バイデン政権は、クアッド拡大で中国に対抗することは目指していない

(2021年6月11日)

Australia’s Prime Minister Scott Morrison, right, and Minister for Foreign Affairs Marise Payne, left, participate in the inaugural Quad leaders meeting with the President of the United States Joe Biden, the Prime Minister of Japan Yoshihide Suga and the Prime Minister of India Narendra Modi in a virtual meeting in Sydney, Saturday, March 13, 2021. (Dean Lewins/Pool via AP)

By Guy Taylor – The Washington Times – Sunday, June 6, 2021

 バイデン政権当局者らは、米、インド、日本、オーストラリアの戦略的枠組み「クアッド」に他国を加える意向はなく、インド太平洋地域での米国の政策の今後は、この四つの民主主義大国が、世界の舞台で攻勢を強める全体主義の中国に、いっそう強く連携して対抗できるかどうかにかかっていると述べた。

 クアッドに関与している政権高官の1人はワシントン・タイムズに「インド太平洋への進出をめぐる米国の政策全体にとってクアッドは、間違いなく中心的位置を占めるようになる」と述べた。この高官は、ホワイトハウスが今年、クアッドによる初めての「首脳レベル」での対面でのサミットの準備を進めていることを明らかにした。

 その一方で中国は、クアッドに対する非難を強め、米国が、非公式な「クアッド・プラス」構想を立て、韓国、フィリピン、シンガポール、マレーシア、ベトナムなど中国周辺の諸国から戦略的な理解を得ようとしているとの見方が出ている。

 アナリストらは、クアッドとその他の国々は、米中間の覇権争いに「関与」していると指摘した。一部の国はすでに、中国との貿易への依存で、中国政府から恩恵を受けている。そのため中国が、人権侵害や軍事的攻勢を非難しないよう要求すれば、従わざるを得ない。

 トランプ前政権が、中国に対抗するためにインド太平洋地域の民主主義大国との連携を強めようと開始した戦略的取り組みを、バイデン政権がさらに強化する意向を示したことから、クアッド・プラスに関する議論は活発化した。

 タカ派の外交専門家らは、トランプ時代の構想を「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」と呼んでいた。

 中国当局者らは、この構想に強く反発している。サウス・チャイナ・モーニング・ポストによると、中国の王毅外相は、クアッドを利用して「冷戦時代の思考を吹聴して回り、対立をあおる」ことで、「米国の支配と覇権」を守ろうとしているとトランプ政権を非難した。

 中国の習近平国家主席は、バイデン米大統領が1月に就任すると、米国が反中で世界をまとめようとすると「新冷戦」が起きると警告。米政界では、新冷戦はすでに始まっているという見方が強い。

 バイデン政権の2人の高官はワシントン・タイムズとのインタビューで、新冷戦という文言を使わなかった。

 この当局者らはインタビューで、クアッドが特に中国封じ込めを狙った構想としてとらえられ、報じられることには慎重だった。しかし、匿名を条件に、インド太平洋諸国は中国との貿易に依存しているが、これらインド太平洋諸国のために親民主主義の安全保障と法的な基盤を築くことを、バイデン氏が目指していることを明確にした。

 バイデン政権に近い筋によると、ホワイトハウス内では、社会主義的で左寄りの補佐官らも、共産中国に対抗する必要性で一致している。補佐官らは、クアッドに関与することは、地域内の国々が、中国の経済的、地政学的影響力に対抗する最良の方法だと指摘している。

 オバマ政権で副大統領を務めていたバイデン氏のアジア政策担当特別顧問だったジェイコブ・ストークス氏は「バイデン政権は、トランプ政権下のクアッド組織化への勢いを前進させ、深め続けるために尽力している」と述べた。

 現在はニュー・アメリカン・セキュリティー・センターに勤めるスークス氏は、「バイデン政権はこれまで、米国、日本、オーストラリア、インドを核とするクアッドの今後の活動と構想が地域内、世界中の他の国々に接続される状況をかなり意図的に作り出そうとしてきた。この取り組みの目指すところは、他国がこの構想にシームレスにつながれるスペースを提供することにある。その構想は、ワクチン、技術の基準、質の高いインフラ、さらには航行の自由作戦、安全保障問題までさまざまな分野に及ぶ」と述べた。

 米平和研究所のアンドリュー・スコベル氏も同意見だ。

 「クアッドに関して、ボールはバイデン政権側にある。バイデン政権が、トランプ政権が始めたこのフォーラムの上に効果的に築き上げることができれば、クアッドは、中国対抗で志を同じくする国々との協力など、さまざまな構想に向けた重要な道筋を開くことが可能になる」

 一方でスコベル氏は、「先走り過ぎ」を警告した。

 「他の国々を関与させるのはいいが、クアッドの拡大について話し合う前にまず、その基盤を固め、強化すべきだ。クアッドが維持されれば、経済協力であれ、安全保障協力であれ、一定の成功、一定の成果として見られるはずだ。そのような成果が、組織や対話の価値を高める」

