中国、何百人もの米科学者に不正に圧力
By Ryan Lovelace – The Washington Times – Thursday, April 22, 2021
米連邦政府の資金提供を受けていた科学者500人以上が、中国などから不正に圧力を受けていたとして調査を受けていることを、国立衛生研究所(NIH)が22日、明らかにした。
NIH当局者は上院委員会で、中国が米国人研究者を買収し、生物医学の発展への貢献が期待できる知的財産を盗み出そうしているとして、現状の把握に取り組んでいると指摘した。
NIHのマイケル・ラウアー副所長(外部委託研究担当)は、疑いがかかっている科学者200人以上について90以上の研究所に連絡を取ったと述べた。ところが、NIHが調査した結果、新たな事例が政府全体で次々に明らかになっている。
司法省は21日、数学教授で研究者の肖明慶被告を、国立科学財団から資金提供を受けながら、中国政府からも資金を提供されていたとして、通信詐欺で起訴した。
肖被告は、南イリノイ大学カーボンデール校の教授で、2000年から数学部に勤めており、司法省によると、2018年から中国からの資金提供を受けていた。
中国は、トウモロコシ生産者からがん研究者まであらゆる研究者を標的としている。ラウラー氏によると、昨年、調査対象となった科学者の90%以上が中国から支援を受けていた。
厚生省のゲイリー・カントレル副監察官は、研究者、鄭頌国被告の例を挙げた。鄭被告は、NIHに410万㌦の虚偽の補助金申請し、昨年、司法取引をし、現在は判決を待っている。この資金は、中国でのリウマチ学と免疫学の研究のために使用された。
米当局者らはさらに、中国が新型コロナウイルス研究を進めるために、米国の科学的知識と技術を盗もうとしていると警鐘を鳴らしている。中国は、米国の技術によって、超大国としての米国を追い抜くことができると考えている。
米中間の競争は、トランプ前政権時に激化し、2020年6月に政権がヒューストンの中国総領事館の閉鎖を命じる決定を下したことでピークに達した。トランプ政権当局者らは、総領事館が中国のスパイ活動の主要な拠点として使われ、新型コロナと戦う米民間企業を主に標的としていると非難した。中国外務省は、閉鎖命令に強く反発した。
しかし、連邦政府当局者らは、外国からの影響がどの程度及んでいるかを把握しておらず、議会からは、米国人研究者の買収の発見、防止に誰が責任を持っているのかをめぐって政府の取り組みに疑問の声が上がっている。
共和党のリチャード・バー上院議員(ノースカロライナ州)は22日の上院健康教育労働年金委員会の公聴会で、「懸念していることがある。申請の不正、規則違反を担当する機関が一つとして存在しない。これでは、不正を行ったり、規則を破ったりしていることを誰かが発見するのを当てにしているというふうにしかみえない」と述べた。
バー氏は、研究機関からは、研究者に関する情報を集める責任があるとは思っていないと言われたことを明らかにし、研究者について報告しなくてもいかなる罰則も受けない現状に不満を表明した。
これに対しラウアー氏は、大学が「最終的に責任を持つ」と応じた。NIHが補助金を提供しているのは、科学者個人ではなく、研究機関だからだ。
連邦政府で研究に資金を拠出しているのは、NIHだけだ。他の機関は、別の規則のもとで資金を提供している。
政府監査院(GAO)のキャンディス・ライト副局長(科学・技術評価・分析担当)は、大学は、外国からの影響や防諜の脅威を調査する際、何が狙われているのかを知らないことが多いと指摘した。
中国などの敵対国は、米国の新しい技術を標的とする際、政府の人材誘致計画を使うことがある。米政府は、これらの計画には、企業秘密の窃取、輸出管理法違反、利益相反指針違反が伴うと指摘している。
ライト氏は「大学に連絡し、理事だけでなく研究室の責任者とも話し合った。そこで、もっと情報共有を強化し、訓練し、指針を作成する必要があるという話を聞いた。とりわけ、外国の人材獲得計画の発見のための対策が必要と感じている。数多くの研究責任者から、外国の人材獲得計画に気づいていないか、単にどのようにしてそのような計画を発見するかを知らないだけの責任者が多いという話を聞いた」と述べた。
ライト氏は、大学の責任者らが、何が狙われているかが分かっているようでも、実際に誰が手を下しているかが分からないこともあると指摘した。
厚生省は、問題点を洗い出すため外部の人材を訓練する計画を作成していると表明した。
同省国家安全保障局のリサ・アギレ局長は、連邦政府機関は警告のために包括的な計画を作成することを望み、計画に関してテロ対策タスクフォークと協力していることを表明。議員らに対し、政府、民間部民と協力し、「科学への意識、バイオエコノミーへの意識」を維持するための活動を行っていることを明らかにした。
厚生省監察官局によると、同省国家安保局、NIH、連邦捜査局(FBI)、連邦検察局と協力して、外国からの影響を調査している。
研究者に資金提供している機関で、監督の行い方には違いがある。ライト氏によると、政府監査院(GAO)が以前、国防総省に利益相反の開示に関する指針がなく、他の政府委員会からの助言を待っていたことを発見したこともある。
バイデン政権は、中国に対しトランプ前政権ほど厳しい対応を取っておらず、学内での生徒、学生らへの中国政府の影響工作を明らかにするための前政権の措置を廃止した。国土安全保障省は、米国内の学校に、中国政府が資金を拠出している孔子学院との合意を開示させる計画を廃止した。
しかし、バイデン政権は、米国人研究者に、中国などではなく米政府と協力させるためのさまざまな取り組みを継続している。
その一つに、政府が資金を提供して、政府機関の研究の成果を米企業に提供させる取り組みがある。国防高等研究計画局(DARPA)は、CIAと提携するベンチャーキャピタル「イン-Q-テル」と協力し、局内の技術150件を民間企業に移転した。
国家安全保障に関連する企業買収を審査する「対米外国投資委員会(CFIUS)」も、米国内で開発された知的財産の保護を強化することを求めている。
ところが、企業幹部らは、政府が他国からの優秀な人材を排除することのないよう警告している。
ロッキード・マーティンのノーマン・アウグスティン元CEOは先週、下院委員会で、工学部の大学院生の73%は外国生まれであり、科学と工学の教授陣の28%、博士課程修了者の半分が米国の科学研究の大部分を担っていることを明らかにした。
アウグスティン氏は、下院科学・宇宙・技術委員会で「現在の米国の科学、工学への取り組みは、米国に渡り、大学院で教育を受け、米国の科学・工学界に大きく貢献している、多くの外国生まれの人々がいなければ、ほとんど成立しない」と述べた。