イラン 大統領選へ強硬派が勢い、バイデン氏の核合意復活が困難に

(2021年4月2日)

Iranian Presidency Office via AP

By Guy Taylor – The Washington Times – Monday, March 22, 2021

 イランの反米強硬派は、間もなく行われる大統領選で大勝するとみられ、イランの核開発の野心を封じ込め、中東を安定させようとしているバイデン政権にとって、新たな頭痛の種となっている。

 6月に実施される選挙は、2015年イラン核合意への復帰を推進し、イランの合意順守を求めているバイデン政権にとって大きな不確定要素となっている。トランプ前大統領は2018年に合意から離脱した。早期の交渉への復帰の望みは、米、イラン両国政府が互いに、相手国が先に行動すべきだと主張し、遠のいた。

 アナリストらによると、現在のロウハニ大統領よりも過激な候補者が6月の選挙で勝利すれば、交渉のテーブルでのイランの要求も、中東地域を不安定化させる政策もエスカレートする可能性があり、核合意を復活させることはいっそう困難になる。

 イランは、核合意をめぐる交渉再開にはまず米国が行動すべきだと主張、バイデン氏はこれを拒否した。イランは、核合意を交わす前の水準までウラン濃縮活動を引き上げた。アナリストらは、外交の窓は間もなく閉じてしまう可能性があると指摘している。

 包括的共同行動計画(JCPOA)と呼ばれる核合意の立案者であるイランのザリフ外相によると、6月の選挙は、米国がイランに譲歩するかどうかの「時間的目安」となる。ザリフ氏は、米国の制裁に「抵抗することには慣れている」と述べている。

 アナリストらは、バイデン政権はイランの脅威に対して断固とした態度を示すべきだと主張する。イランを実質的に支配する最高指導者ハメネイ師と、同師を取り巻く保守派の護憲評議会は、比較的穏健とされるロウハニ大統領が2期を務めたことから、今後は強硬路線を取ることを目指している。

 民主主義防衛財団のイラン専門上級研究員ベナム・ベン・タリブル氏は、「イランの次期大統領は、右派の超強硬派から選出されるというのが既定路線となっている」と述べた。

 有力候補らは全員が、軍事組織、革命防衛隊の退役軍人だ。革命防衛隊は、イラン経済に大きな影響力を持ち、1979年のイスラム革命の守護者を自任している。

 ベン・タリブル氏はインタビューで、「今度の選挙は、これらの候補者らの権力固めをめぐる選挙だ。ハメネイ氏もすでに高齢で、レガシー(遺産)を残そうとしている。バイデン氏が核合意を復活させようと焦って、選挙前に制裁の緩和を申し出れば、戦略的には後退することになる」と述べた。

 イランの最高指導者は、広がる有権者の無関心と大変な経済的後退を前に、イスラム共和国を守るにはどの候補が最もふさわしいかを慎重に見極めようとしている。パキスタンの元駐米大使フサイン・ハッカニ氏はインタビューで「イラン政治での強硬派と穏健派の違いは基本的には、外国との交渉ができるようにするか、しないかの違いだ」と述べた。

 「最高指導者と護憲評議会は、イランは戦闘モードにあると世界に思わせたいときは強硬派を押し出し、世界がイランと交渉したがっているときは穏健派を押し出す。しかし、体制の基本的性格は変わらない。最高指導者と護憲評議会がすべての決定を行う。永遠の強硬派だ」

 イランの指導者らは、6月18日の投票に関心を高めようとしているようだ。昨年実施された国会選挙は、改革派候補者の大部分が出馬を禁止されたことから、投票率は43%と記録的な低率だった。

 ハメネイ氏は21日、国民向けの演説で、有権者の意欲をそぎ、政権を混乱させたのは米国とイスラエルだったと非難した。

 AFP通信によると、ハメネイ氏は「米国とイスラエルは選挙で不正か何かが行われたと主張したり、尊敬されている護憲評議会を非難したりしている。それがだめだと分かると、『投票しても意味はない。状況は変わらない。どうしてわざわざ投票に行くのか』と言い出す」と述べた。

候補者を審査

 選挙は、投票が実施される以前から歪められている。候補者は5月中旬までに、12人からなる護憲評議会の審査を受け、承認されなければならないからだ。審査を受けている候補者らの中には、強硬派も多く、その中には評価の分かれるアハマディネジャド元大統領もいる。

 アハマディネジャド氏は、2005年~2013年の大統領在職中に、人権活動家を弾圧し、イスラエルと米国に強い敵意を持っていたことで悪名高い。2017年に3期目を狙って出馬したが、護憲評議会が拒否した。今回、立候補が認められるかどうかは分かっていない。

 他には、ホセイン・デガン元国防相と首都テヘランのモハンマド・バゲル・ガリバフ元市長の名が挙がっている。ガリバフ氏は、かつて革命防衛隊航空宇宙軍のトップを務め、現在は国会議長に就いている。アリ・ラリジャニ元国会議長も候補に挙がっている。革命防衛隊に近いが、他の強硬派候補よりいくぶん実務的とみられている。

