北極戦線―氷点下の戦い(1/2) マイナス40度ではあらゆるもの、兵士さえ壊れる

「THREAT STATUS」動画映像より
By John T. Seward – The Washington Times – Wednesday, March 11, 2026
【フェアバンクス(米アラスカ州)】気温が華氏マイナス20度(摂氏約マイナス29度)まで下がると、多くのものが機能不全に陥り始める。
米国防総省は、こうした極寒の環境でも機能し、優れた性能を発揮できる新技術の開発に数十億ドルを投じている。将来の北極圏での戦闘を視野に入れた取り組みであり、ロシアと中国という競合相手との北極圏での能力の格差を埋めることが目的だ。
北極圏の環境がいかに過酷かは、ワシントンからでは十分に理解できない。今年2月、米軍の北極戦訓練が行われた際、この地域では冬の嵐が発生し、気温が氷点下10度を超えることはほとんどなかった。
淡く澄んだ青空は広がっていたが、凍り付くような寒さの中で、第11空挺師団第1歩兵旅団戦闘団の兵士たちは、合同太平洋多国籍即応センターの演習「ローテーション26-02」で模擬戦闘を行い、第2歩兵旅団戦闘団を相手に戦っていた。
演習には米国、カナダ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの兵士が参加した。第11空挺師団は北極圏を「世界でも特に過酷で、戦略的に重要」と位置付けている。
ワシントン・タイムズは第1歩兵旅団戦闘団に同行取材し、地球上でも特に過酷な地域で活動することがいかに困難で、生き延びることすら容易でないことを目の当たりにした。
■高まる北極圏への関心
いくつかの重要な要因が重なり、北極圏は西側諸国の安全保障戦略の最前線に浮上してきた。ドナルド・トランプ大統領は、米軍がデンマークの自治領グリーンランドの氷に覆われた地域へ自由にアクセスできるようにすべきだと主張している。北極圏での作戦範囲を拡大するためだ。
米国と欧州の同盟国は、北極圏でのプレゼンスを強化する必要性を認識している。特にロシアは40隻以上の砕氷船を保有しており、そのうち6隻は原子力船であるなど圧倒的な能力を持つ。
これに対し、米国の砕氷船は3隻にとどまる。
トランプ氏は先月、北極圏の安全保障に関する重要な合意が成立しつつあると主張、これを歓迎した。この合意により、両国の管理下で、米国は長年にわたりグリーンランドに全面的にアクセスできるようになり、ロシアや中国の影響力に対抗できるようになるという。
米国では以前から党派を問わず、将来、北極圏が21世紀の大国間競争での重要な戦場になると警告してきた。
その時代はすでに到来している。
第1歩兵旅団戦闘団のクリス・ブローリー指揮官(大佐)は次のように語った。「大国が競合する時代を迎え、敵対国は北極の開かれた海上航路を利用し始めている。北極圏の土地を奪い取ろうとし始める可能性もある。北極圏で作戦できる第11空挺師団のような部隊は、米国の国家安全保障に不可欠だ」
海氷の融解により、北西航路では海上交通路が開かれつつある。これは北太平洋と北大西洋を結ぶ重要なルートだ。
北極圏、特にアラスカは、別の意味でも米国の安全保障の中核に位置する。アラスカ州フォートグリーリー基地には、米国の主力ミサイル防衛システム「地上配備型中間段階防衛(GMD)」が配備されている。また同基地のようなアラスカの拠点は、トランプ政権が構築を目指すミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」で重要な役割を果たすとみられている。ゴールデンドームは米本土をミサイル脅威から守る野心的な計画だ。
このような地域で活動できる部隊の存在は米国にとって極めて重要だ。
