国防総省、中国系金融ネットワークに依存 米防諜契約に安全保障上の懸念

2022年2月2日、中国・Zhangjiakouでアメリカと中国の国旗がはためいている。(AP通信/Kiichiro Sato、資料写真)
By Bill Gertz – The Washington Times – Tuesday, May 5, 2026
国防総省の防諜機関が、中国の国有金融インフラと関係を持つ企業と契約を交わし、中国軍関連企業がもたらす脅威の特定に取り組んでいることが分かった。国家安全保障アナリストらが米紙ワシントン・タイムズに明らかにした。中国側は、こうした企業を利用して危険性を隠蔽する可能性があるという。
国防防諜安全保障局(DCSA)は、米ムーディーズ・アナリティクスと2120万ドル(約31億円)の契約を交わした。同社は、中国の信用格付け会社とつながりを持っており、米国の防諜活動を損なう恐れがあるとされる。契約内容や関連企業の調査から判明した。
ムーディーズ・アナリティクスは、中国最大の信用格付け会社の株式30%を保有している。この格付け会社は、中国の主要軍需企業に最高水準の格付けを付与してきた。国防総省は現在、こうした企業のリスク評価にムーディーズ・アナリティクスのデータを利用しているが、批判派は「中国軍関連企業に対する情報分析に影響がある」と指摘している。
さらにムーディーズ・アナリティクスは、中国国内の金融インフラに組み込まれた複数の子会社や関連会社に利害関係や所有権を持っている。これらは中国軍や情報機関の影響や接触を受ける可能性がある。
ムーディーズ・アナリティクスと中国の合弁会社や子会社との提携も懸念を呼んでいる。米国の企業が、中国軍関連企業の存続を支える金融インフラを支援することによって、結果的にそれら軍関連企業にお墨付きを与え、活動を下支えすることになるのではないかという懸念だ。
DCSAは、1万2500以上の防衛産業施設の機密保護や、機密情報へのアクセス権を持つ約300万人の米国人に対するスパイ摘発、不正漏洩対策を担う国防総省の中核的防諜機関だ。
トランプ政権の国家防衛戦略は、防衛産業基盤の急速な近代化を掲げており、DCSAは中国など敵対国から米産業を守る上で重要な役割を果たすとみられている。
■2120万ドルの契約
2025年1月の契約で、DCSAの防諜担当者は、ムーディーズ・アナリティクスのデータベース「Orbis」を利用できるライセンスが供与された。Orbisには5億5000万社の海外企業情報が収録されており、「重要・新興技術情報や制裁対象の個人・団体との関連情報」を提供すると、政府契約文書には記されている。
政府サイトに掲載された契約文書によると、Orbisを利用する全契約業務を行う際には、「外国の所有、支配、影響下にある団体へのアクセス、国境を越えた資金・技術移転、不正な資金関係、社会経済指標、監視対象リスト、サプライチェーン(供給網)データ」に関する情報提供を行う必要がある。
国家安全保障アナリストらは、外国企業の所有関係追跡や契約企業の問題解決、リスク評価でOrbisを利用することにより、中国国家管理下の金融システム内で活動する信用格付け機関など、中国国内情報源から得た金融情報を間接的に利用し、依存するようになる危険があると指摘する。
特に懸念されているのは、国防総省が中国軍関連企業に指定している事業体が、中国のムーディーズ・アナリティクス関連企業、とりわけ、主要格付け会社「中国誠信国際信用評級(CCXI)」から高い格付けを受けている点だ。
航空工業集団(AVIC)、中国電子科技集団(CETC)、中国核工業集団(CNNC)の3社はいずれもCCXIからAAAに格付けされている。
CCXIは、中国政府の影響下にある銀行間債券市場向け信用格付け会社だ。
■敵企業を格付け
ムーディーズ・アナリティクスの中国との関係が問題視される背景には、同社がCCXI株30%を保有し、中国国内に複数の子会社を展開している点がある。
アナリストらは、中国企業に対するCCXIの格付けが、米防諜当局による財務リスク評価に影響を与える可能性があるとみている。これは、リスクをどう認識し、標準化するかに関わる問題であり、DCSAが現在採用している世界的な金融情報ツール内のリスクを、安全性の低い商用の技術で評価させた場合、そのリスクが見えなくなってしまうこともありうる。
国防総省報道官はコメント要請に応じなかった。