 ロウハニ氏による欧米諸国への接近に反対している保守勢力は、昨年の国会議員選挙で躍進し、基盤を強化した。保守派は現在、議席の約85%を占めており、そのうちのほぼ半分は、反米・強硬派に属している。

 アナリストらは、強硬派の躍進は、2015年核合意からの米国の離脱をめぐるイランの指導者らの怒りといら立ちを反映しているとみている。合意によって大規模な制裁緩和が行われ、イランは核開発を制限し、国際査察を受け入れる見返りに、巨額の資金を労せずして入手した。

 トランプ氏は、合意から離脱し、制裁を再開した。合意は、弾道ミサイル開発、テロ支援、隣国イラクで米兵を攻撃している民兵への支援など、イランによるそのほかの不安定要因に対処しておらず、危険だと指摘した。2020年1月には、米国が無人機による攻撃でイランの司令官、カセム・ソレイマニ少将を殺害、トランプ政権のイランに対する強硬姿勢はピークに達した。

 革命防衛隊と同調する政治家らは、ソレイマニ氏殺害に対する報復を強く要求している。

 イラン経済は、米国の制裁によって停滞し、中東で最悪の新型コロナウイルス感染拡大への対応をめぐって政府に対する反発が広がった。

 ハメネイ師と革命防衛隊は、バイデン氏が大規模な制裁緩和の約束を守らなければ、強硬姿勢を取る候補者だけを承認することを決めているとみられている。

 イランの体制内での政策の幅は限定的だが、アナリストらは、6月の選挙で誰が勝つかがバイデン氏にとって重要な意味を持つと指摘する。

 かつてイランの外交官で、核交渉を担当し、現在はプリンストン大学で中東の安全保障と核政策を専門とするサイード・ホセイン・ムサビアン氏は、「米国は常に、イランの強硬派と穏健派の間に本当に大きな違いがあるかどうかに疑問を持っている。言うまでもなく、イランでも同様に、米国の民主党と共和党の間に大きな違いがあるかどうかに疑問を持っている」と指摘する。

 ムサビアン氏はワシントン・タイムズとのインタビューで、「イランのメディアは常に、バイデン氏とトランプ氏との間に違いはないと主張しようとしている。だが、実際には大きな違いがある。それは、イランの強硬派と穏健派の間に大きな違いがあるのと同じだ。共和党と民主党の違いよりも、イランの強硬派と穏健派の違いの方が大きいと私は考える」と述べた。

合意の見込み

 中央情報局(CIA)での34年間の勤務の間、中東を専門としてきたノーマン・ルール氏は、強硬派の大統領が誕生しても、イランは米政府との取引に応じる可能性があると指摘する。

 「強硬派が、今回の選挙で圧勝するのは間違いないが、それでも、関与政策を放棄することはないだろうし、最終的には、何らかの形の核合意の復活を支持すると考えられる。ただし、合意が、中東地域でのイランの活動、革命防衛隊の経済と社会への支配、ミサイル開発計画などを脅かさないことが条件となる」

 現在、ハーバード大学ベルファー・センターの非常勤研究員のルール氏は、それでも現状は依然、米政府にとって有利である可能性があると指摘する。ルール氏は、強硬派の大統領が選出され、欧米を威嚇するようになれば、「米国は外部のパートナー、すなわち欧州との連携を強めやすくなり、それほど強硬でない大統領の場合、イランが譲歩するかもしれないという不合理で、根拠のない期待が生じるかもしれないが、最高指導者が承認することはないだろう」と述べた。

 米国の政権交代が、イランの世論に大きな影響を及ぼす可能性があるという指摘もある。

 欧州で活動する中東アナリスト、サイード・ジャファリ氏は、ワシントンのシンクタンク大西洋評議会が公表したばかりの分析の中で、「(昨年11月のバイデン氏の勝利に)イランの強硬派は落胆している」と指摘、「ドナルド・トランプ氏が再選されれば、6月の選挙で改革派と穏健派を排除しやすくなると考えていた。しかし、米新政権の元で、その計画が頓挫するのではないかと懸念している」と強調した。

 強硬派内のそれほど過激でない人材を前面に出し、米国との交渉の可能性を残しながら、イランの全体的な姿勢を硬化させることができないかを考えているのではないかという分析もある。

 ハドソン研究所のハッカニ氏は、「米国がこれまで強硬姿勢をとり、バイデン政権でも強硬姿勢は続くと考えれば、護憲評議会は、ホセイン・デガン氏のような候補を推すようになる可能性がある。そのような強硬派を前面に出すことで、『レッドラインを超えるな』というメッセージを送ろうとするかもしれない」と指摘した。

 6月までにはまだ数カ月ある。ハッカニ氏は、「イランの政治的兆候を読み取ることは、星占いをするようなものだ」と強調した。

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