ブローリー大佐は語る。「私の旅団は、気温が氷点下40度(摂氏約マイナス40度)に近づくほどむしろ有利になる。他の多くの部隊はこの温度で機能が低下するが、われわれは逆だ。氷点下40度前後では明確な優位性を持つ」
「自然を味方に」
北極圏は極めて過酷な地域だ。
兵士の暗視装置の電池が凍り、機能しなくなる。銃の潤滑油は粘りつき、武器の作動不良を引き起こす。小型ドローンの電池は通常の半分しか持たない。さらに乾いたさらさらの雪は、大型装輪車の通行の障害となる。
北極圏での戦闘で克服すべき主要な課題は明らかだ。だが、氷点下の気温が何日も続くような環境を極北以外で再現することは難しい。
ブローリー大佐は、「宇宙空間での作戦に少し似ている。特別な訓練と特別な装備が必要だ」と語った。
技術が進歩しても変わらない課題もある。
ブローリー氏は、寒冷地用全地形車(CATV)で戦場となる雪原を走りながら、約100年前のフィンランド・ソ連冬戦争を研究した経験について語った。そこから学んだ重要なことは、極寒環境で敵を孤立させよ、ということだった。
「敵の食料や燃料補給能力を攻撃すれば、敵は自然に弱っていく。あとは自然の力に任せればいい。食料と燃料がなければ、この環境では生き残れない」
しかしそれは諸刃の剣でもある。
模擬戦闘でブローリー大佐は、敵を「寸断」する重要なパートナーとなる部隊を選出した。それはカナダ軍のアルバータ州エドモントンを拠点とするプリンセス・パトリシア軽歩兵連隊第3大隊だ。
この部隊は腰まで埋まる雪の中を約8マイル(約13キロ)歩いて敵の補給線遮断を試みた。適切な装備を持っていても、寒さと雪は兵士に大きな負担となる。
カナダ第4師団のエリック・ランドリー司令官(准将)は、この演習のために1年以上訓練していたにもかかわらず、依然として危険があったと語った。
カナダ兵と米兵は、山中の深く柔らかい雪の中を行軍することで、低体温症やしもやけ、凍傷、横紋筋融解症といった、いわゆる寒冷地特有の障害に苦しんでいた。
ランドリー氏は、「これほど厳寒の中では、寒さに対抗する手立てはほとんどない」と語った。
米兵は平均して1日3人以上が寒冷障害で戦線を離脱した。350人のカナダ兵のうち約50人が戦闘不能となった。
「それでも彼らは陣地を守り続けた」とランドリー氏は語った。
「それが思い上がりなのか、誇りなのかは分からない。しかし、確かなことは、大隊長が旅団長に『できません』と言うことはないということだ。必ず方法を見つける。実際にやり遂げた。ただし代償も大きかった」
作戦は成果を上げ、成功したものの。問題はその速度だとランドリー氏は指摘する。要求に応じて行動速度を上げようとすると危険が伴う。アラスカのほぼすべての軍指導者がよく強調するのは、北極圏では、あらゆることに通常より時間がかかるということだ。
■北極のルール
マイナス40度では、プラスチックや金属さえももろくなり、液体は固まり始める。北大西洋条約機構(NATO)の軍用多目的ジェット燃料「JP-8」でさえ、ゲル状に変化し始める。
そのため、アラスカの兵士たちは「北極ルール」を作り上げた。「誰も助けに来ないものとして準備せよ」「夏などなく、常に冬であると考えよ」というものだ。
同様に重要なのは、「マイナス40度では、あらゆるものが壊れる」ということだ。
例えば、戦闘用ドローンを効果的に使えるかどうかは北極圏の過酷な気象条件の影響を受ける。機能させるには新たな技術開発が必要だ。華氏25度(摂氏マイナス3.9度)でテストされたドローンは、極限の北極圏の寒さの中では飛行時間が75%も失われる可能性がある。
「バッテリーはもともとノートパソコン用から始まった」。サウス8テクノロジーズの最高経営責任者(CEO)ジョンウー・リー氏はこう語る。
同社のバッテリーは、この訓練中にテストが行われていた。