ムーディーズ・アナリティクスの広報担当クリス・キャッシュマン氏は、安全保障上の懸念はムーディーズ・アナリティクスの事業と製品に対する根本的誤解から生じていると述べた。
同氏によると、ムーディーズ・アナリティクスと中国のムーディーズ・クレジット・レーティングスは別会社であり、それぞれ独立した統治体制や規制要件、内部管理を持つという。また、ムーディーズ・アナリティクスは信用格付けを行わず、その結果にも影響を与えていないと説明した。
「ムーディーズ・アナリティクスは中国国内で信用格付けを実施していない。信用格付け会社に少数株主として出資しているが、その経営、運営、分析、格付けには関与していない」
また、Orbisを含むムーディーズ・アナリティクス製品は顧客の調査や意思決定を支援するものであり、収集した情報をいつ、どこで、どのように利用するかは顧客側が決めると述べた。
さらに「ムーディーズ・アナリティクスは世界事業全体で強固な統治、製品管理、安全基準を維持している。製品とソリューションの信頼性に自信を持っている。顧客に十分な価値を提供しているものと考えている」と強調した。
ウェブサイトを通じてコメントを求めたが、CCXI側は応じなかった。
元米空軍情報将校で信号情報分析官のL.J.イーズ氏は、この契約について「著しい矛盾」を抱えていると指摘した。
同氏によると、DCSAはムーディーズ・アナリティクスから高リスク企業特定用ツールを購入する一方、ムーディーズ・アナリティクス全体は格付け企業とつながっている。この格付け企業は、米国が危険性が高いとした中国軍関連企業に最高格付けを与えている。
中国専門調査会社データ・アビス創設者のイーズ氏は、「ムーディーズ・アナリティクスはCCXIへの出資を続けているのだから、中国人民解放軍と結び付く企業を含む国有企業ネットワークへの資金供給を支える金融インフラ内部にいることになる」と述べた。
中国で高格付けを得ることは、軍事力増強に関与する中国企業に対し、「財務的に安全」であることを投資家や銀行へ示す重要な手段となる。その結果、軍関連企業は有利な資金調達や幅広い資本市場への参加が可能になる。
CCXIは過去にも疑問視される格付けを行っている。巨大不動産企業「中国恒大集団」に対し、2020年以降発行された5本の債券にAAA格付けを与えたが、同社は翌年に経営破綻した。
これらの格付けから、CCXIは中国の政府系金融部門から政治的・商業的圧力を受けているのではないかという深刻な懸念が生じている。
■中国関連企業ネットワーク
DCSAは契約文書の中で、ムーディーズ・アナリティクスを選定した理由について、他の競合2社が、Orbisが提供するような、外国の民間投資会社、外国資本を支配する人物、あるいは外国の民間投資会社の財務状況に関する詳細な情報を提供できなかったためだと説明した。
ムーディーズ・チャイナ社を通じたCCXIへの出資に加え、ムーディーズ・アナリティクスは、金融格付け、コンサルティング業務、リスク分析に従事する関連会社ネットワークを運営している。
2023年の米証券取引委員会(SEC)提出資料によると、中国拠点の子会社にはムーディーズ・インベスターズ・サービス、ムーディーズ・インフォメーション・コンサルティング、ムーディーズ・クレジット・レーティングス、リスク・マネジメント・ソリューションズなどがある。
これら関連会社は、中国政府の「軍民融合」プログラムの対象となり、当局はこのプログラムの下で、民間部門に軍への情報提供を強制することが可能になっている。
軍民融合は、中国が民生用技術を人民解放軍へ統合する大規模計画であり、その下で通常戦力、核戦力、戦略戦力の大幅増強が進められている。
また、中国国内で活動する全企業は、中国情報機関へのデータ・情報提供を義務付ける新法にも従わなければならない。
グローバル・リスク・ミティゲーション財団のデービッド・デイ会長は、この契約を問題視している。中国共産党の強い統制下にある不透明で操作された金融データシステムを、ムーディーズ・アナリティクスも国防総省も十分理解していないためだという。
「情報面から見れば、この仕組みは特定企業や産業分野に関する誤った分析をほぼ確実に生む」と同氏は語った。
さらに「既に改竄や誤りがあることが分かっている情報を、外国工作員に金を払って入手するようなものだ」と批判した。
■議会も警鐘
2024年、米議会付属の政府監査院(GAO)は、DCSAを批判した。中国と契約を結んでいるコンサルティング会社と契約を交わす際に、国防総省に対して安全保障上のリスクを検討するよう、具体的に義務づける調達規則がないことが理由だ。
