「存続にかかわる」脅威ではない:政権と情報機関で気候変動への認識に差

(2021年4月28日)

Director Avril Haines of the Office of the Director of National Intelligence (ODNI) testifies during a House Intelligence Committee hearing on Capitol Hill in Washington, Thursday, April 15, 2021. (Tasos Katopodis/Pool via AP)

By Bill Gertz – The Washington Times – Tuesday, April 20, 2021

 米政府の情報分析官らは、バイデン大統領・政権が気候変動の脅威を強く主張していることに反発、地球温暖化からの「直接」「間接」の危険というあいまいな表現を使っている。

 バイデン氏は20日、約40カ国の指導者らとオンラインで会議を開催し、21日には気候変動に焦点を絞って話し合う。ホワイトハウスは気候変動を、直ちに世界が行動し、破滅的状況を阻止すべき「危機」と位置付けている。

 バイデン氏は1月に署名した包括的な大統領令で、「時間はあまり残されていない。世界が危険で、大惨事となる可能性のある気候変動へと向かわせるのを阻止する」と強調していた。

 このような切迫した見方に、米国の17の情報機関を監督する立場にあるエイブリル・ヘインズ国家情報長官は否定的だ。ヘインズ氏は、先週の下院と上院での証言で、世界的な課題と脅威に関する調査の気候危機、気候変動からの存続にかかわる脅威に触れなかった。今月に入って公表された包括的な国家情報長官の年次脅威評価でも、気候変動は触れられていない。

 気候変動懐疑派は、バイデン氏と情報機関の間の相違は、伝え方の違いだけではないと指摘。気候変動を過度に強調することで、それ以上に差し迫っている危機に、必要なだけの重要資源を振り向けられなくなると主張している。

 上院軍事委員会の共和党筆頭委員ジェームズ・インホフ議員はインタビューで、「国家安全保障の問題として気候変動にフォーカスすることは、軍を、敵の攻撃から国を守るという本来の任務から逸らすことになり危険だ」と述べた。

 インホフ氏はワシントン・タイムズに、「軍事施設をもっと強靭なものにする必要があるが、中国、ロシア、イランが米国の最大の脅威なのは気候変動が理由ではない。これらの国が最大の脅威になっている、これらの国が抑圧している人々、つまり自国民に私たちが示している生活様式や自由が嫌いだからだ」と述べた。

 情報長官の2020年脅威評価報告は、気候変動は環境の悪化と同様、米国の安全保障にとって明確で、直接的な脅威ではないと指摘している。

 「変動する気候と環境の悪化の影響が、経済などへの直接的、間接的脅威となり、今後10年以上にわたって政情の不安定化、難民の増加、新たな地政学的な競争を引き起こすと考える」

 熱波、旱魃、洪水が悪化する可能性はあるとしながらも、報告は、これらの問題が、具体策は挙げていないものの、「適応措置」によって対処できるとしている。

 バイデン氏の大統領令では、「存続にかかわる気候変動の脅威に対処する」ための政府全体にわたる野心的な計画が描かれている。政府の全機関に、世界の気温上昇を抑えるための指針に気候変動によって生じると考えられる脅威を盛り込むよう求めている。また、山火事、ハリケーン、熱帯性低気圧は気候変動が一因とし、国防総省は、重要基地の3分の2が地球温暖化の脅威を直接、受けていると指摘している。具体的な内容については触れていない。

控えめな評価

 バイデン氏が今週開催する気候変動サミットは、就任後、この問題に関する最も野心的な外交活動だ。だが、世界で最も多くの汚染物質を排出している中国の習近平国家主席が参加するかどうかははっきりしていない。

 大統領令はさらに、情報機関に、気候変動の脅威に関して「国家情報評価」を作成するよう指示している。国家情報評価とは、全情報機関が作成する主要分析報告だ。5月27日までにホワイトハウスに提出される。

 その詳細は不明だが、情報長官の脅威報告の内容と同様に控えめな評価になり、ホワイトハウスのような切迫した脅威という見方に同調するものにはならないとみられている。

 情報長官の報道官は、この問題に関して情報機関とホワイトハウスの間に意見の違いはないと主張した。評価報告の作成作業は進められているという。

 この報道官はワシントン・タイムズに、「(情報機関の)評価報告は、気候変動が深刻な脅威であることを明確にし、気候変動がこれまで及ぼしてきた影響、今どのような影響を及ぼし、今後どのような影響を及ぼすかについて説明する」と述べた。

 気候変動の国家安全保障への影響に関する話し合いは、今週開かれる気候変動サミットでも行われると報道官は述べた。

 将来に関する情報機関の最新の分析報告「グローバル・トレンド2040」も、気候変動によって生じる問題に触れている。

 この報告は、「気候危機」「気候緊急事態」「存続にかかわる危機」など気候変動について警告を発する用語を使用しないことで知られている。

 「気候危機」に対応するためバイデン政権は、トランプ前大統領が離脱した地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に復帰し、米企業に排出制限などを課すことになるとみられる政策の立案を進めている。短期的には温室効果ガスの排出を制限し、2050年までに排出をゼロにすることを目指している。

