NY州知事側近に中国工作員 裁判で大規模な影響工作浮き彫りに

(2025年12月14日)

元ニューヨーク州知事キャシー・ホーチャルの補佐官リンダ・サンと夫のクリストファー・フーが、2025年11月13日、ニューヨーク州ブルックリン連邦裁判所へ到着した。(AP通信/Yuki Iwamura)

By Bill Gertz – The Washington Times – Friday, December 5, 2025

 外国の代理人として違法に活動したとされるニューヨーク州知事2人の元側近リンダ・サン被告の刑事裁判が進められている。この裁判は、中国共産党の政策を支持するよう米国の政府、国民に影響を与えるための中国による大規模な「工作活動」(検察)を浮き彫りにしている。

 当初は中国の違法な影響力行使の事件として始まったが、検察がサン被告と夫クリス・フー被告に対して汚職容疑を追加したことで、この1年間で事件は拡大した。

 サン被告は、民主党のクオモ前知事とキャシー・ホークル現知事のもとで働き、その公的な立場を悪用して、台湾の政府関係者の訪問を阻止し、中国による少数民族ウイグル人の人権侵害に関する発言を抑制するなど、中国の利益を促進したとして起訴されている。

 サン、フー両被告は、30件以上の連邦犯罪容疑について無罪を主張している。容疑には、中国工作員としての違法な活動、ビザ詐欺、電信詐欺、マネーロンダリング、贈収賄、米国に対する詐欺の共謀、脱税などが含まれている。

 ブルックリン連邦裁判所での裁判は現在、4週目に入っている。これは、中国共産党の影響力行使や国境を越えた弾圧を取り締まる、司法省による数年間にわたる取り組みの一環だ。

 検察官の一人アマンダ・シャミ氏は冒頭陳述で、本件はサン被告の汚職とニューヨーク州への裏切りに関わるものだと述べた。

 「彼女の忠誠心は売り物だった。ニューヨーク州政府に影響力を行使したい中国政府は、彼女が指示に従えば報酬を支払う用意があった。リンダ・サン被告は中国の利益のために行動した」

 検察側は、サン被告が州政府での公的立場を利用して中国の政策を支援し、その見返りとして夫のフー被告に中国との有利な取引をもたらしたと主張している。

 裁判で提示された証拠には、サン被告が偽造したとされる知事署名の文書が含まれていた。

 司法省が6月に提出した夫妻に対する追加起訴状には、驚くべき容疑が記載されている。サン被告が自身の立場を利用して、新型コロナウイルス感染症大流行時の個人用防護具調達で、州契約を中国企業に誘導したというものだ。

 検察当局によれば、両被告は中国との取引を通じた利益供与で、ロングアイランドに410万ドルの住宅、ハワイに210万ドルのコンドミニアム、2024年式フェラーリを購入していた。

 この事件は、中国による大規模な影響工作を巡る連邦捜査局(FBI)の重要スパイ事件の一つとされる。

 FBI防諜部門のケビン・ボーンドラン次長は、起訴内容から「(中国による)わが国の政治プロセスを破壊しようとする露骨な試み」が明らかになったと述べた。

 「起訴状で主張されている通り、リンダ・サン、クリス・フー両被告は中国政府の政治的計画を推進するため、ニューヨーク州政府の最高指導部を欺いた」

 4日の公判では、陪審員にサン被告が中国領事館職員に送ったメッセージが提示された。被告は当時副知事だったホークル氏について「操作しやすい」と自慢していたという。

 サン被告は2021年1月25日付で領事館職員、李麗華氏に送ったメッセージで「彼女は知事よりずっと従順だ」と述べていた。このメッセージは証拠として提出された。

 中国の政治工作の専門家ケリー・ガーシャネック氏は、中国の情報機関が組織的に連邦政府を避けて、下位の政府職員とそのスタッフを懐柔していると指摘した。

 「リンダ・サン被告の事件は、中国共産党の情報機関と統一戦線工作員による、州以下のレベルでの米国への陰湿な浸透を浮き彫りにしている」

 裁判では、裁判書類で「CC-1」とされている中国在住者への免責付与の是非も争点となっている。CC-1はニューヨーク州河南省出身者協会の会長で中国出身者であり、本件の共謀者とされている。

