バイデン外交、同盟国に安心感も課題は山積

(2021年5月9日)

Secretary of State Anthony Blinken listens as President Joe Biden delivers remarks to State Department staff, Thursday, Feb. 4, 2021, in Washington. (AP Photo/Evan Vucci)

By Guy Taylor – The Washington Times – Thursday, April 29, 2021

 バイデン大統領は就任後、早い段階で、欧州からアジアにかけての同盟国を米国は支援すると確約したが、敵対国への政策に関しては、就任100日間で現状を転換させることはできなかった。

 バイデン氏は、明確な北朝鮮政策をまだ定めていない。イランとの交渉は、入り口でつまずいた。対中政策では、トランプ前大統領と同様、関税を維持し、激しく批判している。バイデン氏は、戦略に関しては、ロシアのプーチン大統領に一歩後れを取っている。

 従来の大統領の実績を測る尺度から見て、際立つ二つの重大な展開が外交であった。アフガニスタンからの米兵完全撤収の決定と、中国に対抗するための米日豪印「クアッド」の連携だ。これらは、トランプ氏が4年間、意欲的に取り組んできた政策を基に築かれ、バイデン氏の就任によって引き継がれた。

 しかし、トランプ氏の露骨な「米国第一」主義に唖然とさせられてきた大西洋主義の外交エスタブリッシュメントらバイデン政権支持者は、トランプ氏の「ツイッター外交」の終結を喜んでいる。このツイッター外交には、挑発的で、戦略的に予測できないとして反発する声も多い。

 バイデン氏の取り組みは穏やかだが、長期的にどのような影響を及ぼしていくかは、今後を見なければ分からない。アナリストらは、バイデン氏の影響は今のところ、行動よりもイデオロギーによる部分が多いと指摘する。

 バイデン氏は、就任後間もない段階で、容易に挙げられる成果を残した。つまり、世界保健機関(WHO)と「パリ協定」への復帰だ。米ロ両政府は、新戦略兵器削減条約(新START)の5年間延長で合意、失効は免れた。国防総省は、トランプ氏のトランスジェンダーの軍入隊禁止を解除し、ドイツ駐留米兵の撤収計画を覆した。

 バイデン氏は28日の議会での演説で、意表を突くような新しい外交への取り組みを表明しようとした。世界は「歴史の大きな変曲点」に差し掛かり、米国の民主主義は、全体主義的な大国と「21世紀を掛けた」「競争」をしていると述べた。

 中国の習近平国家主席らは「独裁者」であり、「民主主義は、コンセンサスを得るのに時間がかかりすぎ、21世紀に全体主義と競合することはできない」と考えているとバイデン氏は述べた。

 バイデン氏はまた、自身の対ロ政策を擁護し、米国はロシアとの関係悪化を望んでいないが、挑発、ウクライナなど近隣各国への脅し、収監されている反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏ら政治活動家の処遇などを看過しないことをプーチン氏に理解させたと主張した。

 プーチン氏と新STARTをめぐって就任後100日間、協力してきたが、一方で米国の選挙への介入、ソーラーウィンズのソフトを使った、米政府、民間のコンピューターネットワークへのハッキングをめぐってロシアに制裁を科した。

 またバイデン氏は28日、2時間にわたったとする習氏との電話で、香港、ウイグル族など西部の少数派への人権侵害、台湾に対する行動について、直接的に懸念を表明したことも明らかにした。

 しかし、取り組み方は、形式も、その実質もトランプ氏とは異なる。意表を突く外交政策を取ることが多く、左派や敵対勢力は不意を突かれ、対応を迫られた。トランプ氏は選挙での勝利から数週間後に、台湾の総統に歴史的な電話を掛けた。これは、民主主義陣営の島国、台湾に対して従来のような慎重な外交は踏襲しないという明確なメッセージとなった。

 バイデン氏が、トランプ氏よりもトーンを弱めたり、穏健な対応を取ったりしていない部分もある。国防総省当局者らは、台湾周辺での中国軍の活動の増加を警告しており、このような事態になったのは、バイデン氏が就任してからのことだ。

 一方、中東では、及第点は取れなかった。バイデン氏が任命した担当者らは、これまで成功しなかったイランの核合意への復帰に優先的に取り組んでいる。イラン核合意は、オバマ政権で交わされ、トランプ氏が離脱した。早期に合意復帰が実現する可能性は、イラン、米国の国内の複雑な事情によって急速にしぼみ、両者が合意順守へと戻るための交渉は長引き、「間接的」な形で行われている。