GAOは報告書の中で、「中国は米国最大の敵対国であり、外国の影響力は国家安全保障上の主要なリスクだ」と指摘。その上で、国防総省や国土安全保障省の担当官には、「契約時にどのように情報を集め、リスクを評価・軽減すべきかについての具体的な指針が欠けている」と述べた。
これを受け、GAOは国防長官に対し、契約先の企業が「外国からの所有・支配・影響(FOCI)」を受けていないかを確認するための規則を速やかに更新するよう勧告した。
■波及するリスク
イーズ氏は、DCSAの産業保安局について次のように述べている。同局は所有権、外国の影響力、サプライチェーンのリスクを把握するために、ムーディーズ・アナリティクスのソフトウエアOrbisに依存しており、そのプラットフォームから生成されるデータと分析結果は相互に依存し合っているという。
「これらのデータは、国防調達、情報機関、防諜機関など、米国の国家安全保障エコシステム全体に広がる安全保障上の決定を下す根拠となっている」とイーズ氏は語る。
その結果、DCSAによる評価に直接的または間接的に依存する中央情報局(CIA)、軍の調達部門、特別捜査班など、他の機関や部門においても潜在的な安全保障上の危険が拡大することになる。
「つまり、基盤となるデータ環境に盲点や潜在的なリスクがあれば、それが国家安全保障の意思決定における多層的なプロセス全体に連鎖(カスケード)してしまうことを意味する」とイーズ氏は指摘した。
元国防情報局(DIA)の防諜官ニック・エフティミアデス氏は、この契約の問題点は、CCXIが中国国内の債券市場における「中核的な拠点」であることだと指摘した。CCXIは、国有企業や戦略的産業を担う企業の資金調達を可能にしているからだ。
エフティミアデス氏は「この状況は、中国の国家優先事項に沿って形成された資本配分に財務面で関与していることを意味する。中国の国家管理経済や、軍民融合に参画する企業とこれ以上深く関わるのは、おそらく得策ではないだろう」と述べた。
米国が中国軍事関連企業に指定した3社-中国航空工業集団(AVIC)、中国電子科技集団(CETC)、中国核工業集団(CNNC)-にCCXIがAAAの格付けを与えていることは、軍民融合プログラムに関わる企業に資金を供給するための強力なツールとなっている。
■CCXI幹部のつながり
CCXI経営陣と中国軍関連企業との関係は所有関係にとどまらない。
中国債券目論見書によると、CCXI共同創業者でチーフエコノミストの毛振華氏は「三峡資本控股」の取締役を務めていた。
同社は、国防総省が中国軍関連企業に指定した中国長江三峡集団の子会社だ。
国防総省の最新中国軍関連企業リストには、テンセントや中国遠洋海運集団(COSCO)など米国事業を持つ大企業も含まれている。軍民融合戦略の下で、これら企業は人民解放軍の軍事能力強化に寄与しているとされる。
こうした企業の多くは、中国銀行間市場で積極的に債券を発行しており、CCXIの格付けによって資金面で恩恵を受けている。
■安全保障上の穴埋め
投資会社マレ・リベルムの共同経営者エリック・ベセル氏は、問題の核心はムーディーズ・アナリティクスとCCXIの関係にあると指摘した。
この問題は、国防総省内に広く行き渡っている。同省は、国家安全保障業務に商業データプラットフォームを利用し、敵対国の金融システム内の企業と関係があり、データを共有する業者に依存しているためだ。
ベセル氏は「懸念されているのは、中国がこの仕組みを通じて米国のデータを盗むことではない。問題なのは、中国の国防関連企業を安全な存在に見せるよう設計された格付けシステムを用い、人やサプライチェーンの審査を行うツールを、われわれ自身が利用していることだ」と語った。
ベセル氏は、解決策として、国防総省にデューデリジェンス(投資対象の価値を調査すること)や企業審査のためのツールを販売する業者に対し、すべての海外関連会社、合弁事業、データソースの開示を義務付けるべきだと述べた。また、それら関連会社からのデータが、米政府が閲覧するデータと完全に分離されていることを確認する必要があると主張する。
さらに別の解決策として、DCSAが、民間プラットフォームから提供される情報を、中国国有企業や軍関連企業に関する政府管理リストと照合する仕組みを導入すべきだと述べた。「もしツールが中国軍関連企業のリスクを過小評価しているなら、照合作業によって精度を向上させることが可能になる」
