ネット通じスポーツ賭博拡大 若者の依存症に懸念

今年のNCAAバスケットボールトーナメントでは、ブザービーターや逆転劇が起こるたびに、マーチマッドネスのヒーローを称賛するベッターと罵倒するベッターが、ほぼ同じ割合で存在する。
By Liam Griffin – The Washington Times – Wednesday, March 19, 2025
今年の全米大学体育協会(NCAA)バスケットボールトーナメント「マーチ・マッドネス(3月の狂騒)」で(試合終了直前のシュートが、ブザーが鳴ってからバスケットに入る)ブザービートや番狂わせが起きるたびに、賭けに興じる多くの人々が選手らをたたえたり、けなしたりすることになる。
アメリカン・ゲーミング協会の推測によると、NCAAトーナメントでの賭けの総額は30億ドル以上に上る。
実際の狂騒が起きているのはコート上ではないということだ。マーチ・マッドネスは、ナショナル・フットボールリーグ(NFL)の王座決定戦「スーパーボウル」に次ぐ第2のスポーツ賭博イベントとなり、多くのファン(「ファナティック」の略)が群がる中、「スポーツブック」などのスポーツ賭博アプリは近年、急速に成長している。
3月は偶然にも「ギャンブル依存症啓発月間」だ。
活動家や研究者は、スポーツ賭博の普及とその影響について警鐘を鳴らしている。特に若い男性に対してだ。
先月、米国医師会の学会誌に発表された研究報告から、ギャンブル依存症で助けを求める人々が増加していることが明らかになった。
研究者は、スポーツ賭博の急増(昨年は全スポーツで1000億ドル以上の賭けが行われた)が広範な公衆衛生問題を引き起こしていると訴えている。
カリフォルニア大学サンディエゴ校の教授で、この報告の共同著者のジョン・エアーズ氏は「今は啓発の好機だと思う」と述べた。
エアーズ氏の研究は、2018年の「マーフィー対NCAA」裁判で連邦スポーツ賭博禁止が最高裁判所によって撤廃されて以降のギャンブル依存症に関する調査をする際にネット検索に注目した。
結論は明確だった。ギャンブル依存症に関連するオンライン検索は過去5年間で全米で23%増加している。
特にスポーツブックのオンライン版が州でオープンするたびに顕著な影響が出ていた。エアーズ氏は特に、2018年にスポーツ賭博を合法化したペンシルベニア州に注目した。
最初の年、賭けが実店舗に限定されていたとき、ギャンブル依存症の検索は33%増加した。翌年、オンライン版スポーツブックがオープンすると、その割合はさらに66%増加した。
エアーズ氏は「技術が拡大を助長している」と指摘、スポーツ賭博の94%がオンラインであることを付け加えた。
エアーズ氏は、検索に焦点を当てた手法について懸念する声があることは理解しているとしながらも、同様の研究が他にもある中で自身の研究は成功を収めていると主張している。ネットフリックスの自傷行為を強調したドラマ「13の理由」のリリース後に、自殺予防に関する検索が急減し、懸念を引き起こしたことがある。
数年間にわたる全米データから、その正しさが明らかになった。
「しかし、その後、長い時間がたったが、問題に関しては何もできていない。ここで私たちがしていることは、手遅れになる前に行動できるように早期に警告することだ。すでに何百万人もの人々が影響を受けている。私たちが何かしなければさらに何百万人もの人々が影響を受けることだろう」
タバコとの関連性
1980年代にタバコ業界に論争を仕掛けた弁護士で活動家のリチャード・デイナード氏は、エアーズ氏と同様の懸念を抱いている。
彼は歴史が繰り返されているとみている。
公衆衛生擁護研究所の会長でもあるデイナード氏は、「どちらも中毒性のある製品を販売しており、それは偶然ではない。それは人々が中毒になるように設計されている。それはわなだ。どちらの場合も、顧客をわなにかけている」と述べた。
デイナード氏は自分自身をギャンブラーやスポーツファンとは考えていない。過去に数回馬に賭けたことがあるが、ギャンブル文化が変化していることに、外部の観察者として驚いているという。
長年、スポーツを視聴している人なら分かるはずだ。あらゆる主要スポーツ放送は、「リスクのない賭け」や加入特典を提供するスポーツブックの広告であふれている。これらの広告は、スポーツ賭博が合法化されていない州でも増えている。
アメリカン・ゲーミング協会は2021年以降、賭博広告が20%減少したと主張しているが、最近のスポーツ中継は、リアルタイムの賭け情報やプロップベット(試合の結果とは直接関係のない細かい賭け)を番組に取り込む流れが進んでいる。ほぼすべての主要なスポーツ系ポッドキャスト(ファンがニュースや分析を得る方法としてますます一般的になっている)は、ドラフトキングス、ファンデュエル、ベットMGMなど大手賭けサイトの広告であふれている。
スポーツブックも変わった。かつてほとんどの賭けは試合の結果に焦点を当てていた。
デイナード氏は、スロットマシンがそうだったように、技術がそれを変えたと強調した。
「誰が勝つかはほとんど関係ない。とにかくボタンを押し続けることがすべてだ」と指摘した上で、球速のような些細なことに関する試合中のプロップベットが急増していることを強調、「人類の歴史上、誰もそんなことに賭けたことはなかった。今では時間を計る機械そのものが賭けの対象になっている」と述べた。
全米ギャンブル依存症評議会が1月に発表したところによると、強迫性ギャンブルに苦しむ国民は約500万人。そのうち助けを求めるのはわずか8%だ。
放置される若者