 トランプ氏は、サウジアラビアを中東戦略の中枢に据えた。しかし、バイデン氏は、反体制ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の死をめぐって、戦略的同盟国であるサウジを非難した。一方、ホワイトハウスは、米情報機関がムハンマド皇太子が殺害を承認したと主張しているにもかかわらず、カショギ氏殺害をサウジのムハンマド皇太子の責任と名指しするのを避け、非難されている。

 バイデン政権は、内戦下のイエメンに対するサウジの空爆への軍事支援をも直ちに停止した。イランの支援を受け、反サウジの武装組織フーシ派をテロリストとしたトランプ政権の決定も覆した。

 また、第一次世界大戦中のアルメニア人殺害を「ジェノサイド(集団虐殺)」に認定するという公約を実行した。この措置にトルコは強く反発した。トランプ氏ら歴代大統領は認定を拒否していた。

 バイデン氏は、ハリス副大統領に、米国に押し寄せる難民への対応で中南米諸国の協力を求めるよう命じたが、対策はあまり進んでおらず、具体的な結果は出ていない。キューバ、ベネズエラ、ニカラグアの反米政権への対応などの課題は、バイデン氏が他の優先的な問題で忙しく、ほとんど成り行きに任せられている。

気候変動に集中

 バイデン氏が外交政策で前政権から大きく舵を切った課題があるが、この政策が審判されるには、10年から20年の時間が必要だ。バイデン政権はトランプ政権から180度転換して、世界的な気候変動の問題を外交政策の最優先課題とし、パリ協定に復帰し、全体的な温室効果ガス削減への取り組みで、米国にとって最大の敵対国である中国と協力できると訴えた。

 約束通り、今月、40人の世界各国の指導者らとオンライン会合を主催した。これには、習氏とプーチン氏も参加し、バイデン氏は、今後10年間の米国の温室ガス削減目標を大幅に引き上げると発表した。

 今のところ、達成できるかどうかは何とも言えない。習氏は先週、2030年まで排出を増加させ、その後、今世紀の前半中に実質ゼロにする取り組みを始めることを明らかにした。習氏は、パリ協定からの離脱をトランプ政権が正当化したことを忘れていない。

 米中関係は、トランプ政権の最後の年に、新型コロナ感染が拡大する中、大きく悪化した。ところが、挑発的な態度は、バイデン氏に対しても同じだ。3月のアラスカでの米中外交トップの会談は、公開討論の場で激しいやり取りがあったことで注目された。また、中国政府は、米国の対イラン制裁が依然、掛けられているにもかかわらず、数カ月前から禁輸対象のイラン原油の輸入を大幅に増加させた。

 中国の国営メディアは、米政府に対する激しい非難を続けている。人権侵害への非難を「偽善」と指摘し、「インド太平洋」戦略に反発している。中国政府は、米国のインド太平洋戦略は、台頭する中国封じ込めへ地域の支持を集めるための手段と非難している。

 その一方で中国政府は、新型コロナをめぐる世界的な宣伝活動で米国に対し有利な立場に立っている、中国は、新型コロナ発生の初期対応に関する非難を拒否し、死者数の公式発表は米欧諸国よりも低いと主張している。また、米国が米国第一で国内でのワクチン接に専念する一方で中国は、ワクチンを求めている世界中の国に戦略的にワクチンを配布している。

 バイデン氏は28日夜の演説で、この批判にこたえようとしているように見えた。議会で、米国のワクチン供給が増えているため、「他国にワクチン供給ができるようになる。米国が世界に民主主義を拡大するのと同様であり、最終的に世界に影響を及ぼすことができる」と述べている。

大きくなる疑問

 バイデン氏は上院に30年以上いた。外交委員長を務めたこともあり、民主、共和両党の議員とも外交に関して長い付き合いがある。しかし、有力共和党議員は手加減せず、就任後数カ月間の外交方針に不安を覚えると指摘している。

 共和党のリンゼー・グラム上院議員(サウスカロライナ州)は今週、FOXニュースとのインタビューで、「ジョー・バイデンは好きだが、外交はまるでだめだ」と述べていた。

 「イランとの交渉を開始する。何も変わらなかった。アフガンは分裂する。ロシアと中国にすでに振り回されている。非常に気がかりだ」

 北朝鮮政策に関しても大きな疑問がある。北朝鮮との非核化交渉は、2019年2月の金正恩朝鮮労働党委員長との2回目の歴史的な首脳会談後に、暗礁に乗り上げ、北朝鮮政策は止まったままだ。

