独自-中道派民主党議員、ペロシ下院議長の薬価引き下げ計画に反対票か

(2021年5月26日)

The U.S. Capitol dome is seen, Monday, July 9, 2018, in Washington. (AP Photo/Carolyn Kaster)

By Kery Murakami – The Washington Times – Wednesday, May 19, 2021

 スコット・ピーターズ下院議員は、ナンシー・ペロシ下院議長の優先課題の一つ、薬価引き下げを目指す法案を葬り去ろうとしている。

 民主党中道派のピーターズ氏(カリフォルニア州)はワシントン・タイムズに、ペロシ氏の法案に反対票を投じる可能性があることを明らかにした。この法案は、メディケア(高齢者向け医療保険制度)に薬価の引き下げをめぐって製薬会社と交渉するよう求めるものだが、ピーターズ氏は、政府が価格を決め、製薬会社が新薬の開発に投じる資金が減少するのではないかと懸念している。

 「(この法案は)交渉というよりも、価格決定だ。科学への資金を断つものだ」

 ピーターズ氏はさらに、他国で製薬会社がどの程度の価格設定をしているかをもとに薬価に上限を設けるという条項は「米国民に損害を与える」と指摘している。

 共和党も同様の懸念を抱いている。

 ピーターズ氏は、これは私見であり、民主党議員の考えではないと強調している。

 しかし、薬価引き下げを主張している全米社会保障・メディケア擁護委員会(NCPSSM)のダン・アドコック部長(政府関係・政策)は、穏健派下院議員が、この野心的な提案を妨害するのではないかと懸念していると指摘した。

 下院は民主党が多数派であるものの、議席数は219対211と小差であり、穏健派の民主党議員数人が造反すれば、承認は難しくなり、大幅な修正を迫られることになる。

 ピーターズ氏は今月、穏健派民主党議員9人とともにペロシ氏あての書簡をまとめた。書簡は、製薬会社が新薬を開発する能力を弱めないことの重要性を強調している。

 ピーターズ氏以外の穏健派議員らは、法案への対応についての取材に応えなかった。

 ペロシ氏の報道官ヘンリー・コネリー氏は、民主党の中で分断が生じているのではないかとの見方を否定、薬価法案は下院を通過すると予測した。

 「世論調査によると、法外な処方薬価を引き下げ、ビッグファーマ(製薬大手)が米国民に、国外の3倍以上の価格で薬を売るのを止めるための強力な措置は、民主、共和、無党派問わず支持されている」

 しかし、製薬産業とつながりのある保守系権利擁護団体、米行動ネットワーク(AAN)は、この提案は社会主義的だと訴えるテレビ、ネット広告に500万㌦を投じている。さらにAANは、支持基盤の弱い民主党下院議員が選出されている43の選挙区の有権者に電話で支持を呼び掛けている。

 その広告の一つは、「ペロシ氏の社会主義的な薬価乗っ取り計画で、政界は処方薬市場を支配しようとしている。そうなれば、新型コロナワクチンのような画期的な治療法も、革新的な技術も出てこなくなる。政治が支配するようになっても、もしかするとまだ命を救う薬はできるかもしれないし、できないかもしれない」と訴えている。

 「責任ある政治センター(CRP)」によると、製薬企業で構成する米国研究製薬工業協会(PhRMA)は2019年にAANに450万㌦を提供した。CRPはワシントンを拠点とする無党派の組織で、ロビー活動や政治キャンペーンの資金の動きを監視している。

 標的となった民主党議員の一部に問い合わせたが、反応は得られなかった。シンディー・アクネ議員(アイオワ州)はコメントを拒否した。

 そのうちの1人、マット・カートライト議員(ペンシルベニア州)は、法案への支持を明確にした。

 報道官のマット・スラボスキ氏は、カートライト氏が2019年に同様の法案が下院を通過した際、賛成票を投じたことを明らかにした。また、その時、この法案が成立すれば、研究が縮小されるという主張に反論する新聞コラムを執筆している。

 カートライト氏は、米国内のインシュリンの価格は2012年から2016年の間にほぼ2倍になったとこのコラムで指摘している。

 「よく知られた薬の価格が上昇している大きな要因の一つは、既存薬の価格が年々上がっていることだ。増えているのは、古い薬の価格への支払いであり、画期的な技術革新ではない」

 カートライト氏はまた、多くの薬が、税金を投入した国立衛生研究所(NIH)での基礎研究の成果を利用して開発されていると指摘した。

 「製薬会社はこの研究を利用して、治療薬を開発している。それを大きな利幅で米国の消費者に売っている。二重に払っていることになる。まず、税金で、そして薬局でだ」

 現在出されている法案が成立すれば、4400万人が加入するメディケアがカバーする薬の価格の決定方法が根本的に変わる。議会が高齢者の処方薬の費用の一部をカバーするメディケア・パートDを設けたことで、政府は製薬会社との価格交渉ができなくなっている。

 民主党案では、メディケアは、競合するジェネリック薬がない、少なくとも25種類のよく使用されている薬の価格を交渉しなければならなくなる。

 また、政府が交渉に大きな影響力を持つことになる。

 製薬会社は、オーストラリア、英国、カナダ、フランス、ドイツ、日本での最低価格を受け入れるか、メディケアと交渉することになる。しかし、これら6カ国の薬の平均価格は、政府が受け入れる最高であり、政府はさらに低価格を求める可能性がある。

 製薬会社がある価格を受け入れなければ、政府はその薬による収益に対して課税し、最初は65%で、四半期ごとに引き上げられ、上限は95%とされている。

 民主党案はまた、連邦医療保険を扱う民間保険会社に交渉する価格を提示するよう製薬会社に求めている。

 ピーターズ氏は、法案の一部を支持している。インフレ率よりも速く価格が上昇した場合、連邦政府に利益を還元するよう医薬品メーカーに求める条項などだ。また、製薬会社が特許法を利用して、安価なジェネリック薬メーカーを市場から排除することを阻止するなど、超党派の支持を得ている条項も支持している。

 2019年議会予算局(CBO)報告は、価格引き下げによってメディケアは、支出を4億5600万㌦削減できると見込んでいた。民主党は、この資金を、連邦研究費の増額、高齢者の難聴治療費など、他の目的に使用することを考えている。

 一方でこの報告は、今後10年間に米国で導入される薬は8種類減少するとみている。食品医薬品局(FDA)は10年ごとに平均して300種類の薬を承認しており、それより約3%減となる。

 5月5日の書簡でこの10人の中道派民主党議員らは、党内左派の最優先課題である法案に反対はしていない。だが、民主党議員らに、超党派の支持が得られる可能性のある方法を見つけることを呼び掛け、国内の研究を維持することの重要性を強調している。

 「新型コロナのワクチン、治療薬がかつてないスピードで開発され、命を救うのを目の当たりにした。米国は世界で最も革新的で有能な研究者、世界をリードする生物医学の研究、開発を促進する官民の協力関係から恩恵を受けている」と書簡は指摘している。

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