バイデン氏がIRS強化案、報告・守備義務めぐり懸念
By David Sherfinski – The Washington Times – Thursday, May 6, 2021
バイデン大統領は、大企業や富裕層への増税のために内国歳入庁(IRS)を増強しようとしているが、銀行業界からは冷ややかな目で見られ、IRSが、法を順守する国民の貯蓄、引き出しの情報を乱用するのではないかという懸念が高まっている。
バイデン氏は、「タックスギャップ」を小さくするために、IRSの予算を増額しようとしている。タックスギャップとは、課税額と実際に支払われた税の差額を指す。予算増額分は、大企業と、課税所得を隠している可能性のある富裕層からの税の徴収に使用される。
1兆8000億㌦の「米家族計画」の一環としてバイデン氏は、金融機関に口座入出金の年間報告の拡充を求めた。この情報は通常、米国民が確定申告の際に毎年、連邦政府に提出する賃金、所得の情報には含まれていない。
全米納税者連盟(NTU)のピート・セップ会長は、IRSがこの追加の資金と権限をどのように使用するのかをめぐって懸念を抱くのは当然だと述べた。
「政府が情報を保有し、交換すれば、それとともに、ルール違反などあらゆる問題がついてくる。インフラ政策について言えば、IRSは、この情報を管理するインフラすら持っていないのではないか」
アーバンブルッキングズ・タックス・ポリシー・センターのスティーブン・ローゼンタール上級研究員は、政権が求める報告基準は正しいと思うが、その範囲が広すぎ、IRSは大量の役に立たない情報を抱えることになりそうだと指摘した。
「おしつけがましく、言うまでもないがプライバシーの問題もある。不正の疑いがない中でIRSにどれくらいまで、どの程度の裁量を認められるかという問題だ。私の賃金はIRSに把握される。私の投資収益はIRSに把握される。あちらはこちらのことをよく知っている。だから問題は、私たちが社会として、どれだけのものを今以上に、あちらと共有するかということだ」
課税所得の隠蔽、申告漏れを捕捉するために申告に関して追加の条件が作られることになるとみられている。隠蔽、申告漏れは起きるものだが、高度な脱税もやはり、新たな方針のもとで問題視される。
ローゼンタール氏は「この問題には、税法の簡素化で対処すべきだと私は考えている」と述べた。
ローゼンタール氏は、クリントン、ブッシュ(子)政権でIRS長官だったチャールズ・ロソッティ氏の提案について触れた。この提案は、収益を過少報告しがちな企業に絞り込むことを目指している。
「この提案を目指せば、バイデン政権は達成できると思う」とローゼンタール氏は強調した。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、銀行に対する口座の年間入出金報告の要求は、ベンモなどの個人間の送金サービスにも適用されるが、政府に追加情報を報告する個人と企業には求められない。
この報道を受けて、減税を支持する権利擁護団体、全米税制改革協議会(ATR)は「バイデンは、あなたのベンモ口座まで探らせようとしている」と激しく非難した。
ATRは電子メールで「富裕層が、ベンモやキャッシュアップを使ってどのように大量の資金を洗浄しているかを知ることは難しい。これもまた、IRSの権限を強化するための取り組みだ。IRSがこれらの権限を、あらゆる所得水準の米国民に対して行使することは間違いない」と訴えた。
保守派は以前から、IRSを警戒してきた。懸念していたことがオバマ政権時に実際に起き、IRSは、右寄りの政治団体を標的に税務調査を強化していたことを認めざるをえなくなった。
財務省は、新たな基準でも納税者への報告の負担は増えず、金融機関の口座入出金の年間報告が増えるだけだとしている。
財務省は「IRSにこの情報を提供することで、監査対象の選択がしやすくなり、疑わしい脱税者に焦点を絞った取り締まりができるようになる。普通の納税者に対する不必要で(費用の掛かる)監査が必要なくなる」と主張している。
法律はまだ出来上がっていないが、銀行産業ではその影響への評価を行っている。
銀行の守秘問題の専門家は、「IRSはすでに、この情報を入手する広範囲に及ぶ権限を持っているが、この提案で政府は事実上、銀行をIRSの道具の一つにすることを要求しているようなものだ。顧客情報の共有もセンシティブな問題であり、これについても強く懸念している。IRSがこの情報を公開すれば、大変な問題になる」と述べた。
ローゼンタール氏は、「平均的な納税者なら対策を講じる必要はないだろうが、取り締まり強化を恐れ、財務状況を急いで整理しようとする人々が出てくる可能性がある」と指摘した。
「IRSが実行しなくても、『レイダース・失われたアーク』の聖櫃のようにじっとしていても、…問題なのは、納税者が心配するかどうかということだ」
ローゼンタール氏は、米国民が行動を変えるかどうかは分からず、大部分の国民は、IRSを信用し、個人情報を乱用するようなことはないと考える傾向があると述べた。
「しかし、どれだけ国民が心配するかを予測することは難しい。納税者が本当に心配するようになれば、収入を隠す、つまり複数の金融機関に預けるようになる可能性がある。もしかすると、有限会社など他の組織の名義を使うかもしれない」
民主党は、「タックスギャップ」を小さくする方法について長年、話し合ってきた。それを実行すれば大抵、IRSの予算は増える。
権利擁護団体「ペイトリアティック・ミリオネアズ」のモリス・パール会長は、「長年にわたって意図的にIRSの予算が削減されてきたため、富裕層による課税逃れが見逃され、タックスギャップへとつながり、…年間1兆㌦以上に上る」と述べた。
政権は、IRSの予算増額によって、新たな報告義務、技術の向上の効果を合わせれば、10年で7000億㌦の歳入増が見込めるとしている。
ペン・ウォートン・バジェット・モデルは今週、調査報告で、約4800億㌦の増収が見込めると発表した。
バジェット・モデルの政策分析担当ディレクター、リチャード・プリシンザーノ氏は「これによってどこを監査するかを評価しやすくなり、完全にランダムにするよりも、監査が容易になる。すでに大量の情報を手に入れているのだから、監査の成功率は上がる」と述べた。
だが、ロソッティ氏は、もっと大きな増収となる可能性があると指摘する。
同氏とフレッド・ゴールドバーグIRS元長官は、連邦政府が、第三者による報告の強化、技術の向上、IRSの監査方法の見直しによって10年間で1兆4000億㌦を手に入れる可能性があると指摘する。
ロソッティ、ゴールドバーグ両氏は今年に入って、ブルームバーグ・タックスへの寄稿で、「確かに、この計画を実施するには、複数年にわたって歳出増が必要となるが、いずれ、その15倍から20倍の歳入を生み出し、同時に、税制の公平性と持続可能性が高まる」と指摘した。