リー氏は「使われている技術は、一日中机の上に置いてあるノートパソコン用に設計されたもので、こうした極限環境用ではない」と語った。
暗闇が長く続くことも、電力需要をさらに増大させる。バッテリーを安定させるためのヒーターは役立つが、それ自体が電力を消費する。
サウス8社は、通常の温度でも機能し、かつ極限の寒さにも耐えられるバッテリーを作るため、全く異なる技術を開発しなければならなかった。
リー氏は「その背景にある物理的な問題は、バッテリー内の材料、つまり正極、負極、電解質にある。主な問題の一つは、液体ベースの電解質だ」と指摘したうえで、従来のバッテリーは最終的には凍結してしまうと強調した。
「当社の液化ガス電解質はバッテリー用の新素材で、地球上で遭遇するような温度をはるかに下回るまで凍結することはない」
それは助けにはなるだろうが、それだけで北極圏の安全保障を解決できるわけではない。
作家で北極圏探検家のニール・シェイ氏はワシントン・タイムズに「装備の故障は頻繁に起こる。誰もが動きが遅くなり、すべてに時間がかかる。だが、人々はそのことを十分に考慮していないと思う」と語った。
極限の寒さの中では、たとえ訓練を受け準備を整えていても、人間という要素がしばしば最も弱い鎖の環(わ)となる。
ブローリー大佐の筆頭顧問であるジェレマイア・ワゴナー先任曹長も同意見だ。ワゴナー氏は「世界最高の部隊」で何度か勤務してきたが、北極圏では訓練がなければ、耐えられないだろうと述べた。
「装備を与えたとしても、北極圏での経験がなければ、10人用のテントを張るのに時間がかかりすぎて、半数の者が凍傷になり凍えてしまうだろう。つまり、訓練、装備だ。ここはすべてが違う」
これは文化の変革でもある。米陸軍は、一時的な拠点を築いて短期間のスプリント型の作戦を遂行する、展開の速い作戦には慣れている。だが、北極圏での作戦は、本質的に補給集約的で、動きが遅い。
演習中のヘリコプター移動では、兵士、スノーモービル、装備を戦場へ迅速に運ぶという任務が、天候との戦い――あらゆることに時間がかかる戦い――へと変わる。
重装備をCH47チヌークヘリコプターに積み込むのに苦労し、問題解決に追われるうちに、当初の予定から30分遅れ、1時間遅れ、さらに1時間半遅れていった。
■「極限の寒さは人を殺す」
ヘリコプターの移動では、別の問題も浮き彫りになった。「汗」だ。
兵士たちが重い装備をチヌークに積み込もうと急ぐうちに、重ね着の中で多くの兵士がオーバーヒートし始めた。
「歩兵には力ずくで進めるという姿勢が染み付いている。しかし、ここでの問題は、力を出しすぎて兵士が汗をかき始めることだ」とブローリー大佐は言う。「その後、動きを止めた瞬間に、寒冷傷害が発生し始める」
第11空挺師団の兵士たちは、陸軍の他の部署が問題を解決してくれるのをただ待っているわけではない。ある兵士はランチ用のクーラーボックスを購入し、それで寒気に強い無線送信機を作り上げた。無線機を断熱し、無線機自体が発生する熱で内部を温めて、機器を作動させ続けるためだ。
第11空挺師団の作戦担当官であるカイル・スペード大佐は、「こうした問題は、この環境で活動していなければ解決できない。米本土(アラスカ以外の州)の訓練センターからでは解決できない。ここにいなければできない」と語った。
低体温症や凍傷を日常的に処置しているある衛生兵は、自ら解決策を探り始めた。ホーム・デポ(米住宅リフォーム小売大手)の5ガロン(約19リットル)のバケツに低温調理器を取り付け、水を正確な温度に温めて、凍傷になった皮膚をゆっくり温め直したり、生理食塩水の点滴バッグが冷えすぎないようにしたりしている。これは、陸軍のほとんどが遭遇したことのない独特の問題だ。
スペード大佐は「ここでのリーダーシップは、他のどの場所とも違う。そうならざるをえない。アラスカは人を殺す。極限の寒さは人を殺す」と語った。