中国偵察気球、任務は極超音速ミサイルのための情報収集
By Bill Gertz – The Washington Times – Thursday, November 30, 2023
中国の国防研究報告書によると、高高度気球計画は人民解放軍(PLA)の極超音速ミサイル計画と連動しており、米国との衝突に備えて、この二つの計画を管轄する「近宇宙軍」が新設されたという。
国立国防科技大学の研究者グループの報告によれば、PLAは極超音速ミサイルと高高度気球のために新たに近宇宙軍を設置した。2月に米本土を横断し、サウスカロライナ沖で空軍の戦闘機によって撃墜された偵察気球もこの高高度気球に当たる。
10月に北京で開催された指揮統制に関する会議で公開された報告書「臨近空間(ニアスペース、近宇宙)作戦指揮」によると、近宇宙軍は、敵の中枢にある通信機器や中継地など、厳重に保護された標的を極超音速ミサイルで攻撃することを任務とする。
また、「多数の」偵察気球、太陽電池で動く無人航空機、その他の支援機器も運用しているという。
「極超音速兵器はロケット発射場を攻撃することができ、民間衛星ネットワークで衛星破壊ミサイルを発射する敵の能力を破壊することができる。これらの攻撃は、正確で、圧倒的で、無慈悲でなければならない。これは戦闘のペースを変え、戦争の終わり方に大きな影響をもたらす可能性がある」
米国防当局者によれば、中国の高高度気球はPLAの管理下にあり、偵察、サイバー攻撃、電子・心理戦を担当する戦略支援軍が運用している可能性が高いという。気球は自律システムを搭載し、高高度を低速で移動しながら、数週間から数カ月間滞在することで、監視と通信の中継地点の役割を果たすことができるという。
報告書は極超音速ミサイルについて、発射後数分で標的を攻撃でき、ミサイル防衛システムを回避する機動が可能な効果的な兵器と説明している。一方で、ミサイルが政治的・国際的な関係に課題をもたらす可能性があることも認めている。
米議会の米中経済安全保障調査委員会の最新の年次報告によれば、中国は核弾頭または通常弾頭を搭載可能な極超音速ミサイルで世界をリードしている。
最初に配備された極超音速ミサイルは、極超音速滑空飛行体を搭載した「東風17(DF17)」。「東風41(DF41)」は最終段に極超音速ミサイルを搭載でき、2021年の試験発射では、4万㌔を飛行し、地表の標的に命中した。
中国はまた、現在のミサイル防衛を突破できる弾頭を持つ極超音速ミサイル「星空2」の開発も進めている。
また報告は、これらのミサイルが、米国のロケット「スペースⅩ」の発射台など、民間のインフラを標的にする可能性もあると指摘している。近宇宙軍は設置されたばかりで、現在、急速に整備が進められているが、一部の部隊は完全な運用段階にはなく、共通の戦闘作戦を持っていない。
「近宇宙軍への理解を深める必要がある。指揮統制権の階層、指揮方法の選択、命令の実行、指揮通信の支援を調整する必要がある」
この報告は中国の研究データベース「CNKI.net」に掲載され、サウスチャイナ・モーニング・ポストが最初に報じた。
紛争地帯
中国の戦略家らによれば、「近宇宙」は将来の戦争を左右する紛争地帯となりうるが、その概念について法的にはあまり議論されていない。
PLA系の国営紙「解放軍報」は最近の社説で、「近宇宙は現代戦争の新たな戦場となった」と書いている。
この概念は普遍的に受け入れられているわけではない。
米コンサルティング会社「スペース・ロー・アンド・ポリシー・ソリューションズ」の創設者兼代表マイケル・リストナー氏によれば、中国は偵察気球飛来事件の際、近宇宙に関する自国の主張を宣伝し、米国との二国間関係を悪化させたという。リストナー氏は「法的には、『近宇宙』などというものは存在しない」と指摘、中国の主張は「非常に危険だ」と訴えた。
