AI産業の発展に水差すバイデン政権

(2024年1月3日)

AIブームの中、バイデンが米国産業を切り捨てるとの懸念が広がる。File photo credit: 3rdtimeluckystudio via Shutterstock.

By Ryan Lovelace – The Washington Times – Monday, January 1, 2024

 米国の人工知能(AI)産業は活気に満ちているが、専門家らは、バイデン政権が2024年に、目先の利益にとらわれて、将来の大きな利益を失うのではないかと懸念を募らせている。

 AI企業は、バイデン大統領によるAIに関する包括的な大統領令と、この新興技術を規制しようとする政権の取り組みに不満を抱き始めている。10月下旬に発令した大統領令は、AIから生じうる危険性を抑制するために、大きな影響力を持つ言語モデルのテスト結果を米政府と共有し、さまざまな規則に従うようAI開発者に圧力をかけることを目指している。

 米情報機関のベンチャーキャピタル、In-Q-Tel(IQT)によれば、小規模なAI新興企業は、バイデン氏の規制強化によって、事業が軌道に乗る前につぶされてしまうという。

 中国など米国の競合国は、AIに支えられた部門の強化を急いでいる。AIは商業分野全体を根底から覆し、混乱させるだろうとも言われ、各国はこの技術の市場優位性を獲得するためにしのぎを削っている。

 IQTのAI投資を監督するエスベ・ベケレ氏は、11月の「GovAIサミット」で、バイデン氏の大統領令は競争を混乱させ、生き残れないほど過酷な負担を強いるかもしれないという新興企業の懸念を耳にしたと述べた。

 ベケレ氏は会議の壇上で「小規模のスタートアップ(新興企業)から懸念の声が出ている。例えば、(大統領令では)あるモデル以降は報告義務があると書かれている。それはやりすぎではないか」と述べた。

 大統領令で説明されている報告要件は、商務、国務、国防、エネルギーの各長官と国家情報長官室が、継続的に言語モデルとコンピューティングクラスターの技術的条件を作成するとしている。この命令では、政府が追加的な技術指針を発表するまで情報公開すべき計算能力のレベルが指定されている。

 バイデン氏はホワイトハウスで大統領令に署名した際、「はっきりしていることが一つある」と指摘、「AIの未来を築き、リスクを回避するためには、この技術を管理する必要がある」と述べた。また、この大統領令について「AIの安全性、セキュリティー、信頼性に関して、世界のどこの政府も取ったことのない最も重要な行動」と呼んだ。

 シンクタンク「Rストリート研究所」のアダム・ティーラー氏は、この大統領令によって政権内でAI政策の主導権をめぐる縄張り争いが生じると述べた。その上で、どこが勝つかは分からないが、AI規制の多くは今後、一般市民の目に触れないところで作られることになるとの見方を示した。

 Rストリートの技術革新チームの上級研究員ティーラー氏は、AIに関してさまざまな規制が課せられるようになると予測している。

 「AIによる規制の多くは、見えないところで行われることになるだろう。いわゆるソフトロー(強制力を待たない規範)、ソフトパワーの領域であり、恫喝や規制当局からの圧力、時には直接的な脅しによって行われることになる」

全体的な懸念

 バイデン氏の規制や影の圧力を恐れているのは小企業だけではない。

 エヌビディア(NVIDIA)をはじめとする大手企業は、バイデン政権の計画に拒否反応を示している。

 カリフォルニア州サンタクララを拠点とするエヌビディアは5月、医療用イメージング機器やロボット工学を含むさまざまなAI技術向けの同社のチップを各社が獲得しようと殺到したため、時価総額は1兆ドル規模にまで上昇した。

 しかし、商務省が安全保障上の懸念からエヌビディアの対中輸出を制限することが予想されたことから、株価は急落し、数十億ドルの売り上げが失われる可能性がでた。

 レモンド商務長官は、商務省の規制がIT企業に打撃を与えることは承知しているが、国家安全保障のために推進すると述べた。

 レモンド氏は11月にカリフォルニア州で開催されたレーガン・ナショナル・ディフェンス・フォーラムで、半導体メーカーの「不機嫌な」CEOらを前に、「四半期ごとに株主から厳しい要求」を受けることになるかもしれないと話したという。

 「それが生きるということだ。国家安全保障を守ることは、目先の収益よりも重要だ」

 AI市場が爆発的に拡大し、さまざまな分野に分かれていることから、一部のIT企業は新たな規制を支持している。AIで何ができ、何ができないかについて、明確な法的線引きが必要と考えているからだ。

 マイクロソフトやグーグルなどの大企業は規制を求め、大統領令が発表される前に政府当局者らと会談した。マイクロソフトは、AIを規制する連邦政府機関の設立を推進している。

 有力AI企業数社はバイデン政権に、この新しい技術を責任を持って開発・展開することを自発的に約束した。小規模なスタートアップよりも、資金力のある大企業の方が、今後到来する規制の嵐に対処しやすいと言うアナリストもいる。

 投資銀行大手ゴールドマン・サックスの株式調査上級アナリスト、エリック・シェリダン氏は最近の分析で、「AI技術の早期規制への動きも、資本力のある大企業に有利に働く可能性がある」と指摘した。

 シェリダン氏は「通常は規制によって参入のコストは上がり、障壁も高くなる。大手IT企業は、規制を順守しながら、これらの大規模言語モデルの構築に必要なコストを吸収し、負担する余裕がある」と述べている。

 AI業界では、バイデン氏が任命する当局者らが、自主的に定められた合意が内々で実施されるようにすることを目指しているのではないかという懸念が高まっている。

 ティーラー氏は、規制には「ダモクレスの剣」のようないつ降りかかるか分からない一触即発の危険が潜んでいると述べた。このような方法は、電気通信などのハイテク分野では、間接的な規制の手法として使われてきた。

 「ダモクレスの剣規制の重要な点は、剣が落ちてけがをさせたいわけではなく、剣は部屋の中にぶら下がっていればそれで意味があるという点だ。もし剣が首の上にぶら下がっていて、米大統領と変わらないほどの権力を持つ当局者からの攻撃を恐れていれば…おそらく、その期待に応えるようになるはずだ」

 ティーラー氏は、特にワシントンの政治家らが機能不全に陥っていることを考えると、AIへの規制は当面、揺さぶりと脅しで行われるのではないかとみている。

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