 弁護側はCC-1の匿名でのビデオ証言を求めており、その証言で両被告の無実が証明されると主張している。

 アナリストらは、CC-1とその団体が、ニューヨーク州で中国が展開する大規模な影響工作計画の重要な手がかりを提供するはずだと指摘する。

起訴状は、このニューヨークの非営利団体が「中国共産党統一戦線工作部(UFWD)および中国共産党と密接に関連している」と述べた。

 起訴状でUFWDは「人的情報収集などの方法で、中国内外のエリート層との関係構築と中国共産党への支持獲得を図る党機関」と説明されている。

 「2018年以降、UFWDは中国共産党中央委員会に直接報告する体制となっている。この委員会は中国の政治的意思決定を主導する全国的な党組織である」

 中国共産党とつながりのあるCC-1はUFWD関連行事のため頻繁に中国を訪問し、中国当局者と接触していた。

中国の影響力行使は政府を超越

 事件は、中国共産党による影響工作の手法を如実に物語る注目すべき事例だ。

 米当局者は、連邦政府の政策や計画を中国に有利になるように誘導することを目的とした秘密の影響工作に加え、州政府や地方政府を標的とした同様の影響工作も確認している。

 中国の影響工作に詳しい専門家はこの事件に関して、工作範囲が合法・非合法活動に及ぶため、有罪判決獲得は困難かもしれないと指摘する。

 退役海兵隊大佐で中国安全保障問題の専門家であるグラント・ニューシャム氏は、中国共産党が「フライオーバー・カントリー(中西部の小さな町)」の町レベルを含む米国のあらゆる階層、さらには予想外の場所でも積極的に影響力を行使しようとしていると指摘した。

 「米国内での中国の影響工作を発見するのは、小さないけすの中にいる魚を撃つようなものだ。至る所にいる。その規模の大きさに怖くなって、手を引きたくなるほどだ」

 8月、米下院中国共産党特別委員会のムーレナー委員長はアイオワ州デモイン市長に書簡を送付。同市内の高校ゴスペル合唱団が最近、UFWD傘下の「友好協会」の招待で中国を訪問し、全費用は協会の負担だったとして警告した。

 こうした「研修旅行」は、地方公務員、選挙で選出された指導者、学者らを標的としており、一見無害に見える。

 ニューシャム氏は「中国は『対話さえすれば友好的関係が築ける』と信じる米国人の心理を巧みに利用している」と指摘した。

 議会調査官によれば、中国はこの活動の中核を担うUFWDを通じ、年間約100億ドルを影響工作に投じている。

 影響工作の範囲は、外交官や当局者による合法的な広報活動から、この事件のような違法な秘密工作や工作員募集まで多岐にわたる。

 その中間領域では、X(旧ツイッター)、フェイスブック、インスタグラムなどの米SNSを積極的に活用している。

 中国資本の動画共有アプリTikTok(ティックトック)は、当初議会で禁止されたにもかかわらず運営を継続しており、米国人の中国観形成や、中国共産党が望む対中政策を間接的に誘導する上で重要な役割を果たしている。

 ニューシャム氏はティックトックを「悪質な存在」と指摘し、「中国による洗脳と情報収集の主要ツール」と主張した。

 「米政府は依然、禁止できていない。影響力のある米国民が取り込まれている上に、ティックトックのターゲット層の多くが『これなしでは生きられない』状態になっているからだ」

 議会を巻き込んだ中国の影響工作の一例として、エリック・スウォルウェル下院議員(民主党、カリフォルニア州)と中国工作員ファン・ファン氏との密接な関係が明らかになっている。

 「関係が露呈したあとも彼は下院情報委員会のポストを維持し、トランプ大統領の再選までその地位に留まった。今ではカリフォルニア州知事選に出馬している」とニューシャム氏は述べた。

 UFWDは、旧ソ連共産党組織をモデルに、党の権威を損ねようとする勢力を無力化し、党の利益を推進する連合体を構築し、影響力を拡大するという中国共産党の政策を推進している。

 もう一つの要素は、直接戦闘なしで敵を打ち負かすことを目指す政治的・非物理的戦争である中国の「三つの戦争」だ。これには宣伝戦、心理戦、法戦が含まれる。

 エネルギー省アイダホ国立研究所のザカリー・チューダー副所長が最近の議会証言で述べたところによると、中国のサイバー作戦は米国の送電網など重要インフラを運営するネットワーク制御システムを混乱させることを目的としている。

 チューダー氏は「中国は非対称的行動を特徴とする戦略を多用する。すなわち、戦わずして勝つこと、直接衝突せずに敵の信頼と能力を損なうことで戦略的目標を達成することだ」と述べ、これを間接的、発信元不明、非対称的活動を通じて国家や集団を従わせたり、威嚇したりする非正規戦争と説明した。

 国務省は中国の影響工作を、プロパガンダや検閲による言論の自由への脅威、「デジタル権威主義」の推進、国際機関への浸透・支配、目標達成のための組織的な圧力・懐柔手段と位置付けている。

 トランプ第1次政権初期、当時のマイク・ポンペオ国務長官が州・地方政府を標的とした中国の影響工作を初めて公に指摘した。

 中国の活動は、米国に拠点を置くアリアンス・フランセーズや全米イタリア系米国人財団などの団体とは異なる。

 ポンペオ氏は「これらは中国共産党が行っていることとは根本的に異なる。党とその代理組織は、米国人に中国型の権威主義を受け入れさせることを目指している」と指摘した。

 中国専門家アレックス・ジョスキー氏は、中国の影響工作の大半はUFWDによって実施されていると指摘した。UFWDは習近平国家主席が設置した中国共産党の「指導小グループ」が統括している。