デイナード氏とエアーズ氏は、オンライン・スポーツ賭博が若者、特に18~30歳の男性に与える影響について懸念を共有している。昨年のフェアリー・ディキンソン大学の調査によると、若い男性の45%がギャンブルに関連した「問題行動」を少なくとも一度起こしていた。
30歳未満の男性は、ギャンブルのためにお金を借りたり、ギャンブルによって経済的・精神的困難を経験したりする可能性が2倍高かったという。
両氏は学者として分析に重点を置いているが、これを裏付ける逸話もあるという。
デイナード氏は、彼のパーソナル・トレーナーのノースイースタン大学4年生がスーパーボウルのパーティーに参加した際の例を挙げた。
「他のみんなはスマホに釘付けで、賭け事をしている。これはスーパーボウル・パーティーのあるべき姿ではない。彼らは同じ部屋に座っているかもしれないが、お互いに交流することはなく、アプリと交流していた」
エアーズ氏はカリフォルニア州を拠点としており、同州の議会はスポーツ賭博法を承認していない。だからといって、一人の若者がゴルフ場で賭けるのを止めることはできない。そのカートボーイは何度か不運に見舞われていた。
エアーズ氏は、「ここではまだ許可されていないはずなのに、若者はメディアで何を聞いているだろう。広告やコメンテーターは『ESPNベット』の話をしているし、若者はますます頻繁にギャンブルをするようになっていく。だからこそ連邦法が必要なのだ。波及効果があるからだ」と述べた。
セント・ボナベンチャー大学とシエナ・カレッジ研究所が先週発表した報告書でも、この傾向は確認されている。
シエナ・カレッジ研究所のディレクター、ドン・レビー氏は声明で「賭けをするのは圧倒的に若い男性が多く、オンライン賭博は楽しく、興味深く、エキサイティングだと答え、その54%が少なくとも週に1、2回は賭けをしている。ほとんどの人がギャンブルで儲けることができると考えている。結果的に儲かったのはわずか30%だけだ」と強調した。
AP通信/NORC公共問題研究センターの調査によると、ほとんどの国民が各州で合法化されたプロスポーツ賭博を支持していることが確認された。しかし、大学スポーツの賭博を支持する回答者は全体の40%に過ぎなかった。
プロスポーツ賭博は支持するが、大学レベルの賭博は支持しないという回答者は、若い学生アスリートへのプレッシャーが増すことを懸念している。
賭けはしないというコリーン・プラウマン氏はAP通信に「学校を出れば、いつかは出るのだけれども、もっと成長し、それに伴って生じるあらゆるプレッシャーに対処できるようになる。その年齢の子供には大きなプレッシャーになると思う。プロよりも大学生に大きなプレッシャーがかかると思う」と述べた。
解決策を求めて
デイナード氏によると、このような問題が解決できるかどうかは連邦政府にかかっている。1990年代、議会はタバコ業界を取り締まり、子供やテレビでの広告を難しくし、メーカーに州への補償を義務付けた。
それ以来、タバコの売り上げは50%以上減少した。
デイナード氏は、米国でのオンライン・スポーツブックの運営方法を大幅に変更する「セーフ・ベット法案」を支持している。
ポール・トンコ下院議員(民主党、ニューヨーク州)が昨年9月に提出したこの法案は、スポーツブックの広告を減らし、オペレーターが受け入れられる賭け金の額を制限し、賭けをする人々の行動を追跡する人工知能(AI)の使用を禁止する。また、ギャンブルの影響について、公衆衛生局長官と薬物乱用・精神衛生管理局に全米の報告を義務付ける。
トンコ氏は昨年秋の声明で、「世界中のあらゆるスポーツイベントの一瞬一瞬が賭けの機会になっている。その結果、ギャンブル依存症が恐ろしいほど増加し、人々に大変な損害を与え、その多くが家庭、仕事、結婚、人生を失っている」と述べていた。
業界は規制の必要性を否定
スポーツブック運営者には、現状を変える考えはない。アメリカ・ゲーミング協会の戦略コミュニケーション担当上級副会長、ジョー・マロニー氏は、エアーズ氏の調査は業界標準が機能していることを証明していると述べた。
同協会は、すべての広告に責任あるギャンブルと依存症支援に関する情報を「目立つように」掲載するよう、加盟社に強く推奨している。検索数の増加は、政府による規制が必要ないことを証明していると同氏は見ている。
「米国でのスポーツ賭博の合法化は…何十年もの間、野放しにされた略奪的な違法業者から消費者を守り、州に70億ドル以上の税金をもたらした。その中には、依存症治療のための年間1億3400万ドルも含まれている」
マロニー氏は、ほとんどの調査によると、ギャンブル依存症になる人は人口の2%以下だと指摘。大多数がギャンブルを「娯楽」として受け入れていると述べた。
タバコ産業との比較も、マロニー氏は見事に論破した。
「安全なタバコの使用などありえない。しかし、安全で責任あるギャンブルは存在しうる」
だが、エアーズ氏とデイナード氏は納得していない。
エアーズ氏はギャンブル中毒に伴う人的コストについて「大金を失い、中毒になり、職を失う人々がいる」と指摘、「資金を失うことは、心臓発作の増加など、健康に連鎖的な影響を及ぼす。それだけの価値があるのだろうか」と述べた。
エアーズ氏は、より多くの資金を公衆衛生の取り組みに振り向け、広告をより厳しく規制し、安全装置をより厳しくし、意識を高めてほしいと訴え、その上で、連邦政府の規制が助けになると述べた。
デイナード氏は、スポーツブックがオンラインで運営される必要があるのかどうか、まったく分からないという。
「これは良いことなのか。いいわけがない。スポーツブックの本質を見れば、それは単に中毒性のある商品にすぎないことが分かる」