 政権が3月に発表した「暫定国家安全保障戦略指針」も、「気候危機」「気候緊急事態」という文言を使用。「クリーン・エネルギー・トランスフォーメーション」に集中して取り組むことを求めている。

 ロイド・オースティン国防長官は1月に声明を出し、気候変動を「国家安全保障の重要な要素」とするバイデン氏の決定を全面的に支持することを表明。気候変動の影響を米国の「安全保障の戦略、作戦、インフラ」に盛り込むことを約束した。

 オースティン氏は、国内外の軍事施設で洪水、旱魃、野火、極端気象が増加していると指摘している。

 「気候変動が国家安全保障に及ぼすリスクを直接、感じている。日々の業務に影響を受けているからだ」

 オースティン氏は、気候変動のシナリオが演習や今後の国防戦略に付け加えられると述べた。

 ヘインズ氏は今月、議員らに、気候変動によって病気の発生が増え、食料、水の不足が悪化し、政治が不安化し、人道危機が増えると述べた。

 ヘインズ氏は、下院情報特別委員会で「米国の安全保障に対する気候変動の影響の多くは、政治的、経済的な広い文脈では間接的だが、温暖化は直接的に影響を及ぼしうる。極端気象が激化し、発生の頻度が上がり、さまざまな形で発生し、十分でない国家の資源の配分をめぐって衝突を招く」と述べた。

 気候変動と経済的窮乏が合わされば、弱者は家を奪われ、政治的混乱の可能性が高まるとヘインズ氏は主張する。

 気候変動政策は世界的な協力が求められるため、技術の窃取、人権、アジアでの軍事的拡張主義などをめぐる中国に対するバイデン政権の強硬姿勢とは対立するとみられている。

 ホワイトハウスに近い筋によると、サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)はすでに政策をめぐって、大統領の気候問題担当特使ジョン・ケリー元国務長官と衝突している。ケリー氏は今月、上海で中国の気候問題担当の高官と会談した。ケリー氏は、バイデン政権の気候変動への取り組みは、少数派のウイグル族イスラム教徒の処遇、香港での民主主義に対する弾圧、米国の知的財産の窃取をめぐって中国に対して圧力を掛ける政策よりも優先されると述べた。

 ケリー氏は先週末、中国で中国側の気候変動特使、解振華氏と会談。両者は「気候危機」をめぐる協力を約束する声明を発表した。

 中国はこれまで、汚染の削減を約束しながら、依然として石炭を燃料とする工場を数多く建設している。中国は今も世界最大の温室効果ガス排出国であり、世界の二酸化炭素排出の28%は中国からとみられている。

 環境保護局(EPA)によると、米国はトランプ政権の2018年~2019年の間に、温室効果ガス排出を5%削減した。

重大な相違

 ヘリテージ財団の国家安全保障専門家ダコタ・ウッド氏は、国家情報長官の脅威評価は、大統領、補佐官らと情報機関との間でこの問題に関して重大な相違があることを示していると指摘している。

 「政治的なマインドを持つ『気候変動と戦う』活動家らはいつも、激しい言葉を使う。米国の存続にかかわる脅威である気候変動という言い方がよくなされる。存続にかかわる脅威という言葉は、乱用され、理解不足から常に誤用されている」

 ウッド氏は、バイデン氏と気候変動活動家らは、政治的課題を基に活動しているが、情報機関は、気候変動や問題が発生する可能性に対して分析的なアプローチを取っているようだと指摘した。しかし、分析官らは、炭素排出の削減や農業政策の修正の取り組みを推奨するには至っていない。

 情報分析官らがしていることはすべて「処方というよりも診断」であり、「政界とは真逆だ」とウッド氏は指摘する。

 中央情報局(CIA)元職員のフレッド・フライツ氏は、情報機関が気候変動に本格的に取り組むことについて疑問を呈した。

 「米情報機関が気候変動を、情報機関の問題として扱い、ヘインズ国家情報長官が最近実施された世界的脅威に関する公聴会で、米国の十分でない、重要な情報資源をもっと、この問題に投入すべきだと発言したことは憂慮すべきだ」

 安全保障政策センター所長のフライツ氏は「これは、情報機関がバイデン政権に取り入ろうとして活動を政治化していることを示しているが、気候変動は米国の存続にかかわる脅威というバイデン大統領の極端な見方を分析官らが受け入れていないことは心強い」と述べた。

 情報分析官らは、もっと深刻で、明確な脅威があることを分かっている。中国、ロシア、生物学的危険、核兵器拡散などだ。

 下院情報委員長を務めたことのある共和党のピート・フックストラ元下院議員(ミシガン州)も、気候変動に注力することに疑問を呈した。

 トランプ政権で駐オランダ大使だったフックストラ氏は、「環境保護がまた、情報機関の工作員にとって、実存する米国への脅威よりも重要になっている」と述べた。

 「米政府内に『気候変動』の影響を分析している機関はたくさんある。情報機関は、これを優先事項とすべきではなく、今集中すべき脅威から目を離してはいけない」

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