中国、AI利用しソーシャルメディア影響工作を強化-ランド研究所報告
By Bill Gertz – The Washington Times – Friday, October 4, 2024
中国の秘密工作に関する新たな研究によると、中国の軍部と共産党は、米国のソーシャルメディアを通じたプロパガンダや影響工作の効果を高めるために人工知能(AI)を活用している。
米シンクタンク、ランド研究所の報告によると、特に人民解放軍(PLA)は、AIツールによって影響力を大幅に高めた3種類の対米工作を行っていると指摘した。
ランド研は、今週発表した183ページの調査報告の中で、かつて中国の指導者は、ソーシャルメディアが権力に対する脅威となることを恐れていたが、今ではフェイスブックやX(旧ツイッター)を外国の世論に影響を与える重要なツールとして受け入れていると強調した。
この報告書は、PLAが「3つの戦法」と呼んでいる情報戦(世論戦、心理戦、法律戦)の目標を分析した中国の党と軍の著作の詳細な分析に基づいて作成された。
報告書は、中国を代表する軍事情報戦研究者であり、サイバー空間での影響工作を専門とする李弼程氏の研究を検証している。李氏は中国軍を率いてAIを導入し、自動化されたボットの大規模ネットワークを運用して国内外の世論に影響を及ぼしていると報告書は指摘している。
報告書によると、PLAはAIを使い始めており、プロパガンダボット、フォロワーボット、「ロードブロックボット」とともに、「世論闘争」を行うためのより洗練されたボットの使用を拡大する計画だという。
PLAはすでに、今年初めに確認されたオンラインプロパガンダと偽情報工作で知られるサイバー集団「スパムフラージュ」と共に、生成AIシステム「チャットGPT」を使用していることが分かっている。PLAの研究者らは、米国のオープンソースAIモデルも利用しているという。
AIはまた、中国が現在取り組んでいる「アストロターフィング」と呼ばれる活動の効果を改善するのにも役立つ。アストロターフィングとは、ある問題が一般大衆から広範な支持を得ているという虚偽の印象を宣伝するための欺瞞工作のことだ。
報告によると、李氏は論文で「ソーシャルボットは、敵のソーシャルボット用アカウント情報を検証する能力を解明することで、世論の対立を生じさせ、情報を収集する。例えば、人工的なユーザーの属性を予測し、その社会的行動ネットワークを分析し、敵のオピニオンリーダーを破壊し、敵の冗長なコンテンツの拡散を加速し、敵の有効な情報を葬り去り、敵の情報秩序を包括的に混乱させ、敵の内部矛盾を激化させ、強力で大規模な効果をもたらす」と指摘している。
選挙への影響
中国の軍事研究者は、ソーシャルメディアを使って米国の選挙結果に影響を与える方法を研究してきた。米情報当局が取り上げた手法は、ソーシャルメディア上で米国内の分裂を拡大することで、2022年の中間選挙に影響を与えようとする中国の取り組みだった。
李氏は2019年と2020年に、「米大統領選挙でのオンライン世論戦の態様、反応、見通し」について、中国情報当局のワン・ダナ氏の言葉を引用し、ドナルド・トランプ前大統領の最初の弾劾に関する研究などを盛り込んだ記事を書いた。
一つの事例として、中国の研究者、胡華平氏が行った、トランプ氏の弾劾へのソーシャルメディアの影響を分析する研究がある。
「胡氏が特に、ソーシャルメディア上の米国の政治的言説に合わせた高度なコンテンツの生成に特に取り組んでいたことは明らかだ」と報告書は述べている。
「ソーシャルメディア戦争」について執筆している別のPLAの研究者は、バイデン大統領自身の公式アカウントと全閣僚を含むバイデン政権の高官30人のXデータを収集している。
米情報当局者は先月、中国、イラン、ロシアのプロパガンダ担当者が11月の大統領選挙を前に、AIを使って米国民を欺くためのコンテンツを作成していると記者団に語っていた。
情報当局者は、「(AIは)悪意ある影響力を加速させるものであり、まだ革命的な影響力ツールではない。言い換えれば、情報操作こそが脅威であり、AIはそれを可能にするものだ。これまでのところ、(情報機関は)AIがそのような作戦に革命を起こすとはみていない」と述べた。
報告書は、2010年代以降の中国のソーシャルメディアを操作する取り組みは、今のところ限定的な結果しか出していない。しかし、新たな生成AIツールの使用は、「中国の能力を飛躍的に向上させ、世界の民主主義に対してより大きな脅威をもたらす」ことが予想されると指摘している。
体制の保護
報告書によると、中国軍は、米国が共産主義体制を弱体化させようとしているという懸念を根拠にソーシャルメディア工作を正当化している。また、PLAのソーシャルメディア工作は2010年代半ばに始まり、少なくとも2018年以降も進行しているという。
PLAはソーシャルメディアを「PLAの威信と体制の安全に対する深刻な脅威」と見なしていると報告書は述べている。
今日、PLAはAIを含む「最先端」技術を駆使し、中国の戦略や政策を支持する米国民をターゲットにしている。
報告書は、米国など世界の民主主義国に対し、リスク軽減策を採用することで、AIによるソーシャルメディア工作に備えるよう促している。ソーシャルメディア企業は、中国によるAI操作の効果を弱めるため、偽アカウントや敵対的アカウントへの対策を強化するよう求められている。
また報告書は、ソーシャルメディアを操作する中国の政府全体の活動に対する理解を深める必要があると述べている。
特にターゲットとすべき組織は、年間数十億ドルの予算を持つと推定される中国共産党の組織、統一戦線工作部だ。