 主に2つの目的が、党との間接的なつながりを装う仲介者を通じて遂行される。第1の目的は、中国を「思いやりがあり強い国」として肯定的に描くことで外国の人々に取り入り、取り込むこと。第2は、浸透と脅迫を伴う活動だ。

 ジョスキー氏は「浸透は、対立する社会に徐々に入り込み、党の利益に反する行動の可能性そのものを阻害することを目的としている。脅迫は、中国の『懲罰的』あるいは『威圧的』外交を段階的に拡大し、党の利益を脅かすあらゆる国家、組織、企業、個人に対して組織的な制裁を科すことに当たる」と述べた。

 米大学はこれらの工作の主要な標的になっている。

 大学は、30万人以上の中国人留学生への資金援助を通じて、中国の目標支持へと誘導されている。

 中国が管理する孔子学院や孔子教室が学内に設置され、最近まで影響工作に利用されていた。中国語と文化を教えるという名目で運用され、学校側は依存度を高め、中国の共産主義体制に有利な方向へと誘導された。

プロパガンダの役割果たすSNS

 中国の影響力行使の中でも特に攻撃的なのは、SNS上の偽アカウントの活用だ。これらのアカウントは中国共産党のプロパガンダを拡散し、中国を批判する者に対して大量の返信で攻撃を仕掛ける。

 専門家によれば、これらのアカウントは主に中国人民解放軍または共産主義青年団によって管理されている。

 その活動のほとんどは米国を攻撃し、その自由で開かれた体制を批判することだ。

 米政府もSNS企業も、こうした活動に対抗する措置をほとんど講じていない。

フェイスブック、X(旧ツイッター)、ユーチューブは中国の影響力を促進していると判明したアカウントを停止した。しかしアナリストは、これらの活動を無力化するための組織的な取り組みは存在しないと指摘する。

 「人民解放軍はこれらの工作の中核であり、一方ではSNSを利用して『公開』の影響工作を実施し、しばしば抑止力や心理戦を目的としたプロパガンダを流布し、他方では外国の標的に対して秘密裏の敵対的作戦を展開している」とジョスキー氏は述べた。

 中国はまた、影響力拡大のため、市民運動ネットワークも運用している。それには、米軍基地が置かれている日本の沖縄の分離主義者や、左翼団体「コード・ピンク」のような平和主義団体が含まれる。コード・ピンクのメンバーは「中国は敵ではない」と叫びながら議会公聴会の妨害を試みている。

 米国のユーチューバーや学者もインフルエンサーとして中国の影響工作で重要な役割を果たしている。

 米国のシンクタンクや大学の中国専門家は、「中国の友人」と見なされた者にはビザ制限が課せられることから、数十年にわたって中国共産党を批判することを避けざるを得なかった。

中国の金融ツール

 何よりも力を発揮するのは中国共産党の資金力だ。シンクタンクや個人へ資金を提供することで影響力を獲得している。

 北京の中国人民大学国際関係学院の教授で中国政府に近い?東昇氏はオンライン動画で、影響力行使の対象が中国の資金提供を渋った場合「さらに多くの資金を提示する」と明かした。

 この動画は現在削除されているが、中国共産党に近い?氏は、中国が「古い友人」と呼ぶ同調者や工作員からなる秘密のネットワークを通じて米国の政策に、数十年にわたり影響を与えてきたと述べた。「古い友人」は、米政府や金融機関の最高レベルに浸透しているという。

 ?氏は、第1次トランプ政権の通商政策により、この工作員ネットワークによって築かれた米中の数十年にわたる緊密な関係が損なわれたと指摘した。

 詳細は「身元が明らかになる恐れがある」として明かさなかった。

 ?氏は「ここで爆弾発言をしよう。われわれは米権力中枢に『古い友人』を潜入させていた」と語った上で、「彼らを裏切るわけにはいかない」ため、慎重な発言を余儀なくされたと付け加えた。

 ?氏によれば、中国共産党中央宣伝部から習近平氏の著書の朗読会開催を指示されたという。2015年にはワシントンの書店「ポリティクス・アンド・プローズ」の経営者に圧力をかけ、中国政府高官による習氏の著書発表イベント開催を許可させることに成功したと語った。

 この朗読会は、ウォール街の大手金融機関に勤める女性支持者の協力で実現したという。

 「彼女が中国人の『古い友人』の一人だとその時気づいた」と?氏は語った。

 「要するに、過去30~40年間、われわれは米国の実権の中核を掌握してきた。1970年代以降、ウォール街は米国の内外政策に極めて強い影響力を行使してきた。われわれは彼らに大きく依存してきた」

 ニューシャム氏は、中国の影響工作に対抗するには、米国の法律と、個人への罰や不利益への懸念を利用する必要があると述べた。この懸念が、米国の上流階級や多大な影響力を持つ「献金者」層の行動を変えることになる。

 「中国が、数十年にわたり米国と戦争状態にある敵であることが多くの人々に認められなければ、中国の影響工作を実際に後退させることは、努力すれば可能ではあろうが、困難だろう」とニューシャム氏は語った。

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