 「控えめであっても注目の値する成果について話し合えば、年内に対面で行われる会合を世論は、関与した国すべての勝利とみるはずだ」

 1人の政権高官がワシントン・タイムズに、「参加国を追加して、クアッドを拡大する計画は今のところない」と述べた。しかし、バイデン氏のアジア政策担当補佐官は、クアッドへの他国の「関与」を推進したい意向を公にしている。

 国家安全保障会議(NSC)のインド太平洋問題調整官、カート・キャンベル氏は先月、スタンフォード大学が開催したオンラインイベントで「これは思い付きではない。関与し、一緒に働きたいという国があれば、扉は開いている」と述べた。

 3月にオンラインで実施されたクアッドの首脳会議でバイデン氏と参加国首脳は、攻勢を強める中国を前に、自由で開かれたインド太平洋地域を守ることを約束した。また、新型コロナウイルスワクチンと気候変動で密接に協力することでも合意した。

 次回の対面での会議は、透明性のあるインフラ構想に特に取り組む予定となっている。中国が大量の資金を投入して進めている大規模経済圏構想「一帯一路」に対抗するためだ。米当局者らは、一帯一路を略奪的融資による不透明なシステムとしている。

 中国は激しく抵抗するとみられている。3月の首脳会議の前に中国政府は、反中で集結しようとするようならば、クアッド主要国にちゅうちょなく経済的圧力を掛ける意向を明らかにした。

 インド、オーストラリア、日本は、貿易で中国に大きく依存している。中国はオーストラリアと日本にとって貿易相手国第1位であり、インドにとっては米国に次ぐ2位となっている。中国共産党系の環球時報は2月、クアッドの活動の拡大に関して、「レッドラインを越えれば、中国は経済的に報復できる」とする記事をトップで報じた。

 この「レッドライン」が何を意味するかはまだ分からない。クアッド参加国はインド洋での海軍による高度な合同演習を実施している。中国はこれに直接対抗してはいないが、南シナ海と台湾海峡での軍事攻勢を強化している。

ASEANの代わりとなるか

 クアッドを、東南アジア諸国連合(ASEAN)のような地域の安全保障と経済に関する既存の枠組みに組み込むこともありうる。しかし、中国は、ASEANを含むさまざまな地域内の機関に強い経済的影響力を持っている。ASEANは、官僚主義的な弊害があることでよく知られている。

 一方で、クアッドとASEANの統合によって、拡大する中国の影響力に対抗する民主主義勢力としてのクアッドを、中国が弱体化させやすくなるという指摘もある。

 ストークス氏はワシントン・タイムズに、バイデン政権は、ASEANなどの地域機関が今後も重要であることに変わりはないが、クアッドには、官僚的、地政学的制約にとらわれることなく、台頭できるチャンスがあると述べた。

 特に懸念すべきは、中国が経済的圧力、影響力を行使して、ASEANなどの機関に、中国の戦略構想に沿わない集団的方針を排除させることだ。ストークス氏は、クアッドの目標は、そのような圧力に屈しない強固な基盤を築くことであるべきだと主張した。

 同時にストークス氏によると、バイデン政権は、「クアッド・プラスの枠組みに加わる可能性がある国はすべて、参加に関して政治的、戦略的、経済的に障害がある」ことも認識している。

 「米政権は、これらの国に圧力を掛けたとみられたくない。だが、将来、さまざまな差し迫った問題について友好国と対話できるようにするための、民主主義と透明性に基づくプラットフォームづくりの基礎にもしたい」

 「クアッドは、アジア版NATOにすることを意図したものではないし、そうなることはない。しかし、それは、たとえ正式なメンバー国ではなくても、さまざまな構想に友好国を参加させることによって、中国に対する政治と安全保障上の抑止力を強化しないという意味ではない」

 一方、スコベル氏によると、中国政府は、米国などの民主主義国は、無秩序で、分断され、世界のリーダーとして信頼できないという主張を強化しようとしている。これについてスコベル氏はワシントン・タイムズに、クアッドが、中国のこのような主張を受け入れることはないと指摘。「世界の民主主義国は、戦略的構想で確かに一致しており、その構想によって、民主主義国内で何らかの政治的対立が生じても、乗り越えられるという考え方を(クアッドは)裏付けている」からだと述べた。

 スコベル氏はまた、クアッドが関与するのは、米中間の競争だけではないと述べた。

 「気候変動という重要課題があり、クアッドはそれを通じて中国に、クアッドが中国への対抗だけを目指しているわけではないことを示すことができる。これは、クアッドと将来のクアッド・プラスは、中国への対抗だけでなく、民主主義国が懸念し、協力して対処しようとしているもっと大きな課題にも取り組むということを中国にはっきりと示すためには、重要なことだ」

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