中国政府は2009年、ソーシャルメディア革命の初期に、チベットや新疆ウイグル自治区西部で高まる不安を強調するために反体制派がソーシャルメディアを使用したことを受けて、フェイスブック、X、ユーチューブの使用を禁止した。
しかし2013年までに、中国の習近平国家主席は政府に海外のソーシャルメディアでのプロパガンダ活動を倍加させるよう命じ、海外での公然、非公然の影響工作活動を急激に強化した。
習主席は、資本主義勢力が体制転覆を狙っていると考えており、資本主義勢力に対するマルクス主義的な「世論闘争」への回帰の一環として、この作戦は2018年からさらに強化されたと報告書は述べている。
軍事的役割
PLAは、「3つの戦場」戦略を通じて、対外的な影響力行使を形成する上で主要な役割を果たしてきた。
報告書は、PLAは現在、その取り組みを「知性化された世論戦」と呼んでいると指摘している。
「PLAのこのような戦争の進化に対する広範な見方と、新たなテクノロジーを受け入れたいという願望が、PLAの研究者たちを、従来の3つの戦域に取って代わる、あるいは少なくともそれを補完するような新しい作戦コンセプト、認知領域作戦の開発に駆り立てている」
PLAの情報戦の専門家である李氏によると、中国の影響力活動の焦点を移したという。これまでの取り組みは、洗練されておらず、敵が中国のサイバー作戦を特定することが容易だったと李氏は指摘している。中国は現在、AIを使って、オンラインで巧みにコンテンツを配信できるようになっている。
李氏は2023年の記事で「オンライン世論誘導の分野では、大量の投稿を自動的に生成することで、情報の爆発的な増加に対応する必要がある」と書いている。
報酬を得てネットの荒らしを行っている中国の工作員らは、投稿ごとに報酬が支払われるとされることから「五毛党」として知られているが、15年にわたる取り組みにもかかわらず効果は上がらなかったと報告書は述べている。
李氏はまた、中国のオンライン影響力活動は米国ほど効果的でなく、改革が必要だと主張している。
AIと「智能化(intelligentization)」によって、ソーシャルメディア工作での人間の労働力は削減されたり、必要なくなったりするが、依然として人間による監視は必要と報告書は述べている。
AIによるソーシャルメディア工作のPLAの計画には6段階のプロセスがあり、まず重要な情報の発見と取得、メディアキャリアの準備と選択、ターゲットとするオンラインプラットフォームそれぞれに合わせたコンテンツの作成が行われる。
その後、システムは適切なタイミング、配信モード、作戦実施の手順を選択する。そして、望ましい効果を挙げ、環境をさらに形成して影響力を拡大するために使用される「ホットスポット」を作り出すために、発信が強化される。
李氏のAIモデルは、ビッグデータマイニングとオンライン世論監視を実施し、中国の「敵」コンテンツをブロックしようとするものだ。
そして、PLAの情報操作のためのコンテンツや「弾薬」は、「画像や動画をつなぎ合わせる技術」と「マルチメディアのカムフラージュ技術」を使って、特定のターゲットオーディエンスに基づいて作られる。
この作戦では、ターゲットとなる被害者の声、特定の背景、特定のシーンを作り出し、画像、テキスト、音声によるマルチメディア情報を形成することができる。
最後に、PLAは、テキストメッセージ、電子メール、フォーラム、インスタントメッセージングツール、マイクロブログ(新浪微博など)、フェイスブックやXなどのソーシャルメディアなど、さまざまなメディアを使った大規模なオンライン情報配信を開始する。
すべての作戦は、「オンライン世論闘争指揮統制センター」を通じて組織される。
スーパーチャージ
報告書によれば、中国はすでに米国発のオープンソースAI技術を使用しており、李氏の影響力プログラムに応用される可能性があるという。
「入手された証拠によれば、中国はオープンソースモデルを使用しており、他の一般に利用可能なクローズドソースモデルを密かに使用しようとしている。生成AIの登場によって、AI主導のソーシャルメディア工作システムという李氏の初期のビジョンを実現する技術的能力がついに実現した」
中国政府関係者は、AIの推進は中国自身のシステムに対する米国や同盟国の攻撃に対する反応だと主張している。報告書によると、李氏は、西側諸国は共産主義体制を弱体化させるために「中国に対するオンラインイデオロギー攻撃」を行っていると指摘している。
「これはまた、われわれの政治信条、全体的な状況に対する概念、組織の規律を溶解させ、党と幹部を大衆から引き離し、われわれの文化を否定し、それによってわが国を完全に転覆させようとする試みでもある」
ランド研の研究者らによると、李氏は以前からソーシャルボットの利用を推進しており、「PLAやおそらく党が支配する国家の他の部分も彼の後を追い、そのような能力の開発に関心を示している」という。
「生成AIは、このような取り組みを加速させる可能性が非常に高く、注目すべき重要なトピックとなっている」
中国軍は最近、戦略支援部隊の改革を実施し、情報戦部門を分離して、新たな「PLAサイバースペース部隊」を創設した。このサイバー部隊は、情報戦作戦でのAIの採用を加速させることが期待されていると報告書は述べている。
報告書のタイトルは「李弼程博士、中国はいかにしてソーシャルメディアを恐れるのをやめ、愛するようになったのか」、ネイサン・ボーチャンプムスタファーガ、キアナン・グリーン、ウィリアム・マーセリーノ、セール・リリー、ジャクソン・スミス氏が執筆した。