党)は昨年10月、州内のK12でAIリテラシー教育を義務付ける法律に署名した。

 トランプ大統領は4月23日、教育省と労働省に対し、高校生がAIの授業や認定プログラムを受講するための資金や機会を優先的に提供するよう指示する大統領令に署名した。

 キャノピー社のヤロン・リトウィン最高財務責任者(CFO)は、「米国の学校は、新型コロナウイルスの大流行時に、IT機器を使った教育システムに向けて大きな一歩を踏み出した。今、連邦、州、地方レベルの学校で、AIリテラシーイニシアチブが実施され始めている」と指摘した。同社は、保護者がデジタルコンテンツをフィルタリングするためのAI搭載アプリ「ピアレンタル・コントロール」を提供している。

 IT企業の経営者らは、これで、AIスキルを持つ学生が将来の工学、科学、数学関連の仕事に就くチャンスが増えると主張している。

 サンフランシスコを拠点とするカスタマーサポート自動化企業、クエリーパルのデブ・ナグ最高経営責任者(CEO)は、「学生は、コンピューターサイエンスの授業だけでなく、すべての科目で基本的なAIリテラシーを身に着ける必要がある」と述べた。

 ナグ氏は、全米の調査で、AIを使用する教師の割合が2023年初頭の5人に1人から2024年末までに40%以上に急増したと強調。同じ期間に、AIを利用する十代の割合は37%から70%に増加したと指摘した。

 ダウニング・エドテック・コンサルティングのシャー・ダウニングCEOによると、学校は、①人間のスキルを重視したカリキュラムの見直し②AIを使って容易にコピーすることのできない新しい形式のテスト③すべての社会経済的レベルでAIを利用できるようにするカリキュラム-という3つの観点から、低学年からAIを取り入れる方向にあるという。

 ダウニング氏は「導入を成功させるには、授業をAIに置き換えるのではなく、授業を補強するために使うこと、明確な倫理方針を確立すること、教師が実際に使ってみることが重要だ」と言う。

 AIはまた、特別支援教育の生徒と感情的・知的につながる上でも効果的だ。

 フロリダ州の教育コンサルタントで、元公立高校教師のケイティ・トロウブリッジ氏は、「AIは、自閉症の生徒が好きなテーマを探求したり、創造的な質問をしたり、それぞれの個性に合わせた、有意義で重要な学習に取り組んだりするのに役立つ。また、彼らの得意なことにコンテンツを合わせたり、必要に応じて視覚的し、簡単な言語を使ったりでき、さらには対人関係でプレッシャーをそれほど感じることなく、安全に自信を持たせるシナリオをモデル化することも可能だ」と述べた。

残る懸念

 教育の専門家によると、幼稚園から高校まで段階的にAIリテラシーを身につけるカリキュラムは、生徒が将来成功するための最善の準備になるという。

 ところが、資金的な制約や不正行為に対する懸念が残ることから、AIを導入していない学校は多い。

 教育改革センターのチーフ・プログラム・オフィサーであり、元教師のキャロライン・アレン氏は、「AIで何を避けるべきかについて言えば、私はAIを教室で全面的に禁止することには反対だ。ただ、AIが生成したコンテンツを吟味することなく利用することもよくないと思う」と述べた。

 サイバーセーフティーの専門家によれば、AIを全学年・全クラスに取り入れるデジタル・リテラシー・プログラムを導入している学校は、AIをコンピューターサイエンスの授業だけで行っている学校よりも、よく管理できているという。

 イリノイ州を拠点に学校と協力してインターネットの安全方針を策定しているサイバーセーフティーコンサルティング社の教育ディレクター、アリソン・ボナッチは、「全面的に禁止するのではなく、このツールの上手な使い方を教えるべきだ。年齢に応じたAIリテラシーは、技術の授業だけでなく、すべての授業に組み込むことができる」と主張する。

2024年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の報告書によると、デジタル・リテラシープログラムでAIを導入した学校では、生徒の批判的思考のスコアが平均18%上昇した。一方、デジタル・リテラシー・プログラムなしでAIを導入した学校では9%低下した。

 K12向けのAIツールを開発するスカラー・エデュケーション社の共同設立者であるマーリー・ストローン氏は、「もし生徒がAIを使うことで自ら考えることが減るようになれば、基礎的な認知スキルを身につける機会を失う可能性がある」と言う。

 オンライン学習プラットフォーム「Study.com」のダナ・ブライソン上級副社長(社会的影響担当)は、貧困層やマイノリティーのコミュニティーがAI教育に遅れをとっていることも問題だと指摘する。

 ブライソン氏は、Study.comの最近の調査で、54%の教師が個別学習のためにAIが有望だと考えているが、64%はそれが「学習格差の拡大」につながると懸念していることを指摘した。

 「裕福なコミュニティーや学校は、迅速にAIツールを受け入れているが、恵まれない家庭の学校は、しばしばAIから取り残されるか、完全に避けている。AIは本質的に良いものでも悪いものでもない。AIはツールであり、それをどう使うかによって、格差をなくすのに役立つのか、それとも格差を深めることになるのかが決まる」

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