 バイデン政権は、北朝鮮特使も駐韓国大使も任命しておらず、北朝鮮との交渉再開を望んでいるが、拒否されたとしている。

 その間に、北朝鮮が、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の試射など挑発的な行動を取り、複雑な北朝鮮問題を数カ月間棚上げにしてきたバイデン政権がどのような戦略を発表しようと、その機先を制しようとするのではないかという憶測が広がっている。

 2011年9月11日の同時多発テロ20周年までにアフガンから米軍を完全撤収させるという約束は恐らく、バイデン氏にとって最も重大な戦略的決定だが、両党から非難され、懸念されている。

 その理由はほとんどが、米軍撤収後のタリバンの復活への恐れが原因だ。さらに、完全撤収によって国防総省がアフガンの過激派を追跡、攻撃する能力が削がれるのではないか、米国が支援するアフガン政権が、イスラム主義者タリバンの反政府活動に耐えられなくなるのではないかという懸念もある。

 バイデン氏は28日夜、脅威は「アフガン以外の地域にまで」達しており、米国は「将来の脅威を抑え込む能力を維持する」と主張してこれらの懸念の払拭を試み、アルカイダと「イスラム国」(IS)は「イエメン、シリア、ソマリアなどアフリカ各地、中東、それ以外の地域」で活発化していると指摘した。

 バイデン政権は、アフガン撤収で地域の覇権を中国、ロシア、イランに譲り渡そうとしており、米軍、北大西洋条約機構(NATO)軍撤収後の空白に入り込み、利益を得ようとする地域の大国の間の争奪戦が始まるのではないかという懸念も出ている。

欧州の安堵と抵抗

 バイデン氏が、外交政策を公表することで、政権が、欧州の同盟国など複数の戦線で持っているはずの戦略的影響力を損ねる危険性があるという批判が出ている。

 民主党議員の多くは、欧州との伝統的なつながりは、トランプ氏がNATO加盟国に対して、国防費を増額し、中国に対する米国の強硬姿勢を支援するよう要求したことで、大きく傷ついたと主張している。

 トランプ氏が積極的に、欧州製品へ関税を課したことも、緊張の高まりや報復につながった。しかし、バイデン氏が方向転換を望んでいることを明確にすれば、米国の交渉力は弱まってしまう可能性もある。

 英シンクタンク「チャタム・ハウス」欧州計画の上級研究員ハンス・クンドナニ氏は、最近行われたオンライン会合で、「バイデン政権は、欧州との連携の復活を望んでいることを強調したが、EU(欧州連合)、バイデン政権がドイツに影響力を持つことはない。米国の利益に反することをしていたとしても影響力は及ばない」と述べた。

 クンドナニ氏はその例として、ドイツがロシアと敷設を進めるパイプライン「ノルド・ストリーム2」に反対を表明したが、メルケル政権は計画の中止を拒否したこと、EUが米国の懸念にもかかわらず、中国との大規模投資計画を推進することを決めたことを挙げた。

 しかし、NATOは、トランプ政権の戦闘的な姿勢に対し、バイデン政権のおとなしい対応をおおむね歓迎している。同盟強化の支持者らは、トランプ氏の取り組みは非生産的であり、ロシアを戦略的に有利にしたと主張する。世界の主導的民主主義国家が協力的な関係を強めれば、就任100日以降、広い世界の舞台でバイデン氏の活動を強化できるという見方もある。

 ラスムセン・グローバルのCEO、ラスムセン前NATO事務総長はForeign Policy.comで、「国内の問題で忙しい中、バイデン氏は、米国の世界的な指導力の復活へ大きく前進した。世界が米国のリーダーシップを必要としている」と述べた。

 ラスムセン氏は、「大きな試練がまだ待っている」とした上で、「ブリンケン国務長官がEU外相らと集中的に協議し、バイデン氏がミュンヘン安全保障会議にオンラインで参加し、インド太平洋クアッドの初めての首脳会談を行うなど、(バイデン政権はすでに)同盟国と密接に協力している」と指摘した。

 「この政権は、台湾やウクライナなど、自由主義体制と独裁体制の間の危機的な断層線に関して立場を明確に示した。NATOもようやく、大統領のツイートやかんしゃくの心配をすることなく、前に進み、新たな戦略を打ち立てることができるようになった。しかし、欧州の同盟国は、バイデン氏が国防費増額要求を弱めるという幻想は抱いていない」

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