中国のテレポーテーション技術に懸念―米議会諮問機関
By Ryan Lovelace – The Washington Times – Tuesday, February 6, 2024
中国がテレポーテーション(瞬間移動)技術の研究を進めていることに、議会の委員会が監視の目を向け、中国による量子ツールの利用についての調査を行っている。情報そのものを物理的に移動させることなく、ある場所から別の場所へ転送できる新しい技術だ。
テレポーテーション能力は生まれたばかりで、SF「スタートレック」のように人々を銀河系に転送することはできないかもしれない。今はほんの小さなデータをより効率的に移動させる能力しかなくても、中国はいつか機密データを安全に収集・転送する方法を手に入れるかもしれない。さらに昨年、米国横断後に撃墜された中国のスパイ気球の中に一体何が入っていたのかという新たな疑惑が生じている。
米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障調査委員会(USCC)」は先週、量子技術などの先端技術の応用による中国の軍事的変革への取り組みを調査する公聴会を開催した。
ランド研究所の物理科学者エドワード・パーカー氏はこの公聴会で、「中国は量子通信で世界的に優位に立つことを目指しているようだ。その一環として、宇宙から量子通信が可能な衛星を2基打ち上げた。衛星通信を通じて粒子を量子テレポーテーションで送ることができる。量子通信衛星を打ち上げた国は他にない」と述べた。
MITテクノロジーレビューによれば、量子テレポーテーションは、光子などの二つの粒子のもつれによって可能になる。同時に、同じ場所で生成された二つのもつれの関係にある粒子は遠く離れても、互いに同じ性質を持ち続ける。ある場所にある光子に搭載された情報は、理論的には、もつれの関係を経由して別の場所にある光子に転送される。
2020年、全米科学財団は、光子だけでなく電子でもテレポーテーションが可能であることを示す研究に資金を提供した。同年、フェルミ研究所とカリフォルニア工科大学の科学者チームは、最先端の光子検出器と市販の装置を用いて、「量子ビット」(量子情報のビット)を43㌔先に転送したと発表した。
しかし、このような試みより前、2017年に中国の科学者チームが、地上観測所から地球の低軌道衛星へ、最大1400㌔の距離をアップリンク・チャネルを通じて光子量子ビットを転送したと主張していた。アップリンクの大気による乱れを克服するために、中国チームは高帯域幅で高精度の補足・指示・追跡システムなどの技術を開発したという。
データを安全に転送することの国家安全保障上の意味は計り知れず、軍と情報機関は敵の手の届かない安全な通信プラットフォームを必要としている。
2018年の新アメリカ安全保障センター(CNAS)の調査によると、中国の量子テクノロジーへの関心が強まったのは、国家安全保障局(NSA)の元契約職員エドワード・スノーデン氏によって米国の情報収集能力と中国での活動の詳細が明らかにされてからのことだ。
スパイ気球
中国が宇宙空間での量子技術の応用に成功したことが明らかになったのを受けて、この技術が大気圏内の高高度を移動する装置にも応用可能かどうかという疑念が生じた。例えば、昨年米国を横断飛行し、米中関係に大きな緊張を招いた中国のスパイ気球だ。
USCCのジェイコブ・ヘルバーグ委員は、先週の公聴会でパーカー氏に、敵のスパイ気球での量子技術の応用の可能性について質問した。
「もし仮に、巨大なヘリウム気球に量子センサーを取り付け、われわれの核施設上空を誘導飛行させたとしたら、核施設に関する国家安全保障上の機密情報を暴露することができるのではないか」という質問に対しパーカー氏は、「それほど技術的に詳しく調べたわけではなく、コメントはできない」と答えた。
ヘルバーグ氏はワシントン・タイムズに、撃墜された気球に関する詳細はまだ機密であり、このような気球に搭載された量子センサーによって、敵対勢力が地中マッピングなどの情報収集を行うことが可能になるのではないかと懸念していると語った。
昨年、撃墜されたスパイ気球に量子技術が搭載されていたかどうかは公表されていないが、気球は米国民の頭上を飛行する際、米国のインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)を利用していたと報じられている。中国は、この気球は気象観測用であり、風で飛ばされてコースを外れたと主張し、バイデン政権の撃墜の判断を厳しく批判した。
米国防総省のパット・ライダー報道官(少将)は2023年6月、米政府はこの気球に情報収集能力があると評価したが、米国内を通過している間は情報を収集していなかったとしたが、その後、米政府が情報収集の可能性があるとして、それを阻止する措置を取ったと述べた。
2023年12月のNBCの報道によると、情報機関は、気球が中国との通信を送受信し、気球は短時間に広帯域のデータ収集を送信できたと判断している。
NSAは、量子テレポーテーション技術についての理解や、撃墜した気球に量子技術が搭載されていたかどうかを知っているかについての質問には回答しなかった。国家情報長官室も同様に、気球に量子技術が搭載されていたかどうかについてのコメントを避けた。
NSAは、国家安全保障に関するデータを保護する任務において、量子技術の一部を本格的に使用することはできないと考えていることを明らかにしている。NSAはウェブサイトで、国家安全保障システムを保護するための量子鍵配送(QKD)と量子暗号(QC)の使用を支持していないとしており、NSAは協力する団体による量子技術の使用を承認することも想定していない。
さらにNSAはサイトで「通信ニーズとセキュリティー要件はQKD/QCの使用において物理的に相反するものであり、これらの基本的な問題のバランスをとるために必要なエンジニアリングは、エラーに対する許容度が極めて低い。したがって、QKDとQCのセキュリティーは、物理法則によって保証されるのではなく、実装に大きく依存する」としている。
量子技術が不安定であることで、米情報機関によるスパイ気球の信号収集が容易になったかどうかは不明だ。NBCによると、バイデン政権は米上空を飛行する気球の情報を収集するため、外国情報監視裁判所の許可を求めたという。
パーカー氏が議会公聴会で強調した結論はこうだ。情報をテレポートすることは難しく、人間をテレポートすることは、今後長い間SFの領域にとどまるだろう。
「技術的な注意点として、テレポーテーションでは人間や大量の物質を転送することはできない。できるのは個々の粒子だ」
ランドール・シュライバー委員は、パーカー氏の指摘の修正を提案した。
「パーカー博士、発言の最後にまだという単語を付けるのを忘れているようだ」というシュライバー氏の発言が笑いを誘った。