「主権国家上空の成層圏は主権の及ぶ領空だ。しかし中国は、これを法的に曖昧にすることで、気球だけでなく極超音速兵器の飛行をも正当化するためにローフェア(法律を利用した戦争)を始めているようだ」と述べた。
米インド太平洋軍の合同作戦法チームによる報告書は、中国が複数の出版物で「近宇宙」という用語を宣伝し、「違法な監視を合法と偽って実行するグレーゾーン(低強度紛争)を作り出そうしている」と指摘した。
さらに、国際法には「『近宇宙』という文言は存在せず、領空と宇宙空間のみであり、(高高度気球が)飛行しているのは領空だ」との見方を示している。
今年初め、中国は米国を横断した気球が偵察を行っていたことを否定し、コースを外れた調査気球だと説明した。米軍が気球を撃墜すると、中国は激しく抗議した。
バイデン政権は気球に搭載されていた電子機器の多くを回収した。これまでのところ、中国との緊張を和らげようとする政権の新政策の下で、これら電子機器の詳細については公表されていない。
米外交政策評議会(AFPC)の宇宙専門家ピーター・ギャレットソン氏によれば、中国は近宇宙の再定義を試みているという。近宇宙という概念は、過去にはプロペラ機や固定翼機による飛行が困難な主権空域を表すために使われていた。この領域はまだ主権領域とみなされており、どの国でも進入できる無制限の空間ではない。
ギャレットソン氏は、「宇宙空間に入るまでは主権領空というのが、一般的な法的理解だ。中国はあらゆる領域で、自国に有利なようにルールや定義を書き直そうとしてきた。これもその一例だ」と指摘した。
「中国はこれまでにもさまざまなところでサラミ戦術を取ってきた。近宇宙でも、世界を執拗で帝国主義的な侵略に従わせ、複数の国の主権領空への気球侵入のような侵略行為を正当化しようとしている」
しかし、近宇宙軍に関する中国の最新の報告書で、40カ国以上で運用が確認されている偵察気球は、極超音速ミサイルが使用するための情報を収集していることが明らかになっている。極超音速ミサイルは、宇宙空間のすぐ下を音速の5倍以上の速度で飛行し、誘導が可能だ。
成層圏を移動するPLAの偵察気球は、風や気温など、極超音速ミサイルの攻撃に役立つ貴重な情報を集めることができる。
CNKI.netのデータベースを調べると、中国は武器使用を含め、近宇宙に関する何百もの報告書を発表していることが分かる。中国のアナリストらは、地球表面から20~100㌔の公式かつ法的に宇宙空間とみなされる領域の下を、近宇宙領域と定義している。この中間的な空域の空気は、航空機が飛行するには薄すぎ、軌道を周回する衛星には濃すぎるとされている。
軍組織内に緊張
中国の報告書は、近宇宙軍の組織構成でいくつかの運用と指揮系統のねじれを解決する必要があることを示唆している。報告書によれば、指揮官らとそこで働く部隊の間には「しばしば緊張感が漂う」という。
「上級将校は、自分の責任範囲外の戦術的命令を出す可能性が非常に高く、下級将校や戦闘員(兵器装備のオペレーターなど)が何をすべきか分からなくなり、彼らの行動に悪影響を及ぼす可能性がある」
報告書は、司令官らに、世界情勢、国家の政策、戦略指針をより深く理解するよう求めている。
紛争時には、PLA幹部らは、意思決定と行動を改善するために、近宇宙軍の指揮官らにある程度の権限を委譲できるようにすべきだと報告書は述べている。
報告書によれば、中国の敵は近宇宙軍を熟知しており、有事にはあらゆる手段を使って破壊しようとするだろうという。
「近宇宙軍の司令部と管制ステーションは、敵の偵察と攻撃の重要な標的になるだろう。これらの目標の破壊と防御をめぐる競争は、極めて激しいものになる」
報告書によると、近宇宙軍は、ロケット軍など他の軍の極超音速兵器を完全に掌握し、敵の戦略的目標への迅速な攻撃を実施する。
「このような調整は困難が伴う。近宇宙軍は、詳細に関する命令を伴う包括的な行動計画を迅速に打ち出す必要がある」と報告書は述べている。